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『こわがりのすん』12「おとさん」の書斎

    私の海馬のメモリーが、そろそろ満杯になりつつある。

    そこで『こわがりのすん』シリーズで記憶をアウトプットし始めたのだが、書くのが追いつかないほどイモヅル式に思い出が甦り出した。

    というわけで、昭和の変な子どもの思い出話は、もうしばらく続く。


    「おとさん」の書斎は、普段はなかなか入れなかった。
    でもたまに「おとさん」が留守の時、「すん」は書斎を探検してみる。

    書斎には、真鍮の取手の引き出しがついた大きな机があった。
    そして肘掛けと座面にビロード貼りのクッションが付いた木製の回転椅子がある。
    椅子は年代物らしく、肘掛けのクッションは擦り切れて中の綿やワラが見えている。

    その椅子には、「おとさん」のフィッシャーマンズカーディガンが掛けてある。
    革製のくるみボタンと肘当てのついたグレーのカーディガンは、分厚くてあったかい。

    この部屋で「おとさん」は暖房を出来るだけ使わずに、カーディガンを羽織って何かを読んだり書いたりしていた。

    机の上には読みかけの本や原稿用紙、モンブランの万年筆とインク壺、赤青鉛筆などが無造作に置かれている。

    もちろん「すん」は、触ったりしない。
    その代わりに、本棚にある本の背表紙の文字を読んでみる。

    最近、「すん」はカタカナが読めるようになったのだ。
    そしてここには、変わった題字の本が並んでいる。

    「すん」は、背表紙の文字を読んで、本の中身を想像してみる。

    『カ ッ パ ド キ ヤ』

    すると「すん」の脳内では、

    「オイそこの河童、退きやがれぃ」

    と、べらんめい調で怒鳴る輩の姿が浮かび上がる。

    それから、

    『ツ ラ ー』

    ツラーって、辛い話のオンパレード?

    正しくは『カッパドキア』で、本はトルコの遺跡の写真集だった。
    そして『ツラー』だと思っていたのは、ドイツの詩人シラーの詩集だった。

    結局、どっちの本も背表紙しか読んだことはない。
    なので私の知識量は、あの頃と大して変わってない。


     
     

    子葉

     
     
    日々の暮らしの中で心が震えたことや、湧き上がるとりとめのない感情を書き留めています。 九州男児の父と関西女の母に育てられ、北から南まで日本の各地に移り住んだので、 様々な土地の方言や文化が私の思い出に存在しています。

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