
あるOL彼女①〜Prologue〜出逢い
ある昼休みのオフィス。ビルのテラスで彼女はいつものように、一人ベンチに腰掛け、膝の上の『小さな手作りお弁当』を食べようとしていた。
この春、とある会社に合格し、研修生として入社。その研修期間も、もうすぐ終わろうとしていた。
いつもの空間、初夏のランチタイム…。
「…ふぅ…」
ため息まじりにお弁当箱を開け、ふとあたりを見渡した。
目線を下げると、屋上テラスからはいつもと変わらない光景が拡がっていた。
中層のビルと民家が並んで建ち、都会的な高層ビル群のない空は青く広がっていた。 そろそろ夏かな…?
と思わせる眩しい初夏の日差し。遠くから快速電車が忙しそうに鳴り、通っていく音が聞こえている…。
彼女はまだ、今年高校を卒業したばかりの新人OL。
頬に少しそばかすの後が残る肌。黒茶色でセミロングの髪をポニーテールにし、初任給で買ったイヤリングやネックレスもまだ馴染んでいなくて、どこか浮いた存在だった。
「こんなだったら、一人暮らしなんてするんじゃなかった。実家でまだのんびりしとけばよかった…」

アパートに帰って「ただいま」と言っても誰の返事もない。灯りをつけ、帰りに買ってきたコンビニ袋を床において、冷蔵庫の扉を開け、「好物のプリン」を見てやっと開放感が持てる毎日を過ごしていた。
見上げた空から目線を落とす。その表情からゆとりは感じ取る事ができない。焦燥していた面持ちだった。
連日の睡眠不足、なれない社会人生活、研修のノルマ……。
それらとは確かに違うものが、瞳に浮かんでいた。
そんな彼女の背後から、近づいてくる手が…。
軽い肩トンの後、彼女の頬に冷たいペットボトルが当てられた。
「(ひゃっ!)」
しかし現状把握ができない彼女は、落とした目線が上に跳ね上がるだけだった。
「…ね、隣、空いてる?」(どこかで聞いた声だけど…?)解らないまま、
頷いた。
「え、えぇ…(誰だろ?あ、ヤだなこんな顔、|他人《ひと》に見られるの)」
「あ…どうぞ」(そっと右にスライドしてベンチの空きを譲る)
「あ〜今日も空、広いねぇ…。あ、なに?卵焼きぃ !? ちょっといい?」
「あ…どうぞ(っていうか、なに?いきなりの卵焼きって?)」
言うのが先か、手でひょいとつかみそのまま口へ。
「ん、ふほ…ほひしい(おいしい)!」
「……?(食べながら喋る?)」
「ね、もう一ついい?」
「……(そんなに食べたら私の分が…でも、今日のお弁当ならいいか…)」
「え、えぇどうぞ…」
またも言わんが先か、2つ目の卵焼きが口に運ばれていく。
「ウインナーもちゃんとタコさんにしてるし、マメだねぇ。どれ…」
ひと手間かけた傑作(?)タコの形をしたウインナーまで取られてしまった。
「(…あの…私のお弁当なんだけど…)」
「あ、お茶飲む?麦茶だけど」
やっと「つまみ食いの彼女」の方を向く。
「お仕事|乙《おつ》、あんまり|力《りき》入れると気疲れするよ」
やっと頬に冷ペットボトルの主の方を向く事ができた。ニコニコしながら、彼女の顔を覗きみる。
口に卵焼きやら、タコさんウインナーを頬張りながら、ペットボトルのお茶をラッパ飲みする豪快な姿の彼女。
「(…せめて、座ってから食べればいいのに…しかもお茶とはいえ、ペットボトルのラッパ飲みって…)」
そんな視線に気づいたのか、やがてペットボトルの主は、罰が悪そうに空いた席に腰を落とした。
やがて開口一番、「気ィ使いすぎだよ。もっと肩の力抜いていこう。仕事も新生活も」
その彼女は「ふーっ」と大きく深呼吸すると、遠くの駅を通過していく列車を眺めながら呟いた。
「ケ・セラ・セラ だよ。ケ・セラ・セラ」
「えっ…? ケ・セラ・セラ…?…ですか?」
「そ、ケ・セラ・セラ、『なるようになるさ』」
ボトルのお茶をまた一口、ゴクリと飲むと、諭すように彼女に言った。
「…う、うん」
彼女は頬に当てられた、ペットボトルのお茶を一口飲んだ。
飲んだのは「確かに、冷たい麦茶」だった。
だが、彼女のココロはなんだか、「少し温かく」なった感じがした。
「ありがとう…」
言葉をかけようとしたが、そこにはもう彼女の姿はなかった。
「(いつの間に…?)」
昼休みも終わりが近づき、テラスを後にしようとしていた。
帰り際、彼女は聞いた言葉を、反芻するかの様に、口にしていた。
「ケ・セラ・セラ。『なるようになる』…か」
彼女の顔が少しだけ、ほころんだ瞬間だった。
しかしここで、意外な事に気がついた。
「あれ…?卵焼きにタコ型ウインナーが、全部なくなってる!私の傑作が…」
無残にもお弁当箱に残されたのは、白ご飯と区切りのバランだけだった…。
To be Continued,NeXT Episode.