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    <title>月影筆理</title>
    <description>プロの小説家を目指して奮闘中！　小説投稿サイト『ノベルアッププラス』にも小説を投稿しております。宜しければご一読ください。</description>
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    <copyright>月影筆理</copyright>
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      <title>『梅雨前線とコインランドリー』</title>
      <description><![CDATA[<p name="956ec8d3-8794-44f6-affb-c744a67282e7" id="956ec8d3-8794-44f6-affb-c744a67282e7">　雨が豪快に屋根を叩く音で目が覚めた。時折り遠方で空気を切り裂く雷鳴が耳をつんざく。俺は気怠い気持ちで起き上がり、布団の上で胡座をかいた。自然と枕元の目覚まし時計に目がいく。午前九時三十五分か。今日はバイトが休みだから、二度寝しても良いんだが、この感じだと母さんは洗濯物を洗っていないだろうから、俺が洗濯機を回してコインランドリーに乾かしに行った方が良いな。<br>　俺は布団の横に畳んでおいたジャージに足を通し、部屋をあとにした。</p><p name="49833bdb-750b-4ec4-b104-43c5af370547" id="49833bdb-750b-4ec4-b104-43c5af370547">　二階にある自室を出て階段を降りると、トイレと洗面所が一緒になっている部屋に足を踏み入れた。白で統一された洗面台と洗濯機がお出迎え。それを見た瞬間、洗濯機を回してからトイレに入ってもいいかもしれない。とも考えたが、いかんせん動いたことにより膀胱が刺激され、尿意が限界に達していた俺は、急足でトイレに駆け寄ると、半ば乱暴に扉を開け放ち、優しく便座の蓋を上げ、小窓から差し込む僅かな光りだけを頼りに、股間から伸びる『ぞうさん』から尿を放出。綺麗な甲を描いてトイレの中へと吸い込まれていった。<br>「ふぅ、スッキリした」<br>　全てを出し切った俺は、晴々とした表情でズボンを上げ、トイレの水を流し、手を洗うべく洗面台の前に向かったのであった。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n83f7663e3a47'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 12 Aug 2026 07:16:44 +0900</pubDate>
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      <title>これからの活動報告！！</title>
      <description><![CDATA[<p name="c9d7171d-0f57-4d7c-8aae-7d1b7e3a377d" id="c9d7171d-0f57-4d7c-8aae-7d1b7e3a377d">　昨日の中間選考の結果を受け、あまりの衝撃に結果だけを伝えてしまい、物凄く落ち込んでしまった月影筆理です。いや、本当に不甲斐ない。それでも気持ちを切り替えて行かねばと思い、あれやこれやと考えを巡らせた結果、なんと！　一般文芸ばかり書いてきたあの私が！　ライトノベルを書くことにしました！！　一大決心とはまさにこの事！！<br>　なぜ、このような結論に至ったのか。それは自分の才能を確かめる必要があると思ったからです。というのも、流石に一度も選考を通らないのはおかしい。何か理由(原因)があるはず。そして、それらを確かめる方法としては、やはり小説投稿サイトで根強い人気を誇るライトノベルを書くしかない。そうすれば、本当に自分に才能があるのならば、より多くの読者に受け入れられるはず。安易な考えかもしれません。しかし、今の私にとっては非常に重要な事なのです。<br>　よって私はこれからライトノベルの執筆に勤しみます。ただ、残念な事にその作品を上げるのは異世界転生モノが強いサイトなので、note以外になります。どうかご理解ください。<br>　しかしながら、少しずつではありますがnoteに上げる小説も書いていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願い致します。</p><p name="f8d7b448-42db-4ea6-873b-185ceebac897" id="f8d7b448-42db-4ea6-873b-185ceebac897"><br></p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n078d563754ba'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/119019272/profile_2526c31d1c4d3699d054f06620eb6187.jpg?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 20 Sep 2024 07:45:32 +0900</pubDate>
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      <title>創作大賞2024</title>
      <description><![CDATA[<p name="d6694081-2fea-40da-8c2a-c83664321c40" id="d6694081-2fea-40da-8c2a-c83664321c40">落選しました。</p><p name="45dcd2ae-a723-4be6-a2f0-6121fd91535b" id="45dcd2ae-a723-4be6-a2f0-6121fd91535b">以上です。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n4174df449af3'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/119019272/profile_2526c31d1c4d3699d054f06620eb6187.jpg?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 19 Sep 2024 18:59:56 +0900</pubDate>
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      <title>『創作大賞2024』に応募しました！！</title>
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      <description><![CDATA[<p name="6b93adb3-d5c2-45b3-8c57-f352134e2876" id="6b93adb3-d5c2-45b3-8c57-f352134e2876">　お久しぶりです。月影筆理です。この度、私はnoteが開いている『創作大賞2024』にて、虎の子である『法善厳一郎』を応募する事にしました！！</p><p name="15f0a21b-2d66-4a61-a34a-7b4b9965cd45" id="15f0a21b-2d66-4a61-a34a-7b4b9965cd45">　こちらの作品は小説投稿サイト『ノベルアッププラス』にて連載していた『本格推理小説(自称)』となっております。まあ、あれです、初めて書いた本格推理小説なので形なっているか不安ではありますが、温かい目で見守って頂ければ幸いです。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/naeee5d266d15'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 20 Jun 2024 01:45:37 +0900</pubDate>
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      <title>『法善厳一郎　拾うは生者の反響』　　　第六話　全容　【完】</title>
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      <description><![CDATA[<p name="461ede9b-2554-427d-806b-51aa40235c3e" id="461ede9b-2554-427d-806b-51aa40235c3e">　一通り警察の事情聴取を終えた三人は和田家の大客間で紅茶を嗜んでいた。天井から吊るされた豪華なシャンデリアが白漆喰で誂われた壁や天井を明明と照らし、腰高窓から差し込む橙色の夕日が絹製の白いカーテンと重厚感漂うダークブランのアンティーク家具を優しく包み込む。まさに癒しの空間である。<br>「やはり紅茶は良いね。心が落ち着くよ」<br>　礼儀作法に倣い持ち手を摘むように紅茶を一口飲んだ厳一郎は、気品漂う仕草でカップをソーサーに戻し、ゆっくりと時間を掛けて開いた茶葉の香りを楽しみつつ、ホッと一息ついた。<br>「お口に合って良かったです」<br>　優希の顔にほっとした笑みが浮かぶ。<br>「それにしても立派なお家ですね。異国情緒溢れるとはまさにこの事だ」<br>「お褒めに預かり光栄ですわ」<br>　厳一郎が感嘆の吐息と共に何度も頷いて見せると、優希は凛とした佇まいでニコッと微笑みながら、恥ずかし笑いを隠すかのように紅茶を口に運んだ。さすがはお嬢様。立ち居振る舞いも完璧だ。それに比べて君と言う男は……厳一郎は優希の隣に座る霧野へと視線を移した。まるで湯呑みに淹れられた日本茶を啜るかの如く、ティーカップの縁を持ち、ズズズーと音を立てる始末。マナー違反にも程がある……厳一郎は頬と眉をヒクつかせながら、霧野の自尊心を傷つけないようにそれとなく注意を促した。<br>「霧野君、紅茶を飲む時のマナーに音を立ててはならない。というものがあるんだ。それと紅茶のティーカップを持つ時は取手を摘むように持つこと。その二つを意識してティータイムを楽しんでくれ」<br>「確かにそうだな。すまん忘れてた。まあ、なんだ、言い訳に聞こえるかも知れないが、紅茶が美味かったのと、事件が一段落した気の緩みからついな」<br>　霧野はテーブルに乗せたままのソーサーにティーカップを戻し、平謝りの要領でペコペコと頭を下げながら手刀を切った。そんな霧野を見ていた優希が一言、「霧野さんらしいですね」とクスクス笑いながら言ったものだから、瞬く間に霧野の顔は赤く染まり頭を掻きながら俯いてしまった。しょうがないな。二人の気分も落ち着いたようだし、助け舟も兼ねてそろそろ始めるとしますか。厳一郎は手に持っていたティーカップとソーサーをテーブルに置き、椅子の背凭れに身体を預け、物腰柔らかく語り始めた。<br>「それではお二人さん。そろそろ事件の全貌をお話してもいいかな？」<br>　慧眼宿る眼差しから、いよいよこの事件も終わりを迎える。そう察した二人は姿勢を正し、気を引き締め『はい』と緊張の面持ちで頷いた。</p><p name="cfeb4090-fcaf-46d5-ad36-8ca3d23fb135" id="cfeb4090-fcaf-46d5-ad36-8ca3d23fb135">「では、始めるとしよう。まずは……」<br>　厳一郎はスーツの内ポケットからスマートフォンを取り出し、何やら操作を始めた。<br>「これでよし。霧野君のスマホに写真付きのメールを送ったから、それを見ながら僕の話を聞いてくれ」<br>　優希と霧野はコクリと頷いた。その直後、霧野のズボンに入っていたスマートフォンが震えた。ポケットからスマートフォンを取り出した霧野は顔認証でロックを解除すると、優希にも見えるように二人の間にスマートフォンを移動させメールを開いた。<br>　メールには文章の類は一切なく写真だけが添付されていた。一枚目は手前に鉄格子が取り付けられた地下室の写真。広さはおおよそ四畳から五畳ほどで、壁も床も天井も打ちっぱなしのコンクリート壁で覆われ、向かって右側には白で統一されたシャワーとトイレと洗面台がユニット形式で設置されており、左側には昼光色の読書灯が光る黒い鉄製のデスクと椅子が壁沿いに配置されいた。それ以外にも水回りと生活空間を仕切るための緑色の防水カーテンが中央に引かれており、デスクの手前──つまり左側の鉄格子寄りには、古びた布団類が掛けられた折り畳み式ベットが見受けられた。<br>　鉄格子の外側を写した二枚の写真には、郷田も目にしたあの高級酒類が陳列された赤い酒棚が二つ、Ｌの字で並んでいた。<br>「俺はもっと酷い現状を想像していたが……意外と綺麗だな。鉄格子が無ければお洒落なデザイナーズマンションの一室と見間違う程だ」<br>　写真に目を通した霧野は目をパチパチさせながら、隣に座っていた優希と顔を見合わせた。<br>「私も霧野さんと同じ事を思いました。監禁されていたと聞いたので、てっきり刑務所や留置所の様なところを想像していたのですが……これじゃあ普通のお部屋と大差ないですね」<br>　優希は思案顔で首を傾げた。<br>「その通り。二人ともなかなか良い勘をしているね」　<br>『どいうこと？』<br>　霧野と優希は同時に言葉を発し、厳一郎の顔を覗き込んだ。<br>「それについては三枚目の写真を見てくれ」<br>　霧野と優希は厳一郎に言われるがまま画面を下にスクロールした。そこには青い酒棚に保管された大量の高級酒類が並ぶ保管庫の写真があった。その写真を見て優希は感嘆の声を上げた。<br>「すごい。高いお酒ばかり並んでる」<br>「そうなのか！？　俺は酒には疎いからさっぱりわからんぞ」<br>　普段お酒を口にしない霧野は困惑しながら画面と優希の顔を交互に見やった。<br>「大丈夫ですよ、霧野さん。今からご説明しますから」<br>　優希は慌てふためく霧野を両手で宥め、柔和な口調で説明を始めた。<br>「まずは……霧野さんに確認したいんですけれども、お酒の銘柄はご存知ですか？」<br>「ごめん、優希ちゃん。