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イラストで映画感想『女ばかりの夜』フランスのテレビで、田中絹代監督作品

『女ばかりの夜』

田中絹代監督、1961年(リマスター版)
主演:原知佐子

フランスのテレビ局ARTEで、田中絹代監督作品をまとめて放映していた。

古い日本映画は、フランスに来てから、黒澤・小津作品を何本か見ているが、田中絹代という人は、「たぶん女優?」という程度のぼんやりとした知識で、監督をしていたことも知らなかった。

でも、『女ばかりの夜』は本当に面白かった。

物語の構成や見せ方やセリフなど、古い映画にありがちなわざとらしさがなく、現代的な感じ。ショッキングなシーンや、押しつけがましいメッセージ性もなく、それでいて余韻の残る映画。

脇役の描き方も良くて、色々な意味で優れた映画だと思う。

フランスのテレビ局、田中絹代監督を見つけてくれてありがとう。

(今回、田中絹代監督作品でもう一作、『恋文』も見たけれど、こちらは、私にはぴんと来なかった。)


あらすじ


(たぶんストーリーを知って見ても面白い映画なので、最後まで書きます。ネタバレが嫌な方のため、目安としての「起承転結」を付けておきました。お好きな所でストップして下さい。)


起 = みんなで更生寮ツアー


売春防止法が施行され、取り締まられた売春婦たちが更生寮に入れられるシーンから始まる。

ある日、白菊婦人寮という売春婦の更生寮を、身なりの良い上流の奥様たちが視察に訪れる。

寮長先生の大変さが伝わってきます。当時、こういう人が沢山いたんだろうな。


どう頑張っても堅気の仕事には戻れなさそうな女たちの中で、ぴかりと光る賢そうなクニコ(原知佐子)という娘に、奥様たちの注目が集まる。

優しそうな奥様のひとりが、「あなた、頑張ってね!」と声をかける。

寮長先生に励まされたこともあり、クニコは寮を出て、酒屋の女中として働くことになる。


承 = クニコ、堅気の世界へ


真面目に働くクニコ。

ところが、誰かが彼女の素性を言いふらす。

出入りの男たちからはいやらしい目で見られ、酒屋の奥さんからはいじめられる。

家族の洗濯物と一緒に、クニコの洗い物は干すなとか、ものがなくなったら即、「クニコが盗んだ」とか、そういうタイプの嫌がらせ。

気の弱い酒屋の店主は、クニコを気に入っていて、助けようとするが、
もう我慢の限界だったクニコは、店主を誘惑して、奥さんにバレるように仕組んで逃げ出す。仕返し大作戦。

この映画は、弱者が「やられっぱなし」じゃないところも良い!
(店主はちょっと気の毒だった。)

