つなぐ海 二章 牧村家⑥
――そっか。
人によっては、記憶をなくしたまま。
あるいは、混濁したまま、この世界に来ることもあるんだ。
渚がちらりと優菜ちゃんを見ると、
唇を突き出しながら、うんうんと頷いていた。
どうやら、その認識で合っているらしい。
「それでね、渚に聞きたいことがあるの」
なおみが、少し真剣な表情で切り出した。
優菜ちゃんが、さっと立ち上がった。
「ごめん、渚さん、もう帰らないといけないの。また今度にしてね」
なおみに向かって、そう言い放つ。
なおみも、何か察したようだった。
「わかった。またね」
そう言って、明るい笑顔で、渚達を見送ってくれた。
牧村家へ向かって歩きながら、渚は尋ねた。
「なおみ、ご主人のこと聞こうとしてたの?」
「うん。渚さん、上手に答えられなさそうだったから。邪魔しちゃった」
優菜ちゃんが、少し申し訳なさそうに笑う。
「ありがとう。優菜ちゃん、若いのに大人だね」
感心してまじまじ見た。
「……大人になんて、なりたくなかったんだけどね」
優菜ちゃんが、ぽつりと呟いた。
渚は、一瞬、言葉を失う。
けれど優菜ちゃんは、すぐにいつもの表情へ戻った。
「お散歩、途中で終わっちゃったけど、平気?」
その気遣いに、渚は胸が熱くなる。
だからこそ、それを誤魔化すみたいに、わざと明るい声を出した。
「平気、平気。運動不足だから、もう疲れてたしね」
「スズは平気じゃないって〜!」
優菜ちゃんは笑いながら、スズと一緒にあちこち走り回った。
渚は、その背中を見つめながら、ゆっくり帰路についた。
牧村家へ戻ってから、渚はずっと気になっていたことを口にした。
「あの……さっき、おじいちゃんとおばあちゃん、もう生まれ変わったって言ってたよね?」
優菜ちゃんは、「うん」と頷く。
「おばあちゃんは、東北地震のあとに亡くなったってこと?」
触れていい話なのかわからないまま、渚は恐る恐る尋ねた。
「そうなの。おばあちゃん、ここに来た時、おじいちゃんより老けちゃっててね。“せっかく会えたのに恥ずかしい”って言ってた」
渚は、思わず小さく笑った。
女の人は、死ぬまで女なんだなぁ。
介護の仕事をしている渚は、そんなことをよく感じていた。
「それで、“先に生まれ変わって、お父さんとお姉ちゃんの側にいる”って」
「そっか……」
おじいちゃん、ずっと待ってたんだ。
渚は、生まれ変わった二人が、もう一度家族の側で暮らしている光景を、ぼんやり思い浮かべた。
「もしかして、お姉ちゃん、双子とか産んでたりして。……どう? 知ってる?」
優菜ちゃんが、少し期待するように渚の顔を覗き込んだ。