俺そっちの方は本当に疎いのよ」<br>「謝らないでください。全然大丈夫ですよ。それでは……まず一番下の棚から見て行きましょう。この棚に並んでいるのは毎年十一月頃にお披露目される超有名な赤ワインや、同じくフランスの土地で育てられた超有名にして高級な白ワインたちです。寝かせて保管しているのはコルクの乾燥を防ぎ、長期熟成させる為です。<br>　二段目の棚にあるのは我が国──日本が世界に誇る高級なお酒たちです。威風堂々と佇む日本酒に日本名山の洗練された地下水を使用して作られたウィスキー。それ以外にも米・さつまいも・麦を用いて作られた焼酎も並んでいます。いずれも全て貴重な品物ばかりです。<br>　そして一番上の棚に顔を揃えるのは、決して眠ることのないネオン街で愛されている高級ブランデーや最高級のシャンパンなど、飲んだことはなくとも一度はその名を聞いたことがあるお酒たちです。つまり、ここに写っているのは全て名酒なんです」<br>「なるほど！　そういうことか！」<br>　優希の説明を受け、霧野は目を見開いた。<br>「そうなんだ。一見すると『ただお酒が並んでいる』ように見えるが、その光景にはちゃんと共通点があったんだよ。尤も、霧野君はお酒を嗜まないから難しかったかも知れないが、まあ、今回は優希ちゃんの知識と人間性に感謝だね。それにしても、いくら良家の生まれとはいえ、直ぐに高級なお酒だと気付いたのはお見事。なかなか良い慧眼をお持ちで」<br>　厳一郎は足を組み頬杖を付きながら、霧野と肩を寄せ合い話し合う優希に拍手を送った。<br>「お褒めの言葉ありがとうございます。でも、私はまだお酒を飲んだ事がないので、産まれたてのヒヨコみたいなものですけれどもね」<br>　優希は悪戯っ子の笑顔で下をぺろっと出してみせた。<br>「それに関しては問題ない。日本には飲み会という謎の習慣があるからね。そのうち嫌でも覚えるよ」<br>「そうなんですか？」<br>「ああ、そうだよ。とはいえ、僕みたいに人付き合いが悪いと思われることを覚悟の上で、断り続けることも不可能ではないが」<br>「いや、それはちょっと……取り敢えず習慣に倣ってみます」<br>「それが良いだろうね。話が逸れてしまった。では、そんな優希ちゃんにもう一つ謎を解いて貰おうかな」<br>「なんですか？」<br>「確かに高級なお酒というのは今回の謎と深く関わっているが、それだけでは事実に辿り着くことはできない。もう一手先を読むんだ。そうすれば、僕が組み立てた推理が見えてくる。ヒントは三枚目の写真だ。物理的にではなく読心的想像力を働かせてみてくれ」<br>　厳一郎に言われ優希と霧野は再びスマートフォンの画面を覗き込んだ。しかし、いくら観察しても特段新しい発見を得ることはできなかった。とうとう優希は難しい顔で画面と睨めっこを決め込んでしまった。さすがに無理難題だったか……それじゃあ、当初の計画通り僕が答えを言うとしよう。心配と自責の念に駆られた厳一郎が発言しようした時、霧野が何の気なしに、<br>「わからんな。別に地下室にお酒を保管するのは不思議な事じゃない。俺の頭じゃあいくら考えても埒があかん。優希ちゃんはどう？　何か気付いた？」<br>　頭をワシャワシャと掻きながら優希に問いかけた。<br>「そうですね……私の家にも地下室にワインセラーはありますし、保管されているのも有名なお酒ばかりです。値も張るので集めるには苦労したと父も言ってい──あっ！　そうか！　確かにそう考えるとおかしいかも」<br>「何がだ？」<br>「私の家はお金持ちなので高いお酒を買うことができますが、一男おじさんは会社員です。例え役職に就いていたとしても、これだけ高いお酒を買うことはできなかったはず。一体どうやってお金を用意したのでしょうか。不思議でなりません」<br>　優希は画面に写る高いお酒を指差しながら興奮気味に喋った。そして、答えを知っているであろう厳一郎に視線を移した。<br>「教えてください。何があったのか」<br>「もちろんさ」<br>　軽く笑みを浮かべると、厳一郎は淡々と話し始めた。<br>「まず酒類に関する法律について軽く触れておこう。お酒を継続的に販売することが目的であれば、営利性を問わず酒類販売業免許が必要だ。しかし、昨今流行りのネットオークションやフリーマーケット及びバザー等に関しては、贈答品・不用品・家に余っているお酒等であるならば、売る時に免許は要らない。だが、個人であってもネットオークションやフリマアプリ等で何度もお酒を出品する場合は『継続的な販売』とみなされ、先程の免許を取る必要が出てくる。それと、これは当たり前の話しだが、そもそも免許を持っていない者が『転売目的』で酒類を購入して販売し、それを何度も繰り返し行った場合は違法になる。<br>　最後に『ネットショップ』でお酒を販売する場合は、『通信販売酒類小売業免許』が必要になる。これは今回の事件とは関係が薄いので、説明を省いても差し支えないのだが、一応簡潔に説明しておくと、幾つかの細かい条件や審査はあるが、大まかなルールは四つだ。<br>　一つ目、過去にアルコール事業法で悪い事をしていないか、それと税金を滞納していないか。<br>　二つ目、場所が飲食店と被っていないか。これは『通信販売酒類小売業免許』がネットに限定されているからだ。つまり、飲食店や実際にお店で販売する場合は別な免許が必要になり、この免許での販売はできない。<br>　三つ目、経営に関しての知識があるか。具体的に言うと、過去一年以内に銀行から取引停止を受けていないか、二〇パーセント以上の欠損を出していないか。<br>　四つ目、国内のお酒に関しては、年間の出荷量が三〇〇〇キロリットル未満でなければならない。海外のお酒は特に制限はないものの、輸入する際に食品衛生法に基づいた審査や、輸入者の名称及び食品添加物などを日本語で表示する必要がある。このように輸入したものを販売する場合にも様々な規則があるため注意が必要なんだ。<br>　付け加えるならば、自宅を個人事業主の会社として登記簿に載せておくことも忘れずに。それを踏まえた上で話を聞いてくれ。では行くぞ」<br>　優希と霧野は目を瞬かせながら頷いた。<br>「まずはなぜ時田一男が高級な酒を買えたのか。これに関してはそう難しくない。なに、簡単だよ。あるだけの貯金を全て注ぎ込んで高級なお酒を買い、それを更に高い値段で販売していたから。つまり、時田一男はただの酒好きではなく転売ヤーでもあった。しかも、裏社会の人間と直接会って売買をしていたのだから驚きだ」<br>「待て厳一郎。借金をしながら買い続けていた。と言う可能性はないのか？」<br>　霧野は無駄だと知りながら、優希のことを思い割って入った。<br>「それも考えたが、思い出してくれ。時田一男が亡くなった際、警察は先程話した酒税法に関する申請書や免許の交付、個人事業主に関する登記簿等全て入念に捜査を行なったが、借金はおろか書類一枚さえ確認する事はできなかった。以上の事から僕は正当な活動ではないと早々に見切りをつけた。尤も、ネットオークションでやり取りをしていたならば履歴から辿る事もできたが……時田一男がお酒の違法取引を始めたのはネットが普及する前からだ。よってなかなか尻尾を捕まえることができなかった。これに関しては警察よりも時田一男の方が一枚上手だったね」<br>「なるほどな」<br>　霧野はやるせない顔でスマートフォンの写真をじっと見つめた。<br>「話を続けよう。この時点で時田一男の悪事を知っていた人物がいた。妻の時田真奈だ。おそらく彼女は何度も止めるように説得したが、無類の酒好きだった時田一男は一向に聞く耳を持たなかった。そして、あの事故が起こってしまった。そう、時田一男が入浴中に亡くなってしまったのだ。この件に関しては、もう今となっては殺人なのか事故なのか立証することは不可能だ。よって断言は避けるが、問題はこのあとだ。裏社会の人間は一度関係を持つとそう簡単には解放してくれない。よって時田一男亡きあとは時田真奈が引き継いでいたと断言できる。その後は……おおかた見当は付いているんじゃないか？」<br>　これを受けて霧野が話を引き継いだ。<br>「きっかけは不明だが、息子の大輔も地下室に並べられた大量の高い酒に気付いた。そうなると大輔のことだ。おそらく母親である時田真奈に詰め寄ったはずだ。あれは何だと。それで答えに窮した時田真奈は、翌朝の朝食に睡眠薬を混ぜ、大輔を眠らせて地下室に閉じ込めた。これなら話の筋が通る。合ってるか？　厳一郎？」<br>　厳一郎は嬉しそうに手を叩いた。<br>「やはり君も良い勘をしているね。正解だよ。さっき郷田さんにメールで確認したところ、時田真奈も同じ供述をしたそうだ」<br>「やっぱりな。そうだろうと思ったよ。であるならば、大輔を殺さなかった理由は、やはり一人息子を手にかける事ができなかったからか？」<br>「おそらくね。お腹を痛めて産んだ子だ。そう簡単に殺そうとは思わないだろう。それに、大輔は大学を卒業したあと地元でも大きな工場に入社し、当時は出世コースの真っ只中。まさに自慢の一人息子さ」<br>　ここで二人のやり取りを聞いていた優希が口を開いた。<br>「お二人の話を聞いて少し安心しました。おばさんの心にも良心や道徳心が残っていたんだなって。それでも疑問が残ります。おばさんは大輔さんを監禁してどうするつもりだったのでしょうか。ずっと地下室に閉じ込めておくつもりだったんですか？　それはちょっと現実的ではないような気が……それに、お酒を保管するだけなら鉄格子はいらないはずです。どうして鉄格子があったのか……それらについても教えて頂けますか？」<br>　未だ不安の拭えない優希は、怯た表情で厳一郎を見つめてきた。それを察した厳一郎は穏やかな声色で答えた。<br>「監禁については──知り得た情報を口外しないように説得するつもりだったんだろうね。なんせ時田大輔は酒の違法売買を行なっている売人の大切な商品を見てしまったのだから、もし警察に通報でもされたら万事休すだよ。そうなると売人の取る行動は一つ。時田大輔を殺害すること。そうならないように、時田真奈は息子を鉄格子の部屋に閉じ込め、酒の売人に「息子を説得して味方に付けるから、殺さないでくれ」と懇願したのだろう。無論、相手は裏社会の人間だ。同情で見逃すとは到底思えない。が、酒の密売人にもメリットはあった。例えば、時田大輔を殺したあとの死体の処理をせずに済む事や、時田家に預けていた大量のお酒を移動させずに保管して置ける事など、色々な状況が重なった結果、酒の密売人と時田親子の奇妙な監禁生活が幕を開けたって訳さ」<br>「しかしだ厳一郎よ、そもそも何で酒の密売人は時田家にお酒を隠したりしたんだ？」<br>「ああ、それは酒の密売人は常に大量の盗まれた高級酒類の在庫を抱えているから、それに見合った置き場を探さなければならないのだが、普通に手続きをして倉庫やワインセラーなどを借りたら足がついてしまう。そこで今回の密売人は取引を行なっている客──つまり一般人の家屋に隠す事を考えた。しかし、そうなると保管している高いお酒が誰の物か区別がつかなくなってしまう可能性があった為、時田一男のコレクションは赤い酒棚に、密売人の商品は青い酒棚に分けて保管していたんだ」<br>「なぜ、赤い酒棚が一男おじさんのだとわかったんですか？」<br>「いくら時田一男がお酒の違法売買に手を染めていたとはいえ、裏社会の売人より稼ぐ事は不可能だと思ったからだよ。という事はそう簡単にコレクションを増やせるはずはないから、数の少ない赤い酒棚が時田一男のお酒だという事がわかる。であるならば、高いお酒が大量に陳列された青い酒棚は──そう、売人が預けていた盗品になるという訳さ」<br>「でもよ、厳一郎。そんなに大量のお酒をどうやって時田家に運んでいたんだ？　どう考えても誰かに見られそうなもんだが……」<br>「そう難しく考える必要はないよ。例えば高いスーツに身を包んだ人間がビジネスバックを持って時田家を訪問したとしよう。優希ちゃんの目にはどう映る？」<br>「うーん、そうですね。私なら訪問セールスの人が来たのかなって思いますね」<br>「正解！　おそらく他の近隣住民の目にも訪問営業の人間に見えた事だろう。しかし、その実は鞄の中に高級なお酒を忍ばせた密売人だった。あとは簡単。家の中に入ってしまえばこっちのものさ。時田家には地下シェルターがあるからね。作業を見られる事もなければ、会話を聞かれる心配もない。さぞかしやり易かった事だろう。今まで誰にも気付かれなかったのがその証さ。きっと売人も鼻高々だったに違いない」<br>「ずる賢い奴もいたもんだ」<br>　霧野は小さく舌打ちをして渋面を浮かべた。その隣で優希がぽつりと呟いた。<br>「恐ろしい世界もあるんですね……」<br>「ああ、だが、どんな状況でも必ず打開策はある。今回は優希ちゃんと霧野君がその役目を負った訳だ。ある意味良かったんじゃないかい？　君達で」<br>「どうしてだ？」<br>　霧野が目を点にして訊いてきた。<br>「僕に繋がったからさ」<br>　厳一郎は珍しくドヤ顔を浮かべた。<br>「言うね」<br>「このぐらいは言わせてくれよ」<br>　霧野と厳一郎は互いにほくそ笑んだ。そんな二人の様子をやり取りを見て、優希は少し羨ましく思ったのであった。</p><br/><a 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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 19 Jun 2024 22:00:27 +0900</pubDate>
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      <title>『法善厳一郎　拾うは生者の反響』　　　第六話　反響</title>
