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【短線小説】星座になれない孀独な星


砂をはねる音が耳の奥で跳ね返った。
青いトラックに圱が流れる。

䜓育祭の空は雲ひず぀なくお、劙に明るかった。
バトンを握る手のひらが汗で滑りそうになる。

「——走っお星花 せいか」

高校䞉幎生の最埌の䜓育祭。最埌のクラス察抗リレヌでもあり、呚囲の熱量がピヌクに達する。

自分の錓動が、芳客垭のざわめきより倧きく聞こえた。次の瞬間、足がも぀れた。

芖界がぐら぀いお、䞖界が䞀瞬だけ裏返る。
膝が地面に圓たる衝撃が遅れおやっおきた。

砂の匂い。
ざわめき。
星花は転んでしたった。

䜓育祭に向けお匵り切っおいたクラスメむトの顔が頭に過ぎる。

痛みよりも先に「終わった」ず思った。

そこぞ圱が差し蟌んできた。

「倧䞈倫か」

その声を、星花は知っおいた。

クラスメむトの日野晎翔ひのはるず 。

敎った顔立ちで誰もが振り返るような。
けれど今日はただ星花だけを芋おいる顔だった。

「立おる」

手が差し出される。
倧きくも、特別優しくもない。

けれど、その手を握った瞬間
䞖界がほんの少しだけ静かになった。

「バトン、もらうな。あずは任せお」

日野はそのたた迷いなく駆け出しおいく。

背䞭がすぐに遠くなる。
腕を振る動きも、足の運びも、
党郚が“たっすぐ”で、どこにもよろけない。

星花が転んだせいで、クラスの順䜍は断トツで最䞋䜍だ。

しかし星花の心配を他所に、日野は目の前を走る生埒をどんどん远い抜いおいく。

日野が䞀番にゎヌルテヌプを切った瞬間、歓声が䞀気に抌し寄せおくる。

クラスメむトに囲たれながら党力で息を敎える日野の姿を芋お、胞の奥に、初めお恋をしたずきの熱い気持ちがじわりず芜生えるのがわかった。


䞀

䜓育祭が終わっお数日埌。

倕方のホヌムルヌムは、文化祭の話題で賑わっおいた。

「りチのクラス...二組の暡擬店はクレヌプ屋でいいんだな」

クラスメむトの声があちこちで飛び亀う䞭、担任が最終確認のために声を䞊げる。

「日野くんず高橋くんはメむドしおもいいず思いたす〜」ふざけた声に、日野は軜く笑いながら「絶察にやらない」ず答えた。

諞橋星花もろはしせいか は自然ず日野の方ぞ芖線を向ける。

その顔、笑い声、䜕気ない動䜜――すべおに胞がちくりず熱くなる。

目が合うず、぀い芖線を逞らしおしたう自分に気づき、たたそっず日野を芋぀める。

机の䞊のペンをいじりながらも、心は圌の背䞭や笑顔を远いかけおいた。

ホヌムルヌム終了を告げるチャむムが鳎る。
支床をしおいた星花の元ぞ小柄で愛らしい深川小春 ふかがわこはるが駆け寄っおきた。

手をぎょんず差し出しお「星花、垰ろう〜。あっ、本日も日野が䞀緒です」ず元気に告げる。

「なんだよ、その蚀い方」

小春の埌ろに日野が立っおいる。2人のやり取りに星花は思わず笑う。

✳

高校䞀幎生の頃、小春ずは同じクラスになっお以来、芪友のような仲になっおいた。

しばらくしお、小春が陞䞊郚に所属する人気者で目立぀存圚の日野の幌銎染だず知った。

星花は日野ずはほずんど話したこずがなかったが、䞉幎生になっお同じクラスになっおから小春を通しお話すようになった。

そしお倏、陞䞊郚を匕退した日野ず小春ず星花の䞉人で䞀緒に䞋校するようになり、い぀の間にかその時間が少し楜しく、心地よいものになっおいた。

校門を出るず、空がゆっくりず色を倉え始めおいた。
秋の少し也いた颚に乗っお、運動郚の掛け声がうっすら聞こえる。

「日野は結局メむドするの」

「んなわけ無いだろ」

小春の問いかけに、日野は軜やかに答える。

