
#29 娘に作ったプラモ全部同じじゃんと言われた日【スピットファイア前編】
中学生の娘が言う。
「全部一緒じゃーん」
机の上には、1/48のスピットファイア。
沢山のバリエーションがある。
「1個あれば良くない?全部おんなじに見える」

いや、違うんだよ娘ちゃん!
ほら!
あっちももこっちも全部違うんだ!

そんな言い訳をしながら、年頃になっても父親の僕に興味を向けてくれていることに感謝している。
小さいときは、まだ塗装中で乾いていない模型をわざと触って、
「パパ、今これ作ってるの?」
「そうだよ、まだ、乾いてないから触ると塗料がつくよ」
「発進!」
「やめてくれ、触らないで、発進しないで!」

そうやって僕が慌てて取り乱している様子をケラケラ楽しそうに笑っていたのは、何年前だろう?
その、娘ちゃんも中学生。
並べられたスピットファイアたちから、
「よかったね!」
「いい娘さんに育ってるね!」
と褒めてもらっているようで誇らしい。


世界一美しい戦闘機、スピットファイア。
名前の由来が面白い。
「おてんば娘」、とか、「癇癪持ち」、みたいな意味らしい。
開発元のヴィッカース社のトップが、元気いっぱいで、気の強い自分の娘のことを「リトル・スピットファイア」と呼んでいて、そこから名前が来た、なんて話もある。
一見、愛する娘を思う「良い話」と見せかけておいて、
ちょっと待ってくれ。
娘の愛称のついた飛行機を、戦場に連れていきたいか?
相手は、ヒトラー率いるドイツの戦闘機。
いやいや。
同じ父親として思う。
そのお父さん、どういうやつなんだ!笑

うちの娘は、とにかく、片付けが出来ない。
一緒に片付けても、何日もしないうちに脱いだ洋服で、床が見えなくなっていく。
「娘ちゃん、足の踏み場もないよ。これじゃ部屋を歩けないよ」
「大丈夫、歩ける、そのまま洋服を踏んで真っすぐ歩けばいいから」
「ばっかやろう笑」

愛情を込めて呼ぶなら――「小さな豪快ガール」ってところかもしれない。
娘がかわいくない父親はいない。
戦場に連れて行きたい訳がない。
それなのに、戦闘機に娘の愛称をつけたのは、
一体なぜなんだろう?
娘の中学の楽しい話を聞きながら、スピットファイアを棚に戻した。斜め45度に並んだ鼻先が、何かを語っているように見えたけど、聞こえては来なかった。
でも世界一美しい戦闘機の名前が、「おてんば娘」。
それはなんだか、平和な響きだなと思った。

戦闘機模型を眺めながら、我が家の平和な時間が過ぎてゆく。