
『こわがりのすん』19ピアノの発表会🎵
「すん」は、ちょっとだけピアノを習っていた。
ピアノの「しょうじ先生」は、肘や手首の角度に厳しかった。
それから
「殻を剥いたゆで卵を持っているような手で弾きなさい」
と言う。
そんな難しいことって出来る?
ゆで卵は固茹で?半熟?
それを習得する前に辞めてしまったのだが、「ゆで卵の手」は勘違いだった可能性大だ。
そんな「すん」も、発表会に参加した。
発表会のために「おかさん」は、ワンピースを買ってくれた。
当日は、用事のある「おかさん」に代わって、「ぽみちゃん」が付き添ってくれる。
「すん」は白いワンピースに黒いボレロを着て、タイツとエナメルの靴を履いた。
「ぽみちゃん」もお洒落している。
会場のホテルに着くと、ドレスを着た子達もいる。
「すん」は、ちょっと羨ましかった。
「しょうじ先生」は、ふんわりしたクリーム色のドレスを着て、髪をカールさせていた。
そして司会進行は、キラキラした緑色のピッタリしたドレスを着た女の人がする。
カメレオンのようなドレスの司会者は、「しょうじ先生」よりも目立っていた。
司会者は、スムーズに会を進行させていく。
小さい子達から演奏していくが、みんな愛嬌と可愛さで観客を虜にする。
曲の間には、司会者が軽妙なトークで観客を笑わせる。
けれど「しょうじ先生」だけは、ずっとうつむいて黙っていた。
「すん」の出番も近づき袖で待機していると、髪に大きなリボンをつけた女の子が曲の途中で止まってしまった。
可愛いそうに。
でも、もう一度最初から弾き直して、なんとか弾き終えた。
すると司会者は、
「皆さまー、盛大な拍手をどうぞー‼︎」
と、観客を煽る。
温かい拍手に、リボンの女の子はホッとした様に笑った。
良かった。
次は「すん」の番。
何を弾いたか覚えてないが、短調の曲を二曲弾いたような気がする。
あっという間だったので、上手く弾けたかどうかは分からないが、とにかく終わった。
そして、全員の演奏が終わった。
すると童謡のカラオケが流れ、司会者が
「さあ、ここからは、みんなで歌いましょう‼︎」
と盛り上げる。
もう彼女はノリノリだ。
「アーイアイ、アーイアイ、おさーるさーんだよぉー」
観客も仕方なく手拍子しながら、歌い出す。
すると司会者は、もっと盛り上げれとばかりに、コールアンドレスポンスを始め、観客にマイクを向ける。
「アーイアイッ‼︎」
「アーイアイ!」
「アーイアイッ‼︎」
「アーイアイ!」
次に司会者は、「ぽみちゃん」にマイクを向けた。
急にマイクを向けられてうろたえた「ぽみちゃん」は、かすれた裏声で
「みな〜みの しま〜の〜」
と歌った。
ヘッタクソ〜。
司会者は、お構いなしで
「アイアイアーイッ‼︎」
「アイアイアーイ!」
「アイアイアーイッ‼︎」
「アイアイアーイ!」
「しっぽのー なーがいー」
と、コールアンドレスポンスを続ける。
それでもずっと「しょうじ先生」は、うつむいていた。
たぶん、あれは絶対、笑いを堪えていたんだと思う。
可笑しくて仕方がないのを、必死に我慢していたのだろう。
「すん」の発表会は、ノリノリのカメレオンドレスの司会者と「ぽみちゃん」の裏声の歌、そして笑いを堪える「しょうじ先生」のコラボで幕を閉じた。
先生は、家で爆笑してたかもしれない。
でも改めて今思うのは、場の空気を掌握する司会者の凄さだ。
「しょうじ先生」は、安心して司会者に任せ切っていたのだろう。