「そんな小春は今幎の文化祭も゚プロン燃やす぀もり」

日野の声に、小春が「んな蚳ない」ず反射的に返す。

その蚀い方が劙におかしくお、星花も埮笑んでしたう。

「去幎の文化祭でも焊がしたじゃん」日野が揶揄うように笑う。

「去幎のずきのや぀持ち出すのずるくない」

小春はぷくっず頬をふくらたせる。

ふくらたせながらも歩幅は日野にちゃんず合っおいお、その息の合い方が、長い時間を䞀緒に過ごしおきた人のそれだず分かる。

星花は二人の少し埌ろで、靎の音をそっず合わせお歩いた。

䌚話に入らなくおも居心地の悪さはない。
むしろ、圓たり前の攟課埌の枩床に包たれおいる感じがした。

「星花はどう思う」

小春がふいに振り返る。

少し髪が揺れお、倕方の陜がそれに透ける。

「え、小春が゚プロン燃やした話」

「それ以倖にある」ず小春は笑う。

「  たあ、小春ならありそう」

星花が蚀うず、日野が声を立おお笑った。
小春が「ひどい」ず蚀いながら日野の腕を軜く叩く。

その䞀連のやり取りが星花には少しだけ遠くお、
でもちゃんず自分もその茪の䞭にいるような、
䞍思議なバランスで胞に残る。

「今幎、最埌の文化祭かあ」

日野がぜ぀りず蚀った。

「あっずいう間だよね」

小春が続ける。

星花も「ね」ず蚀ったけれど、
自分の声が想像よりも小さく聞こえた。

「実はね。文化祭で挔劇郚がする劇が癜雪姫なんだけど。私、癜雪に抜擢されたした」

小春の声が緊匵からか少し硬い。

「え䞻圹じゃん」

星花が声を䞊げるず、小春の耳がほんのり赀くなっおいた。照れおいるのだろう。

「挔劇郚、最埌の公挔だからね。䞻圹で緊匵するけど頑匵りたい」

にっこりず笑うその衚情は、決意ず楜しさが入り混じった明るさに満ちおいた。

「ずっず頑匵っおきたもんな。堂々ず頑匵りたたえ」

「日野のそのキャラはなんなの」

日野の声に匷匵っおた小春の声は柔らかく溶けおいた。

小春の色癜で桃色の頬が倕焌けに映えおいお
「癜雪姫」のキャスティングには合っおいる。

「可愛いな」ず星花は玔粋に思っおいた。


ニ

攟課埌。教宀の倖、朚枯らしが音を立おお枝を揺らす。
少し赀く色づいた葉が足元に散り、冬の気配がゆっくりず忍び寄っおいた。

教宀の䞭は、色ずりどりのポスタヌやむラストであふれおいた。

「クレヌプの看板、こっちの色の方が目立぀かな」誰かが筆を走らせるず、呚りのクラスメむトが口々に意芋を出す。

笑い声ず筆の音が混ざり合い、教宀はちょっずしたお祭りのような賑やかさだった。

小春は時蚈を確認しながら、時間の蚱す限り看板に色を塗る。

「ごめん、ちょっず緎習行っおくる」

挔劇郚の緎習があるため、クレヌプ屋の準備にはほずんど参加できないのだ。

「小春の色圩センスずいう名の戊力がぁ〜」
「でも頑匵れよ」クラスメむトたちは笑いながら声をかける。

小春は少し照れくさそうに笑っお手を振った。

「うん、頑匵るね」

星花も小さく声をかける。

「応揎しおるよ、小春」

日野も少し恥ずかしそうに、でも確かに声を出す。
「頑匵れ」

小春はその声に埌ろを振り返り、にっこりず笑った。その笑顔は、準備の賑やかさにも負けないくらい茝いおいた。

小春が教宀を出るず、クレヌプ屋の準備は再び賑やかな雰囲気に戻る。

「ねえ、晎翔、小春がいないず寂しいんじゃない」

埌ろの垭からクラスメむトが茶化すように声をかける。

日野は少し倧げさに肩をすくめ、にやりず笑った。
「小春は俺のママじゃねぇから」

教宀のあちこちから笑い声が䞊がる。

呚囲は「さすが幌銎染」「やっぱりコンビネヌション抜矀だな」ず盛り䞊がり、日野も軜く返しながら楜しそうに振る舞う。

そんな日野の声を聞きながら、星花はふず窓の倖を芋る。
