つなぐ海 二章 牧村家②
「親子です」
見た目の年齢差だけなら、親子には見えない。
けれど、笑った顔がどことなく似ていた。
「仲良くていいですね」
渚はそう言いながら、うどんをふーふー吹いた。
「ところで、ここはどこなんですか?」
その問いに、二人は少し困ったように顔を見合わせた。
「あの世……かな?」
「あの世ですか……」
渚は思わず聞き返した。
意味のわからない体験をしたことだけは、鮮明に覚えている。
あの海。
あの光。
あの感覚。
そう考えると、“あの世”と言われても、完全には否定できなかった。
――じゃあ、私は、なんで死んだんだろう。
そこまで考えて、
自分が妙に冷静なことに気づく。
怖い。
もっと取り乱してもいいはずなのに。
「お二人は?」
そう聞くと、また二人は顔を見合わせた。
「私は牧村みゆきです。津波にさらわれて、ここに来ました。この家は、福島で住んでいた家です」
「私は優菜。
ここに来た時は、七歳だったの。
みんな変わらないのに、私だけどんどん大きくなっていって……。
でも、六年くらい経ったころからかな。
急に、今の姿のまま変わらなくなったの」
あぁ――。
渚は、東北大震災のことを思い出していた。
あの時の地震。
あの時の津波。
大きすぎる被害が出て、たくさんの人が亡くなったこと。
あの時見た映像の数々は、どれも鮮明に記憶に残っている。
「えっ……もしかして。
津波で流された娘さんをずっと探していた、牧村さんの?」
渚は、つい最近、図書館で本を借りていた。
東北大震災で行方不明になった人たちと、その遺族のその後について書かれた本だった。
「そうそう。お父さん、語り部になって話してくれてるんだってね」
みゆきが笑う。
「……なんで、そのこと知ってるの?」
きっと驚いた顔をしていたのだと思う。
「ここにたどり着くのは、私たちのことを知ってる人だけだから。
私たちは知らなくても、私たちを知ってる人が時々現れて、色々教えてくれるの」
――あぁ、そうなんだ。
そうなると。
――私は、やっぱり死んだのかもしれない。
ぼんやりと、そんなことを考えた。
「スズも、あとから来てくれたんだよ」
ケージの中の犬を指さしながら、優菜ちゃんは無邪気に笑った。
スズの耳がピンと立つ。
まるで、ちゃんと話を聞いているみたいだった。
――じゃあ。
遺体が見つからないと、ここでも時間が進むのだろうか。
気になって、あとから牧村さんのことを調べた時のことを思い出した。
確か、優菜ちゃんの骨が初めて見つかったのは、震災から五年九か月後だった。
そこで、優菜ちゃんの成長も止まったのかもしれない――と、渚は思った。
