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ラベンダーピンクの夜明け~生きづらさを物語へ変えるまで 第5話


    第5話「演劇と現実、その狭間で」

    入団してすぐの基礎レッスンの後、年末のショートドラマでの発表会は、ほぼ初めてと言ってもいい舞台。端役だったけど、初めて役をもらった。緊張したけどみんなと一つの作品を作り上げて、良かったねと終わってから言い合った。

    そしてその数ヶ月後に、私は発表会ではない本当の舞台に立った。声も満足に出せなかったので、みんなは大変だっただろう。けど、市役所の職員さんという役で意外とセリフがあった。私の出番はもう最初から。音楽が大きくなり舞台が暗転して真っ暗になる。その後ゆっくりと照明が入ると、もう役者達が舞台上に立ち、話が始まる最初の掴みの部分にいる。つまり板付きだった。

    初めて舞台照明を浴びた瞬間、眩しいライトに自分を忘れて無我夢中だった。発声もあまり良くできてなかった私は、最初は厳しく怒られた。それでも食いついていった初舞台。疲労感もあったけど、終わった時の解放感と達成感は半端なかった。

    そこから演じたり観劇で楽しんだりすることが生きがいになっていった。現実では仕事が続かず自信を失っていた私にとって、舞台の上だけは、自分を否定されずにいられる場所だった。私は初めて、「ここにいていいんだ。」と思えた。

    舞台も数回だけ出演したけれど、台本のセリフを覚えるのはさほど苦労しなかった。これは後にわかったことだけど、脳内メモリが大きいゆえに覚えるのは比較的得意だったようだ。台本を覚える際も、台本を読むだけでなく、何度も声に出しセリフを喋ることで覚えていく。また、ICレコーダーに他人のセリフを吹き込んで掛け合いの練習を試みるなど工夫した。それを何度も繰り返しやり、また動きも付けてみるなどの自分なりの工夫で、セリフは驚くほどすんなり頭に入った。

    演劇は楽しいことも辛いことも厳しいことも喜べることも、みなその役柄を通じて経験していける。そんなワクワクするような楽しい経験を、高校以来あまり味わってこられなかった私は、だんだんとと楽しさに夢中になっていくようになる。エチュード(即興芝居)のレッスンは苦手だったが、先生から「君の言うセリフは面白い」と言われたのもとてもいい励みになった。

    それにしてもまず普通に働いて収入を得なければいけない。旦那様の稼ぎに甘えてばかりいるのも申し訳ないし、何よりこのままでは自己肯定感は低いままだ。私は実家の手伝いや転職活動を必死に続けながら、夜や週末は演劇に打ち込むという、多忙な日々を送るようになっていった。


    ――気づけば、結婚生活は10年を過ぎ、私は43歳になっていた。

    充実感の裏で、年齢的な疲労も重なり、いつの間にか家事が思うようにできなくなっていたのだ。

    ある時に旦那様がイライラし、怒っているのに気づく。そういえばここ数か月、旦那様の表情には少しずつ苛立ちが増えていた。明らかに表情に違和感を覚えた。ちょっと不安になった私は、家事をする手を止めて聞いた。
    「どうしたの?なんか怒ってる?」
    と率直に聞くと、旦那様は不満げに私を睨み、
    「お前は最近、家事をロクにしない!まともに飯も作らないで、何のための主婦なんだ!」
    と言い放ったのだ。
    「えっっ!?」
    ビックリした私。そのぶっきらぼうな棘のある言葉が私の胸に突き刺さった。

    そういえばここ数年、演劇集団の活動と仲間との交流、その他にも転職活動、それから就職して働いている時期もあれば、働いていない時期は実家の古書店の手伝いをするなど多忙な毎日だった。結婚当初はこれでも毎日家事をキチンとして丁寧に暮らしていたはず。それがいつの間にか忙しくなり、年齢的にも疲労が重なり、家事が思うようにできなくなっていた。というかできていなかった、かも。

    「どうして!?私そんなにやってないかな?これでもいろいろやってて頑張っているんだよ!?あなただって気が短すぎじゃない?」
    とのささやかなはずの返答が、旦那様との大喧嘩に発展してしまった。私の心臓はバクバクと激しく波打った。旦那様は声を荒げた。

    テレビからは年末の華やかなテレビ番組が流れている。もうそろそろ年越しそばを食べようと準備を始めていた。けど、それどころではなかった。

    しぃんと静まりかえったリビングに、時計の秒針の音がやけに響く。せっかくもらった「ラベンダーピンクのカバン」さえも、部屋の隅で悲しげに泣いているように見えた。それは私が43歳の年末、大晦日、もうあと数時間で新年が明けるという時だった。






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