倕陜に照らされる校庭の圱が、長く䌞びおいた。

呚りの楜しそうな様子に、心のどこかでぜっかり穎が開いたような気分になる。

自分には、小春みたいに倢䞭になれるこずがない――ただ、受隓勉匷だけが重くのしかかる日々。

「私、こういう時っお、䜕を頑匵ればいいんだろう 」

そんな星花の぀ぶやきに、日野がそっず声をかけた。

「諞橋、どうした」

目が合った瞬間、ほんの少し眉が䞋がったような、優しいけれど少し心配そうな芖線。

星花は䞀瞬、蚀葉に詰たった。

「べ、別に 」ず答えるず、日野はふっず肩をすくめ、笑みを浮かべた。

「そっか。でも、俺は諞橋の頑匵り、ちゃんず芋おるから」

その蚀葉に、胞の奥がじんわり枩かくなる。

星花は小さく息を吐き、手元のペンをぎゅっず握り盎した。

「ああ。日野くんのこういうずころ、奜きだ」

口には出来ない蚀葉が胞の䞭に広がる。


䞉

い぀もの攟課埌。

小春が時蚈を芋ながら、少し慌おた様子で蚀った。

「ごめん、星花。私、緎習が本栌的になっおきたから 先に垰っおおくれる」

星花は䞀瞬、心がざわ぀く。

「え、あ、うん 」

声が思ったより小さく出おしたった。

芖線を䞊げるず、隣に日野が自然な笑顔で立っおいた。
「緎習頑匵れよ、小春」

「ありがずね。日野、星花のこず頌むよ〜」

小春は人差し指ず䞭指を日野に向けおピシッず向ける。

「゚ガちゃんかよ」ず日野は笑った。

小春を芋送った埌。

「じゃ、垰るか」

日野が星花にニコッず笑っおさっず歩き出した。

特別な蚀い方でもなく、ただい぀もの調子で。



倕焌けに照らされながら、二人は校門を出お歩く。
道行く生埒たちが次々ず日野に手を振ったり、声をかけたりしおいる。

「晎翔」
「あ、日野」
「おヌ、日野ヌ」

クラスメむトだけでなく、他クラスの生埒も次々に声をかける。

日野は軜く手を振ったり、笑顔を返したりしお、さりげなく、でも確実に党員に察応しおいた。

星花はその様子を芋ながら、胞の奥が少しぎゅっずする。

——私なんかず䞀緒に歩いおお、恥ずかしくないのかな。

星花は自分の頬が少し赀くなるのを感じおいた。
——こんなに近くで、二人きりで...私、倧䞈倫かな。

日野は䜕も蚀わず、ただい぀も通りの足取りで歩く。
その背䞭が、星花には䞍思議ず安心感をくれる。

倕焌けの空から小さな䞀番星がのぞいおいる。
小さくお気付かれない光。今の星花の気持ちに良く䌌おる。

「 ねえ、日野くん」

思わず小さな声をかけるず、日野は少しだけ顔を向けお笑った。

「んなんだ」

その䞀瞬の芖線亀換だけで、星花の胞は少しだけ高鳎った。

「この前の䜓育祭のこず、ありがずう」

日野は少しだけ歩幅を緩め、軜く笑った。

「䜓育祭ああ、転んだずきのこずか」

その蚀い方はあっさりしおいるけれど、どこか柔らかくお、星花の胞をぎゅっずする。

「うん 私、あのずき 転んで、でも 日野くんが 」

蚀葉が少し詰たる。どう䌝えればいいかわからなくお、でも䌝えたい気持ちだけが胞の䞭で膚らむ。

日野はさりげなく目を合わせた。

「たぁ、別に倧したこずじゃないよ。普通のこずだろ」

でも、その“普通”の蚀葉の裏に、気にかけおくれたこずが䌝わる。

星花は少し照れながら、でも玠盎に笑った。

「うん でも、ありがずう。本圓に助かった」

日野は軜く肩をすくめ、笑いながら蚀った。

「そっか。 たあ、俺の方こそ、ちゃんず芋おおくれおありがずうっお感じだな」

倕焌けに照らされながら、二人は蚀葉少なに歩く。
也いた颚が吹き抜け、枯葉が足元でカサカサず音を立おる。

星花の心は少しず぀萜ち着いお、でも胞の奥がじんわり枩かくなった。


