
面影をさがして。第九章最終回。
「祐樹、
ごめんね、
天気のいいお休みは
もう一緒に
過ごせないわ」
小さく言って、
それで終わりにした。
スマホの検索画面に、
公園までのルートを
表示させた。
真っ白な日傘と、
プロフィールに書いてあった
好きな小説を持って、
私は、
ゴールデンレトリバーを連れた
ユウキさんを待った。
ベンチに腰かけて、
行きかう人の中から
一人だけを探す。
何日も何日も、
同じ場所に通い続けた。
時間だけが、
そこに積もっていった。
やっと会えた時、
ユウキさんは
見ず知らずの女と
一緒にいた。
楽しそうに、笑っている。
その距離が、
思っていたより近かった。
「みーつけた」
私は心の中で、
そうつぶやいた。
ユウキさんの横顔は、
祐樹とは
似ても似つかない。
それなのに、
胸の奥が
ゆっくり温かくなっていくのを、
止められなかった。
――大丈夫。
今度こそ、失わない。
自分に言い聞かせるように、
もう一度、心の中で繰り返した。
私は、本をそっとしまって、
二人の後をつけた。
きっと、
ここがユウキさんの
マンション。
迷いはなかった。
そして夜になって、
あの女は
一人で出てきた。
私は、
これからまた
忙しい毎日を
過ごすことになる。
祐樹の時のように、
目障りな女たちを
ひとりずつ
消していく。
――なんてことはない。
特別なことじゃない。
私には、
やり方がある。
前にも、
やったことだから。
あの女の
住まいも
確認した後、
私は、
心地よい疲れを伴って
帰宅した。
体は重いのに、
足取りだけは軽かった。
「ただいま。祐樹」
仏壇の前に座る。
線香の煙が、
まっすぐ天井へ伸びていた。
私は、
仏壇に背を向けて座り、
ユウキを見つけた
マッチングアプリを
静かに立ち上げた。
さっきまで見ていた、
ユウキのページで、
笑顔の画像を広げる。
指先で、
ほんの少し拡大した。
仏壇の祐樹を、
チラッと見た後、
もう一度、
画面に目を戻す。
ユウキに、
いいねボタンを押した。
小さな振動が、
指に伝わる。
線香の香りが、
私の鼻腔をくすぐった。
私は立ち上がり、
点鼻薬を
手に取った。
線香は、
いつのまにか
半分ほどに縮んでいた。
灰が静かに、
皿の縁へ落ちる。
音は、ほとんどしない。
部屋の空気は動かない。
スマホの画面だけが、
私の頬を
青く染めていた。