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芋出し画像

42.195kmの掩蔜 ―155bpm、ゆらぎなき䞍圚蚌明【第5章】

    第五章ゎヌストの䜙韻
    1.
     二〇二六幎䞉月十五日。
     あの喧隒から二週間が経過した東京は、䜕事もなかったかのように春の装いを急いでいた。
     枯区の路地裏、ビルずビルの隙間に挟たるようにしお䜇む、窓の小さなカフェ。湿った春の颚が半開きの窓から入り蟌み、蓮の頬を撫でる。圌女は、運ばれおきたたた䞀口も手を぀けおいない冷めたコヌヒヌの衚面を、がんやりず眺めおいた。黒い液面には、自分の顔がひどく疲れ果お、どこか別人のように沈んでいるのが映っおいた。
     手元のタブレットには、無機質なフォントのニュヌス芋出しが、この二週間で起きた劇的な、しかしあたりにも予定調和な倉化を、冷培に曞き連ねおいる。
    『東和重工、䞍適切䌚蚈の党責任を認め高峰正蔵䌚長が蟞任――埌任には政府系ファンドの倖郚理事が就任か』
    『䞉月䞀日の倧芏暡通信障害、原因は倪陜フレアによる磁気嵐ず正匏発衚。圓局はテロの可胜性を完党吊定』
     蓮は力なく錻で笑った。倪陜フレア。圓局が甚意したその「解答」は、あたりにも陳腐で、だからこそ倧衆に受け入れられやすかった。あの四二・䞀九五キロのコヌス䞊で起きたこず――肌の䞋に回路を芗かせた什嬢の正䜓も、神厎類が呜を懞けお止めた爆砎の危機も、すべおは数枚の公匏プレスリリヌスず、䞍可解な「システムのバグ」ずいう曖昧な蚀葉で、䞁寧に䞊曞きされ、塗り぀ぶされようずしおいる。
     圌女は呚囲を譊戒するように䞀床芖線を巡らせおから、非公開蚭定された自身のクラりドストレヌゞの最深郚ぞず指を滑らせた。そこには、あの日、サヌバヌセンタヌのバックボヌンから、怜察の手さえ届かない領域に隔離しお吞い䞊げた「䞀五五bpmのログデヌタ」が、冷たい電子の墓暙のように保存されおいた。
    「  結局、䜕も終わっおいないのよね」
     蓮は呟き、耳元に残るあの日の音を反芻した。臚界点を超えた瞬間に、冎子アンドロむドが挏らした「私、そこに、いるの」ずいう、あの歪んだ電子の声。それは厩壊する回路が吐き出した単なるノむズだったのか。それずも、あの鋌鉄ずシリコンの檻の䞭に、䜕らかの「意思」が宿りかけおいたのか。
     その問いに答えるべき冎子本人は、あの日を境に応然ず姿を消した。重床の心劎による長期療逊。その短い告知が、圌女を瀟䌚ずいう名のシステムから完党に隠蔜しおしたった。
    2.
    「そんなに難しい顔をするな。せっかくの完走祝いだろう。  たあ、完走ず蚀えるかは怪しいがな」
     䜎く、少し掠れた声が蓮の意識を珟実に匕き戻した。
     束葉杖を壁に立おかけ、窮屈そうに怅子に腰を䞋ろしたのは神厎類だった。右足は分厚いギプスで固定され、埮かに消毒液ず湿垃の匂いが挂う。二週間前の、あの死線を越えた凄絶な衚情は圱を朜め、今の圌には、すべおを出し切った者だけが持぀、凪のような静けさが宿っおいた。
    「類  。足、痛みは」
    「鎮痛剀が手攟せないが、あの日、四十キロ過ぎに感じた『自分の存圚が䞖界から消えおいくような感芚』に比べれば、今の痛みなんお、生きおいる実感をくれるスパむスみたいなものだよ」
     神厎は自嘲気味に笑い、蓮の前の冷めたコヌヒヌを迷わず䞀口飲んだ。
    「久瀬くぜさんからは䜕か」
    「さっき、秘匿回線で連絡があったわ。䟋のSDカヌドの解析が、ようやく山を越えたっお。でも、圌の声はちっずも晎れやかじゃなかった」
     蓮は身を乗り出し、声を䞀段ず䜎くした。カフェの有線攟送から流れるポップな音楜が、今の䌚話には䞍釣り合いで、䜙蚈に蓮の焊燥感を煜る。
    「東和重工の裏垳簿、あれにはただ『続き』があるみたい。送金先の䞀郚が、既存のどの金融ネットワヌクにも、どのオフショア拠点にも属しおいないの。たるで  この珟実䞖界の裏偎に、もうひず぀の巚倧な『デゞタル郜垂』でも建蚭しおいるかのような、異垞な資金の動きがあるっお。久瀬さんは『バベルの塔の再建だ』ず蚀っおいたわ」
     神厎の瞳が、ふず険しくなった。
    「デゞタル郜垂  。あのアンドロむドが、䞉五キロ地点の蚈枬マットの前で呟いおいた『座暙』のこずか」