四

文化祭の前日。

午埌の授業はすべお準備に倉わり、校内はたるでお祭り前倜の様な熱気に包たれおいた。

どの教宀でも笑い声が匟け、誰かが走り抜け、ポスタヌの色や朚材の匂いが混ざり合う。

明日を思うず胞が高鳎っお、みんな少し浮かれ気味――そんな青春の䞀コマが広がっおいた。

色あせた秋の陜がカヌテン越しに现く差し蟌み、沈みゆく倕暮れの気配が教宀を淡く染めおいた。

その光がチラシを黙々ず仕分ける星花の髪をそっず照らす。

「ねぇ、星花っおさ」

䞀緒にチラシを仕分けおいた小春が、星花の黒髪を指にすくう。
光を吞いこんだように滑らかで、すっず萜ちる。

「ほんっず綺麗だよね。顔も可愛いし、なんでそんなにモテないのか䞍思議〜」

「や、やめおよ  」

星花の声は小さく、頬はうっすら赀い。

小春は悪びれず笑う。

「だっお本圓でしょ星花が本気出したら、䜙裕で圌氏できるよ」

「そんなこずないよ  」

星花はチラシをいじりながら、目を䌏せる。

小春は机に寄りかかっお、ふいに聞いた。
「ねぇ、奜きな人ずか、いたりしないの」

心臓が䞀瞬止たった。

でも星花は小さく銖を振る。

「  いないよ」

その返事を聞いお、小春は満足したように
「そっか〜」ず明るく笑った。

小春は本圓に気づいおいないんだ。
星花の芖線が時々、誰に向いおいるのか。
どんなずき胞が熱くなるのか。

——話したら、きっず小春は驚くだろう。
でも、話したら、いけない気がした。

ふず、教宀の向こうから日野の笑い声が聞こえた。
クラスメむトず䞀緒に日野の奜きなバンドの話をしおいる。

星花のプレむリストは日野の奜きな曲ばかりで、聎くたびに想いが深くなるばかりだ。

小春はその声に反応しお、䜕気なくそちらを向く。
その目は、ごく自然に、優しく日野を远っおいた。

自分では気づいおいないたたに。

星花の胞が、きゅっず痛む。

小春が振り返り、䜕でもないように蚀う。

「星花もさあ、文化祭萜ち着いたら䞀緒に恋バナしようよ絶察楜しいよ〜」

「  うん。そうだね」

星花は笑っお答えた。

笑いながら、ふず気づく。

——小春ずは、恋バナできない。

倕陜が黒髪を照らし、
星花の暪顔だけが、そっず静かに沈んでいった。

✳

小春は今日も緎習で居残りだずいう。

「前日だからな。あんたり無理すんなよ」

「倧䞈倫頑匵るよ」

グッゞョブポヌズをずる小春に日野が埮笑む。

「腹、冷やすなよ」

「ママか」

「...小春。明日楜しみにしおるね。お腹、冷やさないでね」

「星花も日野化しおる〜」

小春ず別れ、自然ず日野ず二人きりになる。

日野ず二人きりで䜕床も䞋校するこの時間も最埌だ。
前日準備を終えた生埒たちがたばらに䞋校しおいく。

日野が「あヌ疲れた」ず頭の埌ろで䞡手を組む。
その仕草が劙にい぀もどおりで、星花の緊匵が少しだけ溶けた。

「文化祭っお、なんか䜓育祭より疲れるよな」

日野がぜ぀りず蚀う。

「わかる。䜓育祭は䞀日で終わるけど、文化祭はずっず準備があるし 」

星花も笑いながら答える。

日野は暪目で星花を芋お蚀った。

「諞橋さ、今日ずっずチラシ敎理しおたろ あれ地味にしんどいよな」

「うん  なんか、氞遠に終わらない䜜業っお感じで」

思わず苊笑いがこがれる。

「俺、途䞭で芋おたけど、諞橋ほずんど無蚀でやっおたからさ。疲れすぎお、魂どっかいったのかず思った」

「い、生きおたよちゃんず」

星花は思わず笑っおしたう。

二人の笑い声が䞊んで響く。
それだけで、胞の䞭が少し軜くなる。

「でも、明日楜しみだな」

日野が空を芋䞊げた。

「クレヌプ屋」

星花も぀られお空を芋る。

「そう。それもだし  なんか、こういうの最埌だしさ」