街をさまよっているところを、警察に捕まってしまい、白菊婦人寮に連れていかれる。



女ばかりの工場で働き始めるクニコ。

今度は、噂を立てられたくないため、あらかじめ同僚たちに、米兵相手の娼婦をしていたことを言ってしまう。

すると、同じ部屋の女工たちから、「知り合いの男と寝てやって欲しい」と頼まれる。

堅気に戻ったはずなのに……。クニコピンチ!
無理やり言い寄られたクニコは、逆ギレして啖呵を切る。男たち退散。

男たちと約束していた女工たちは、腹を立てる。

女工集団から、ろうそく責めのリンチを受ける。

どこにやけどを負わされたのか、よくわからなかったけど、普通には歩けないほどの重症で、よろよろと白菊婦人寮に逃げ帰る。

ヨレヨレのクニコ。ろうそく責めのシーンは、はっきり映っていない。

寮長先生は激怒して、「訴えます!」と女工たちに詰め寄ったが、もうクニコは工場に戻れなかった。


クニコは、バラ園で野良仕事をすることになる。

今度は、バラ園を経営する夫婦も、一緒に働くバラオタクの青年も、事情を知っているが、クニコに優しい。

更生寮で仲が良かった友達と二人暮らししながら、真面目に仕事をする。

バラオタクの青年は、真面目に働くクニコが好きになり、プロポーズする。

クニコは「どうせ無理」と断るが、青年はしつこく粘る。

クニコもその気になったところに、青年の母親から、結婚に反対する長い手紙が届き、親切だったバラ園の夫婦も、「結婚となると、ちょっと……」と難色を示す。

その頃、昔のヒモが刑務所から出所して、またクニコに売春をさせようと迫る。


転 = もう限界です。


追いつめられたクニコは失踪する。

バラ園の青年が白菊婦人寮に行ってみると、寮長先生のところに手紙が届いている。

クニコは「愛された喜びを、一生忘れません」と言い残し、消息を絶った。


結 = 澄んだ瞳!


最後は、クニコが海女として働いているシーン。

明るい彼女の瞳は、すっと前を向いていて、堅気の道で頑張っていることがわかる。

(完)


感想


クニコの痛々しい努力を踏みにじるような卑怯な男女に、「うぉりゃあぁぁ! やれるもんならやってみろ!」とクニコがひとりで啖呵を切るシーンは、本当にカッコ良くて、胸がスッキリした。

「元・売春婦には、明るい未来などあるはずがない」、と決めつけていないのがいい。

自殺したり殺されたりするような、悲しい最後にならず(寮生の中で、そういう末路の人も描かれていた)、過去をひた隠しに生きるのでもなく、クニコが人生を自分の手で切り開いていくところが頼もしく、彼女の晴れ晴れとした顔が美しかった。

いつもひたむきで一生懸命だが、我慢の限界まで来ると、ちゃんと仕返しをする。その美少女とヴィランが表裏一体な感じも、原知佐子の演技が上手で良かった。

一方で、売春禁止法や更生寮などのハコを作っても、汚れた人間として差別され続ける現実。
「あなたはきっと更生できる」と信じてくれる人たちの言葉を頼りに、人生をやり直そうとしても、必ず誰かが足を引っ張る。嫌がらせをして、夜の街に戻るほかはないと耳元で言い寄る。

更生が難しそうな女性たちを相手に、献身する鏡のような寮長先生をもってしても、どうにもならないこともある。

そういう現実も、重たくならずに、でもきちんと描かれていた。

「どうして、売春はいけないんですか?」と泣きながら質問するクニコに、寮長先生は「法律で決まったから、これまで良かったことも、もうダメなのよ」と、姦通の例を出して説明する(昔は法的な制裁を受けたのに、今は許されているという逆の例)。

この、嘘のない態度が良かった。寮長先生も、本当は何と言っていいかわからないのだろうな。

クニコたちと一緒に、「どんなに頑張っても意味がない。なんで世間はこんなに意地悪なの?」と泣きたくなる日もあるだろう。

酒屋の店主をクニコが誘惑するシーンや、ろうそくリンチのシーンなど、見せ場は沢山あるのに、それをいやらしい濡れ場にしていないことにも、好感を持った。

社会派な内容だが、それを前面にばーんと出さないところも良い。

ひたむきなクニコや青年や寮長先生の気持ちが一途で、せつないけれど希望を持てる。勇気をもらえる映画。

演出にわざとらしさがなく、主人公にずきゅーんと感情移入できる。

女子寮の仲間も、みんなはみ出し者で、最初は違和感があったが、彼女たちなりに真剣に生きているのが段々わかってくる。

女性が好きな女性を、すごく自然に描いていたのも新鮮。

たとえば、ヨシミちゃんという脱走の常習犯に片想いしている、亀寿さんという関西弁の中年女性は、ものすごく迷惑な人だけど、それでいて可愛らしかった。

いい人、悪い人。抜け出せる人、出られない人。そういうバイナリーな見方に留まらず、人間の複層的なところも描けていたのも魅力。

寮長先生は大変だ。

最後に、また新しく入所してきた売春婦たちが、「こんちわ!」と威勢よくあらわれるところも良かった。それに続く、女子寮の給食大喧嘩シーンだけが、余計な演出かなと思ったが、それも寮の日常として面白かった。

*セリフは、記憶の悪い私が思い出して書いたものなので、本来のものとは違います。


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