ミステリー小説 「消去できない1枚」#創作大賞2025 #ミステリー小説
第1話「深夜のシャッター」
高専の寮生活には、独特の静けさがある。日中の喧騒が嘘のように、夜になると足音ひとつがやけに響く。ユウトはその静けさが嫌いじゃなかった。むしろ、好きだった。
その夜も、彼は寮の自室でテスト勉強の休憩中、なんとなく手にした愛用のミラーレスカメラを持って廊下に出た。頭が疲れていた。いつもより星がよく見える気がして、廊下の端から外を撮ろうとしたその時——
シャッターは一瞬遅れ、画面には空ではなく、寮の共有スペースが写っていた。
部屋の奥で人影が動いた。
冷蔵庫のあたりで、誰かが大きめの段ボール箱を床に置く姿がはっきり写っていた。寮のルールでは、夜10時以降の私物の持ち込みや荷物運び込みは禁止されている。時刻は0時17分。
ユウトはそのまま部屋に戻った。
写真を見返すと、段ボールの横に見慣れたスニーカーが映っていた。あれは、B棟の203号室に住む山崎のものだった。
翌朝。
朝食の時間、山崎の姿はなかった。そして午前の終礼で、突然「山崎は家庭の都合で今日付けで転校することになった」と告げられた。
ざわめく教室。誰も事情を知らず、先生も詳細には触れない。だが、ユウトの中では確信に近い違和感があった。
——あの写真と、転校。何かがつながっている。
ユウトはまだ何も口にしていない。
ただ、心の中に引っかかっている。
あの一枚は、偶然だったのか。それとも、誰かに撮らされていたのか。
「消去できない1枚」は、ただの写真ではなかった。
(続く)