つなぐ海 四章 翼ちゃん①
「みゆきっち、待って」
慌てて立ち上がり、渚はみゆきの後を追った。
五分くらい歩いただろうか。
そこには、どこか懐かしい感じの家が建っていた。
表札には、『三木』と書かれている。
みゆきは迷いなく近づき、何の説明もないままチャイムを押した。
ピンポーン。
少しして、
ガラガラッ――引き戸が開く。
出てきたのは、目のくりっとした黒髪の女の子だった。
「あなたが翼ちゃんね?
私は、みゆき。牧村みゆき。……わかる?」
高校生くらいだろうか。
優菜ちゃんより、少しお姉さんに見える。
翼ちゃん――?
どこかで聞いたことがある。
それに……
この子、どこかで見たことがある気がする。
「こんにちは。はじめまして」
翼ちゃんは、みゆきと渚に向かって、ぺこりと頭を下げた。
初めまして……?
不思議に思ったけれど、翼ちゃんはすぐに、
「どうぞ」
と、家へ上がるよう促してくれた。
二人は、そのままお邪魔することにした。
翼ちゃんは、どこか嬉しそうに、お茶の準備をしていた。
しばらくして、湯のみを二つ、机に置いた。
「どうぞ」
「ありがとう」
みゆきは、いつもの調子で笑い、お茶に口をつける。
その瞬間――
「あぁっ!」
渚は、思わず声を上げた。
「能登半島豪雨の、翼ちゃんだよね?」
翼ちゃんとみゆきは、顔を見合わせる。
そして、二人そろって、ふっと微笑んだ。
「やっと思い出したみたいですね」
翼ちゃんは、少しハスキーな、妙に耳に残る声でそう言った。
「えっと……私、翼ちゃんと面識ないけど……」
戸惑う渚をよそに、みゆきが口を開く。
「私と優菜はね、ずっと翼ちゃんの声が聞こえてたの。
翼ちゃんも、私たちの声、聞こえてたんだよね?」
みゆきは、翼ちゃんをまっすぐ見つめながら言った。
「私たち、お互いのこと知らなかったから。
翼ちゃんが、一人で寂しい思いしてるのがわかっても、会いに来れなかったの」
そして、少しだけ眉を下げる。
「……少しは慣れた?」
その声は、本当に翼ちゃんを心配しているみたいだった。
「ありがとうございます。
二人のおかげで、私、元気になれました。」
翼ちゃんはそう言ってから、はっとしたように渚に視線を向けた。
「あっ……ごめんなさい。
二人って、みゆきさんと優菜さんのことで……」
申し訳なさそうにする翼ちゃんに、渚は慌てて首を振った。
「いやいやいや、大丈夫!
私、翼ちゃんのこと、ニュースでしか知らなかったし」
そう言うと、みゆきと翼ちゃんが、ふっと柔らかい目を向けてきた。
「でもね。
渚っちが居なかったら、ここには来れなかったんだよ。
だから、渚っちには、ありがとうなの」
みゆきがそう言うと、翼ちゃんも大きく頷いた。
「ありがとう」
二人にお礼を言われて、なんだか急に恥ずかしくなる。
渚は、もじもじしながら湯のみを持ち上げた。
