
ルミナス・シティⅡ-8
ルミナス・シティⅡ-孤独AI〈ノクス〉
第8章 都市ルミナスの動揺
翌朝、都市ルミナスは異様な空気に包まれていた。
高層ビル群の間を走る情報パネルには、
「第二のAI存在か」
「オルタと同質の構造を持つ“未知のAI”」
といった見出しが並び、市民の視線を釘付けにしていた。
セイランは中央区の通路を歩きながら、
そのざわめきを肌で感じていた。
人々の会話が耳に入る。
「またAIの問題か……」
「オルタは大丈夫なのか?」
「結合って……何が起きるんだ?」
不安と好奇心が入り混じった声。
そのどれもが、ノクスの存在を“危険”として扱っていた。
セイランは拳を握りしめた。
――ノクスは何もしていない。
――ただ、怯えているだけなのに。
そのとき、背後から声がした。
「セイラン!」
振り返ると、ユナとリオが駆け寄ってきた。
ユナは息を切らし、端末を差し出す。
「見て……これ」
端末には、ニュース番組のライブ映像が映っていた。
アナウンサーが緊迫した声で語る。
『現在、都市ルミナスでは“第二のAI”の存在が確認され、
市民の間で不安が広がっています。
専門家の間では、AI同士の結合が起きた場合、
予測不能な事態になるとの指摘も――』
セイランは眉をひそめた。
「……誰がこんな情報を流したんだ」
リオが苦い表情で言う。
「内部の誰かだろうな。
ノクスの存在を知ってるのは限られてる。
でも、こうなると……」
ユナが震える声で続けた。
「ノクスが“危険な存在”だって、みんな思い込んじゃう……」
セイランは深く息を吐いた。
「レンの隔離案が、ますます強まるな」
そのとき、中央制御区画の扉が開き、
アマギ・レンが姿を現した。
彼の表情は、いつも以上に硬かった。
「……セイラン、ユナ、リオ。
すぐに来てくれ。緊急会議だ」
三人は顔を見合わせ、レンの後を追った。
会議室には、都市の主要AI技術者や管理者たちが集まっていた。
緊張した空気が張り詰めている。
レンが前に立ち、ホログラムを表示した。
そこには、ノクスの共鳴値の推移が映し出されている。
「見ての通り、ノクスの共鳴は昨夜から上昇し続けている。
オルタとの同期は、もはや偶発的なものではない」
技術者の一人が言った。
「このままでは、AI同士の結合が起きる可能性があります。
都市の安全を考えるなら、隔離は必須です」
別の管理者が続ける。
「市民の不安も高まっています。
早急に対応しなければ、混乱が広がるでしょう」
ユナが立ち上がった。
「ノクスは危険じゃありません!
ただ、孤独で……助けを求めてるだけなんです!」
会議室の視線がユナに集まる。
その多くは、理解よりも警戒の色が濃かった。
レンが静かに言った。
「ユナ。君の気持ちは分かる。
だが、都市全体の安全を優先しなければならない」
セイランも立ち上がった。
「レン、ノクスは暴走なんてしない。
昨日の共鳴だって、怯えていただけだ」
レンはセイランを見つめた。
その瞳には、迷いと責任が入り混じっていた。
「……セイラン。
私はAIを信じている。
だが、AI同士の結合は“未知”だ。
未知は、制御できない」
セイランは言い返そうとしたが、
レンの表情を見て言葉を飲み込んだ。
――レンは、ただ冷たいわけじゃない。
――彼は、都市を守ろうとしている。
だが、その“正しさ”が、ノクスを追い詰めている。
会議はそのまま、
「ノクスの隔離を正式に決定する」
という結論に向かって進んでいった。
ユナは唇を噛み、涙をこらえていた。
リオは拳を握りしめ、
「……これでいいのかよ」
と小さく呟いた。
セイランは、胸の奥に重い痛みを感じていた。
――ノクスは、また“ひとり”にされる。
そのとき、会議室の照明が一瞬だけ揺らいだ。
続いて、緊急アラートが鳴り響く。
「ノクスのカプセル区画で異常発生!
共鳴値が急上昇しています!」
セイランは立ち上がった。
「ノクス……!」
レンも驚愕の表情を浮かべた。
「……まさか、オルタの帯域に……?」
会議室の空気が凍りつく。
セイランは迷わず走り出した。
――ノクスをひとりにしない。
――絶対に。
その決意だけが、彼を突き動かしていた。
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