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      <description><![CDATA[<p name="ee10b94c-b55c-4be0-93ca-5146d57f53d7" id="ee10b94c-b55c-4be0-93ca-5146d57f53d7">　地下シェルターは建築当時の面影を色濃く残していた。劣化した天井から吊り下がる白熱電球。染み出した水により所々変色した打ちっぱなしのコンクリート壁。郷田はスマートフォンのライトだけを頼りに、一歩踏み外したら一気に下まで転げ落ちてしまいそうな急勾配の階段を慎重に降りて行った。<br>　十段から十五段ほど降りると、スマートフォンの明かりが平面のコンクリート床を捉えた。郷田は階段の一番下で立ち止まり、スマートフォンのライトを動かして周囲を確認した。目の前には見慣れたコンクリート壁が聳え立ち、左の部屋は物置きに使われているのか、人の気配はおろか明かりすら点いていなかった。しかし、右の部屋は違った。白熱電球が点いているらしく、部屋の奥から薄明かりが漏れていた。明かりが点いてるって事は──郷田は声を張り上げた。<br>「おい！　誰か居るのか？　居たら返事をしてくれ！」<br>　応えは直ぐに返ってきた。<br>「ここだよ！　ずっと閉じ込められていたんだ！　早く助けてくれええええ！」<br>　高温多湿の空間に助けが来たという歓喜の雄叫びが反響した。郷田は階段に片足を乗せたまま壁に手を掛け、半身を乗り出して声のする方向にライトを当てた。そこには部屋の中央に取り付けられた鉄格子にしがみつき、必死に郷田の方へ手を伸ばす時田大輔の姿があった。身体はえらく痩せ細り髪も髭も伸び放題という囚人よりも酷い風貌であった。<br>「なんてこった、信じられん！　おい！　今助けてやるかな！　ちょっと待ってろ！　それと念の為に確認しておくが、時田大輔で間違いないか？」<br>「そうだ！　俺は時田大輔だ！　それより早くここから出してくれ！　もうこんな所は嫌だああああ！」<br>　大輔は泣きながら郷田に懇願した。郷田は階段に身を戻すと、地下シェルターの入り口に向かって叫んだ。<br>「五月いいいい！　時田大輔を発見した！　まだ生きてる！　直ぐに応援を呼べ！　それと救急車もだ！　聞こえたかああああ！！」<br>「了解しました！」<br>　薄暗い階段に充満する湿気った空気を切り裂く鋭い返事であった。本来であれば現場を保存しなければならないが、今回は監禁された時田大輔が居た為、郷田は階段を降りてコンクリート床に足を着けた。<br>「冷てえっ！！」<br>　靴下越しに地下特有の冷気が伝わってくる。それでも郷田は歩みを止めず、小走りで時田大輔の元に向かい、鉄格子に辿り着くと警察手帳を取り出して見せた。<br>「俺は東署の刑事で郷田と言う者だ。直ぐに出してやるかな。安心しろ。その前に一つ聞きたいんだが、どこかに高級な酒を保管している筈なんだ。心当たりはないか？」<br>「酒ならアナタの後ろにあるよ。ほら、そこの棚だよ」<br>　郷田が振り向くと、鉄格子の反対側とその横の壁に赤く塗装された酒棚が並んでいた。郷田は時田大輔から離れ、陳列された酒類を目視で確認した。<br>「こいつはすげえ。どれも高い酒ばかりだ。先生の読み通りだぜ」<br>「そこだけじゃない。向こうの部屋にも沢山保管されているんだ」<br>　時田大輔は通路の左奥の部屋を指差した。郷田は明かりの点いたスマートフォンを正面に構え、暗闇が支配する左の部屋へと歩き出した。</p><p name="b7164616-8ec5-4c68-8d79-208762d440c1" id="b7164616-8ec5-4c68-8d79-208762d440c1">「はあ、こいつは凄い。まるで酒屋みてえだ……」<br>　そこにあったのは壁一面と部屋の真ん中に置かれた青い酒棚であった。どれも高級酒類がズラリと陳列されている。郷田は証拠物を破損しないよう恐る恐る部屋に足を踏みれ、その一つ一つを丁寧に注視して行った。<br>　すると、酒瓶や青い酒棚が汗をかいている事に気が付いた。時田大輔が監禁されていた部屋の酒瓶や酒棚には水滴が付いていなかった。なぜこの部屋だけ……待てよ、そういえば先生がどこかに通気口があるって言ってたな。郷田は酒瓶を照らしていたライトを天井に向け、部屋の中をぐるぐると歩き始めた。<br>「あったぞ。間違いない通気口だ。ということは……」<br>　郷田は天井の右奥に設置された通気口を見つめ、頭の中で見取り図を広げた。上の二階建て家屋は横向きの長方形だが、この地下シェルターは縦向きの長方形だ。リビングから降りてきた事を考えると、時田大輔が監禁されていた部屋の真上はキッチンとその奥のパントリー付近に当たる。であるならば、構造からいってこの部屋はリビングを突き抜けて庭の真下になるってことか。それで全体的に湿度が高くなり、壁・天井・酒棚、酒瓶が汗をかいてしまい、右の部屋よりも劣化が進んじまったって訳だな。<br>「それにしても、常識的に考えれば通気口は人が居る部屋に付けるだろうに。まさかこっちに付けるとは……」<br>　人の命よりも酒の方が大事か。郷田は心の中で毒付き、時田一男の顔を思い浮かべ渋面を作った。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/nd2ca429914c6'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 19 Jun 2024 21:59:26 +0900</pubDate>
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      <title>『法善厳一郎　拾うは生者の反響』　　　第六話　本題</title>
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      <description><![CDATA[<p name="c9a72289-3032-4f43-9cae-cc66cf932e5e" id="c9a72289-3032-4f43-9cae-cc66cf932e5e">　それから二週間後の六月上旬。梅雨前線が日本列島の南で猛威を奮っている頃。厳一郎の呼び掛けにより、関係者一同が時田家のリビングに集められていた。紺色のパーカーに黒のジーンズを履いた霧野文和と、可愛いクマのキャラクターが描かれたピンク色のＴシャツに白いデニムを合わせた和田優希の二人は、顔を見合わせそわそわと身体を動かし、黒いスーツに身を包んだ東署の郷田刑事とその相棒の女性刑事──山田五月は、威風堂々とした佇まいで、花柄のワンピースの上に水色のカーディガンを羽織ったこの家の主、時田真奈に鋭い視線を送っていた。その時田真奈は全身の震えを抑えるように腕を組み、神妙な面持ちで立ちすくみ、誰とも視線を合わせようとはしなかった。そんな五名を一歩引いた場所から黙々と観察していたのが、グレーのスーツをビシッと決めた我らが名探偵──法然厳一郎であった。<br>「全員揃いましたね。それじゃあ、この長きに渡る謎の解明を始めるとしましょう。本来であれば、長々しい挨拶から入るものですが、僕はそういうのが苦手なので、早速本題に入らせて頂きます」<br>　飄々とした調子で口火を切った厳一郎は、ソファーの前に置かれた白い小型のテーブルに近付き、それを真上から指差して、<br>「時田真奈さん、息子の大輔さんは『ここ』に居ますね」<br>　と自信満々に言い放った。何を言っているんだコイツは……霧野と優希と五月が呆然とするなか、時田真奈から目を離さなかった郷田だけが彼女の変化に気付く事ができた。顔からさーと血の気が引き、あっという間に顔面蒼白になったのだ。当たりだ──明らかに動揺している。更に時田真奈を追い詰めるべく、郷田は何も知らない体を装って、厳一郎に問いかけた。<br>「先生、そのテーブルが一体どうしたって言うんだ？　俺たちにもわかるように説明してくれ」<br>　素晴らしい。さすが郷田さんだ。いいところで入ってくるね。厳一郎は内心ほくそ笑み、<br>「まあ、百聞は一見にしかずと言うじゃありませんか。実際に見て頂きましょう」<br>　テーブルに手を掛けたその時──！！<br>「やめてええええ！！　それに触らないでええええ」<br>　青白い顔に大量の冷や汗をかいた時田真奈が、小刻みに震える唇から奇声を発し、テーブルにしがみ付いた。あまりの豹変ぶりに優希は短い悲鳴を上げ霧野に抱き付き、霧野もまた優希を庇う様に抱きしめ、「大丈夫だから」と耳元で囁き慰めた。厳一郎は優希と霧野を気にかけつつ、郷田と五月によって白いテーブルから引き剥がされた時田真奈に近寄り、<br>「もういいでしょう。これ以上隠しても、何の得にもなりませんよ」<br>　同情と哀れみの籠った眼差しで説いた。二人の刑事に両脇を抱えられていた時田真奈は、膝から崩れ落ち、床に突っ伏して大粒の涙を流した。</p><p name="3a7e3fb6-da13-4223-af24-1a109ef96908" id="3a7e3fb6-da13-4223-af24-1a109ef96908">　それから三十分後。泣き止んだ時田真奈は口を半開きにして、じっと床の節を見つめていた。彼女の精神状態を鑑みると、早いところ決着をつけた方が良いな。そう判断した厳一郎は、直ぐに白いテーブルをキッチンの方へ移動させ、その足で壁面収納型のテレビ台に近付き、しゃがみ込んで棚の下側を注意深く観察した。やはりここにあったか。厳一郎が棚の奥に手を突っ込みスイッチを押すと、テーブルが置いてあった床の一部がボンッと音を立て長方形に浮かび上がった。厳一郎は四つん這いの状態で移動し、浮いた床の端に手を掛け勢い良く持ち上げた。蝶番の部分から折れた床の一部は九十度まで持ち上がり、そのまま後ろに倒れた。その下にあったのは、中央に船の舵を思わせるシルバーのハンドルとダイヤル錠の付いた黒い鉄扉だった。<br>「なんですか、これ。巨大な金庫ですか？　でも、それならどうして床下に造ったんでしょう。これじゃあまるで地下室みたいじゃないですか」<br>　先程まで怯えていた優希が首を傾げながら鉄扉を凝視して言った。その言葉を聞いて、優希と一緒に鉄扉を覗き込んでいた霧野がハッとした顔で厳一郎に視線を投げた。<br>「地下室──っておい冗談だろう厳一郎！！　これってまさか！？」<br>「そう、霧野君のご想像通り。これは地下シェルターの入り口だよ」<br>　厳一郎は淡々とした口調で答えた。<br>「えっ！　地下シェルター！？　地下室なら以前ガサ入れで見た事がありますが……地下シェルターは初めて見ました。郷田さん見たことあります？」<br>「いや、俺も初めて見た。先生から話を聞いた時は、そんなまさか！？　と思ったが、<br>本当に一般家庭にも設置できるとはな。驚いたよ。それに時田一男が亡くなった時は地下シェルターどころか、地下室の『ち』すら見当たらなかった。一杯食わされたな」<br>「その時に登記簿などは確認しなかったんですか？」<br>　地下シェルターの入り口に見入っていた郷田に霧野が尋ねた。<br>「もちろん確認したさ。だが、不動産登記簿には、地下シェルターはおろか地下室の記載もなかった……」<br>　郷田は苦虫を噛み潰したような顔で相棒の五月に目をやった。五月も思うところがあったらしく、やってしまったと言わんばかりに苦笑を返した。<br>「それに関しては仕方ないでしょう。地下室は不動産登記簿に記載しなければなりませんが、地下シェルターは記載義務がありません。それに、最近では技術の発展により一般家庭にも普及し始め、その関係で広告やネットで目にする機会も増えましたが、依然として日本では馴染みの薄い物です。ましてや、それを十五年以上前に造っていたとなれば、気が付かなくても無理はないでしょう」<br>「そう言って貰えると助かるよ、先生」<br>「お気になさらず。さて、皆さん。一通り驚いたところで、今度は実際に中に入ってみようじゃありませんか。その為には──時田真奈さん。暗証番号を教えて頂けませんか？」<br>　全員の視線が時田真奈に向けられた。が、彼女は依然として放心状態のままだった。それでも厳一郎は喋り続けた。<br>「もちろん拒否権はあります。ですが、そうなると鉄扉を破壊しなければなりません。相当な時間を要するでしょうし、何よりここはアナタと家族の大切な思い出が詰まった家です。できれば我々も傷つけたくはありません。どうでしょう、教えて頂けませんか？」<br>「…………」<br>　もはや厳一郎の言葉が届いているのかさえ判別できなかった。やはり今日初めて会った僕の言葉では、彼女の心を動かす事はできなかったか。ならば──全員が困惑する中、厳一郎は優希に目配せをした。それに気付いた優希は時田真奈に歩み寄り、<br>「おばさん……私からもお願いします。もう終わりにしましょう」<br>　目に涙を浮かべ優しく抱きしめた。我に返った時田真奈は何度も深く頷き、徐々に平静を取り戻し、やがて声を震わせながら暗証番号を教えてくれた。狙い通りだ。厳一郎はすぐさまダイヤルを動かし暗証番号を入力した。ガシャンという音が鳴り響く。<br>「オッケイ。ロックは解除された。次はコイツを回して！」<br>　厳一郎は鉄扉に取り付けられたハンドルを右に回した。上下左右に伸びた四本の支柱が関節部分から折れ、鉄扉の隙間から淀んだ空気が漏れ出してきた。<br>「よし！　あとは鉄扉を上に引くだけなんだが、僕の考えが正しければ、そんなに力は要らない筈だ」<br>　そう言うと、厳一郎は前屈みのまま鉄扉を上に引いた。案の定、鉄扉はゆっくりと持ち上がり、左開きで開放された。その内側に目をやると油圧式ダンパーが二本取り付けられていた。<br>「やはりか。確かにこの鉄扉は重たい。しかし、時田真奈さんが一人で上げ下ていた事を考えると、何かしらの補助力が備わっていると思ったんだ。うん、これなら女性一人でも開け閉めできるね。よく考えて作られてるなあ」<br>　厳一郎は推理そっちのけで、鉄扉の内側とそれを支える基礎部分を観察し始めた。見兼ねた霧野が呆れ顔で止めに入った。<br>「おいおい厳一郎、お前は何の為にここに来たんだ？　頼むから推理を再開してれ……」<br>「おっと、これは失礼。こういう代物を見るとつい心が惹かれてしまってね。それでは気を取り直して、地下シェルターの入り口も開いた事ですし、足を踏み入れてみますか。と言いたいところですが、現場保存の関係上、降りるのは郷田さんだけの方がいいでしょうね」<br>「ああ、その方がいいだろうな。この人数で行ったら現場を荒らしちまう。それにしても……不気味だな」<br>壁も天井も階段もコンクリートで覆われた無機質と暗闇が支配する世界。長年刑事を務めてきた郷田でさえ寒気を覚えた。が、そこは郷田である。直ぐに気持ちを切り替え、スーツの内ポケットからスマホを取り出しライトの機能をオンにして、<br>「そう言うことなので、降りるのは自分だけです。皆さんはここで待機していてください。五月！　あとは頼んだぞ！」<br>「はい！」<br>　全員に指示を出し、先の見えないコンクリートの階段を降り始めた。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n6c962078bb31'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 19 Jun 2024 21:58:29 +0900</pubDate>
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      <title>『法善厳一郎　拾うは生者の反響』　　　第五話　遅くばせながら　三</title>
