【小説】『🌌光を喰らう白の庭』第12話─境界の裂け目と創造の種
灰の街を離れた先に、何が待つのか。
カインには、まだ分からなかった。
けれど、足元の灰は、もうただの廃墟の残骸ではなかった。
そこには、彼が生んだものの名残があった。
親友が好きだった赤い花の芽。
定義されずに咲いた命。
それは、この旅の最初の証だった。
風が吹いた。
境界が軋む音が、遠くから聞こえた。
足元の灰が巻き上がり、白く濁った空へと溶けていく。
境界が、裂け目を広げていた。
──ここから先は、かつて誰も踏み込んだことのない場所だ。
目を凝らすと、街の果てにひとつの亀裂があった。
黒く深い断層のように見えたが、どこか透明でもあった。
まるで、現実とこの街を隔てる薄膜の奥に、別の層が滲んでいた。
ひどく懐かしい、しかしまだ触れたことのない空気が流れてくる。
「……ここが、境界の裂け目。」
呟く声は、震えてはいなかった。
恐怖ではなく、ただ確かな確信があった。
自分がここに来るために、あらゆる選択を積み重ねてきたこと。
破壊と赦しの果てに、ここに立ったこと。
足を踏み出そうとした瞬間、亀裂の奥から声が滲んだ。
『……記録……継続中……』
途切れがちな、ひび割れた声。
だが、確かに観測者の残滓だった。
『……存在規定……不能……再評価……必要……』
声は、以前のような冷たさを持たなかった。
そこには、理解でも共感でもない、ただ純粋な「問い」があった。
「問いかけたいのか……?」
カインは、足元に視線を落とす。
灰の中に残った花の根が、ゆっくりと震えていた。
赤い光が、かすかに芽から溢れている。
それは、かつての破壊の熱とは違った。
柔らかく、温かい温度だった。
「……これが、俺の力。」
掌をそっと伸ばす。
触れた瞬間、灰の大地に微かな色彩が広がった。
苛烈な破壊を経て芽吹いた、誰にも定義されない命の気配。
亀裂の向こうに、同じものを感じた。
『……何を……生む……?』
観測者の声が、境界を震わせる。
それは脅しではなかった。
嘲笑でも、試験でもない。
純粋に、ただ知ろうとする声。
「……わからない。」
正直に答えた。
自分が何を生むのか、まだ言葉にできなかった。
けれど、だからこそ進む意味があった。
「でも、選ぶことだけは、やめない。」
次の一歩を踏み出す。
境界の裂け目が、脈動する光を放った。
光の中に、一瞬だけ何かが見えた。
それは、現実の断片だったかもしれない。
親友が最後に笑った場所の景色。
自分が何も守れなかった、あの夜の光。
──変えられないものはある。
でも、それだけがすべてじゃない。
「……俺は、生む。」
灰の街の廃墟に、風が吹いた。
それは、かつてこの場所に訪れたどの風よりも温かかった。
次の瞬間、境界の亀裂を跨ぐ。
視界が白に染まり、そしてゆっくりと新しい色に変わる。
名もない色。
誰も定義できない色。
けれど、それが自分の「始まり」だと、ただ分かった。
──生むための旅は、終わらない。
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東雲ふわり🫧