見出し画像

❤️ 第115話:函館山のロープウェイの独り言(北海道編)

日が暮れて、函館の街に、ぽつり、ぽつりと灯りがともりはじめる。

その光を、わたしは山の中腹から、ずっと見つめている。

さあ、そろそろわたしの時間だ。夜が深まるほど、わたしの胸は高鳴っていく。

わたしは、ロープウェイ。

函館山の、ふもとと山頂を結ぶ、赤いゴンドラだ。

一本のロープにぶら下がって、街の灯りを見たい人たちを、静かに山頂へと運んでいく。それが、わたしの役目さ。

夕暮れどき、ふもとの駅に、人がぞくぞくと集まってくる。

旅の人。カップル。家族連れ。みんな、少しそわそわして、これから見る夜景に胸をふくらませている。

「わあ、けっこう並んでるね」「なまら混んでるっしょ」

そんな声を聞きながら、わたしは大きな扉を開けて、みんなを迎え入れる。

定員いっぱいの人を乗せて、わたしは、すうっと宙へ浮かびあがる。

ぐんぐん、高度を上げていく。

窓の外では、函館の街が、みるみる小さくなっていく。地上の灯りが、だんだんと、宝石をばらまいたように広がっていくんだ。

「見て、すごい……!」

車内が、ざわめきに包まれる。

みんなが窓に顔を寄せて、息をのむ。

その瞬間が、わたしはたまらなく好きだ。

函館の夜景があれほど美しいのは、函館が、両側から海にはさまれた「くびれた地形」の街だから。細くなった土地に灯りがぎゅっと集まり、その両脇を真っ暗な海が縁取る。だから、光のかたちがくっきりと浮かびあがるんだ。あの独特の夜景は、この土地のかたちそのものが生んだ景色なんだよ。

山頂に着くと、みんな、われ先にと展望台へ走っていく。

そこに広がるのは、百万ドルとも称される、光の海。

ゆるやかにくびれた街の灯りが、暗い海のあいだで、きらきらと瞬いている。

「来てよかったね」「んだ、ほんとに」

そんな言葉が、あちこちから聞こえてくる。

寒い夜もある。

冬なんて、しばれる風がびゅうびゅう吹いて、展望台に立っているだけで、体の芯まで冷えてくる。それでも、みんな、コートの襟を立てながら、いつまでも夜景を見つめている。

それだけの価値が、この景色にはあるんだ。

夜がふけて、最終便の時間になる。

名残おしそうな人たちを乗せて、わたしは、また静かにふもとへ降りていく。

窓の外の光が、だんだんと近づいてくる。さっきまで見下ろしていた街に、また戻っていくんだ。

「ああ、あずましい夜だったねぇ」

満ち足りた顔で、そうつぶやく人がいる。

その一言で、わたしの一日も、報われる。

明日もまた、日が暮れれば、街に灯りがともる。

わたしはまた、その光を見たい人たちを、山頂へ運ぶ。

息をのむ、あの瞬間のために。

この話、いいなあと思ってくれたら、そっとスキを押してけれ。

フォローしてもらえたら、したっけ、また夜景を見に来てね、と赤いゴンドラで待ってるからさ。

#北海道 #函館山 #函館夜景 #ロープウェイ #擬人化エッセイ

いいなと思ったら応援しよう!

風369 🌿チップでの応援、ほんの少しでも嬉しいです。いただいたご支援は、新しい記事づくりの糧にします。