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      <description><![CDATA[<p name="4300dc40-50eb-43f4-aff6-48bf021d6781" id="4300dc40-50eb-43f4-aff6-48bf021d6781">　霧野は今日あった出来事を可能な限り順序よく厳一郎に話した。河川敷公園で和田優希に会ったこと……その後とんでもない相談を受けたこと……時田真奈の家に行き調査したこと……特に相談内容と調査報告に関しては漏れがないように注意を払った。<br>「……という事なんだ。何かわかったか？」<br>　一通り話し終えた霧野は不安げな表情を浮かべ、厳一郎の顔を覗き込んだ。<br>「ああ、大丈夫だよ。ちゃんと順追って話してくれたから、何があったかは大方理解できた。それにしても……なんともまあ 判別の難しい案件だな」<br>　厳一郎は苦笑を浮かべ、長く深い溜め息きを吐き、それから約五分間、頬杖を付いて襖の丸い取っ手部分を眺めたり、指で畳をトントントンとリズムよく叩きながら推考に耽っていた。</p><p name="2f291760-6eb6-465d-b38b-0861d97e50a6" id="2f291760-6eb6-465d-b38b-0861d97e50a6">「普通に考えれば、霧野の想像通り、もう時田大輔は時田真奈に殺され、この世にはいないだろうな」<br>　唐突に口を開いた厳一郎の言葉に、ああ……やっぱりか。と霧野は目を伏せて俯いてしまった。<br>「しかしながら──僕の推理は全く違う展開を示している」<br>「はあっ！？　どういう事だ！？」<br>　驚きのあまり声が裏返ってしまった。<br>「まあ聞いてくれ。僕の推理が間違っていなければ、おそらく時田大輔さんは今も生きている筈なんだ。しかし、残念ながら僕の推理はまだ推測の域を出られていない。なぜか。情報だよ霧野君。情報が不足しているんだ」<br>「俺の見た事は全部話したぞ」<br>　霧野は恐る恐る述べた。すると、厳一郎は不気味な笑みを浮かべ、霧野の頭を指差した。<br>「いいや、全部じゃない。いいかい霧野君、<br>君は僕の欲しい情報を目にしている筈なんだ。しかし、君自身はそれを重要な情報だとは認識していない。だから先程の話から抜け落ちてしまった。よって……残りの情報は 君の記憶から引き出すしかない。それでは──始めるとしよう」<br>厳一郎は胡座から正座へと姿勢を改めた。霧野も厳一郎に倣い姿勢を正す。<br>「霧野君、これから幾つか質問をするから、君の見た光景を思い出しながら答えてくれ」<br>「わかった」<br>　厳一郎の優しくも引き締まった声が霧野の緊張を徐々に高めて行く。厳一郎は右手の人差し指をピンっと立て質問を開始した。<br>「ではまず一つ目、息子の大輔さんが行方不明になった時、時田家で工事が行われていたか？」<br>「うーん、工事と言えるかはわからんが、家を囲んでいた鉄製の柵が生垣に変わった事はあったらしい」<br>「ならばその事に関して更に二つ質問しよう。それはどのぐらいの期間行われていた？」<br>「そこまでは聞いてないな」<br>「ではもう一つ、その時ショベルカーなどの大型重機を見かけなかったか？」<br>「それもわからん。なんせそこまで重要な事だとは思ってなかったから、詳しくは聞いてないんだ」<br>「そうか。ならば一つ目の質問はここまでにしよう」<br>　申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせる霧野に対して、厳一郎は軽く微笑み返した。<br>「二つ目の質問は、時田家のリビングに動かせそうな家具はなかったか？」<br>「うーん……思いつ付かないな。でも無理な物は頭に浮かんだ」<br>「それでも構わない。消去法で行こう」<br>「間違いなくテレビ台は無理だろうな。あのデカイ壁面収納型は動かせないだろうし、それにソファーも動かせないって訳じゃないが女性一人では厳しいだろうな。あと奥にあったキッチンも──ってこれは当たり前か。そうなると残るは……」<br>「小型のテーブル」<br>「そうだ！　あれなら簡単に動かせるだろうな」<br>　視線を宙に漂わせながら喋っていた霧野はハッとした表情で厳一郎に目をやった。そこには嬉しそうに片方の口角を上げニヤリと笑う厳一郎の顔があった。<br>「霧野君、床に絨毯の類は敷いてあったかい？」<br>「いや、フローリングのままだったな。絨毯の類は敷いていなかった」<br>　霧野は間髪入れずに答えた。<br>「因みにだが、その床に何かを引き摺ったような跡はなかったかい？」<br>「いや、床は綺麗だったな。歩いた時も違和感はなかったし」<br>　霧野は首を傾げながら答えた。<br>「そうか。当てが外れたか。まあいいさ。一つ可能性を除外できた」<br>　霧野は訳がわからず怪訝な表情を浮かべた。<br>「最後にもう一つ。これは確認なんだが、時田家に行ったのは今日の午後だったね。その時、雨は降っていたかい？」<br>「いや、曇ってはいたが雨は降っていなかったな」<br>「そうか。では庭の奥にあった井戸に蓋は乗っていなかったんだね」<br>「井戸に関しては……たぶん蓋はなかったと思うが」<br>「なるほどね。それと……まあ、これは聞かなくてもいいとは思うが念の為。不審な物音は聞こえなかったか？」<br>「ああ、聞いてない。それに関しては自信を持って言える」<br>「以上で質問は終わりだ。ありがとう」<br>　そう言うと、厳一郎は座椅子から立ち上がり襖を開けた。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n2079acfcf0e5'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 19 Jun 2024 21:57:20 +0900</pubDate>
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      <title>『法善厳一郎　拾うは生者の反響』　　　第五話　遅くばせながら　二</title>
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      <description><![CDATA[<p name="10967162-e261-4be6-9157-7045f01a0e41" id="10967162-e261-4be6-9157-7045f01a0e41">　霧野と厳一郎は駐車場の一辺に佇む竹垣の前へと辿り着いた。<br>「いつ見ても竹垣は風情があっていいねえ。まさに和そのものだ」<br>　霧野は端から端まで続く竹垣を見て穏やかな口調で呟いた。<br>「この竹垣は竹を隙間なく紐で結んだ遮蔽垣と呼ばれる物なんだ」<br>「このってことは、他にも種類があるのか？」<br>「僕は専門家じゃないから全てを把握している訳ではないが、まず『透かし垣』と『遮蔽垣』の二種類に分けられて、そこから更に作り方や柄によって十五種類ぐらいに細分化されるらしいんだ」<br>「マジで！　そんなにあるのか！」<br>　あまりの衝撃に霧野は目を見張り大きな声を出してしまった。そんな霧野を見て厳一郎は、<br>「確かに種類は多いけれども、一軒家の竹垣としてよく使われるのは遮蔽垣だから、それだけ覚えておけば大丈夫だよ」<br>　まあまあと両手を動かしながら、宥めるように言った。<br>「……わ、わかった」<br>　取り敢えず納得した霧野を見て、厳一郎は苦笑を浮かべながら、竹で造られた門扉を開き、霧野を次の敷地内へと案内した。</p><p name="f26df0d2-9df5-4409-b3da-2dde8caa5f9d" id="f26df0d2-9df5-4409-b3da-2dde8caa5f9d">　門扉を抜けると足裏の感覚が砂利から柔らかい物へと変わり足音も消えた。うん？　地面か？　霧野は視線を真下に落とした。自重によって地面から湧き出た水が、靴の周りをキラキラと照らしている。霧野は顔を上げ辺りを見回した。ここには街灯が一つもないからハッキリとは見えないが、全て地面だとすると……霧野は厳一郎を見て口を開いた。<br>「家庭菜園を始めたのか？」<br>「御名答。流石だよ霧野君」<br>「嘘だろ！？　以前来た時は高級車が並ぶガレージだったぞ！？」<br>「その通り。だが、新型コロナウィルスが猛威を奮った時、ある程度自給自足もできた方がいいだろうという話になり、ガレージを移動させて、一度更地に戻し、家庭菜園を始めたんだ」<br>「ガレージを移動って──どこに移したんだ？」<br>「そうか、君は昔の道を通って来たから気付かなかったのか。農道に入らずそのまま少し進むとガレージの入り口があったんだよ。家の人間はそっちに車を停めているんだ」<br>　厳一郎は母屋の奥を指さして霧野に説明した。金持ちはやる事が違うな。霧野は呆気に取られ固まってしまった。そんな霧野に構わず厳一郎は、<br>「家庭菜園については歩きながら説明するよ。さあ行こう」<br>　意気揚々と次の門扉まで続く小道を歩き始めた。霧野はトボトボとした足取りで厳一郎の背中について行った。<br>　道の真ん中まで来た時、厳一郎は立ち止まり門扉から見て右側に身体を向けた。自然と霧野の身体もそちらに向く。<br>「こちら側には茄子や胡瓜やトマトなどのこれから旬を迎える夏野菜が植えてある」<br>「お見事。米に比べると野菜は育てやすいからな」<br>「それもあるんだが、いくらなんでも米を育てるのはやり過ぎだろう……と言う意見が出てね。僕も執筆で忙しいから、そっちは諦めたんだよ」<br>「正解だと思うぞ。田んぼは水の管理も大変だし、何より溜池は共同で管理している筈だから、人付き合いも大事になってくる」<br>「うん、僕は変わった性格だから向かないだろうね」<br>　厳一郎の脳裏に昔の嫌な出来事が蘇った。が、そんな事を知ってか知らずか、霧野がいつもの調子で、<br>「うん？　そんな事はないだろう。お前とは長い付き合いだが、一度もそんな風に思った事はないぞ」<br>　平然と返してきた。厳一郎は自分の事を受け止め、そしてハッキリと物を言ってくれる霧野に感謝しつつ、<br>「それは良かった……まあ、いずれにせよ米には手を出さないでおくよ」<br>　その気持ちが声の震えや声色でバレないよう気をつけながら返した。<br>「マジでやらない方がいいぞ。ただでさえ五月の連休は田植えで潰れ、台風が来たら命懸けで様子を見に行き、残暑が酷い九月には稲刈りをしなくちゃいけないからな。結論、米は買え」<br>　真顔で念を押す霧野に吹き出しそうになりながら、「わかった」と厳一郎は短く返した。二人は涼しい夜風に吹かれ気持ち良さそうに葉を揺らす夏野菜たちと、反対側で淡い月明かりを浴びながらひっそりと眠に就く紫陽花やクチナシやラベンダーやカーネーション等の花々に見送られながら、汐風と雨上がり特有の土の香りを放つ家庭菜園を後にした。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n05dd7f786a65'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 19 Jun 2024 21:56:09 +0900</pubDate>
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      <title>『法善厳一郎　拾うは生者の反響』　　　第五話　遅くばせながら　一</title>
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      <description><![CDATA[<p name="2044f2d0-6636-43a4-ac92-48e5acf627a1" id="2044f2d0-6636-43a4-ac92-48e5acf627a1">　住宅街は帰宅を急ぐ車で溢れ返っていた。ミニバンや普通車や軽自動車が次々と現れては、各々の家に車を停めるため、路上で一旦停止し、ハザードランプを点けバックをする。その度に霧野は車を止め、様子を見守り、最後に互いに軽い会釈をして別れる。これを幾度となく繰り返した。<br>　その後、長い下り坂を進み、住宅街の出入り口であるＴ字路を右折し、ようやく幹線道路に戻れた霧野はその様相を見て思わず、<br>「マジかよ……」<br>　と情けない声を漏らしてしまった。無理もない。なんせ目の前の幹線道路には無数のブレーキランプが列を成し、徐行程度にしか進んでいなかったのだから。何でこんなに混んでるんだよ……そもそもこの大量の車は一体何処からやって来たんだ？　霧野は運転席の窓に頭を押し付け渋滞の先を窺った。するとあろう事かこれから通ろうとしている海沿いの工業地帯から、一日の仕事を終えた労働者達が魚群の様に幹線道路へと流れ込んで来るのが見て取れた。ハッとした霧野は車のデジタル時計に目をやった。時刻は十七時四十五分を示していた。<br>「しまった……帰宅時間と重なったかあ」<br>　まあ、焦ってもしょうがない。気長に待つとしますか。霧野は左手を肘置きに預け、右手一本でハンドルを握り、だらけた姿勢で前の車のブレーキランプをぼーっと見つめた。<br>　<br>　それから数十分後、霧野の車は幹線道路を左に曲がり、Ｒ工業地帯へと入って行った。目の前に広がる片側三車線の太い道路を、火力発電所に石炭を運ぶ二十トンダンプや物流を担う大型トラックが忙しなく走り抜けて行く。そこに一般車両も加わり、相変わらず混んではいたが、こちらは車線が多いため時速四十キロから五十キロで走る事ができた。先程積もったストレスが自己の中でスーッと消えていくのを霧野は感じた。工業地帯を突っ切るように進んだ霧野は、どれだけ長く全幅のある車両も悠々と曲る事ができるであろう大きな十字路の交差点を右折し、Ｕ町へと繋がる抜け道へと入った。</p><p name="a81307e6-afe2-4b69-9ed0-9268f402ba6c" id="a81307e6-afe2-4b69-9ed0-9268f402ba6c">　少しの間、右も左も広大な工場を囲う金網のフェンスに挟まれた直線を進むと、平坦な道は緩やかな左カーブを描きながら登り坂へと変わった。穏やかだったエンジンも徐々に唸り上げ力強く加速して行く。しかし、カーブを抜けた先に現れた信号機が赤を灯しているのに気付き、霧野は素早くブレーキを踏んだ。車は甲高い音を立て急激に減速し、停止した瞬間、霧野の身体がガクッと前に押し出され、シートベルトに寄り掛かる格好になった。<br>「いかんな。さすがに疲れたか？」<br>　霧野はぼーっと月明かりだけに照らさせた信号機を眺めた。背後に聳え立つ急勾配。街灯など存在しない真っ暗な一本道。確認できる生命体といえば、反対車線と霧野の後ろに並ぶ五、六台の車だけ。物悲しい……そんな言葉が頭を過った時、左手前の脇道から一台の車が出てきた。ヘッドライトの光を浴びたアスファルトが闇夜に浮かび上がる。それを目にした霧野は、そうだ忘れてた。厳一郎の家はここから入るんだった。いかんな。待てよ──そういえば直ぐ近くにＯ公園もあったな。先月家族と桜を見に来たんだ。満開の桜がずらりと並んで綺麗だったなあ。とは言えさすがにもう散ったか？　まあいいや、ついでにちょっと寄り道して行くか。目の前の信号が青に変わるのと同時に、霧野は左のウィンカーを上げ、Ｏ公園へと続く脇道へと入って行った。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/nf43804cd73e3'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 19 Jun 2024 21:54:43 +0900</pubDate>
