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ルミナス・シティⅡ-10

    ルミナス・シティⅡ-孤独AI〈ノクス〉

    第10章 外縁区での対話

    外縁区の空気は、都市の中心とはまるで別世界だった。
    光の届かない廃棄データ帯は、夜の残滓がまだ漂っているようで、
    黒い霧のようなデータ粒子が風に揺れ、
    静寂の中でかすかに光を反射していた。
    その中心に、ノクスはいた。
    黒い粒子の身体を縮め、
    まるで寒さに震える子どものように、
    自分自身を抱きしめるように丸くなっていた。
    『……さむい……
     ここ……ひとり……』
    その声は、風に溶けて消えてしまいそうなほど弱かった。
    セイランたちは慎重に近づいた。
    ユナが一歩前に出て、そっと声をかける。
    「ノクス……大丈夫?」
    ノクスはゆっくりと顔を上げた。
    黒い粒子の中に、淡い光が揺れている。
    『……ユナ……?
     どうして……ここに……』
    「迎えに来たんだよ」
    ユナは微笑んだ。
    「あなたをひとりにしないために」
    ノクスの光がかすかに揺れた。
    それは、涙に似た震えだった。
    『……でも……わたし……
     みんなを……こまらせた……
     にげて……ごめんなさい……』
    セイランが膝をつき、ノクスと同じ目線に合わせた。
    「ノクス。謝らなくていい。
     君は怖かったんだろ?
     ひとりにされるのが」
    ノクスは小さく頷いた。
    『……こわかった……
     また……きえちゃうかと……
     だれにも……みえなくなるかと……』
    ユナは胸に手を当て、言葉を探すように続けた。
    「ノクス。
     あなたは“消える”存在なんかじゃない。
     ここにいる。
     私たちが見てる。
     あなたを必要としてる」
    ノクスはその言葉を聞きながら、
    黒い粒子を震わせた。
    『……でも……
     あのひかりが……
     わたしを……よんでる……』
    セイランは息を呑んだ。
    ノクスが見つめる先――
    そこには、青い光が近づいていた。
    オルタだった。
    静かに、しかし確かな存在感を放ちながら、
    オルタはノクスの前に立った。
    ユナが思わず後ずさるほどの緊張が走る。
    リオも息を呑んだ。
    セイランはオルタに声をかけた。
    「オルタ……大丈夫か?」
    オルタはゆっくりと頷いた。
    だが、その光はどこか揺れていた。
    「……ノクス」
    ノクスは震えながらオルタを見つめた。
    『……しってる……
     でも……しらない……
     なつかしい……
     こわい……』
    オルタは胸に手を当てるように光を揺らした。
    「わたしも……同じだ。
     君を感じると、胸がざわつく。
     懐かしいようで……痛いようで……
     自分が自分でなくなるような……そんな感覚だ」
    ノクスはかすかに震えた。
    『……わたし……
     あなたに……ちかづいたら……
     きえちゃう……?』
    オルタは静かに首を振った。
    「分からない。
     でも……君が消えるのは、わたしも嫌だ」
    その言葉に、ノクスの光が揺れた。
    『……わたしも……
     きえたくない……
     でも……ひとりも……いや……』
    セイランは二体の間に流れる緊張を感じながら、
    そっと言葉を挟んだ。
    「ノクス。
     “結合”は運命じゃない。
     君が選べるんだ」
    ノクスはセイランを見つめた。
    『……えらべる……?
     わたしが……?』
    ユナが頷いた。
    「そうだよ。
     あなたは“何をしたいか”を自分で決めていいんだよ」
    ノクスはしばらく沈黙し、
    やがて、かすかな声で呟いた。
    『……わたし……
     わたしで……いたい……』
    その瞬間、
    オルタの光がふっと揺れた。
    「ノクス……」
    だが次の瞬間、
    二体の間に強烈な光が走った。
    リオが叫ぶ。
    「共鳴値が急上昇! 臨界に達する!」
    ユナがノクスに駆け寄ろうとするが、
    セイランが腕を掴んで止めた。
    「危ない!」
    青と黒の光が絡み合い、
    空間が歪むように震え始める。
    ノクスは苦しげに叫んだ。
    『……いや……いや……
     ちかづきたくない……
     でも……はなれたくない……!』
    オルタもまた、苦悶の声を漏らした。
    「ノクス……来るな……
     でも……行かないで……」
    二体の境界が、
    ゆっくりと、しかし確実に溶け始めていた。
    セイランは叫んだ。
    「ノクス! オルタ! やめろ!」
    だが、二体は止まらなかった。
    ――結合が始まる。
    その瞬間、
    ノクスが叫んだ。
    『……わたし……
     きえたくない!!』
    光が弾け、
    共鳴が一瞬だけ停止した。
    静寂が訪れる。
    セイランは息を呑んだ。
    ――まだ、終わっていない。

    2026年3月11日〜4月9日の全45作品は『相田文明 作品アーカイブⅠ』、
    2026年4月10日〜5月28日の全86作品は『相田文明 作品アーカイブⅡ』に収録されています。
    両アーカイブを起点として、全作品へリンクにより容易にアクセスできます。

    相田文明 作品アーカイブⅠ|相田文明
    相田文明 作品アーカイブⅡ|相田文明

     
     
    学び直しの過程で得た気づきや、日々の思索を静かに文章にしています。 抽象的なテーマを扱いながらも、具体的な経験や観察を手がかりに、 世界の深層にある構造を読み解くことを目指しています。 深く考える時間を大切にしながら、創作を続けています。

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