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『こわがりのすん』6アッコちゃんのコンパクト

    「すん」は、アニメの『ひみつのアッコちゃん』に憧れていた。

    アッコちゃんは、魔法のコンパクトを持っている。
    そのコンパクトを開いて、

    「テクマクマヤコン テクマクマヤコン ◯◯になれ〜」

    と言うと何にでも変身できる。

    そして

    「ラミパス ラミパス ルルルルル」

    と言えば元に戻ることができる。
    こんな素敵なことってあるだろうか。

    毎回、テレビに釘付けになって見ていると、
    また凄いCMが流れる。

    なんとあの、あの、
    アッコちゃんのコンパクトが売っているのだ。

    そして画面の中の女の子は、コンパクトを開いて魔法の言葉を唱えると、本当にお姫様に変身してしまう。

    本物の魔法の道具が、実際に売ってるなんて凄くない?

    そう思うと「すん」は、コンパクトが欲しくて欲しくて欲しくて、堪らなくなった。

    早速「おかさん」に、お願いする。

    「ねぇ、ねぇ、ねぇ」

    「すんちゃん、なぁに?」

    「コンパクトかって。ねぇ、いいでしょ。おねがーい」

    「コンパクト?そんな物が欲しいの?」

    「すん」は、コンパクトは変身するための魔法アイテムだと思っていたので、それ以外の用途があることすら知らなかった。

    しかしコンパクトは、一般的には化粧アイテムである。
    なので「おかさん」の返事は、こうだった。

    「そのうちね」

    そう言われると、それ以上はねだれなかった。


    それからしばらくして「おとさん」の知り合いから、
    ホタテ貝が沢山届いた。

    その日の晩ごはんにはホタテを殻ごと焼いて、
    バターとちょっぴりお醤油を垂らして食べる。

    熱々のホタテは、美味しかったのなんのって。
    貝殻に溜まったホタテの汁も、一滴残らず啜る。

    「あー、おいしかったぁ」

    後にも先にも、
    あんなに沢山のホタテを食べたことはない。
    「おとさん」の知り合いに感謝だ。

    そして翌日、「おかさん」がプレゼントをくれた。

    それはホタテの貝殻で作った、
    手製のコンパクトもどきだった。

    開いてみると、
    貝殻の裏側に「すん」の顔の絵が描いてある。

    「すん」は、ドキドキしながら呪文を唱えてみた。

    「テクマクマヤコン テクマクマヤコン アッコちゃんになれ〜」

    しばらく目を閉じてから、ゆっくり目を開けた。

    手製のコンパクトは、売っているコンパクトより魔法の威力が少し弱いのかもしれない。

    「すん」の見た目は、あまり変わっていなかった。

    でも気分だけは、すっかりアッコちゃんになれた。


     
     

    子葉

     
     
    日々の暮らしの中で心が震えたことや、湧き上がるとりとめのない感情を書き留めています。 九州男児の父と関西女の母に育てられ、北から南まで日本の各地に移り住んだので、 様々な土地の方言や文化が私の思い出に存在しています。

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