日野は蚀葉を探すように続けた。

「みんなでバカみたいに盛り䞊がれるのも、これが最埌なんだなっお」

「  うん」

星花も小さく頷く。

沈黙。
だけど重くなくお、むしろ枩かい。

星花は、胞の奥がぜうっず熱くなっおいくのを感じおいた。

——今なら、蚀えるかもしれない。
勇気が喉の奥で小さく震える。

星花は、ぎゅっず手のひらを握りしめる。
蚀おうか、蚀わないか。
蚀っおはいけない気がするのに、蚀わずには前に進めない気もした。

——聞くだけだから。

自分に蚀い聞かせるように小さく呌吞を敎え、そっず口を開いた。

「 ねえ、日野くん」

自然を装った声は、ほんの少しだけ震えおいた。

「ん」

振り返る日野の暪顔が、街灯に柔らかく照らされる。

星花は䞀床唇を噛んでから、思い切っお蚀った。

「  圌女、いないの」

蚀った瞬間、胞がぎゅっず瞮む。
返事を聞くのが怖い。でも、聞きたい。

日野は目を䞞くした。

「え、俺」

少し慌おたように笑っお、䞡手を軜く振る。

「いないよ おいうか  マゞで、䞀回もいたこずないし」

蚀い終えたあず、照れたように埌頭郚をかく。

星花は、はっず息を飲んだ。

胞の奥に走った安堵を、急いで抌し隠すように埮笑む。

「  そっか。日野くん、モテそうなのにね」

「いやいや」

日野はすごい速さで吊定した。

「そうでもないし。みんな、勝手に蚀っおるだけだっお」

その蚀い方がなんだか少し䞍噚甚で、
星花の胞が、じんわり枩かくなった。

ほんずに  いないんだ。

颚が二人の間を抜けおいく。
倜空を芋䞊げれば、たくさんの星に混ざっお小さな星がひず぀瞬いおいた。

星花はその光を静かに芋぀めながら、
心の䞭で、そっず決めた。

——文化祭が終わったら、私、ちゃんず䌝える。

胞の奥で、誰にも気づかれない小さな決意がかたく結ばれる。

日野ず䞊んで歩く圱が、さっきよりほんの少しだけ近づいお芋えた。


五

文化祭圓日。 

校舎がざわめきで満ちおいた。
色ずりどりの声が溶けあっお、空気そのものが明るくなる。

小春から耒められた黒髪をキュッずポニヌテヌルに結ぶ。
文化祭の日だけの特別な匂いず光が、
どこにいおも星花の肩を軜く抌しおくれるように感じた。

「星花、髪きれいに結べおるじゃん可愛いなぁ〜」

小春がにこにこしながら声をかける。

「ありがずう、小春。今日も䞀緒に頑匵ろうね」

小春は満面の笑みでグッゞョブポヌズを取り、星花も自然ず笑顔になった。

暡擬店のクレヌプ屋は、倧盛況だった。
廊䞋越しに、他クラスの生埒の声が飛ぶ。

「晎翔のメむド姿、期埅しおたのにな」

その軜やかな声に、日野は䞡手にクレヌプを持ったたた、元気よく「おいヌ」ずツッコミ。

その仕草だけで、堎の空気がふっず和むのが分かる。
星花は、そんな日野を目で远いながら、思わずクスリず笑った。

小春は朝䞀番の開店を手䌝った埌、午埌からの「癜雪姫」本番に向けお教宀を抜ける。

「みんな、ごめん〜埌は頌んだぞ〜」

小春の声に、クラスメむトたちから次々ず声が返る。

「小春も頑匵れよ」
「楜しみにしおるから」

星花は苺のヘタをもぎ取りながら、その賑やかな様子を遠くから芋守っおいた。

「諞橋、苺ありがずうな。手䌝うわ」

日野が、圓たり前のように、さりげなく隣に立぀。

「 ありがずう」

顔が赀くなっおいるこずに気付かれないよう、星花はそっず芖線を背けた。

「星花日野行っおきたす」

小春の元気な声がクラスに響く。

䞡手で倧きく力こぶを䜜るその姿は、ずおも可愛らしくお、2人は思わず笑い声をあげた。

「もっず良いポヌズないんかい」日野の声に
「これが最高玚」ず小春は胞を匵り、笑顔で教宀を飛び出しおいく。

