【ショートショート】ラジオDE人生相談。第二回 マスクのすきまお埋めします!
「はい!すきま女さん、今回もよろしくお願いします!」
ディレクターの軽快な合図とともに、スタジオに深夜放送らしいメロウなBGMが流れ出した。
「人は皆、答えのない暗闇を彷徨う旅人のようなもの。皆様の心のすきま、お埋めします。深夜の人生相談室『ラジオDE人生相談』。司会はわたくし、愛土容子(あいつち いれこ)です。そして回答者は、前回大きな反響をいただきました、すきま女さんです。よろしくお願いします」
「ふつつかものですが……よろしくお願いしますぅ」
すきま女は相変わらず、マイクの前で縮こまりながら、消え入るような声で挨拶した。
「それでは、最初のお悩みです。東京都にお住まいのペンネーム『マスクの女』さんからいただきました。さっそく電話をつないでみましょう。……マスクの女さん、こんばんは!」
「こんばんは。よろしくお願いします……」

電話越しの声は、どこか不気味に響いている。
「今回も回答者として、すきま女さんにアドバイスをいただきます」
「本当ですか? 前回の放送を聴いて、すっかりファンになってしまったんです。お話しできて嬉しいわ。よろしくお願いしますね」
(あの支離滅裂な回答の、どこに惹かれる要素があったんだろう……)
すきま女は内心で首を傾げながらも、促されるままにマイクへ向かった。
「こんばんは、よろしくお願いします。それで……ご相談というのは、どのようなことでしょう?」
「はい。あぁ、緊張するわね……。私は昔から、夜道を歩く子供たちを怖がらせるのが生きがいなんです。でも最近、私が『私、きれい?』と聞いても、『インフルですか?』とか『風邪ですか? お大事に』なんて言われてしまって。怖がるどころか、逆に心配されてしまうんです。私、どうすればいいのかしら」
(えっ、ちょっと待って。怖がらせるのが生きがい? 通報案件じゃないのこれ?)
困惑したすきま女が、ブースの外の愛土やディレクターに助けを求めたが、二人は満面の笑みで親指を立てている。「そのまま行け!」という無言の圧力だ。
すきま女は引きつった笑顔で、絞り出すように答えた。
「そ、それは……お辛かったでしょうねぇ……」
「そうなの! やっぱりすきま女さんなら分かってくれると思ったわ!」
「マスクの女さん。あなたは、本当に『怖がられたい』だけなのですか?」
「えっ?」
「もしかすると、あなたが本当に求めているのは……『自分を見てほしい』ということなのでは? 誰かに存在を認めてほしいという、切実な願いの裏返しなのでは……?」
電話の向こうで、絶句する気配がした。
「……そうかもしれないわ。私、口裂け……いえ、妖怪として、ずっと怖がらせることばかりに執着していたけれど……」
(妖怪!? 同業者なの!? 落ち着け私!)
すきま女は深呼吸し、必死に言葉を紡いだ。
「たとえば、通学や下校の途中の子どもに『私、きれい?』と迫る代わりに、『今日、学校はどうだった?』と優しく声をかけてみるのはどうでしょう」
「それ……妖怪じゃなくて、ただの近所の世話焼きな人なんじゃないかしら?」
「確かに……」
「でも……少しやってみようかしら。これからは子供たちを震え上がらせる存在じゃなく、子供たちを見守る存在になってみせるわ!」

「素敵ですね……」
(別の意味で存在を認められそうだけど……まぁいいか)
「ありがとうございます、すっきりしたわ!」
「マスクの女さん、ご相談ありがとうございました。……それでは、今夜の放送はここまでです。次回も皆様の心のすきま、お埋めします。それでは、また次回!」
番組終了の赤ランプが消えると同時に、すきま女は魂が抜けたように机に突っ伏した。

「ありがとう、すきま女さん! いやぁ、こういう変な相談、最近多いんだよね。でもすきま女さんなら、無事に解決できると信じてたよ~。ネットの反応も上々だよ。子供たちからのメールも結構届いてるしね!」
「……これ、深夜番組ですよね!?」
「細かいことは気にしない! というわけで、来週も頼みますよ!」
すきま女は真っ青な顔で、ふらふらとスタジオのすきまに姿を消した。
次回も、皆様からのご相談をお待ちしております。
妖怪、人間、その他諸々……種族は問いませんので、お気軽にどうぞ。
おしまい。