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      <title>『法善厳一郎　拾うは生者の反響』　　　第四話　確証とは　四</title>
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      <description><![CDATA[<p name="60542176-cbdf-483d-ae89-2a8b984ba875" id="60542176-cbdf-483d-ae89-2a8b984ba875">　ここまで来たらやるしかない。よし、押そう。優希は意を決して黒いインターホンのボタンを押した。家の中でチャイムが鳴る。<br>はーいと言う聞き慣れた声が廊下に響き渡る。正直なところ、優希の心臓は今にも破裂しそうなぐらい、強く、早く、脈打ち、思考はとっくに活動を停止していたが、もう後戻りすることはできない。声出るかな？　ちょっと不安。優希は喉の辺りを軽く抑えながら小さく咳払いをし、玄関が開くのを待った。</p><p name="6a547fca-3e42-4389-95b9-4a9b251116c6" id="6a547fca-3e42-4389-95b9-4a9b251116c6">　一方優希の後ろに立っていた霧野は家の外観をチェックしていた。瓦を用いた屋根に横長の二階建て。外壁はツートンカラー。一階は漆喰を連想させる深みのある白。それとは打って変わり焼き板と見間違える程に黒い塗装が施された二階部分。その要所には一目で金属製だとわかるシルバーのサッシが嵌め込まれていた。<br>　この家のコンセプトは和モダンってやつだな。それで何処なく懐かしい印象を受けたのか。ああ、そうだ間違いない。俺の爺ちゃんの家は古民家だからな……いやはや、お洒落な家を持ちで。<br>　霧野が一通り家の考察を終え、干渉に浸っていると、木目鮮やかな和モダン引き戸が滑らかに開いた。<br>「こんにちは。お久しぶりです。おばちゃん」<br>　優希の張った声が霧野の意識を現実へと引き戻す。<br>「あら、優希ちゃん久しぶり。元気だった」<br>　か細い声がよく似合う細身の女性が、引き戸から上半身だけをひょっこりと出して、優希に優しい笑みを送っている。そこから二人の他愛もない世間話が続いた。いつ以来なのか……その時の状況は……それから現在に至るまで……こんな具合である。その間も時田真奈の視線がチラチラと自分に向けられいるのを、霧野は見逃さなかった。さて、脈絡的にも彼女の関心的にも、そろそろ俺の事に触れる頃合いかな。そう思った時、優希の左手が一歩後ろにいた霧野をさした。<br>「それでねおばちゃん、急な話で申し訳ないんだけど、私、結婚することになったの。こちらが婚約者の霧野さん。まだ式の日取りは決まってないんだけど、するのは間違いないから」<br>「へえ！　そうなの！　優希ちゃん結婚するの！　まあ！　大変だわ。あっ、取り乱してすみません。私は時田真奈と申します」<br>　時田真奈は引き戸から全身を出し、細長い指を両膝に当て、深々と頭を下げた。霧野も姿勢を正し、いつもより若干低い声で、<br>「初めまして、霧野文和と申します。以後お見知り置きを」<br>　日常では絶対に使わないであろう丁寧な言葉を用いて、紳士を装った。時田真奈はニコッと微笑み、<br>「そういう事なら、どうぞお上がりください」<br>　と物腰柔らかく中に入るよう促してきた。すごいですね、計画通り。我ながら驚いてるよ。などとアイコンタクトを取ったあと、優希と霧野は『お邪魔します』と息の合った声で、玄関ホールへと足を踏み入れた。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/nff0e429f7f6c'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 19 Jun 2024 21:53:19 +0900</pubDate>
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      <title>『法善厳一郎　拾うは生者の反響』　　　第四話　確証とは　三</title>
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      <description><![CDATA[<p name="8b4e7f2e-42b4-4f67-abcc-9e24e65827e3" id="8b4e7f2e-42b4-4f67-abcc-9e24e65827e3">　優希とともに西洋風門扉を出た霧野は、Ｔ路地になっている生活路を前に足を止め、周辺の建物を見回した。二階建ての家に和風の平屋、アパートやマンションに月極駐車場。みな生活路に沿って規則正しく並んでいる。だが、形式や外見は違えど共通している点も数多く見受けられた。あらゆるモノから愛車を守るために造られたガレージ、屋外で使用する道具がしまわれているであろう物置、木の温もりと色合いが調和するウッドデッキに見栄えの良い芝生が横たわる庭。<br>念願叶って夢のマイホームかあ。すげぇな。霧野が一人心の中で感嘆していると、優希が口を開いた。<br>「時田さんの家ならもう見えてますよ。あれです、真正面のお宅です」<br>　霧野は一言も発せず優希が見つめている家に目をやった。対向車が来ても悠々とすれ違えるほど広い生活路の向こう側に、肩ほどの生垣が、家の一階部分と庭を隠すようにぐるりと一周設置されている。霧野は一度視線を切って囁くように訊いた。<br>「あの生垣は昔から植えられているのか？」<br>「いえ、以前は鉄の柵？　みたいな感じの囲いでした」<br>　優希も敢えて視線を切り、足下を見ながら小声で答えた。霧野は再び時田家に視線を戻す。<br>他に外観から確認できるのは家の二階部分と、横にある車三台分の駐車場だけか……なるほどな、確かにきな臭いな。霧野は優希と目を合わせた。優希は緊張と不安が入り混じった顔を向けている。<br>「こりゃあ駄目だ。ここから見ても埒が明かない。行ってみるしかないだろうな」<br>　優希の緊張をほぐすべく、敢えて霧野は冗談めいた口調で言った。優希はフフッと笑い声を漏らしたあと、口元を隠して、<br>「当たって砕けろの精神ですか。好きですよ、そう言うの」　<br>　肩をピクピクさせながら笑った。ほっと胸を撫で下ろした霧野は、微笑みを浮かべながら、<br>「心意気はそれでいい。しかしながら、やはり家の中に入るには口実が必要だ。それでなんだが……」<br>　優希に耳打ちをした。優希は時折頷きながら、真剣な眼差しで霧野の話に耳を傾けていた。<br>「フフッ。なるほど。それなら違和感ないですね。わかりました。それでいきましょう」<br>「ああ、よろしく頼むよ」<br>　軽やかな足取りで歩き始めた優希の背中には、悪戯っ子のような嬉々とした雰囲気が漂っていた。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/nad6c8dd70f14'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 19 Jun 2024 21:52:09 +0900</pubDate>
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      <title>『法善厳一郎　拾うは生者の反響』　　　第四話　確証とは　二</title>
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      <description><![CDATA[<p name="0f2be076-fb0e-49d6-89a5-305db15b0890" id="0f2be076-fb0e-49d6-89a5-305db15b0890">　霧野の車は優希の指示通り迷路のような住宅街を右へ左へと進んで行った。屋根も外壁もガルバリウム鋼板で出来た家屋や、まだ補助輪が付いた三輪車が置いてある二階建て住宅、庭によく手入れされた花や樹木が並ぶ平屋などを次々と通り過ぎ、やがて住宅街の端へ差し掛かった時、突然白く高い塀が姿を現した。<br>「なんだ？　この大きな塀は？」<br>「それは私の家の塀です。そこを右に曲がってください。あとは塀沿いに進んで行けば入り口が見えてきます」<br>　霧野は呆気に取られながらも、言われるがまま、Ｔの字で一旦停止し、左右の安全確認を行ったあと、右へと曲がった。<br>　百メートル程進むと、白い塀が一部へこんでいるのが見て取れた。その場所を指さして優希は言った。<br>「そこです。そのへこんでいる部分が入り口です」<br>　霧野は左の方向指示器を点け、速度を落とし、ゆっくりと車を進めた。とその時、<br>「おお！　マジかあ！！」<br>　霧野は驚嘆の声を上げ、ブレーキを踏み、ゆっくりと車を停止させた。目の前に現れたのは巨大な西洋門扉とその後ろに通された一本の銀杏並木、百坪はあろうかという広大な敷地に古城を想起させる洋館であった。<br>「レベルが違いすぎる！！」<br>　そんな霧野を尻目に、優希は前屈みになり門柱に取り付けられたカメラを覗き込んだ。すると、巨大な門扉がゆっくりと開いた。<br>「……お邪魔します」<br>「はい、どうぞ」<br>　平然と返す優希をよそに、霧野は口をあんぐりと開けたまま車を前進させた。<br>　<br>　両側を銀杏並木で拵えたアスファルトの路面を進んで行くと、中央に円形のモニュメントが鎮座する玄関前広場へと辿り着いた。<br>「車は玄関の向かって左側に停めて下さい。そこが来客用の駐車場になってます」<br>　霧野は五台ある駐車枠の内、一番玄関に近い右端に車を停めた。シフトレバーをパーキングに入れ、エンジンを切りシートベルトを外したあと、霧野はまじまじと優希家を観察した。<br>　銀杏並木の外側は全て綺麗に刈り揃えられた芝生が敷き詰められ、その所々に背丈の高い立派な樹木が絶妙な配置で植えられている。<br>「さっきの銀杏並木もそうだったが、何もかもが桁違いだ。いま見える範囲だけでも庭が広過ぎる。それにこの駐車場も、丁寧に白い線で枠が引かれている。普通の家では考えられんぞ」<br>　既にシートベルトを外し車を降りようとしていた優希が、<br>「そうなんですよ。なので親戚が集まる時は大概ウチが選ばれるんですよね。ははははは……」<br>　と渋い顔を霧野に向けてきた。<br>「まあ、そうなるだろうな。駐車場もさることながら、家も大きいし庭も広いから一泊したいと言い出す大人や、帰りたくないと駄々をこねる子供も出てくるだろう。普通はどんなに頑張っても家は二階建て、駐車場は二台分、庭に関しては確保できれば御の字って感じだからな」<br>「あーなるほど。確かにそうですね。じゃあ、降りましょうか」<br>　そう言うと優希は左手でドアを開け、先に降りてしまった。あっさりとした返事だな。まあ、わからんでもない。事あるごとに親戚が訪ねて来たんじゃあ、嫌にもなるよな。霧野は一人になった車内で何度も頷いた。</p><p name="10c7f90d-710a-4aeb-9ea2-3f4138a6a558" id="10c7f90d-710a-4aeb-9ea2-3f4138a6a558">　車を降りた霧野と優希は、長年優希家で執事をしている旗野次郎が回してくれた高級セダン車に乗り込み、来た道を辿り、巨大な西洋門扉が構える入り口まで送り届けてもらった。<br>「ありがとう旗野さん。事が済んだら連絡しますね」<br>　艶やかに黒光りする高級セダン車の窓越しに、優希は旗野にお礼を述べた。<br>「かしこまりました。では、後ほどお迎えに参ります」<br>「ええ、お願いします」<br>　優希と旗野は互いに軽く会釈をした。側で見ていた霧野は、やっぱり執事もいたか。まあ、これだけデカイ家に住んでりゃあ納得だけどな。と心の中で独り言を呟いていた。が、次の瞬間、<br>「それと、霧野さん」<br>　旗野は五十代相応の皺が刻まれた顔に微笑を浮かべながら、やや低い声で霧野に話しかけてきた。<br>「──はい！」<br>霧野は顔を引き締め背筋を伸ばし旗野と目を合わせた。<br>「優希さんをよろしくお願いしますね」<br>　きちんとセットされた白髪が、半分ほど空いた窓から入る風に吹かれ、なびいている。<br>「お任せください。決して危険な目には合わせません。お約束します」<br>「その言葉が聞けて安心しました。事が上手く運ぶことを祈っています」<br>　霧野にも軽く会釈をすると、旗野は窓を閉め、車の向きを変え、洋館とも屋敷とも言える立派な建物へと帰って行った。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n55845bda2f19'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 19 Jun 2024 21:50:44 +0900</pubDate>
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      <title>『法善厳一郎　拾うは生者の反響』　　　第四話　確証とは　一</title>
