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Photo byjunko_omnibus

心のつっかえが、そっとほどけた日~夫と再会

    ひろみ


    離婚して8年が過ぎた。

    長かったような気もするし、
    振り返れば必死だっただけのような気もする。

    子どもを育て、
    働いて、
    暮らしを守る。

    私よりも子どもがよく
    頑張ってくれた。

    毎日を乗り越えることに必死で、
    気づけば8年という時間が流れていた。


    まさかこんな日が来るなんて・・・

    ある日、
    ひょんなことから元夫と連絡を取ることになった。

    娘を見つけ「おう」と言わんばかりに
    手をあげる。
    その視界には私はいない。

    そのあとにすーっと視線を私に向け、
    軽く頭を下げた。

    そのあと、
    沈黙が怖いのか、
    今まで一人で寂しかったか、
    夫は妙によくしゃべった。

    子どもの話。

    孫の話。

    仕事の話。

    どこか気まずさを隠すように、
    言葉を探しながら話しているようだった。

    私はというと、

    「そうなんだ」

    「へぇ」

    それくらいしか言えなかった。

    昔なら声を聞くだけで苦しかったかもしれない。

    もう関わりたくない。

    顔も見たくない。

    そんな時期も確かにあった。

    けれど不思議なことに、
    あの頃のような憎しみも恐れもなかった。

    ただ、

    「あぁ、お互い歳を取ったんだな」

    そんなことを思った。

    久しぶりに会った夫は、
    白髪が増えていた。

    少し背中も小さくなったように見えた。

    きっと私も同じだろう。

    子どもたちはよく言っていた。

    「お父さん頑張ってるよ」

    「一人でちゃんとやってるよ」

    私はその言葉を聞くたびに、
    少し複雑な気持ちになっていた。

    子どもたちは昔のことを知らないわけではない。

    それでも父親を大切に思っている。
    血のつながりってこういうことなのか。
    そう心が叫んでいる。

    その姿を見ると、
    胸の奥がざわついた。

    今ならわかる。

    私は寂しかったのだ。

    子どもたちが父親とつながるたび、
    自分が置いていかれる気がしていた。

    誰にも取られないのに、
    勝手に取られる気がしていた。

    心のどこかで、
    私は子どもを取り合っていたのだと思う。

    子どもは、「モノ」でもなんでも
    ないのに。

    もちろん、
    私ひとりの心の中で。

    ある日、
    孫のお守りを頼まれた。

    これもこうなる運命だったのか・・・

    元夫と私、
    そして孫。

    三人で過ごす時間。

    少しだけ緊張した。

    けれど孫は、
    大人の事情など関係なく笑う。

    久しぶりの赤ちゃん。
    自分の子育てがよみがえる。

    その姿を見ているうちに、
    自然と会話が生まれた。

    子どもたちが小さかった頃の話。

    それぞれの子どもの成長の違い。

    あの子はこんな子だったよね、と笑う話。

    気づけば、
    久しぶりに同じ思い出を見ていた。

    その時だった。

    夫がぽつりと言った。

    「今、いきいきしてるな」

    そして少し間を置いて、

    「俺はその笑顔を奪ってたのかもしれないな」

    と続けた。

    昔の私なら、
    反論したかもしれない。
    し、
    「何を言ってるの、今さら」
    と素直に受け取れないでいたかもしれない。

    責めたかもしれない。

    でもその時は違った。

    ただ、
    そう思えるようになったんだなと感じた。


    三人の子育て。

    仕事。

    お金。

    責任。

    余裕なんてなかった。

    会話をする余裕も、
    相手を思いやる余裕も。

    本当は苦しかったのに、
    苦しいと言えなかった。

    寂しかったのに、
    寂しいと言えなかった。

    それはお互いにだろう。

    だから少しずつ、
    心が離れていったのだと思う。

    もちろん、
    過去が消えるわけではない。

    なかったことにもならない。

    けれど時間は、
    人を変えることがある。
    たくさんの経験を経て。

    あの頃見えなかった景色を、
    見せてくれることがある。

    帰り際、
    夫が言った。

    「当たり前の幸せに気づいてなかったな」

    私は思わず首を静かに縦に振った。
    それと同時に

    涙が溢れた。

    わたしは、ありがとう、ごめんね、
    が言えなくなっていたんだ。

    あの頃はみんな必死だった。

    幸せになるために頑張っていたのに、
    目の前にある幸せを見る余裕がなかった。

    子どもたちの笑顔も。

    家族で囲む食卓も。

    何気ない会話も。

    失って初めて、
    その大切さを知るものがある。

    気づけば、
    夫も涙ぐんでいた。

    夫婦に戻ることはない。

    お互い別々の人生を歩いている。

    それでもあの日、

    長い間胸の奥に残っていた心のつっかえが、
    そっとほどけた気がした。

    人は変われる。

    劇的ではなくても。

    少しずつでも。

    そして時には、

    分かり合えなかった人と、
    分かり合えることもある。

    人生は不思議だ。

    だから今日も私は思う。

    当たり前だと思っている幸せほど、
    本当はかけがえのないものなのかもしれないと。


    最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

    えがおプラスありがとうを込めて~

    ひろみ

     
     
     
    心を解きほぐすカウンセラー|精神科看護師16年|「ちゃんとしなきゃ」で苦しくなる女性が、自分で自分を幸せにする自己理解・思考整理・心の整え方を発信|信念「心が変わると、未来の選択が変わる」 「どんなお悩みでも呟いてみて。匿名でお気軽にどうぞ。」

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