地図の四角形から始めて、最後は現地に戻る――ひとつの商業施設を5つの視点で見てみた
古いショッピングセンターを見ていた。
アメリカ中西部の、街の端にあるような場所だ。
地図を開けば、敷地はすぐ見つかる。大きな道路に面していて、駐車場が広がり、その奥には住宅地がある。敷地の低い側には排水用の窪地もある。
場所そのものは、特に分かりにくくない。
でも、「この場所をどう使えるか」と考えた瞬間、急に難しくなった。
もしここに住宅を増やしたらどうなるだろう。
歩いて商業施設へ行ける道をつくったらどうだろう。
今ある車中心の出入口を残したままで、人の動線を加えられるだろうか。
その日の私は、完成した再開発案を作りたかったわけではない。
むしろ、「次に何を調べればいいのか」を知りたかった。
そのために、同じ場所をいくつかのツールから眺めてみた。

最初に決めたのは、建物ではなく「範囲」だった
最初にやったのは、地図上で見る範囲を決めることだった。
これは意外と重要だった。
敷地だけを見れば、建物の配置については考えやすい。
でも、それでは前面道路との関係が分からない。
逆に周辺を広げすぎると、今度は敷地が街の中に埋もれてしまう。
そこで、まず敷地と前面道路、背後の住宅地が入る程度に範囲を絞った。
PlaceMakerを使って、その周辺環境をSketchUpに持ってくる。
Halfmapsでは地図の情報を確認しながら、どこまで含める必要があるかを考える。
この段階では、まだ新しい住宅の形を決めていない。
私は最近、設計の初期段階では「何を建てるか」より「何を見るか」を先に決めたほうがいいのではないかと思っている。
見る範囲が変われば、見える問題も変わるからだ。
Shapezoで立体にすると、最初の思い込みが少し崩れた
次にShapezoを開き、地図上で対象エリアを囲んでAIで3Dモデルを生成した。
ここで面白かったのは、建物の形そのものより、周囲との関係が見やすくなったことだった。
最初、私は「この敷地にどれくらい住宅を入れられるか」が一番大きな問題だと思っていた。
ところが3Dで眺めているうちに、気になってきたのは入口だった。
現在の出入口は車にとっては自然でも、住宅地から歩いて来る人にとってはどうだろう。
新しい住宅を増やすなら、既存の動線をそのまま使うだけでは、歩行者にとって不自然な場所が残るかもしれない。
さらに、敷地の低い側を横切る排水の窪地も気になった。
平面図では「空いている場所」に見えていた部分が、立体的に見ると、簡単には使えない場所に見えてきた。
このとき、3Dモデルの役割は答えを出すことではなく、自分の最初の思い込みを壊すことなのだと感じた。

InfraWorksでは「そこからどう見えるか」を考えた
次にInfraWorksへ持っていき、幹線道路側と住宅地側の両方から敷地を見ることにした。
この視点を変えるだけで、また印象が変わる。
敷地の中から見ると、建物をどう配置するかが中心になる。
でも、住宅地側から見ると、「新しい建物が何を隠すのか」という問題が出てくる。
例えば、敷地いっぱいに長い建物を置けば、土地の利用効率は高くなるかもしれない。
一方で、近くの道路から見たときには、建物の壁が街との境界になってしまう。
そこで、ブロックを少し短くして、街との接続を残す案を考えた。
これは大きな設計変更ではない。
でも、「建物の中から見る」だけでは出てこなかった発想だった。
道路を見始めると、建築だけでは決められなくなる
さらにOpenRoadsでアクセスと道路の形を考えた。
ここまで来ると、住宅の配置だけを考えている場合ではなくなる。
新しい道路をつなぐなら、交差点との距離はどうするか。
車の右左折は問題ないか。
視距は確保できるか。
歩行者はどこを通るのか。
既存の商業施設へのアクセスと、新しい住宅のアクセスをどう共存させるか。
最初は「ここに道を一本追加すればいい」と思っていた。
でも、道路は線を引けば完成するものではない。
人や車が実際に動くことで初めて意味を持つ。
だから、モデル上で道路がつながったからといって、「これで解決した」とは考えないようにした。
むしろ、そこから確認事項が増えた。
私は、この状態を悪いことだとは思わない。
初期検討で質問が増えるのは、モデルが失敗したからではなく、見えなかった条件が見えてきたからかもしれない。
AIモデルを「証拠」にしない
ここは今回、一番気をつけたところでもある。
Shapezoで生成した3Dモデルは、場所を理解するためには便利だった。
でも、それを使って敷地境界や正確な標高、交通量まで判断できるわけではない。
モデルがそれらしく見えるほど、つい「正しそう」に感じてしまう。
だから、私はモデルの横に小さくメモを残すことにした。
どの範囲を選んだのか。
どのデータを見たのか。
いつの情報なのか。
まだ確認できていないことは何か。
こうしておくと、あとから別の人に見せたときにも、「ここまでは分かっている」「ここから先はまだ仮説」という境界が分かる。
個人的には、AIを使った初期検討では、この境界を残すことがかなり大切だと思っている。
最後に必要だったのは、もう一度その場所を見ることだった
デジタル上では、かなりのことを確認できた。
でも、最後に残った疑問は、画面の中だけでは解決できなかった。
敷地の裏側の道は、実際には誰が使っているのか。
配送車が入るのか。
住民が歩いているのか。
両方なのか。
低い場所にある排水の窪地には、雨が降ったあと本当にどの程度水が集まるのか。
こういう情報は、現地に行ったほうが早い。
そこで気づいた。
今回のモデル作成で一番価値があったのは、きれいな3Dシーンを作れたことではなかった。
「現地に行ったら、何を見ればいいのか」が具体的になったことだった。
デジタルで始めても、最後は現場に戻る
PlaceMaker、Halfmaps、Shapezo、InfraWorks、OpenRoads。
それぞれ違う方法で同じ場所を見ることができた。
地図を見る。
範囲を決める。
AIで立体化する。
視点を変える。
道路を考える。
そして、また現地を見る。
この順番が面白い。
私は以前、3Dモデルは「現地をデジタルで再現するもの」だと思っていた。
今は少し違う。
良い初期モデルとは、現地を完全に再現したモデルではなく、「次に現地で何を確認すべきか」を教えてくれるモデルなのかもしれない。
今回のショッピングセンターについても、まだ結論は出ていない。
住宅をどれだけ入れられるかも、道路をどうつなぐかも、排水をどう扱うかも、これから確認する必要がある。
でも、それで十分だと思う。
最初から正解を作る必要はない。
地図上の小さな四角形から始めて、ひとつずつ視点を変える。
すると、最初はただの「空いている土地」に見えていた場所が、道路、住宅、排水、歩行者、商業施設が重なった場所として見えてくる。
そして最後には、画面を閉じて、その場所へ行きたくなる。
私にとって、デジタルで場所を見るというのは、現実から離れることではない。
むしろ、現実を見るための質問を増やすことなのだと思う。
