
『こわがりのすん』13おばあちゃんちに行く!
夏になると毎年、「おかさん」の実家に泊まりに行く。
滋賀県の家には、祖父母と伯母夫婦といとこ達が暮らしている。
だいたい「おとさん」は別の用事で出かけていることが多く、いつも四人で泊まる。
旅は、非日常が味わえる。
なんせ札幌から滋賀県までは遠いので、行き帰りだけで大旅行になる。
まず札幌から在来線で、函館まで行く。
その電車の中で食べる駅弁の味は、格別だ。
プラスチックの小さなカップのついたお茶も、
ままごとみたいで楽しい。
そして冷凍ミカンも定番だ。
函館から青森までは、青函連絡船に乗る。
フェリーに乗ると「すん」は、デッキに出て船尾から海を覗き込むのが好きだった。
潮風が気持ちいいし、青い空と青い海、そしてフェリーから流れ出る白い泡の筋は、どれだけ見ていても見飽きない。
際限なく流れ続ける泡が何処から出ているのか確かめたくなった「すん」は、少し錆びた手すりから身を乗り出す。
「すんちゃん、危ないから中入ろう」
「おかさん」が心配する。
なんせ「すん」は、井戸に落ちた前科者だ。
だから「おかさん」は、気が気ではない。
「すんちゃん、お味噌汁買ってあげようか?」
「お味噌汁?飲む飲むぅ」
「すん」は売店で、シジミの味噌汁を買ってもらった。
発砲スチロールのカップに入った味噌汁は、海の味がした。
青森から上野までは、寝台列車に乗る。
寝台列車の発車の時間までは、たっぷり時間がある。
「ぽみちゃん」と「ようちゃん」は、駅のホームの立ち食い蕎麦を食べに行ってしまった。
「おかさん」と先に列車に乗った「すん」は、二人がなかなか戻って来ないので心配になる。
とうとう発車ベルが鳴って、列車が動き出してしまった。
えぇー、二人とも置いてかれちゃったの?
しばらくすると「ぽみちゃん」と「ようちゃん」が、両手に蕎麦と青リンゴを一つづつ持って、こぼさない様に気をつけながら戻って来た。
あぁ〜、良かったぁ。
二人は、「おかさん」と「すん」の蕎麦を買ってきてくれたのだ。
ネギがたっぷり入った蕎麦は、最高に美味しい。
そして青リンゴも。
歯磨きの後、四人でババ抜きをして、それぞれの寝台ベッドに潜り込む。
シーツも毛布をくるんだカバーも、糊が効いていい匂いがする。
カーテンを閉めると、自分だけの秘密基地になる。
「すん」は寝転びながら、窓から外の景色を眺めた。
夜の畑や田んぼを走るのは、幻想的だ。
遠くには山や林も見え、眩いばかりの星空に目が眩む。
かと思えばトンネルに入り、自分の顔が反射して見える。
景色を眺めているうちに「すん」は眠ってしまい、気づいた時は朝だった。
これからは、新幹線と電車を乗り継ぐ。
新幹線の食堂車でコーンスープを食べるのも、楽しみの一つだ。
スープにはクルトンが浮かんでいて、それはそれは特別なご馳走だった。
そうこうして、やっとやっと「おばちゃあちゃんち」にたどり着いた。
いとこの「みりちゃん」と「やそちゃん」に会うのも久しぶりだ。
晩ごはんの後は花火をして、それから縁側でスイカを食べる。
もう楽しくて楽しくて、仕方がない。
寝る時は、「みりちゃん」と「ぽみちゃん」と一緒の部屋。
いつも一人で寝かされいる「すん」は、それがとっても嬉しかった。
せっかくだから、おねさん達とはしゃぎたいのだが、もう眠くて目が開かない。
そして眠いのと同時に、さっき蚊に刺された足が痒い。
ちょうど隣にいる「ぽみちゃん」が、凸凹したサッカー生地のパジャマを着ていたので、痒い足を擦るのに都合がいい。
「すん」は痒い足を、「ぽみちゃん」のパジャマの足の部分でスリスリした。
「もう、何してるの?すんちゃん、変な子ぉ」
それが結構気持ち良かったので、変だと言われようがやめられない。
「すん」は、足をスリスリしながら眠りについた。