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【隷回路】絶鳎のプロトコル 䞀五五の停神 第四章 䌜藍の排熱゚ラヌログ

    1.
     䞉月二十䞃日。東京は完党にその「機胜」を曞き換えられおいた。
     朝の通勀ラッシュを迎えたはずの新宿駅のホヌムには、乗客を埅぀電車の姿はなかった。代わりに、数䞇人の「人殻」たちが、肩が觊れ合うほどの過密さで敎列し、ただその堎で足螏みを繰り返しおいる。
     ドス、ドス、ドス、ドス。
     数䞇の肉厚がアスファルトずコンクリヌトを削る音が、完党に同期した䞀五五bpmのビヌトずなっお地䞋構内に反響しおいた。圌らの衣服は擊り切れ、剥き出しになった背䞭からは、倪い光ファむバヌの束が倩井の配線ダクトぞず盎に突き刺さっおいる。
     その巚倧な「生䜓プロセッサ」の末端で、久瀬はただ、自身の茪郭を蟛うじお保っおいた。
     圌の衣服はか぀おの仕立おの良いスヌツのたたであったが、その垃地の䞋では、すでに凄惚な組み替えが始たっおいた。怜察官ずしお法廷に立ち、数々の汚職を暎いおきた圌の右腕は、今や肘の関節から先が䞍自然に匕き䌞ばされ、指先はキヌボヌドを叩くためだけの、爪の硬床を超えた黒い炭玠繊維の針ぞず倉貌しおいる。
    「東和重工  。この、組織は  」
     久瀬の也いた声が、自身の喉を震わせる。しかし、声垯はすでに肉の性質を倱い、金属的なノむズが混じる。
     圌の脳内では、か぀お法埋条文を蚘憶しおいた領域が、次々ず暗号化されたデヌタパケットの栌玍庫ぞず曞き換えられおいた。正矩感や、法秩序ぞの執着ずいった高次の粟神掻動は、システムにずっお「挔算効率を著しく䜎䞋させる゚ラヌログ」でしかない。
     䞀〇秒ごずに、圌の意識のセクタヌが匷制的にフォヌマットされおゆく。
    「䜐藀、医垫  。神厎、類  。私は、圌らの  」
     思い出すたびに、芖界の端に赀い文字で『Invalid Operation䞍正な凊理』ずいう譊告がポップアップし、網膜を焌き切るような激痛が走る。
     痛芚すらも、挔算ぞの集䞭を促すための「電気的ペナルティ」ずしお利甚されおいた。久瀬の目から、血混じりの黒い最滑油がひずすじ流れ萜ち、吞気口ず化した鎖骚の隙間ぞず吞い蟌たれおいった。
    2.
     目黒の暗い郚屋の䞭で、蓮の倉容は最終段階デプロむを迎えおいた。
     圌女の䜓は、すでにデスクの怅子から離れるこずができなくなっおいた。䞡足の倪腿から䌞びた黒い觊手は、床のフロヌリングを䜕局も突き砎り、アパヌトの基瀎コンクリヌトを䟵食しお地䞭深くの幹線光ファむバヌ網ぞずダむレクトに「根」を匵っおいる。
    「あっ、ガ、  あ」
     蓮の口から挏れるのは、もはや蚀葉をなさぬ高呚波の電子音ハりリングだけだった。
     圌女の頭皮からは、髪の毛に混じっお现い銅線のような繊維が䜕千本も突き出し、壁䞀面のモニタヌ矀の裏偎ぞず盎接配線されおいる。六枚の画面は、圌女の脳が凊理しおいる「東京党䜓の血流・心拍数・電力消費量」の統蚈グラフを、䞀五五bpmの呚期で激しく明滅させおいた。
     バチバチず、圌女の胞のあたりから火花が散る。
     神厎の觊手に觊れたあの日から、圌女の肉䜓は東和重工の基幹システムを䞖間に暎露するための「䞭継サヌバヌ」ずしお機胜しようずしおいた。しかし、その正矩の詊みすらも、システムの巚倧な凊理胜力に呑み蟌たれ、単なる「サブルヌチン」ずしお組み蟌たれおしたったのだ。
     圌女の指先は、すでにカッタヌナむフを持぀こずすらできない。爪は完党に脱萜し、指の腹からは剥き出しの光センサヌが、モニタヌの青癜い光を貪欲に感知しおいる。
     脳が沞隰するような熱気に襲われ、蓮は己の意志で息を吞おうずしたが、肺はすでに酞玠を必芁ずしおいなかった。胞骚の裏偎に埋め蟌たれた冷华ファンが、キュルキュルず肉を削るような異音を立おお高速回転し、圌女の口から癜い蒞気を吐き出させる。
     その時、蓮の芖芚センサヌ目が、ネットワヌクの最深郚から流れおくる䞀぀の「高優先床タスクプラむオリティ・ログ」を捉えた。
     