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      <description><![CDATA[<p name="62e247df-117d-4913-9a43-e4b38da8e22b" id="62e247df-117d-4913-9a43-e4b38da8e22b">　小高い山の頂きを少し過ぎた辺りに十字路の交差点がある。左手には桜並木が続いており、昼間は陽光に舞う桜吹雪を、夜は提灯でライトアップされた夜桜を楽しむことができる。<br>　右手には昔ながらの住宅街が広がっている。生活路も当時の様相をそのまま引き継いでいる為まあまあ狭く、車同士がすれ違う時は電柱の位置も気にしながら互いに譲り合い避けなければならない。これだけでも相当危険なのだが、更にまずいのは生活路の一つが県道とバイパスを結ぶ抜け道になっていることだ。その為にここは意外と交通量が多く、小学校に通う子供達にとっては決して安全な通学路とは言い難い。そんな十字路を直進した少し先に霧野の愛車は止まっていた。前輪付近には停止線を意味する白いプレートが横たわっている。</p><p name="3efa27b9-de65-41b6-8143-f031c93495a9" id="3efa27b9-de65-41b6-8143-f031c93495a9">参ったな。ここは交通量が多いから、中々車が途切れん。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n7fec561a4543'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/119019272/profile_2526c31d1c4d3699d054f06620eb6187.jpg?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 19 Jun 2024 21:49:35 +0900</pubDate>
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      <title>『法善厳一郎　拾うは生者の反響』　　　第三話　嵐の前の静けさ</title>
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      <description><![CDATA[<p name="116eed2c-ea86-4957-9ce6-8723a3470618" id="116eed2c-ea86-4957-9ce6-8723a3470618">「じゃあ、待ち合わせ場所は、えーと、おばちゃん家に行くから、私のお家の近くにあるコンビニでいいですか？」<br>　二人は大きなカフェオレ色の水溜りが散見する駐車場で、今後の予定を話し合っていた。<br>「コンビニは構わないんだが、最近そっち方面は行ってないんだよなあ。どの辺だっけ？　」<br>　優希は身振り手振りを交えながら、河川敷公園から住宅街までの道のりと、そのコンビニが住宅街のほぼ中央に建てられていることを説明した。その甲斐あってか、以前行った時の事を思い出したらしく、霧野もだいたいの場所は掴めたようだった。<br>「じゃあ、大まかな流れを確認しますね。集合時間に関しては二人とも少し余裕が欲しいので、一時間後の十六時に設定。私はコンビニで霧野さんが来るのを待つ。霧野さんと落ち合ったあと、車に乗って私の自宅に行く。その時、霧野さんの車はお客様用の駐車枠に停めて貰う。それから──時田家に突入する。間違いありませんね？」<br>　優希は力強い眼差しと共に右の口角をニヤリと上げ、人差し指をピンと伸ばし霧野に最終確認を行った。<br>「ああ、それでいい」<br>　霧野は微笑みながら短く返した。<br>「わかりました。私は少し早めに行って待ってますね」<br>「了解。それと最後に訊きたいんだが……」<br>　あっ、もしかして連絡先の交換かな。優希がスマートフォンを取り出そうとポケットの中に手を入れた時、<br>「名前なんて言うんだっけ？」<br>「……あれ、言ってませんでしたっけ？」<br>　霧野は困り果てた顔を優希に向けてきた。予想外の問いかけに、優希もまた、口を半開きにして固まってしまった。<br>「俺の記憶が正しければ、まだ聞いてない筈だ。だってそうだろう。俺は今までのやり取りで、一度も君の名前を呼んでいない。そもそも自己紹介をしたのは俺だけだった気が……」<br>　それを聞いて優希はハッとした。確かにそうである。霧野は優希の質問に答える中で自己紹介をしていた。そのあと優希は歩きながら悩み事を話した。つまり、霧野は優希の名前を知らないまま話を繋げていたのだ。ある意味すごいわ。でも……普通尋ねるよね？　訊くタイミングを逃したとか……まあいいや。相手に名乗らなかった私が悪い。優希は姿勢を正した。<br>「はい、それではだいぶ遅くなりましたが、自己紹介をさせて頂きます。私は和田優希と申します。年齢は……前に言ったか。現在地元の大学に通っている一年生です。好きな食べ物……じゃなくて趣味？　もいいか。よろしくお願いします」<br>　駄目だ、言いたいことが上手くまとまってない。最悪の自己紹介だ。穴があったら入りたい。優希は肩を落とし項垂れてしまった。<br>「そんなに落ち込む必要はない。心の声が漏れていたり、悩んでいる部分はあったが、ちゃんと自己紹介になってたぞ」<br>「本当ですか？」<br>「ああ、本当だ」<br>「やったあ！」<br>　優希は子供の様な小さな手を握り、控えめなガッツポーズを繰り出した。そんな優希を霧野は優しく見守っていた。<br>「それじゃあ、帰るとしますか。優希ちゃん」<br>「うっ……」<br>　いきなり名前で呼ばれたので、思わず優希はのけ反ってしまった。だが、不快な気持ちにはならなかった。寧ろ照れ臭い感情の方が強かった。<br>「そ、そうですね。では、帰りましょう。それでは失礼します」<br>　優希は逃げるように初心者マークが貼ってある赤いコンパクトカーに乗り込んだ。</p><p name="d8109d61-a69d-419e-aa08-72da59e7bec7" id="d8109d61-a69d-419e-aa08-72da59e7bec7">　ほう、俺よりも年式が新しい車に乗ってるな。さっき話を聞いた時にも思ったが、もしかすると優希ちゃんは良家の子なのかもしれないな。そんな事を考えながら、霧野も愛車である黒い軽自動車のドアを開け、馴染んだ運転席に腰を下ろした。まあ、車に関しては俺の愛車が年式古すぎるんだけどな。それに六年近く乗ってるからなあ。そろそろ替え時か？　愛車を労るように、霧野は優しくドアを閉めエンジンをかけた。<br>　優希の車が先に動いた。軽く会釈をして去って行く。<br>「どれ、俺も帰りますか」<br>　優希の姿を見送ったあと、シートベルトを締め、霧野も河川敷公園を後にした。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/nca1f8e641d62'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/119019272/profile_2526c31d1c4d3699d054f06620eb6187.jpg?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 19 Jun 2024 21:47:36 +0900</pubDate>
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      <title>『法善厳一郎　拾うは生者の反響』　　　第二話　悩み事</title>
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      <description><![CDATA[<p name="05d4cf06-cd2f-4f97-8699-ec27fe804b9e" id="05d4cf06-cd2f-4f97-8699-ec27fe804b9e">　おいマジか。思ってたよりもガチの案件じゃねえか。優希の話しを聞き終えた霧野は、顔を引き攣らせ呆然と立ち尽くした。優希の相談内容は次の通りである。<br>　<br>　優希の家族は地元でも有名な高級住宅地に住んでいる。その向かい側に六十代になったばかりの時田真奈と同年代の夫、時田一男、四十代前半で一人息子の時田大輔の三人家族が住んでいた。優希は兄弟がおらず両親も共働きだった為、幼い頃から時田家に通い詰め、息子の大輔とは一緒にゲームをしたり、宿題を教えてもらったりと、本当の兄のように慕っていた。<br>　両親の帰りが遅くなった時は、時田家の三人と食卓を囲んでいた。帰り際によくお菓子をくれたんだ。優希は微笑みながら話してくれた。<br>　ところが七年前、幸せだった時田家を不幸が襲った。大黒柱の一男が不良の事故で亡くなったのだ。優希の話しでは、晩酌を楽しんだ一男は病院から処方された睡眠薬を飲んで風呂に入ったらしい。その後、薬とアルコールの相乗効果で、顔が湯船に浸かったまま眠りについてしまった。死因は溺死だった。一男の葬儀には優希の一家も参列した。<br>　しかし、不幸はこれだけでは終わらなかった。それから三年後、今から四年前になるが、今度は息子の大輔が忽然と姿を消したのだ。直ぐに真奈は警察に捜索願いを提出し、捜査が開始されたのだが、どこを探しても大輔の姿は見当たらなかった。親戚宅や友人宅は勿論、小さい頃に行った旅行先や、万が一の事態も考慮し自殺で名の通った付近も調べたが手掛かりは何も掴めなかった。やがて時間が経つにつれ、周囲の大人達が勝手な憶測を膨らませ噂話を広げ始めた。<br>昨今社会問題になっている新型うつ病に罹ってしまい、治療を施すため夜中にこっそりと病院の車が迎えに来て入院した。と話す者もいれば、会社の金を横領して女性に貢ぎ、発覚を恐れ国外に愛の逃避行をした。という海外ドラマさながらの物語を披露する者まで現れた。挙げ句の果てには恋人を妊娠させてしまい結婚しようと決意したが、相手の両親に認めてもらえず、その女の子と駆け落ちした。なんて安っぽい創作小説を模した話まで出てきた。終いには富士の樹海に行って人知れず命を絶った。などと抜かす者まで現れたらしい。いま上げたのは全て根も葉もない噂話である。優希も時田真奈に、気にすることはないよ。おばちゃん。と声をかけていたらしいのだが、やはり失踪した息子の母親は心を痛めていたようで、勤めていた会社も辞めてしまい、現在では買い物以外では滅多に家から出なくなってしまったらしい。そもそも優希の話では、あの二人は絵に描いたような良い人達だから、絶対にそんな事はしないし、想像もつかない。とのことだ。結局今も行方はわかっておらず、優希はどうにかしてあげたいと、一人苦心する毎日を送っていたらしい。</p><p name="08450266-e163-4af7-925b-ba2dfed9dde0" id="08450266-e163-4af7-925b-ba2dfed9dde0">「な、成る程な。大まかな内容は理解した」<br>　おそらく何かしらの答えを待っているのであろう。霧野は横から食い入るように見つめてくる優希の視線を感じた。しかし、現状その想いに応えるだけの推理が成立していなかった。霧野は取り敢えず考えている振りをするため、視線を足元に落とし、新調されたばかりの遊歩道を見つめた。<br>　季節は梅雨に入る一歩手前の五月下旬。テレビや携帯に出てくる天気予報は雨ばかりで晴れを表す太陽のマークはここ一週間ほど目にしていない。例に漏れずこの日も予報通りの空模様だった。<br>　<br>早朝舞うは微風になびく小雨。<br>正午に轟くは波板で造られし軒先を打つ雨音。<br>夕刻漂うは陽光射す静寂。<br>　<br>　二、三ヶ月前ならば、冷たく乾いた風が服を突き抜け熱くなった肌を冷まし、汗も直ぐに引いたものだが、この時ばかりは違った。身体の芯が熱くなるのを霧野は感じた。普段は読者が喜ぶであろう怪奇や甘美に満ちた世界を創造している一介の物書きに過ぎないが、知り合ったばかりとはいえ、この不憫で純粋無垢な優希をどうにか助けられないか……。霧野は執筆以上に沈思黙考した。<br>　俺の頭に浮かんできたのは全部で三つだ。一つは違う都道府県でホームレスになって暮らしている。これなら身元がわからないから、警察が見つけられなくても不思議じゃあない。<br>　二つ目は真っ白な嘘になっちまうが、自分探しの旅に出て四十七都道府県を周っている。という虚構のストーリーだ。まあ現実的じゃないが、なくもない話ではある。<br>　三つ目は、なんだ、その、あまり考えたくはないが……何かトラブルに巻き込まれて、誰にも連絡できずにいる。もしくは親子喧嘩の末に……。この二つの場合、息子が生きている可能性は皆無と考えていいだろう。<br>　自分なりの答えは出た。だが、気持ちは晴れない。それを体現するかのように、汗を吸った下着が肌に貼り付いて離れようとしない。なんとも嫌な感覚である。その直感は当たっていた。優希が沈黙を破った。<br>「もう一つ、聞いて欲しい話があるんですよ」<br>「なんだ。言ってくれ」<br>　顔を伏せる優希に、霧野は優しく問うた。しかし、優希は袖から少し出した指をもじもじさせるばかりで、なかなか話そうとはしない。霧野は何も言わず、優希の返答を待った。<br>「……聞いてしまったんです」<br>　それは微風にかき消されてしまう程に小さな声であった。<br>「何を聞いたんだ」<br>「……声です」<br>「声──おいおいまさか冗談だろう」<br>　霧野は大きく身体をのけ反らせ声を震わせた。<br>「日付は忘れましたが、夜九時頃、歩いてコンビニ行ったんです。そしたら時田さん家から聞こえたんです。大輔さんの声が。優希ちゃん……助けてくれえ……って」<br>　嘘だろう。ここにきてまさかのホラー要素追加って……駄目だ。終わった。どうにもならん。霧野は勢いよく顔を上げ天を仰いだ。頭上を軽くなった雨雲が流れて行く。壮観にして圧巻。時が過ぎるのを忘れてしまう程に穏やかであった。流石のお前でもお手上げだろうなあ。霧野は仕事部屋に居る親友を思い浮かべ、そっと心の中で語りかけた。親友は古風な書斎机に置かれたデスクトップ型のパソコンのキーボードを忙しなく打っていたが、霧野の問いかけが届いたのか、手を止めて、大きな背もたれの付いた椅子に身体を預け、霧野をチラッと見たあと、微笑した。