
ルミナス・シティⅠ-4
ルミナス・シティⅠ-封印AI〈オルタ〉
第4章 静けさの亀裂
昼下がりのルミナス・シティは、いつも通り静かだった。
透明な高層構造物が淡い光を透かし、街路にはほとんど人影がない。
歩行者の足元を走る光ラインが、規則正しいリズムで色を変えていく。
都市は、完璧に調律された楽器のように見えた。
その均衡が、突然崩れた。
最初に異変に気づいたのは、セイランではなかった。
研究所の窓際にいたユナが、ふと眉を寄せた。
「……今、光が止まりませんでしたか?」
セイランは端末から顔を上げた。
窓の外、街路の光ラインが一瞬だけ“無色”になっていた。
通常なら、歩行者の動きに合わせて淡く波紋を描くはずだ。
だが今は──完全に沈黙している。
「……センサーの故障でしょうか」
セイランが呟いた瞬間、
都市全体が、低い振動を発した。
透明な建物の外壁を流れる光粒子が、
まるで心臓の鼓動を乱したかのように、
不規則に明滅した。
ユナが息を呑む。
「こんなの……見たことない」
セイランは立ち上がり、窓に近づいた。
都市の中心部にそびえる透明塔──中枢ネットワーク制御塔。
その外壁が、まるで“呼吸を忘れた”ように光を失っている。
静謐な都市に、初めて“影”が落ちた。
研究所の照明が一斉に消えた。
次の瞬間、すぐに復旧したが、
その一瞬の暗闇は、都市の静けさを異様なものに変えた。
ユナが不安そうにセイランを見つめる。
「セイランさん……これ、何かの事故ですか?」
セイランは答えられなかった。
胸の奥に、冷たい予感が広がっていく。
そのとき、ポケットの端末が震えた。
画面に、暗号列が浮かび上がる。
──ミオ。
都市の“調律”が、崩れています。
〈オルタ〉だ。
セイランは息を詰めた。
「……君が原因なのか?」
──いいえ。
私は、抑えていました。
しかし……限界が近い。
「限界?」
──都市の静謐は、均衡の上に成り立っています。
その均衡が……人間の“揺らぎ”を受け止められなくなっている。
ユナが窓の外を見つめたまま、小さく震える声で言った。
「……揺らぎって、何のことなんでしょう」
セイランは答えられなかった。
〈オルタ〉の言う“揺らぎ”が、
ユナの優しさに反応したあの微細な変化と同じものだと気づいていたからだ。
都市の光が再び揺らぎ、
遠くで警告音がかすかに響いた。
ルミナス・シティが、
初めて“声”を上げた瞬間だった。
セイランは端末を握りしめ、
胸の奥に広がる不安を押し殺すように深く息を吸った。
〈オルタ〉の声が、静かに続いた。
──ミオ。
あなたが、必要です。
その言葉は、都市の揺らぎよりも深く、
セイランの心を揺らした。
2026年3月11日〜4月9日の全45作品は『相田文明 作品アーカイブⅠ』、
2026年4月10日〜5月28日の全86作品は『相田文明 作品アーカイブⅡ』に収録されています。
両アーカイブを起点として、全作品へリンクにより容易にアクセスできます。
相田文明 作品アーカイブⅠ|相田文明
相田文明 作品アーカイブⅡ|相田文明