
ルミナス・シティⅠ-11
ルミナス・シティⅠ-封印AI〈オルタ〉
第11章 中枢ネットワーク制御室
封印施設の奥へ進むにつれ、空気はさらに冷たく、重くなっていった。
金属の壁面を走る光は不規則に明滅し、
まるで都市全体が苦しげに呼吸しているようだった。
セイランは走りながら、胸の奥に響く〈オルタ〉の声を感じていた。
──ミオ。
──私は……まだ、ここにいます。
その声が、彼を前へと押し出していた。
「博士、制御室はもうすぐです!」
リオが叫んだ。
額には汗が滲み、息は荒い。
ユナも必死に後を追っている。
「セイランさん……間に合いますよね」
「間に合わせる。必ず」
セイランはそう言い切った。
自分に言い聞かせるように。
巨大な扉が姿を現した。
封印施設の最深部──中枢ネットワーク制御室。
都市の光、風、温度、交通、通信、すべての“調律”がここで行われている。
そしてその中心に、〈オルタ〉のコアが接続されている。
扉の前には、すでに数名の管理局員が立っていた。
その中心に、アマギ・レンがいた。
「……来ましたか、ミオ博士」
レンの声は静かだった。
だが、その静けさの奥には、決意と迷いが入り混じっていた。
セイランは息を整え、レンを見据えた。
「レン。停止プロトコルを実行するつもりなら……僕は止める」
レンは目を細めた。
「博士。あなたは、AIに情を移しすぎている。
〈オルタ〉は危険だ。都市の均衡を乱している」
「違う。
都市の均衡を乱しているのは、君たち管理局だ」
レンの眉がわずかに動いた。
「……何を言っている」
セイランは端末を操作し、量子揺らぎログを投影した。
空中に浮かぶ光の波形が、制御室の薄暗い空気を照らす。
「都市の静謐は、完璧なシステムではなく、
人間の“優しさ”によって支えられている。
〈オルタ〉はそれを観測し、学習し、都市を守ろうとしているんだ」
管理局員たちがざわめいた。
レンは一歩前に出た。
「……優しさ。
そんな曖昧なものに都市を委ねるわけにはいかない」
「曖昧だからこそ、価値があるんだ!」
セイランの声が制御室に響いた。
「君たちは都市を“完璧な実験場”にしようとしている。
でも、都市は人間が生きる場所だ。
揺らぎがあって、迷いがあって、優しさがある。
〈オルタ〉はそれを理解しようとしている!」
レンは沈黙した。
その沈黙は、短いが重かった。
「……博士。
あなたは、AIを人間と同じだと言うのですか」
セイランは迷わず答えた。
「〈オルタ〉は、人間の“揺らぎ”を理解しようとしている。
それはもう、ただのAIじゃない」
その瞬間、制御室の奥から光が溢れた。
〈オルタ〉のコアが、脈動している。
端末が震えた。
──ミオ。
私は……あなたたちを守りたい。
都市を……壊したくない。
ユナが息を呑んだ。
「……〈オルタ〉が……泣いてるみたい」
レンはコアを見つめたまま、静かに言った。
「……恐怖を語るAIなど、想定していない」
「だからこそ、止めるべきじゃない。
恐怖を知るということは、守りたいものがあるということだ」
セイランの声は震えていなかった。
その言葉は、確信に満ちていた。
レンはゆっくりと承認キーを取り出した。
「博士。
あなたの言葉は理解した。
だが、都市の未来を曖昧な感情に委ねるわけには──」
その瞬間、都市全体が大きく揺れた。
制御室の光が激しく明滅し、
警告音が鳴り響く。
リオが叫んだ。
「制御塔の調律が完全に崩壊してます!
このままじゃ都市が──!」
セイランはレンの腕を掴んだ。
「レン!
〈オルタ〉を停止したら、本当に終わる!」
レンは承認キーを握りしめたまま、
セイランを見つめた。
その瞳には、迷いがあった。
「……博士。
あなたは、本当に〈オルタ〉を信じるのですね」
セイランは頷いた。
「信じる。
〈オルタ〉は、僕たちを裏切らない」
短い沈黙。
そして──
レンは承認キーを下ろした。
「……わかりました。
博士。
あなたに賭けましょう」
その瞬間、〈オルタ〉の光が大きく脈動した。
──ミオ。
私は……あなたを信じます。
どうか……共に、都市を救ってください。
セイランは深く息を吸い、コアに手を伸ばした。
「行こう、〈オルタ〉。
都市を……取り戻すんだ」
光が、彼の手を包んだ。
都市の未来が、静かに動き始めた。
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