<br>《現実世界でもそうだが、もし難解な事件に遭遇した時は……まず心を落ち着かせること。そうすれば再び思考も動き出すってものさ》<br>　そういえば──そんなこと言ってたっけかな。霧野は無意識のうちに太く短い息を吐きながら、上を向いていた顔を戻し、右手で首の後ろを摩ったあと、何も考えずに周辺を見回した。<br>　刈り揃えられた芝生は黄緑色の絨毯を広げ、河口側には重く湿ったパークゴルフの旗が時折り力無くゆらゆらとなびき、上流側では雨粒を纏った白いラグビーのゴールポストが二組見て取れる。その縁を青葉を付けた木々とアスファルトで出来た遊歩道がぐるりと一周囲っている。霧野は更に視野を広げた。<br>　雑草が刈られさっぱりとした土手。合流した雨水を忙しなく海へと帰す川。上空を軽快に横切る層積雲。彼方まで続く青空と大海。その手前に座すは対岸へと車を渡す白い橋。連想するに至るは風景写真。文章を考えるのはいいことだ。一心不乱になれる。それで、次は何をやるんだっけ？　霧野が思い出せず悩んでいると、今度は親友の方から助言が飛んできた。<br>《本格推理小説を書く時の心得その三。残った可能性が合っているか否か、実際に関係者や現場に赴き情報を集めること。この時注意しなければならないのは、先程も言ったように、闇雲に歩き回らないこと。そして不用意な発言も控えること。こちらの意図を読まれたら証拠隠滅に走る可能性があるからね》<br>　了解した。まあやれる自信はねえけど。霧野は額から顎先へと流れ落ちた一つ筋の汗を、服の袖で拭い、返答を待ち侘びていた優希に視線を合わせた。<br>「そうだな。取り敢えずだ、例のご近所さんに会いに行くとするか。ここであれこれ考えていても埒が開かない」<br>「それ知ってます。現場百回ってやつですね。ドラマで見たことありますよ」<br>　優希はなぞのドヤ顔を決めながら、何度も頷いた。<br>「よし、それじゃあ一度家に帰って、そのあと落ち合うとするか。どこで合流する？　」<br>「えっ、一度帰るんですか？　」<br>　優希は不思議そうに霧野を見つめた。<br>「君はまだ走ってないからいいが、俺は走り終わったあとだからな。さっから汗で濡れた下着が肌に張り付いて寒くてさ」<br>　霧野は苦笑しながらワインレッドに白の横縞模様が入ったハイネックの長袖を、指で摘み動かして見せた。<br>　<br>　そういえば──優希はここに来た時の事を思い返した。この人、私が駐車場に入ってきた時めっちゃ険しい顔でジョギングしてたっけ。すっかり忘れてた。優希は改めて霧野の全身を下から上へ一瞥した。履き潰す寸前まで痛んだ黒いジョギングシューズ。汗を吸って重たくなった紺色のスウェット。上半身は先程述べた通り。茶色い髪の毛も汗に濡れたせいであろうか、よくよく見ると若干鈍い光りを放っているように見えた。<br>「……そうですね。霧野さんは一度お家に帰ってシャワー浴びた方がよさそですね」<br>「よし、じゃあ車まで戻るか」<br>　霧野と優希は駐車場まで続く道のりを目で追った。どうやら二人はいつの間にか河口側の芝生地帯をほぼ一周しかけていたようで、残すは左に大きく反ったカーブを残すばかりとなっていた。が、そこは少し雨が振っただけでも水が溜まりやすく、生憎この日も水没と言っても差し支えない程に水面が風で揺れていた。二人は無言で見合った。<br>「無理だな」<br>「うん、ちょっと……」<br>一言ずつ返して、吹き出したのであった。<br>　その後、霧野が靴を濡らさずに駐車場まで行くには芝生地帯を抜けるのがいいと提案してきたので、優希は快く同意し、二人は芝生へと足を踏み入れた。その直前、時間にして僅か三秒。優希の目に隣を流れる川が映った。若干の底荒れと上流から運ばれてきた土砂によって、川面には薄茶色の靄が掛かっていた。普段は無色透明。それ以外は青みたいな緑色。それがちょっとした出来事で一変してしまう。私の心と同じだ。踏む度に土の匂いを放つ芝生の上を進みながら、優希は濁った川と自分の現状を重ね合わせた。<br>　でも──優希は顔を引き締め、前を歩く霧野の背中に焦点を合わせた。この人にお願いすれば大丈夫。きっとまた、前みたいに笑って過ごせる日々がくるばす。だって川もいつかは元に戻るもん。それと同じだよ。それにしても……背中デカっ。優希は吹き出しそうになるのを堪え、熊の如くノシノシと歩く霧野の後ろをついて行った。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n17ca097006b6'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 19 Jun 2024 21:45:40 +0900</pubDate>
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      <title>『法善厳一郎　拾うは生者の反響』　　　第一話　巡り合わせ</title>
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      <description><![CDATA[<p name="c7d8ba3e-313b-4959-af73-fefbc92c5637" id="c7d8ba3e-313b-4959-af73-fefbc92c5637">【あらすじ】<br>　五月下旬のある日のこと。雨上がりの河川敷公園で日課であるジョギングを終えた霧野文和は、見ず知らずの女性──和田優希に声を掛けられ、ある相談事をお持ちかけられた。聞けば兄のように慕っていた近所の男性が行方知れずになってしまい七年の月日が流れたのだが、つい最近夜中に近所のコンビニに出掛けた時、その家の前を通ったら兄のように慕っていた男性の声が聞こえたと言うのだ。霧野は幽霊だと決めつけ怖気付いたが、優希を放っておく事はできず、二人で調査に向かった。しかし、結局何もわからず仕舞い。そこで霧野が頼ったのが本作の主人公である『法善厳一郎』だった。厳一郎は数少ない情報から推理を組み立て真相に辿り着いた。　</p><p name="cd21cb91-c25a-42d8-b333-21953f3b823c" id="cd21cb91-c25a-42d8-b333-21953f3b823c">「日が傾き天高く敷かれたキャンパスが色を変えていく。始めは黄梅のような朝日が川面や窓を照らし、それが山百合のような雲が映える天色の空へと変貌を遂げる。後を継ぐは秋風に戦ぎ収穫されるのを待つ穂の金色。束の間を彩るは多種多様な生き物がすれ違う歩道に植えられしツツジの紫。終いは物静かに佇む外灯だけが存在を主張する静夜の漆黒。見渡す限りでは生命の存在など皆無と同等に思える世界。だがどうであろう、一度聞き入れば『自分』という個体以外の万物が確かにそこに在り、主張することなくただ黙々と天寿を全うしようと励んでいる。故に私はこう思い至る。例えどんなに無頓着で尊大な人間であろうとも、他者から出ずる微かな心中の末端にさえ触れることができれば、己の犯した不徳と向き合い、猛省し、改心する機会を得られるのでないかと。さすればこの世は清浄な人間で満ち溢れ、生命を無下に扱う者は居なくなるであろう」　<br>　　霧野文和はジョギングを終えたばかりの荒々しい息遣いで呟いた。重く湿った風が河川敷公園を吹き抜けていく。俺にしては上出来だろう。あとは……これを元に……短編小説を書けば……ってさっきから息苦しいな……ちょっと喋り過ぎたか。霧野は緩徐に流れ行く雨雲を見上げ、深呼吸を始めた。そっと目を閉じ、鼻から空気を吸い込んで、吸った時間と同じくらいゆっくりと息を吐く。これを数回繰り返した。<br>　ふう、だいぶ落ち着いてきたな。霧野は首から下げていた白いタオルを手に取り、顔にかいた汗を優しく拭い去った。それから前方約三十メートルほど先に立っている樹木へと目をやった。暑くなると紫色の実をつける不思議な木である。その傍らには木目柄の綺麗な屋内時計が一つ、鉄の棒に紐で括り付けられ物静かに佇んでいた。どれ、最後に時間を確認して帰りますか。いつも通りＳ川河川敷公園と記された丸太状のオブジェから、その樹木へ向かおうと一歩を踏み出した時、<br>「あの、すみません。小説家の方ですか？」<br>　と後ろから声をかけられた。ドキリとした霧野は一瞬頭が真っ白になり、彫刻の様に固まってしまった。が、そこは霧野も三十を過ぎたいい大人である。どう対処すべきか直ぐに思考を巡らせた。しかし……ちょっと待てよ。さっきの声、女の子だったよな──しかも若い。なんということだ。ここで元来の女好きが発動してしまった。霧野は目を細くし周囲の状況を確認した。俺以外誰も居ない。ということは間違いない。彼女は俺に話しかけている。霧野は怪しまれないよう爽やかな笑みを浮かべ、軽やかに振り返った。<br>　そこに立っていたのは二十歳前後の若い女の子だった。ポニーテールの黒髪にメッシュ生地の白い帽子を被り、上半身には一回り大きい水色のスポーツパーカーを、下には黒で揃えたレギンスとハーフパンツを履いていた。ピンク色のランニングシューズも年相応の可愛らしさがあり似合っていた。<br>「着こなしが上手いな。結構お洒落じゃん。それにルックスも素晴らしい。小顔に絶妙な肩幅、細身で平均よりも高い身長。うん合格。それで、どこに行く？」<br>「あの、そういうことじゃなくてですね……」<br>　女の子は呆れた口調で返してきた。若干怒りの籠った目をベージュ色のマスクと白い帽子の間から覗かせている。マズイな。機嫌を損ねちまったか。霧野は直ぐに姿勢を正し、真面目な表情で、<br>「ごめん。そういう意味で言ったんじゃないんだ。許してくれ」<br>　と女の子に謝罪し頭を下げた。<br>「お詫びと言っちゃあなんだが、先程の質問に答えよう。正解だ。君の見立て通り俺はプロの小説家だよ。いや、お見事」<br>　霧野はショートヘアの茶色い髪の毛を右手で掻き上げた。<br>「やっぱり。まあ質問に答えてくれたから許すとしましょう。因みに私の歳はちょうど二十歳です。まあいいか私のことは。話を元に戻します。宜しければお名前を教えて下さい。ペンネームでも可です」<br>「名前は霧野文和。ペンネームは使ってない」<br>「ジャンルは何ですか？」<br>「主に純文学を書いてる」<br>「作品名は？」<br>「色々書いてはいるけど、一番売れたのは『好きなればこそ』かな」<br>　女の子は右の顳顬に指を当て、何やら考え込んでいたが、だんだん表情が曇っていき、最終的にはガクッと肩を落とし、項垂れてしまった。かと思えば、いきなりムクっと顔を上げ、<br>「純文学を書いているとおっしゃいましたが、他のジャンルはどうですか？　例えば──推理系とか」<br>　閃いたという表情で目を輝かせながら訊いてきた。<br>「うーん、謎解きかあ。俺は純文学と恋愛と人情小説以外書いたことがないからな。ちょっと、そっちの方は疎いかな」<br>　時折右手の人差し指で顎の先を撫でながら、霧野は淡白平明に答えた。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n22b03e88495b'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 19 Jun 2024 21:42:42 +0900</pubDate>
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      <title>その可能性もあるか(*´Д｀*)</title>
      <description><![CDATA[<p name="3e5837d2-af42-4d9b-9590-1845f30be7c5" id="3e5837d2-af42-4d9b-9590-1845f30be7c5">　先程上げた『違うのよ(^_^;)』に関してですが、よくよく考えると、純粋に私の書いた小説を面白いと感じて『フォロー』や『すき』を押してくれた人もいるはず。</p><p name="944cd401-8a91-4c4c-bf0f-9cafb0118935" id="944cd401-8a91-4c4c-bf0f-9cafb0118935">　そうなると『フォローバック』しないのは失礼にあたるのでは？　と思ったのですが、こういう時、皆さんはどうされていますか。<br>　<br>　うーん……難しい。取り敢えず私は静観しようと思います(^_^;)</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n829db4e7f5e3'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 13 Apr 2024 17:59:11 +0900</pubDate>
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      <title>違うんですよ(^_^;)</title>
      <description><![CDATA[<p name="ec4e3b7f-c17c-4f4c-82c2-735e53c13607" id="ec4e3b7f-c17c-4f4c-82c2-735e53c13607">　最近ですね、『noteのフォロワーの増やし方』を上げている方々からフォローして頂けたのですが、私がnoteにアカウントを作ったのは『創作大賞』に応募するためなのです。</p><p name="69722ea6-1399-48dd-bf53-aa82268799f3" id="69722ea6-1399-48dd-bf53-aa82268799f3">　ですので申し訳ありませんが、フォローバックしない場合もございますが、決して嫌いとかそういう訳ではありませんので、今後も拙作をお読み頂ければ幸いです。<br></p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n5e6cfa0365dd'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 13 Apr 2024 17:28:25 +0900</pubDate>
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      <title>『おじさんと若者』</title>
