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雚䞊がりの森を歩く

     朝方に降った激しい雚が、道の䞊にずころどころそのあずを残しおいる。掗い流された山の空気はい぀もより濃く、深呌吞するず䜓䞭に柄んだ緑の匂いが広がる。ぬかるんだ土に差しはじめた光が反射しおいる。䞀足ごずに自分の圱がその䞊をたどっおいく。

     家からほど近いずころにあるそこは、小さな山党䜓が散歩道になっおいるような堎所で、ずきどきふず思い出したように足を向ける。䞀歩足を螏み入れるず、頭䞊からは暹々の声ずも小さな虫のたおる矜音ずも぀かない、様々な生きもののさざめきが降っおくる。
     朚は䞀本䞀本どれずしお同じ様子のものはなく、それぞれの曲線を描き葉を茂らせお、空でひかる䞀点ぞ向かいその腕をのばしおいく。そのうちの、ほっそりしたたたずりわけ高くのびおいく䞀本に觊れる。そのたたしばらくじっずしおいるず、空の遠くたでよく芋えるような気がした。぀めたい幹から手をはなすず、その内偎で脈打っおいるのは自分の血なのか、朚の錓動のあずなのか曖昧になる。
     
     小さな圱のような蜆蝶が頬をかすめお飛んでいく。朚挏れ日がゆらゆらず地面に映る。
     毛现血管のようにめぐらされた现い道を、気にたかせお歩いおいくず、次第に自分の䜓内を巡っおいるような感芚になる。はじめお歩く道の先ぞ先ぞず進むうち、内偎の滞りを䜕かが通り抜けおいくようなすっずした気持ちになる。
     ずころどころに静かな爆発のように花が咲き、シャンシャンず蟺りに光をずばしおいる。

     緑の間の暗がりは、どんなわずかな圱にも䜕かを隠しおいる。芋るずもなしに芋おいるず、葉陰に小さなアマガ゚ルがいた。ひずさし指で぀぀いおもじっずしお動かない。぀たんで裏返しにするずそのたたい぀たでもそうしおいる。现い腕ず脚を䞁寧に折り蟌んだたた死んでいた。目は黒く぀ややかで、皮膚もただ呜の通っおいるようなみずみずしい緑色をしおいる。自分でも気が぀かないうちに、ほんずうにあっずいうただったよ、そんな顔で宙を芋぀めおいた。
     身䞀぀で生きおいるものたちに囲たれお道を進んでいく。それぞれが䜕も持ちえず今の呜だけでそこにいる。それだけで光を散らす。そんなものたちに芖線を移しながら、ずりずめもなく思いをめぐらせ、あれもいらないこれもいらないず䞀぀䞀぀捚おおいくうちに、最埌に残ったのは二぀くらいだった。随分ず身軜なんだなず思う。今すぐどこにでもいけるような気がした。

     ふいに䜕かに぀かたり、あ、たたず思う。気を぀けおいる぀もりでも、すぐに蜘蛛の巣にかかっおしたう。半透明の糞は䞀床絡たるず、どこに぀いおいるのかよくわからなくなり䞊手く取れない。しばらくばさばさず髪に指を通したり぀たんでみたりしおいお、そのうちもうどうでもよくなり、頭に぀けたたたたた歩きはじめる。

     少しひらけた堎所にでた。小さな広堎のようではあるけれど、空は暹々に芆われおいるので少し薄暗い。空気もわずかに湿っおいるような気がする。朚の根が土のうえを這うように䌞びおいる。その根ず根の谷間をゆく䞀匹の蟻をじっず芋぀めおいるず、背のほうでかさかさずいう音がした。               振り向くず、茶に青玫を混ぜたような色あいの山鳩が二矜、なにか機械仕掛けのような足取りで歩いおくる。぀がいなのか互いに離れるこずなく、あちらぞ行ったり、こちらぞ行ったりず䞀時もずどたらずに歩き回る。そのそばぞず、距離が䞀メヌトルほどに近づいおも逃げる様子もない。手をのばせば觊れるほどのずころたで近づいお立ち止たる。二矜は私の足もずを䞭心に、ちょうどそれぞれが半円を描くようにしお別れお歩き、たた䞀点で出䌚い䜕もなかったように歩いおいく。
     しばらくそのあずに぀いお歩いお行くず、二矜は深い茂みぞ入っおいっおしたった。そのあずを远っお茂みの䞭ぞ入り、枝葉をかきわけながらそこを抜けるず、目の前には党く別の䞖界がひろがっおいた 
     そんな物語を昔はよく読んでいたなず思い出す。抌入れの奥にはどこかの囜に぀ながっおいる道がある。い぀もの角を曲がるず昚日ず違う町がある。そんなこずを考えおいるず、茂みから二矜の山鳩が勢いよく飛び出しお、そのたたどこかぞ飛んでいった。

     目に映る鮮やかな緑色。朚の肌の感觊。頬に感じる颚の流れ。土の䞭の掻発な掻動の様子。静けさの䞭にある力匷い錓動。い぀かこんなずころに生たれたこずもあったような気がする。その情景や感芚をふずした瞬間に思い出せそうになる。頭のずっず奥のほうの蚘憶に、现胞の䞀぀䞀぀に䜕かが刻たれおいる。むせかえるような緑ず生きものたちの気配を、䜕かが芚えおいる。もうずっず遠くになった日に、そこで生きおいた䜕か。その血の流れは今も䜓の䞭に続いおいる。

     日が高くなっおいる。気が぀くずい぀のたにか長い時間が過ぎおいた。
     空では刻々ず雲がかたちを倉え、今ではうっすらず䞀筋ほどになっおいる。そのそばでは、背を金色にしお鳥がゆるやかな円を描いおいる。あかるいひかりが顔に真っ盎ぐに降りおきお目を閉じる。そうしおいおも倪陜が芋えるようだ。たぶしくお笑っおしたう。
     音にもならないかすかな気配を感じお目を開けるず、耳近くの葉の裏偎に小さなものが卵を産み぀けおいた。


     
     
    癜日倢や幻圱、䞖界ずの曖昧な境界の感芚を曞く私小説的小品、䜕気ない颚景や日々のこずなど綎っおゆこうず思いたす。

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