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キッチンからの手紙#5 薄暗い台所と甘酒

    むくみ

    前略
    今年もあと半月ほどで終わりを迎えますね。今年がもう終わる、そう思うといつも心の中が落ち着かなくなってきます。
    今年しようと思ってできなかったことを思い浮かべて焦ったり、何かし忘れてはいないかとソワソワしたり。日頃からきちんとしていれば年末だからと言って特別に何かしなくてもいいはずなのに、おかしなものですね。

    最近寒くなったせいかお腹が空いてたまりません。いくら食べても満腹感がなく、キッチンに行っては何か美味しそうなおやつはないかな、とゴソゴソとあさっています。
    自分で買い物をするので自分が買ったもの以外はあるはずもないのですが、それでも何かあるのではないかと探してしまいます。
    どうかしていますね。


    小さな頃、おやつはいつも母の手作りでした。
    焼き芋、ホットケーキ、パンの耳のラスク、フレンチトースト、蒸しパン、パウンドケーキ、クランブルケーキ、芋もち、ドーナツ、プリン、ゼリー、ぜんざい。
    その時の季節によって色んなものが出てきました。

    今から考えればとても贅沢なことですが、当時の私はそれがどれだけ贅沢で幸せなことなのかを分かっていませんでした。
    だから、心の中でいつも「ポテトチップスが食べたい」だとか「小さなカップ麺を食べてみたい」などと思って、そういうおやつが出てこないことを不満に思っていました。

    小学校5年生の時、どうしても我慢ができなくて、親友の美絵と1度だけ駄菓子屋さんでミニカップ焼きそばを食べたことがありました。初めてのカップ焼きそばに私は興奮して、美味しくて感動しました。少しだけ大人になったような気分でした。

    家に帰ると夕食の時間になっていました。カップ焼きそばを食べたことは勿論、母には内緒です。
    当時、少食だった私はミニカップ焼きそばのせいでお腹がいっぱいでしたが、夕食を食べないと母から どうしたのか? と問いただされるに決まっています。
    私は吐きそうになりながら頑張って夕ご飯を食べました。
    それ以来、カップ焼きそばを食べたいと思うことは無くなりました。

    話が逸れてしまいましたね。
    母の手作りおやつで、冬になると時折出てくるのが甘酒でした。

    甘酒の日は玄関を開けるとその香りがほのかに漂っています。
    私が帰ると母は台所に行き、お鍋の中の甘酒を温めてくれます。あまり日の当たらない、昼でも薄暗く冷え切った台所で、母はいつも電気もストーブもつけずに甘酒を作っていました。

    私は少し暗いと電気をつけたくなります。1人でもキッチン、ダイニング、リビング全ての電気をつけていることもあります。
    私は薄暗い部屋にひとりでいると、何だか暗く悲しい気分になってしまいます。
    母はどうして電気をつけないのでしょうか。節約のためなのでしょうか。
    母はいつでも、何でも、自分ひとりであれば我慢してしまう性分のように思います。

    甘酒に使うお鍋はいつも同じで、使い古されて焦げが付いて凹んでいる片手鍋でした。
    朝ご飯のお味噌汁を作ったり、里芋を少し炊いたり、お弁当に入れるおかずを作ったりするようなお鍋です。

    その古い鍋から湯気が立ち上り、甘い匂いが漂ってきます。生姜を小さなおろし金で擦って、コップによそった甘酒に入れ、スプーンで混ぜると完成です。

    ひと口飲むともったりした甘さと独特の香りが口の中に広がります。そこに時折 生姜の辛味がやってきます。
    底の方にはお米と麹の粒が残ります。私は粒が残らないように、残り少なくなると素早く湯呑みを逆さかにして飲んでみるのですが、それでもやっぱり残ってしまいます。
    粒を残さずに飲める方法はないのでしょうか。
    結局 最後にはそれをスプーンで掬って食べます。

    甘酒を飲んだあとは必ずコップの縁と唇がベタベタしていました。子供でも飲みやすいように母はお砂糖をたくさん入れてくれていたのかもしれません。


    久しぶりに母が作っていたような濃い甘酒を飲みたくなってきました。美味しそうな酒粕を買って今晩作ってみようと思います。


    あなたの思い出のおやつはありますか?


    かしこ


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    好奇心旺盛なアラフィフ、独身、子なし。 パートナーのもっさりと週末を過ごす生活。 好き : 昼寝・ラジオ・猫・又吉直樹・武田砂鉄・岡本太郎 苦手 : 乗り物・閉鎖空間・人混み・行列・鳩

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