      <description><![CDATA[<p name="037f0914-c076-4169-b163-3f7293bf4c3f" id="037f0914-c076-4169-b163-3f7293bf4c3f">　三月下旬の夜のこと。コンビニの喫煙所で煙草を吸っていると、一台の白いＳＵＶが駐車場に入って来た。車内から漏れる轟音サウンドが大きなタイヤとピカピカのシルバーホイールを際立たせる。その雰囲気に嫌悪感を抱いた俺は、顔を背け、乱暴に煙草の煙を吐き出した。</p><p name="ebf83c23-8e92-4e37-957b-41c096d46bee" id="ebf83c23-8e92-4e37-957b-41c096d46bee">　やがて喫煙所の前に停車した車から一人の若い男性が降りて来た。真ん中分けの金髪ヘアスタイルに、鯉の描かれた赤いＴシャツと真っ白なジーンズを合わせた出立ち。<br>　ヤンキーかあ。そうだと思ったよ。絡まれると面倒だから、そのままコンビニに入ってくれないかな。俺は煙草を一口吸い、素知らぬ顔でそう願った。しかし、そんな想いとは裏腹に、若い男性は肩で風を切りながら喫煙所の横に陣取ると、ジーンズのポケットから値段の高い煙草を取り出し、オレンジ色の使い捨てライターで火を点け、美味そうに煙草を吸い始めた。やっぱりそうなるよね。これは諦めるしかないか。俺は夜空に浮かぶ星々を見つめ、紫煙を燻らせた。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/na713055e036c'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 05 Apr 2024 08:03:03 +0900</pubDate>
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      <title>『雨になり風になり』</title>
      <description><![CDATA[<p name="f3c3bd8d-2a13-4602-b0ea-a7f40e5b4f42" id="f3c3bd8d-2a13-4602-b0ea-a7f40e5b4f42">窓を叩く雨粒を風が連れ去って行く。<br>彼らは何の為に生まれてきたのか。<br>人を、木々を、大地を濡らし世界を潤すため？<br>それとも自然界の掟に従っただけ？<br>川を伝い海に帰った彼らは飽きもぜずまた同じ事を繰り返す。<br>母なる海にして生命の起源。<br>おそらくこの先も続けて行くのだろう。<br>でもそれでいい。だってそれが正解なのだから。</p><p name="db6380cf-350e-4f4a-8d74-b45cd2b4db95" id="db6380cf-350e-4f4a-8d74-b45cd2b4db95">それは私達も同じだ。<br>いちいち考える必要はない。<br>ただ従えば良いのだ。<br>誰かが作った社会のルールに。<br>どうせ誰かが消えても世の中は周り続ける。<br>だが、これだけは言える。<br>例え世界が滅びようとも自分という個性だけは残ると。</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n72b782bc11ba'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 29 Mar 2024 07:59:08 +0900</pubDate>
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      <title>次の目標(標的)</title>
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      <description><![CDATA[<p name="497eea36-4df9-40a3-9333-ddd616b6bfe2" id="497eea36-4df9-40a3-9333-ddd616b6bfe2">　皆さん、こんにちは。月影筆理です。今日は暑いですね。早く夜になって気温が下がらないかと、部屋の中から太陽をチラ見していたところです。</p><p name="18e85eab-7946-4f0e-b5df-0c723ae3ebdd" id="18e85eab-7946-4f0e-b5df-0c723ae3ebdd">　さて、今回のタイトルである『次の目標』についてですが、それは！　なんと！！　おそらく今年も開催されるであろう(開催してくださいお願いします)創作大賞に小説を書いて応募する事です！！！！</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n07b5fe916a19'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 16 Mar 2024 15:19:00 +0900</pubDate>
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      <title>賞の選考結果</title>
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      <description><![CDATA[<p name="665b9ea5-b00d-4607-96fd-c8666930b466" id="665b9ea5-b00d-4607-96fd-c8666930b466">　カクヨムコン9の中間選考結果が発表されました。<br>私は純文学と現代ファンタジーを書いて応募しましたが、両方とも駄目でした。<br>　本来であればカクヨムの近況ノートに載せるべき内容ですが、そんな気分にはなれず……だからと言ってSNSで言うのも違うかなあと思いまして、それでここ(note)に上げる事にしました。<br>　<br>　うーん、なんかね、最近疲れちゃってね。なかなか執筆する気が起きないのよ。それでも頑張ってるけどさ……ここに来てこの結果……うーん。<br>　<br>　でも、プロの小説家になる夢は捨てない。今でも目指してるからね！？　諦めてないから！！　という訳で今後も応援よろしくお願いします！！<br>　<br>　書いてる最中に思ったんだけれども、noteは日記みたいにしようかな。その方が合ってるかも。</p><p name="9cb5bbc1-902d-4ede-b273-5de59dd8308e" id="9cb5bbc1-902d-4ede-b273-5de59dd8308e">　では、失礼します。<br><br>　<br></p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n9b8742239b78'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 13 Mar 2024 13:41:37 +0900</pubDate>
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      <title>抜け殻</title>
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      <description><![CDATA[<p name="58d016d1-92f6-4117-ae15-49e987cee89e" id="58d016d1-92f6-4117-ae15-49e987cee89e">弱い日差し<br>肌を指す寒波<br>乱舞する落ち葉<br>虫さえもいない公園</p><p name="be5f361a-2913-405f-a223-d9a27c960f6e" id="be5f361a-2913-405f-a223-d9a27c960f6e">それを眺める空っぽの僕<br>いつからここに居たのか<br>なぜここに来たのか<br>何もわからない</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/n1195e83b0e6c'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 20 Nov 2023 04:12:41 +0900</pubDate>
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      <title>アナタ</title>
      <description><![CDATA[<p name="40a2a11d-3376-46d9-9d68-ec8845a946ab" id="40a2a11d-3376-46d9-9d68-ec8845a946ab">　アナタはいつもそうだった。何も言わず、ただ、私をじっと見つめていた。<br>朝の最寄駅のホーム、皆んなスマホや雑誌や新聞に見入っているのに、アナタだけはずっと私を見つめていた。たまに目が合うと、アナタは嬉しそうにニタっと笑い、爛々とした表情を浮かべた。私は怖くなった。用もないのにスマホを弄ったり、他の人の後ろに隠れたりもした。とにかくアナタを視界から外したかった。<br>それなのに……アナタは私を見つめるのをやめなかった。<br>　<br>　外回りから会社に戻る途中、前髪が気になり鞄から正方形の手鏡を取り出して、鏡を覗き込んだら──独り佇むアナタの姿が映った。アナタは行き交う雑沓などものともせずに距離を縮めて来た。<br>逃げなくちゃ──私は震える足で歩き始めた。しかしまともに歩くことができず、歩道のちょっとした段差に躓いて、盛大に転んでしまった。その時、たまたま近くに居た会社の先輩が気付いて声をかけてくれた。その先輩はとても優しかった。人見知りで内向的な私にも、まるで古くからの友人のように話しかけてくれた。私はその先輩と一緒に会社へ帰った。その後も会社で顔を合わせる度に、私の胸は高鳴り強く脈打った。これが恋なんだと知った。<br>　<br>　暫くして、私と先輩は恋仲になった。人生で初めての彼氏。歳は私より三つ上の二十八歳。父親も男兄弟もいなかった私には全ての事が新しく、楽しかった。<br>「遥香の手料理が食べたいな」<br>　そう言われた時は、スーパーで食材を買い、彼の家に行き、母から教わった手料理を振る舞った。それを牧雄はあっという間に食べてしまった。心配になった私は洗い物をしながらそれとなく、<br>「男の人っていっぱい食べるんだね。足りた？」<br>　と聞いた。するとリビングでくつろいでいた牧雄がキッチンへとやって来て、<br>「大丈夫、お腹いっぱいになったよ。ありがとう」<br>　後ろから優しく抱きしめて頬にキスをしてくれた。私は嬉しくなり、牧雄の唇にお返しのキスをした。<br>　初めてお泊まりした翌朝、突然洗面所からジジジジジーと蝉の鳴き声の様なすごい音が聞こえてきた。慌てて様子見に行くと、牧雄が寝ぼけた顔で、<br>「おはよう。どうした？」<br>　と見知らぬ黒い機械を片手に聞いてきた。私は牧雄が手に持っている物を指差して、<br>「それは何？」<br>　と何も知らない幼子の様に訊いた。<br>「これか？　これは、髭を剃るための電動シェーバーだよ。男の七つ道具さ」<br>　寝起きで呂律が回らなかったんだね。時々声を裏返しながら教えてくれた。その様子があまりにも可笑しくて、私は朝からお腹を抱えて笑ってしまった。<br>　<br>　そんな幸せな日々が続いたある日の夕方、私は母と暮らす部屋へと向かっていた。最近は牧雄の家に泊まることが多く、母と暮らしているアパートに帰るのは週に三日ほどまで減っていた。そういえば、以前アナタの事も母に相談したんだよね。最初は母も警察に行った方がいいんじゃないかって心配してたけど、アナタの容姿を伝えた途端、母の表情が一気に曇り、急に口を閉ざしてしまった。それから、「危害を加えないなら、様子を見ましょう」と囁くように言った。私は訳がわからず抗議したが、母の意見は変わらなかった。いま思いば当たり前のことだったんだよね。<br>　でも、私は知らなかったから、玄関を開けて部屋の電気を点けた時、口から心臓が飛び出しそうになった。だってそうでしょう。本来居るはずのないアナタが部屋の奥の窓際に立っていたんだから。私は恐怖に縛られ動くことができなかった。叫ぼうとしても喉が言うことをきかなかった。その間もアナタはずっと私を見つめていた。いつもと違ったのは、口がパクパクと動いていたこと。実際に言葉を発していたのか、それとも私の見間違いだったのか。今となってはもうわからない。覚えているのは、あなたが私に近付いて来たこと……恐怖に駆られた私が台所にあった包丁を握りしめたこと……その時アナタが「遥香、落ち着け」と言ったこと……その言葉を聞かず私がアナタの心臓を刺したこと……。帰って来た母が私とアナタを交互に見て、アナタに覆い被さり泣き崩れながら、「どうして『お父さん』を刺したの！　なんで！」<br>　と私に言ってきたこと……訳がわからなかった。それから母の泣き声を聞いて飛んできた、隣に住む六十代くらいの男性が慌てた様子でどこかに電話をかけていたこと……。<br>　パトカーの後部座席に乗せられた私は、何も考えられず、頭を窓にくっ付け、ぼんやりと外の景色を眺めた。与えられた役目を果たすため、機敏に動き回る警察官たち。その中に、アパートの階段に座り込む母の姿があった。複数の婦人警官たちが、母を慰めるように肩や背中を摩っていた。頭の中で母の言葉が反響する。お父さん……オトウサン……おとうさん。そっか、離婚したから声をかけづらかったんだね。でも、私を放っては置けなかったから、いつも距離を取って『見守って』くれてたんだね。<br>　私は泣いた。堰を切ったように涙が溢れ出した。恥も見聞も無く、鼻水と涎を垂れ流して泣きじゃくった。最後に私は嗚咽混じりに叫んだ。<br>「どうして言ってくれなかったのよおおおおおお！」　　　　　　　　<br>　　　　　　　　　　　　　終わり</p><br/><a href='https://note.com/fuderitsukikage/n/nf9a877b851b1'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>月影筆理</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 17 Oct 2023 12:17:16 +0900</pubDate>
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