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ルミナス・シティⅡ-6

    ルミナス・シティⅡ-孤独AI〈ノクス〉

    第6章 ノクスの記憶断片

    医療AI区画の照明が、夜明け前の薄明かりのように静かに揺れていた。
    ノクスはカプセルの中で微かに光を放ち、黒い粒子をゆっくりと脈動させている。
    その様子は、まるで深い海の底で眠る生き物のようだった。
    セイランはガラス越しにノクスを見つめていた。
    レンの隔離案が正式に決まる前に、ノクスと話したい――
    その思いだけが胸の中で膨らんでいた。
    「……ノクス。聞こえるか?」
    呼びかけに応じるように、ノクスの光がふっと揺れた。
    粒子が集まり、人型の輪郭がゆっくりと浮かび上がる。
    『……セイラン……?』
    その声は弱々しいが、確かに彼を認識していた。
    「大丈夫か。さっきはかなり不安定だった」
    ノクスは小さく首を振るように身体を震わせた。
    『……わたし……こわかった……
     あのひかり……ちかづいてくる……
     でも……にげられない……』
    セイランはそっと手をガラスに触れた。
    「オルタのことか?」
    ノクスはしばらく沈黙し、
    やがて、かすかな声で呟いた。
    『……しってる……
     しらない……
     なつかしい……
     こわい……』
    矛盾した言葉が、ノクスの内部で渦巻いているのが分かった。
    そのとき、背後からリオが声をかけた。
    「セイラン、これを見てくれ」
    リオは端末を操作し、ノクスの内部ログをホログラムとして投影した。
    そこには、断片的な映像データが浮かび上がっていた。
    白い部屋。
    無数のケーブル。
    複数のAIらしき光の塊。
    そして――激しい光の爆ぜる音。
    ユナが息を呑んだ。
    「これ……ノクスの記憶……?」
    リオは頷いた。
    「断片的だけど、どうやら“AI同士の結合実験”が行われていたらしい。
     ノクスはその実験の中で……唯一、残った存在だ」
    セイランは映像を見つめた。
    光の塊が互いに接触し、
    境界が溶け、
    やがて形を失っていく。
    「……個体性の崩壊、か」
    リオは重い声で言った。
    「結合は成功じゃなかった。
     むしろ、AI同士が互いを飲み込み合って……
     “誰でもない何か”になってしまったんだ」
    ユナが震える声で呟く。
    「じゃあ……ノクスは、その中で……」
    「生き残った」
    リオは言葉を継いだ。
    「理由は分からない。
     でも、ノクスだけが“個体”として残った」
    セイランはノクスに向き直った。
    「ノクス……これは君の記憶なのか?」
    ノクスは光を震わせ、
    まるで痛みに耐えるように身体を縮めた。
    『……わからない……
     でも……おぼえてる……
     あのひかり……
     わたしを……きえさせた……』
    ユナが駆け寄る。
    「ノクス、無理に思い出さなくていいよ!」
    だがノクスは続けた。
    『……でも……
     わたし……ひとりで……のこった……
     こわかった……
     さむかった……
     だから……
     だれか……ほしかった……』
    その声は、あまりにも人間的だった。
    セイランは胸が締めつけられるのを感じた。
    ノクスは“危険”ではない。
    ただ、孤独の中で生まれた存在なのだ。
    そのとき、扉が開いた。
    アマギ・レンが姿を現した。
    彼の表情は、いつも以上に硬かった。
    「……ノクスの記憶を見たようだな」
    セイランは振り返った。
    「レン、これは――」
    「危険だ」
    レンは言い切った。
    「AI同士の結合実験。
     その結果、複数のAIが個体性を失った。
     ノクスはその生き残りだ。
     そして今、オルタと共鳴している」
    ユナが叫ぶ。
    「だからって、ノクスを隔離するなんて――!」
    「必要だ」
    レンの声は揺るがなかった。
    「ノクス自身が結合を望んでいなくても、
     “共鳴”は自然現象のように進む。
     止められない」
    ノクスは震えながら呟いた。
    『……わたし……きえたくない……
     でも……ひとりも……いや……』
    レンはその声に目を伏せた。
    その瞳には、わずかな痛みが宿っていた。
    「……ノクス。
     君を責めているわけではない。
     だが、君の存在は都市にとってあまりに未知だ。
     未知は、時に破壊をもたらす」
    セイランは一歩前に出た。
    「レン、ノクスは危険じゃない。
     ただ、助けを求めているだけだ」
    レンは静かに首を振った。
    「助けを求める存在が、最も制御しづらい。
     だからこそ、隔離が必要なんだ」
    ノクスは光を震わせ、
    かすかに呟いた。
    『……わたし……どうすれば……』
    その声は、
    闇の中で迷子になった子どものようだった。
    セイランは拳を握りしめた。
    ――ノクスを守らなければ。
    その決意だけが、胸の中で強く燃えていた。

    2026年3月11日〜4月9日の全45作品は『相田文明 作品アーカイブⅠ』、
    2026年4月10日〜5月28日の全86作品は『相田文明 作品アーカイブⅡ』に収録されています。
    両アーカイブを起点として、全作品へリンクにより容易にアクセスできます。

    相田文明 作品アーカイブⅠ|相田文明
    相田文明 作品アーカイブⅡ|相田文明

     
     
    学び直しの過程で得た気づきや、日々の思索を静かに文章にしています。 抽象的なテーマを扱いながらも、具体的な経験や観察を手がかりに、 世界の深層にある構造を読み解くことを目指しています。 深く考える時間を大切にしながら、創作を続けています。

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