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【村の風景】奥さん、いますよ!

    袋小路にある我が家は、三毛姉さんのママが子育てしたくらい、村の猫さん達に人気のスポット。

    車が通らない。人も通らない。

    庭でお昼寝してたりします。

    ま、三毛姉さんと黒ねこ君は、知らない猫が来ると大騒ぎしますけど。

    僕たちのテリだぞっ!

    窓ガラス越しに、ニャーニャー騒ぎながら、行ったり来たり。

    そんな中に、もふもふの毛のもふ太郎はいました。

    耳はV字カットされています。

    せっかく我が家に来るようになったんだから、お水くらいは置いてあげよう。

    そう思ってお水は置いたんです。

    だけど、あまり来なくなっちゃった。

    もふ太郎、大丈夫かな。

    夫婦の話題に、もふ太郎はよく登場するようになりました。

    とてもビビりで、人を見ると、あわわわ、ってすぐに逃げる子です。

    何もしないよ。

    思わず苦笑い。

    アレでは、家猫になるのは難しいよな。

    夫婦で話してたんです。

    ご飯をあげても良いけど、アライグマ来るしな……。


    「ちょっとちょっと!」

    お風呂掃除をしていた妻に、小声で呼ばれたんです。

    ん?

    行ってみると……。

    お風呂の網戸越しに、道を隔てたお向かいさんの庭。

    そこに、もふ太郎がいました。

    なんかくつろいでる?

    窓越しに、そこんちの猫ちゃんの姿も。

    ウチの猫さん達と違って、大騒ぎしてません。

    ただ、座って見ています。

    あっ!?

    お庭に面した窓が開いて、お向かいの奥さんの手が。

    お皿にキャットフード。

    もふ太郎が、ガツガツ食べています。

    お腹、空いてたんですぅ、って言ってるみたいに、一心不乱って感じ。

    もふ太郎をビビらせないように、そっとお風呂場から私達は離れました。

    「アレじゃ、ウチには来ないね」

    苦笑いの妻。

    「あそこは水しかくんないし、って感じ?」

    「そうそう。しかも、意地悪な猫もいるし」

    「ウチ、最悪じゃん」

    「でも――」

    妻は微笑みました。

    「良かった」

    だね。

    もふ太郎に、安住の地が出来た。 


    それから見てると、もふ太郎は、朝に夕に、お向かいさんのお庭で待つようになりました。

    チュールも貰ってるみたい。

    お向かいさんのペースもあるんでしょう。

    もふ太郎はお行儀よくじっと座って待ってるんですが、窓が中々開きません。

    もふ太郎は、我が家の方なんて見向きもしない。

    そんな時、思うんです。

    テレパシーがあったらな。

    奥さん、いますよ!

    待ってますよ!

    あっ!

    もふ太郎が後ろ足で立ち上がりました。

    すると、窓が開いて、奥さんの手が。

    ご飯山盛りのお皿が、すっと差し出されます。

    一瞬、逃げるもふ太郎。

    でもすぐ駆け寄ります。

    わーーーい!

    ガツガツと食べるもふ太郎は、全身でそう言ってるみたい。

    良かった。

    つい笑顔になってしまいます。

    外猫さんも、村の仲間です。

    長く生きて欲しいですから。

    一応、新鮮なお水は、置いとくからね。

    でも、お水じゃチュールに勝てませんか。

    #創作大賞2026 #コミックエッセイ部門

     
     
    夫婦と猫と、秘湯と食。 日常の中にある小さな物語を、静かに書いています。

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