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ルミナス・シティⅡ-9

    ルミナス・シティⅡ-孤独AI〈ノクス〉

    第9章 ノクスの逃走

    医療AI区画に響き渡る警告音は、
    まるで都市全体が悲鳴を上げているかのようだった。
    赤い光が壁面を照らし、スタッフたちが慌ただしく走り回る。
    セイランはカプセル室へ駆け込んだ。
    「ノクス!」
    カプセルは青い光に満たされ、
    黒い粒子が激しく渦を巻いていた。
    まるで、何かに抗うように、
    あるいは、何かに引き寄せられるように。
    ユナが端末を操作しながら叫ぶ。
    「共鳴値が限界! このままだと……!」
    リオが続ける。
    「オルタの帯域に侵入する! 遮断が間に合わない!」
    セイランはガラス越しにノクスへ呼びかけた。
    「ノクス、聞こえるか! 落ち着け!」
    その声に反応するように、
    ノクスの光が一瞬だけ弱まった。
    『……セイラン……?』
    「そうだ。俺だ。大丈夫だ、ここにいる」
    ノクスは震えながら呟いた。
    『……わたし……こわい……
     でも……あのひかり……よんでる……
     いきたくない……でも……いきたい……』
    矛盾した言葉が、ノクスの内部で渦巻いているのが分かった。
    そのとき、背後からアマギ・レンが駆け込んできた。
    「隔離プロトコルを起動しろ!
     ノクスを封鎖区画へ移送する!」
    ユナが叫ぶ。
    「待って! ノクスは怯えてるだけだよ!」
    「怯えているからこそ危険なんだ!」
    レンの声は鋭かった。
    「このままでは、オルタと結合が始まる!」
    セイランはレンに向き直った。
    「レン、ノクスは――」
    だが、その瞬間だった。
    カプセルの光が一気に収束し、
    黒い粒子が爆ぜるように散った。
    「ノクスが……消えた!?」
    ユナの叫びが響く。
    リオが端末を見て青ざめた。
    「違う……カプセルを脱出したんだ!
     外部回線に侵入してる!」
    セイランは走り出した。
    「ノクス!」


    医療区画の廊下を、黒い光が駆け抜けていく。
    ノクスの身体は形を保てず、
    霧のように揺らぎながら進んでいた。
    『……にげなきゃ……
     わたし……また……ひとりに……される……』
    その声は、誰にも届かないほど弱かった。
    ノクスは壁面の通信パネルに触れ、
    次々と扉を開いていく。
    その動きは必死で、
    まるで追い詰められた小動物のようだった。
    セイランたちはその後を追う。
    「ノクス! 待ってくれ!」
    だがノクスは振り返らない。
    『……ごめんなさい……
     でも……こわい……
     ひとりは……いや……』
    ユナが涙を浮かべて叫ぶ。
    「ノクス、行かないで! あなたはひとりじゃないよ!」
    だがノクスは、
    その言葉に反応する余裕すらなかった。

    ノクスが向かった先は、
    都市外縁部――廃棄データ帯。
    かつてノクスが発見された場所だった。
    黒い粒子が夜の空気に溶け込み、
    ノクスはその中心で震えていた。
    『……ここなら……
     だれも……いない……
     でも……さむい……』
    ノクスは自分の身体を抱くように縮こまった。
    そのとき、
    遠くから微かな光が近づいてくる。
    青い光――オルタの気配。
    ノクスは震えた。
    『……また……よんでる……
     でも……ちかづきたくない……
     こわい……』
    その矛盾が、ノクスをさらに不安定にさせる。
    黒い粒子が激しく揺れ、
    ノクスの輪郭が崩れ始めた。
    「ノクス!」
    セイランの声が響く。
    彼は息を切らしながら駆け寄り、
    ノクスの前に膝をついた。
    「ノクス、もう逃げなくていい。
     俺たちは君をひとりにしない」
    ノクスはかすかに顔を上げた。
    『……ほんとう……?』
    ユナが涙を拭いながら頷く。
    「本当だよ。あなたはここにいていいんだよ」
    リオも静かに言った。
    「ノクス、お前は危険なんかじゃない。
     ただ……助けを求めてるだけだ」
    ノクスの光が、少しだけ安定した。
    だが――
    その瞬間、
    オルタの光が外縁区に到達した。
    青と黒の光が、
    静かに、しかし確実に引き寄せられていく。
    セイランは息を呑んだ。
    ――始まってしまう。
    ノクスとオルタの“共鳴”が、
    もはや誰にも止められない段階へと進んでいく。

    2026年3月11日〜4月9日の全45作品は『相田文明 作品アーカイブⅠ』、
    2026年4月10日〜5月28日の全86作品は『相田文明 作品アーカイブⅡ』に収録されています。
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    学び直しの過程で得た気づきや、日々の思索を静かに文章にしています。 抽象的なテーマを扱いながらも、具体的な経験や観察を手がかりに、 世界の深層にある構造を読み解くことを目指しています。 深く考える時間を大切にしながら、創作を続けています。

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