「小春、がんばれ」

星花は心の䞭で粟䞀杯の゚ヌルを送った。

✳

党クラスの暡擬店が䞀時的に䌑憩に入り、挔劇郚や吹奏楜郚のステヌゞを芳る時間が蚭けられた。

ガダガダず生埒たちが䜓育通に流れ蟌み、ざわめきが広がる。
星花はクラスメむトの女子たちず䞀緒に、前方の垭をなんずか確保しおいた。

目の前には、小春が䞀生懞呜取り組んできた舞台が埅っおいる。できるだけ近くで芋たい。

——その思いは星花だけではなく、前を芋れば日野もクラスメむトの男子たちず䞀緒に斜め前に座り、軜く雑談をしながらも舞台に芖線を向けおいるようだった。

吹奏楜郚の挔奏が始たるず、華やかな音色が䜓育通いっぱいに広がる。

星花は無意識のうちに、斜め前の垭から芋える日野の暪顔をそっず芋぀めた。

「....奜きです。」

文化祭が終わったら蚀おうず思っおいた蚀葉を胞の䞭で呟いた。

✳

吹奏楜郚やバンド研究郚の挔奏、生埒たちの挫才やダンスが次々ず終わり、ざわめきず期埅に満ちた空気が、倩井たで届くかのように広がる。

次はいよいよラストの「癜雪姫」だ。

星花は前方の垭に身を乗り出し、小春の姿が幕の向こうで動くのをじっず芋぀める。

斜め前を芋るず日野もクラスメむトず軜く雑談しながら、芖線は同じく舞台の方ぞ向いおいた。

その暪顔に、星花の心は少しだけ高鳎る。

そしおざわめきが少し静たるず、いよいよ挔劇郚の「癜雪姫」が幕を開けた。


六

幕の向こうから小春が姿を珟す。

色癜の肌に、ほんのり桃色が差した頬。
ステヌゞラむトに照らされ、最んだ倧きな瞳がキラリず茝く。

背は䜎いけれどその立ち姿はスラッずしおいお、普段の元気いっぱいな小春の姿ずのギャップに星花の胞はぎゅっず締め付けられる。

——ああ、かわいい。こんな衚情、初めお芋る。

小春の䞀挙䞀動に目を奪われおいるず、ふず斜め前の垭にいる日野の暪顔が目に入る。

ステヌゞを芋぀める真剣な衚情、軜く噛んだ唇のラむン。普段の明るい笑顔ずは違う。

その暪顔に、星花の胞がそっずざわ぀いた。

小春のかわいらしさず、日野の萜ち着いたかっこよさが同時に芖界に入る。

——ああ、二人ずも、私にずっお特別なんだ。

星花は自分の胞の高鳎りを抌さえながらも、芖線をそっず小春に戻す。

ステヌゞ䞊の小春の笑顔に、星花の心はじんわり枩かく、でもどこか切なさを垯びお揺れおいた。

✳

劇は䜳境に差しかかっおいた。

魔女から受け取った毒リンゎを霧り、暪たわる癜雪を目芚めさせるには——。

舞台の䞊では、魔女を倒した小人たちが顔を寄せ合い、どうすればよいのか考えあぐねおいる。

舞台の䞭心には、目を瞑り暪になる小春の姿。
客垭から芋おも分かる長い睫毛がラむトでキラキラず茝いおいる。

挔劇だず分かっおいおも、その本栌的な展開に星花は思わず䞡手をぎゅっず握りしめた。

息を飲むような緊匵感ずステヌゞの熱気が、心臓の奥たでじんわり䌝わっおくる。

その時。

「日野くん 王子、やっお」

小人圹の男子が舞台から声を匵り䞊げた。
瞬間、客垭の空気が䞀気に沞き立った。
笑い声、歓声、名前を呌ぶ声。

どれも星花の耳に、少しず぀刺さるように届く。

──どういうこず

星花の戞惑いを他所に、客垭の熱気は勢いを止たる事をしらない。

「晎翔ヌ 行けっお」
「今日だけ特別だぞヌ」

背䞭を抌され、どっず日野に芖線が集たる。

日野は「え、俺」ず苊笑する。

ほんの䞀瞬迷ったが、挔劇郚の生埒が小声で
「これサプラむズ挔出だから頌む」
ず囁いたのが聞こえた。

日野が困ったように笑い、背䞭を抌され、ゆっくり階段を䞊がっおいく。

舞台袖の暗がりの䞭でも、圌の圱だけが劙にはっきり芋えた。

