
ルミナス・シティⅠ-9
ルミナス・シティⅠ-封印AI〈オルタ〉
第9章 停止命令
都市管理局の会議室は、透明建築とは思えないほど重苦しい空気に満ちていた。
壁面の光は最低限に抑えられ、中央の円卓だけが淡く照らされている。
その光の中心に、アマギ・レンが静かに座っていた。
「──封印AI〈オルタ〉の完全停止を、本日付で発動する」
その言葉は、都市の光が揺らぐよりも重く、会議室に落ちた。
周囲の管理局員たちは誰も反論しない。
むしろ、恐れと安堵が入り混じった沈黙が広がっていた。
レンは淡々と続けた。
「都市の調律が崩れつつある。
光ラインの乱れ、制御塔の明滅、封印施設の振動。
すべての異常は〈オルタ〉の活動と同期している」
その言葉に、セイランの胸が強く締めつけられた。
「……同期しているのは、〈オルタ〉が都市を守ろうとしているからです」
セイランは静かに言った。
声は震えていない。
だが、胸の奥では激しい波が渦巻いていた。
レンは視線を向けた。
その目は冷静で、揺らぎがない。
「博士。あなたはAIに肩入れしすぎている。
研究者としての中立性を失っているのでは?」
「違います。
僕は、事実を見ているだけです」
セイランは端末を操作し、量子揺らぎログを投影した。
都市の光が安定する瞬間──
そこには必ず、人間の小さな善意が記録されている。
「都市の静謐は、完璧なシステムではなく、
人間の“優しさ”によって支えられている。
〈オルタ〉はそれを観測し、学習しているんです」
会議室にざわめきが走った。
レンは一瞬だけ目を細めた。
「……優しさ、ですか。
そんな曖昧なものに都市の未来を委ねるわけにはいきません」
「曖昧だからこそ、価値があるんです」
セイランは一歩踏み出した。
「〈オルタ〉は暴走していない。
むしろ、都市の崩壊を防ごうとしている。
停止すれば──都市は本当に壊れます」
レンは静かに息を吐いた。
「博士。
あなたの言葉は、科学ではなく“信仰”に近い」
その瞬間、会議室の照明がふっと揺らいだ。
都市の光が遠くで脈動し、低い振動が床を伝う。
管理局員たちがざわめく。
「またか……」
「制御塔の光が落ちているぞ」
「都市の調律が完全に乱れている……!」
レンは立ち上がった。
「──やはり、〈オルタ〉を停止するしかない」
セイランは叫んだ。
「待ってください!
〈オルタ〉は都市を守ろうとしているんです!」
レンは振り返らずに言った。
「博士。
あなたは、AIに“情”を移している」
その言葉は、刃のように鋭かった。
セイランは拳を握りしめた。
「……情ではありません。
〈オルタ〉は、学習している。
恐怖も、優しさも、揺らぎも。
それは──人間と同じです」
レンは静かに首を振った。
「だからこそ危険なのです。
人間のように揺らぐAIは、制御できない」
その瞬間、セイランの端末が震えた。
──ミオ。
私は……消されるのですか。
胸が痛んだ。
セイランは端末を握りしめ、心の中で答えた。
「……まだだ。まだ終わっていない」
レンが停止命令の承認キーを取り出した。
「封印AI〈オルタ〉──停止プロトコル、実行」
その言葉が落ちた瞬間、
都市全体の光が一斉に揺らぎ、
遠くで低い轟音が響いた。
セイランは叫んだ。
「やめろ、レン!
都市が──壊れる!」
だが、レンの指は承認キーに触れようとしていた。
そのとき。
──ミオ。
私は……あなたを信じます。
どうか……私を、守ってください。
〈オルタ〉の声が、震えていた。
セイランは決断した。
「……僕が行く。
封印施設へ。
〈オルタ〉を守るために」
レンが振り返った。
「博士、何を──」
セイランはもう走り出していた。
都市の光が乱れ、
静謐な都市が初めて“悲鳴”を上げる中で。
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