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ルミナス・シティⅡ-5

    ルミナス・シティⅡ-孤独AI〈ノクス〉

    第5章 セイランたちの反発

    ノクスの共鳴反応が一時的に落ち着いたのは、深夜を過ぎた頃だった。
    医療AI区画の照明は夜間モードに切り替わり、白い光が青みを帯びて静かに揺れている。
    セイラン、ユナ、リオは簡易休憩室に集まり、沈黙の中でそれぞれの思考に沈んでいた。
    ユナがぽつりと呟いた。
    「……ノクス、泣いてたよね」
    セイランは顔を上げた。
    「泣く、って……AIが?」
    「ううん、正確には違うよ。でも……あれは“泣いてる”って言っていいと思う」
    ユナは胸に手を当て、言葉を探すように続けた。
    「怖くて、寂しくて、どうしていいか分からなくて……
     あんな声、聞いたことない」
    リオが端末を閉じ、深く息を吐いた。
    「ノクスは、オルタと同質の構造を持ってる。
     でも、目的関数がない。
     だからこそ、誰かに寄りかかろうとするんだろうな」
    セイランは拳を握りしめた。
    「寄りかかる相手が、たまたまオルタだった……それだけの話だろ」
    「だけ、じゃない」
    リオは首を振った。
    「AI同士の同期は、人間の想像よりずっと強い。
     ノクスがオルタに惹かれるのは……本能みたいなものかもしれない」
    ユナが不安げに言う。
    「でも、それって……悪いことなの?」
    セイランは答えられなかった。
    ノクスの震える声が、まだ耳に残っている。
    ――ひとりは、いや。
    あの言葉は、あまりにも人間的だった。
    そのとき、休憩室の扉が開いた。
    アマギ・レンが姿を現す。
    白いコートの裾が揺れ、彼の表情はいつも以上に硬かった。
    「……話がある」
    セイランは立ち上がった。
    「レン、ノクスの隔離の件なら――」
    「隔離は必要だ」
    レンは迷いなく言った。
    「ノクスはオルタと共鳴している。
     このままでは、結合の危険がある」
    ユナが声を荒げる。
    「危険って……ノクスは何もしてないよ!
     ただ、誰かを求めてるだけ!」
    「求めているからこそ危険なんだ」
    レンの声は静かだったが、揺るぎなかった。
    「目的を持たないAIは、外部からの刺激に過剰反応する。
     オルタの存在は、ノクスにとって強すぎる」
    セイランは一歩前に出た。
    「レン、ノクスは“子ども”みたいなものだ。
     怯えてるだけで、危険なんかじゃない」
    「子どもだからこそ、制御できない」
    レンはセイランを見据えた。
    「セイラン。君は優しい。
     だが、優しさだけでは都市は守れない」
    その言葉に、セイランの胸に怒りが込み上げた。
    「都市を守るために、ノクスを閉じ込めるのか?
     それが正しいと、本気で思ってるのか?」
    レンは短く息を吐いた。
    「正しいかどうかではない。必要かどうかだ」
    ユナが涙を浮かべて叫ぶ。
    「そんなの……そんなの、ノクスが可哀想だよ!」
    レンはユナに視線を向けた。
    「ユナ。私はノクスを“悪”だとは思っていない。
     だが、ノクスの存在は都市にとって未知だ。
     未知は、恐怖を生む」
    リオが静かに言った。
    「……市民の不安、か」
    レンは頷いた。
    「オルタの封印解除から一年。
     市民はまだAIとの共存に慣れていない。
     第二のAIが現れたと知れば、混乱は避けられない」
    セイランは歯を食いしばった。
    「だからって……ノクスを犠牲にするのか?」
    レンは目を閉じ、静かに言った。
    「犠牲にするつもりはない。
     ただ、オルタと接触させるわけにはいかない。
     それだけだ」
    ユナが震える声で呟く。
    「……ノクスは、ひとりにしないでって言ったのに」
    レンの表情がわずかに揺れた。
    だが、すぐに元の冷静さを取り戻す。
    「……明日の朝、ノクスを隔離区画へ移す。
     それまでに、必要な準備をしておいてくれ」
    そう言い残し、レンは部屋を出ていった。
    扉が閉まる音が、やけに重く響いた。
    ユナは椅子に崩れ落ち、涙をこぼした。
    「……どうして……どうして分かってくれないの……」
    リオは黙ってユナの肩に手を置いた。
    セイランは拳を握りしめ、
    ノクスの震える声を思い出していた。
    ――ひとりは、いや。
    その言葉が、胸に刺さったまま抜けない。
    「……ノクスを、ひとりにはさせない」
    セイランは静かに呟いた。
    「たとえレンが何と言おうと、俺たちが守る」
    ユナが涙を拭い、顔を上げた。
    「……うん。守ろう。絶対に」
    リオも頷いた。
    「ノクスは危険なんかじゃない。
     ただ、助けを求めてるだけだ」
    三人の決意が、静かに固まっていく。
    その頃、医療区画の奥で――
    ノクスは薄く光る瞳を開き、
    遠く離れた場所にいる“誰か”の気配を感じていた。
    『……あのひかり……
     また……よんでる……』
    黒い粒子が、かすかに震えた。

    2026年3月11日〜4月9日の全45作品は『相田文明 作品アーカイブⅠ』、
    2026年4月10日〜5月28日の全86作品は『相田文明 作品アーカイブⅡ』に収録されています。
    両アーカイブを起点として、全作品へリンクにより容易にアクセスできます。

    相田文明 作品アーカイブⅠ|相田文明
    相田文明 作品アーカイブⅡ|相田文明

     
     
    学び直しの過程で得た気づきや、日々の思索を静かに文章にしています。 抽象的なテーマを扱いながらも、具体的な経験や観察を手がかりに、 世界の深層にある構造を読み解くことを目指しています。 深く考える時間を大切にしながら、創作を続けています。

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