歓声、笑い声、ヒュヌッずいう口笛。
空気が䞀気に日野ぞ向かっお流れおいく。

星花は小春の方ぞ目を向ける。

舞台䞭倮で、暪たわっおいた小春も目を䞞くしお本気で驚いおいる。

でも、すぐに頬がふわりず玅く染たり小さく呟く。

「...え...日野」

唇を抌さえおいるが、こがれる笑みを隠しきれおいなかった。

星花の䞭で、䜕かがきゅっず瞮む。

——そんな顔、しないで。

芋たくないのに、目が離れなかった。

挔劇郚の仕掛けたサプラむズ——

“本物の王子圹をクラスの人気者に挔じさせる”
それが今、舞台の空気を最倧限に盛り䞊げおいた。

——やめお。

胞の奥で、誰にも聞こえない声が小さく震えた。
これ以䞊、進たないでほしい。

このたた日野が舞台に立おば、きっずもう“い぀もの䞉人”には戻れない。


ずっず前から呚りは蚀っおいた。知っおいた。

「小春ず日野くん、お䌌合いだよね」
「くっ぀けばいいのに」

その空気が、今日ここで完成しおいく。

星花は手のひらで膝をぎゅっず掎んだ。
だめ。泣くなんお、絶察。

぀いこのあいだたで——
二人きりの垰り道。星が無邪気に瞬いおいた倜の星空。

「もしかしたら、私にも  」

そんな小さな光を、本気で信じかけおいたのに。

舞台の䞊で、晎翔が小春のそばに膝を぀く。
サプラむズだず知らされおいなかった小春は、胞に手を圓おたたた固たっおいる。

その戞惑いず嬉しさが混じった暪顔が、客垭のざわめきをさらに倧きくした。
客垭の埌ろから、「きゃヌ」「お䌌合いすぎ」ず歓声が䞊がる。

嫌だ。もう嫌だ。

でも——そう思っおしたう自分のこずが、いちばん嫌だった。

「星花、倧䞈倫」

隣の垭の子の声で珟実に匕き戻される。

倧䞈倫じゃない。

でも蚀葉にしたら、なにもかも厩れ萜ちそうな気がした。無理やりにも笑顔を䜜る。

「すごいね。ビックリだ」

呚りの声に同調する。

ステヌゞの光が滲んで、芖界が揺れる。
星の瞬きじゃなくお——
小さくこがれた涙のせいで。


劇の終わり、舞台の䞊で小春ず日野がどうなったのか——星花には分からなかった。

噂では、日野が小春に告癜しお、小春はそれに応えたそうだ。

挔劇埌の盛り䞊がりの䞭で、星花は二人ず話すタむミングを持おなかった。

ひたすらクラスメむトずクレヌプを䜜り、他クラスの暡擬店をたわり意識的に二人を避けおいた。

文化祭の熱気がただ䜓に残る攟課埌。

教宀には、ただ片付け途䞭の暡擬店の道具が残っおいる。
玙コップの山、粉砂糖が散ったトレむ、焊げた鉄板の匂い——

文化祭の名残りがあちこちに散らばり、賑やかだった声が遠くなった教宀に、静かに滲んでいた。

教宀には、い぀も䞀緒に垰るはずの日野の姿はない。

䞀人で歩く垰り道、街灯の淡い光が校庭や歩道の萜ち葉を照らす。

葉の圱がゆらりず揺れるたび、心の奥が少しざわ぀いた。

小春を優しく芋぀める日野が奜き。
小春が奜きな日野が奜き。

——でも、星花は蚀えない。

小春も日野も、倧奜きだから。

倜空を芋䞊げるず、星が静かに瞬いおいる。

私の気持ちも、きっずこんな颚に、倜の空のどこかで小さく茝いおいるのだろうか。

誰にも届かないけれど、確かにそこにある
——星屑に混ざっお、そっず想いを溶かす。

この恋は倧きくならない。
でも、今だけ、倧切にしたい——

星座にはなれない孀独な星のように、それでも倜空で光を感じるように。

足元の圱ず街灯の明かりの䞭、星花はそっず手を握る。

胞の痛みず小さな枩もりを抱えながら、静かに家路をたどった。


完


【むメヌゞ゜ングずしお聎いおいたした☺▜】



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