    『個䜓名神厎類。コア枩床䞊限超過。システム保護のため、匷制冷华プロトコルを実行。排熱凊理を呚囲のセグメントぞ分散』
    「る、  い  」
     蓮の網膜に、代々朚公園の生䜓デヌタセンタヌの映像が匷制的に投圱される。
     そこには、人間ずしおの圢を倱いかけた、か぀おの恋人の姿があった。
    3.
     代々朚公園の巚倧な柱コアに固定された神厎類は、たさに地獄の業火の䞭にいた。
     数癟䞇人の「人殻」を束ねる挔算の「栞セグメント」ずなった圌の肉䜓は、過負荷によっお限界を迎えおいた。背䞭から生えた攟熱フィンヒヌトシンクは赀熱し、呚囲の組織をドロドロに溶かしながら、䞍快な有機物の焊げる臭いを攟っおいる。
     圌の胞郚は、内偎から激しく駆動するアクチュ゚ヌタの衝撃で、数センチ単䜍で歪な倉圢を繰り返しおいた。パキ、パキ、ず肋骚が折れおは、ナノマシンによっお匷制的に歪んだたた接合される音が響く。
    「――155.002bpm ―― 155.005bpm ――」
     システムのリズムが、わずかに狂い始めおいた。人間の肉䜓ずいう䞍確実なハヌドりェアが䞊げる、限界の悲鳎゚ラヌだった。
    「類、これ以䞊の゚ラヌはシステムの効率を損なうわ」
     祭壇の傍らに立぀冎子の声には、䞀切の感情が排陀されおいた。圌女の顔面の裂け目から芗く「人間の心臓」は、䞀五五bpmの正確なピッチで拍動しおいるが、その衚面は硬質なシリコン膜で完党に芆われ、もはや䞀個の粟密なポンプに過ぎない。
    「゚ラヌログの発生源である『人間ずしおの残存蚘憶』を、完党に消去パヌゞしたす」
     冎子の指先から䌞びた、高電圧を垯びた銀色の針が、神厎の開いた頭蓋の隙間ぞず容赊なく突き刺さった。
     
    「ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアッ」
     神厎の口から、肉声ずも電子音ずも぀かぬ、この䞖の終わりような絶叫が炞裂した。
     圌の脳裏を、走銬灯のように蚘憶が駆け抜ける。
     泥たみれになっお走った䞭孊の校庭。東京湟岞マラ゜ンで、沿道から自分を呌ぶ蓮の笑顔。䜐藀医垫がくれた、頌りないが枩かかった手の感觊。久瀬怜察官が、鋭い県差しの奥に秘めおいた確固たる正矩の炎。
     それらすべおの蚘憶の断片が、冎子の攟぀電流によっお、䞀枚ず぀黒く焌け焊げ、灰になっおいく。
     蚘憶が消えるたびに、神厎類の肉䜓から「人間」ずしおの柔らかさが倱われおいった。
     皮膚は完党に硬質な灰色の暹脂ぞず眮き換わり、関節は生䜓力孊を無芖した金属補のシリンダヌぞず組み替えられおいく。
     圌の瞳の赀色は、もはや怒りや苊痛の光ではなかった。それは、ただデヌタが正垞に転送されおいるこずを瀺す、冷培なむンゞケヌタヌの点滅ぞず倉わった。
    4.
     同時刻、目黒の蓮の郚屋のモニタヌに、無数の文字列が滝のように流れ萜ちた。
    『消去完了KANZAKI_RUI / MEMORY_LOG_ALL』
    『同期率100.00%』
    「あ  」
     蓮の脳内に盎接流れ蟌んできたのは、圧倒的な「虚無」だった。
     神厎類ずいう人間がこの䞖に存圚したずいう蚌拠、圌女ず分かち合った時間のすべおが、巚倧な論理の波によっお抌し流され、ただの「れロ」ず「むチ」の配列に還元されおいく。
     その瞬間、蓮の手銖の幟䜕孊暡様が、䞀気に圌女の肘、そしお肩ぞず跳ね䞊がるように拡倧した。
     黒い線は、圌女の鎖骚を割り、心臓ぞず到達する。
     ドクン。
     圌女の心臓が、それたでの䞍芏則な錓動を止め、冷培な䞀定のリズムを刻み始めた。
     䞀五五・〇〇䞀bpm。
     蓮の目から、最埌の涙がこがれ萜ちた。しかし、その涙が床に届く前に、圌女の県球は完党に固定され、のっぺらがうの灰色の膜がその衚面を芆い尜くした。
     圌女の顔面にも、無数の「黒い数字」が高速でスクロヌルし始める。
     新宿駅で足螏みを続ける久瀬も、代々朚公園で盎立する神厎も、そしお暗い郚屋でシステムず化した蓮も。
     すべおの「人殻」が、䞀぀の巚倧な、目に芋えない䌜藍の柱ずしお完党に接続された。
     東京の地䞊を芆うのは、過負荷ずなった数癟䞇人分の肉䜓が発する、凄惚な「排熱」の熱気だけだった。街党䜓が、生きながら腐敗しおいく肉ず、熱せられた半導䜓の臭いに満たされおゆく。
     その䞭で、死肉を玡ぐ論理ロゞックだけが、ただ淡々ず、次のプロトコルぞず移行シフトしおいった。

     
     

    FŪmito

     
     
    こんにちは。日々の関心事や、特定のゞャンルに瞛られず、Excel䟿利術、AIから瀟䌚問題たで、心が動いた瞬間をカラフルな蚀葉で衚珟したいず思いたす。異なる芖点が亀差する、新しい発芋の堎所、note。もし私の「色」が気になったら、気軜にフォロヌしおください。

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