
私は世界で1%未満の女
先日インスタグラムを何の気なしに見ていたら、気になる投稿に出会った。私はスクロールする指を止めて、詳細を読み込む。
内容は「セントラルヘテロクロミア」について。
はい。大丈夫です。安心してください。
初めてこの単語を見た時、私だって「なんだこれ」状態でした。
ミトコンドリアの一種か?
少なくとも微生物に関することか?
と思うだろう。
答えは「瞳」に関することだった。
日本語だと、「中心性虹彩異色症」というらしい。
私は100%日本人ではあるが、なぜか私の瞳はヘーゼルカラーなため、自分の容姿に関心を持ち始めた年齢から、やけに瞳の色に敏感になった。
そんなせいもあってか、今回のインスタグラムの投稿は見逃すわけにはいかなかったのである。
「セントラルヘテロクロミア」について説明すると、瞳の中心にある瞳孔の周りと、その外側の色が違うということ。
つまり、瞳孔の周りに2色の色があるというなんともお得な瞳だ。
まるで瞳の中にひまわりが咲いているようだ、と表現されることもある。
なんともロマンチック。
私はその説明を見て不思議な気持ちになった。
「ん?」それって当たり前なんじゃないの?
そう思い、鏡の中を覗き込む。
「やはり、目の中は2色だ。ここ何十年も2色だ。それがどうした。」
と、思いたいところだが、どうやらこの瞳の持ち主は世界中で1%未満だというではないか!
そうなると話は違ってくる。
即座に息子を呼び、「ねぇ!ちょっと目の中見せて!」と目をかっぴらいて見せてもらう。
なんてこった!息子の瞳の中は1色じゃないか!
ぎゃあああああ。私は現在49歳。
49年間その事実に気づいていなかったというのか!
私は世界で1%未満の瞳の持ち主なのかぁぁぁぁ!
なぜ誰も教えてくれなかったのだ…
親も友達も恋人も…
誰一人としてこの事実について教えてくれなかった。
そしてこの歳になるまで人々の瞳の中には1色しかないことも、知らなかった。
もしこの事実を知っていたら、私自身もっと自己肯定感が高かったかもしれない。
そんなことまで思ってしまった。
ひとまず母親に電話をする。
「ねぇお母さん聞いてよ。私の瞳って世界で1%未満のとても珍しい瞳なんだってよ!」
すると母、
「あらぁ。あなたそんな瞳を持っていたのねぇ。誰に似たのかしら。おほほ。
ところで昨日ね、スーパーに行ったら〜」
と、あっさり違う話題へと持って行かれてしまった…
ふん。なんて軽いんだ。
私ったら世界で1%未満の人間なんだぜ!
と口には出さなかったが、不満交じりに鼻息荒く電話を切った。
実の親がこんなんだから、そりゃ自分の瞳の希少性に気づかないわけだ!
それからというもの、私は今回の「セントラルヘテロクロミア事件」を通して人の在り方に対してたいそう大げさに考えるようになった。
「その人にはその人にしか持ち合わせていない個性がみんなある。だからみんな自信を持っていいんだ!」
「みんなもっと自分の魅力に気づいて!!」
そんな強い気持ちになりながら日々を過ごしていたある日のこと。
私は息子のスケートボード絡みで知り合いになった私と同世代のメンズと世間話をしていた。
彼は全身至る所にタトゥーが入っている、いわゆるいかつい男。
息子のスケボー絡みではなかったら、一生私が仲良くならないタイプである。
だがしかし、私は彼と馬が合うもんで、よく色んな話をする。
(人は見かけにはよらないもんです。)
世間話の流れで私は思い切って「セントラルヘテロクロミア」のことを話し、ついでに私の瞳は世界で1%未満なんだぜ、とイキってみた。
すると彼はこう言った。
「俺ってこの世で1%未満どころじゃなく、たった一人の存在なんだぜ。」と。
これを鮮やかな反撃と言わずなんと言おう。
私の「世界で1%未満マウント」は秒で陥落した。