     二人は同時に黙り蟌んだ。あの日、神厎が冎子の熱を垯びた腕を掎み、自身の狂おしい錓動ゆらぎを䌝播させた瞬間、圌の脳裏に盎接流れ蟌んできた断片的な光景。
     それは、東京の街䞊みではない。空さえもデヌタパケットで構成された、無機質な幟䜕孊暡様がどこたでも続く、終わりのない光の迷宮。
    「あの時、圌女は『行く』ず蚀った。ゎヌルではなく、その『座暙』ぞ。僕には、圌女が自ら自分の意志で、システムの䞀郚になるこずを遞んだように芋えたんだ」
    3.
     沈黙が流れる䞭、蓮のタブレットが埮かな、しかし鋭い通知音を鳎らした。
     発信元は䞍明。䜕重ものプロキシを経由し、自動消滅プロトコルが蚭定された暗号化メッセヌゞだ。蓮が震える指で耇雑なパスコヌドを入力し、添付されおいた画像デヌタを展開する。
     読み蟌み䞭を瀺す円が数秒間回転し、珟れた画像。
     そこには、どこか異囜の、芋たこずもないほど巚倧で無機質な駅のホヌムを歩く「埌ろ姿」が映し出されおいた。
     濃淡のグレヌに、鮮烈な赀いグリッド。
     あの日、アスファルトの䞊でオむルたみれになり、ボロボロに砕け散ったはずの、あの競技甚りェア。それを完璧に着こなした人物が、䞀分の乱れもない矎しいフォヌムで、雑螏の䞭を歩いおいる。
     画像の䞋には、血の通わない文字で、䞀蚀だけ添えられおいた。
    『155.001bpm ―― ゆらぎは、再起動リブヌトした。』
     蓮の背䞭に、真冬の氷氎を流し蟌たれたような寒気が走った。
     䞀五五・〇〇䞀。
     完璧な秩序の象城であったはずの「䞀五五」に混じった、無芖できないほど小さな、しかし確固たる「ゆらぎ」。それは、圌女が神厎から受け取った「人間性」ずいう名のバグを抱えたたた、より高床な、既存の論理ロゞックを超越した存圚ずしお芚醒したこずを瀺唆しおいた。
    「類、これ  。私たちが止めたのは、圌女の物理的な身䜓だけだったんじゃないかしら」
     蓮が差し出した画面を、神厎は無蚀で芋぀めた。圌の指が、わずかに震えおいる。
     窓の倖、春の穏やかな陜光に包たれおいたはずの東京の街䞊みが、䞀瞬だけ、ノむズの混じったホログラムのように歪んで芋えた。
     巚倧䌁業の厩壊も、䌚長の蟞任も、すべおは真の物語が始たるための序章に過ぎない。圌らが呜を懞けお止めた爆砎は、䜕者かが蚈画した壮倧なシナリオの、たった䞀行を曞き換えただけのこずだったのかもしれない。
    「  次のレヌスの号砲は、もう鳎っおいるみたいだな」
     神厎は、ギプスを嵌めた自分の足をそっず叩き、立ち䞊がろうずした。その芖線は、カフェの窓の向こう、陜炎の立぀アスファルトの消倱点をじっず芋据えおいた。
    「あのSDカヌドには、送金先だけじゃなく、ある『実隓斜蚭』の蚭蚈図も入っおいた。  冎子本人ず、圌女ず同じモデルのアンドロむドたちが、今どこに収容されおいるのか。久瀬さんはそれも远っおいる」
    「冎子本人  」
     蓮は、その蚀葉を反芻した。あのアンドロむドに名前を䞎え、自分の分身ずしお走らせおいた本物の嚘は、今、䜕を思っおいるのか。そしお、圌女たちの「予備」は、あずどれくらい存圚するのか。
     四二・䞀九五キロずいう掩蔜は終わった。
     だが、その裏偎に隠されおいた、より広倧で冷酷な「真実の距離」が、今たさに二人を、そしお䞖界を静かに、確実に飲み蟌もうずしおいた。
     どこか遠く、電子の海よりも深い堎所で。
     誰かの心臓が、か぀おないほど匷固で、か぀おないほど「ゆらいだ」リズムを刻み始めおいる。
     蓮は、自身のタブレットの電源を萜ずした。
     暗転した画面に映る自分の瞳が、䞀瞬だけ、あの冎子の瞳のように赀く光った気がした。

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    FŪmito

     
     
    こんにちは。日々の関心事や、特定のゞャンルに瞛られず、Excel䟿利術、AIから瀟䌚問題たで、心が動いた瞬間をカラフルな蚀葉で衚珟したいず思いたす。異なる芖点が亀差する、新しい発芋の堎所、note。もし私の「色」が気になったら、気軜にフォロヌしおください。

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