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Photo bykachin808

キャリアコンサル-心音のノート 第1話

    プロローグ

    一緒に、あなたの物語のプロローグを作りましょう

    (あらすじ)
     キャリアコンサルタント・深澄心音(みすみ ここね)は少し変わった相談員だ。
     一般的なキャリアコンサルのように面談室で話を聞くのではなく相談者の個性に合わせて、様々な状況や場所を選び寄り添いながら、その人自身の“心の声”を一緒に探していく。
     たとえば、風景を変えながらの何気ない会話とか一緒に過ごす時間、ふとした沈黙、その積み重ねの中で相談者たちは少しずつ心を開き自分でも気づかなかった本音を語り始める。
     心音には人の痛みや迷いに深く共感しその人自身の人生を整理していく特別な力があった。

    「あなたの物語のプロローグを一緒に作りましょう」
     それが心音のキャリアコンサル。
     仕事、家族、子育て、夢、孤独。さまざまな悩みを抱えた人々は心音との出会いを通して自分らしい人生を見つけ始めていく。
     しかし、相談者に寄り添い続ける心音自身もまた大きな悲しみを抱えていた。ある出来事をきっかけに心音の世界から色が消えてしまったのだ。
     それでも心音は今日も誰かの人生の色を見つけに行く。
     誰かの人生に寄り添いながら、
     自分自身も少しずつ再生していく。

     これは、心の音をめぐる、やさしい再生の物語です。

    (本文)

     人は自分の人生を「選んできた」と思っている。けれど本当は選ばなかったものの上に今がある。

     あのときやめたこと
     踏み込まなかったこと
     怖くて見ないふりをしたこと

     それらは消えたわけではなくただ静かに心の奥に刻まれている。まだ書かれていない「予告編」のように、人はよく「自分に向いている仕事」を探そうとする。けれど、それは少しだけ順番が違う。本当に必要なのは「何をしているときに自分が消えないか」を知ること、つまり自分の居場所を見つけることだ。

     例えば

     無理をしていないとき
     評価を気にしていないとき
     時間を忘れているとき

     そこに、その人の本当の輪郭があり色彩がある。それが簡単には見つからない。なぜなら多くの場合それは一度傷ついた場所にあるからだ。

     好きだったもの
     やりたかったこと
     それは、うまくいかなかった記憶に塗りつぶされてる

     人はそれを「向いていなかった」と言い換えて整理する。そして気が付かないうちに遠ざかっていく。

     けれど本当にそうだろうか。

     それはただ「そのときの季節」が合わなかっただけかもしれない。あるいは「そのときの自分」がまだ準備できていなかっただけかもしれない。

     もしも

     もう一度だけそこに触れてみたら。
     何かが変わるとしたら。

     もしも

     誰かが隣にいて「やってみてもいい」と言ってくれたなら。

     人はもう一度自分の物語を書き始めることができる。

     彼女はその「最初の一歩」に立ち会う仕事をしているキャリアコンサルタント。
     けれど、その肩書きは彼女を正確には表していない。答えを与えることはしないし、正解を示すこともしない。ただ、隣に立ちその人がもう一度自分の人生に触れる瞬間を見届ける。ときには一緒に歩く。ときには一緒に迷う。そしてほんの少しだけ背中を押す。

     彼女の名前は、深澄 心音(みすみ ここね)。

     深く澄む、そして心の音を聴く。それはまるでこの仕事のために与えられたような名前だった。もっとも、彼女自身は昔からこの名前が好きだったわけではない。「変わってるね」と言われるたびに、どこか自分が浮いているような気がした。

     けれど今は少しだけ思う。ああ、この名前通りのことを私はしているのかもしれない、と。

     人の心は言葉になる前に揺れている。

     ほんのわずかな間。
     視線の動き。
     呼吸の浅さ。
     言葉の端に滲む、迷い。

     それらは音にならない「心音」のように存在している。深澄心音はそれを拾ってしまう。意図せずに気づいてしまう。そして時に理解する前に口にしてしまうことすらあった。だから彼女は学んだ。すぐに言わないこと。そして答えを急がないこと。

     「気づき」は本人の中で生まれてこそ意味があると。これは特別な才能の話ではない。大きな成功の話でもない。ただ、ひとりの人間が「自分の人生に関わり直す」までの物語だ。そして、その物語はいつもこんな一言から始まる。

    「キャリアコンサルって聞いたんですが、相談っていくらですか?」

     静かな午後だった。深澄心音はその言葉を聞いたときほんの少しだけ目を細めた。

    「料金の前にひとつだけいいですか」
     柔らかな声だった。けれどその言葉は不思議と相手の中に静かに入り込む。

    「一緒に、あなたの物語の”プロローグ”を作りましょう」

     その瞬間まだ何も始まっていないはずの人生が静かに動き出した。

    第2話

    #創作大賞2026 #お仕事小説部門

     
     
    人の心の揺れや、誰かに寄り添う時間をテーマに小説を書いています。 『キャリアコンサル 心音のノート』 『心音前夜』(心音のノートの前のお話) 『風の便り心音の栞』(心音のエッセイ) 香りや季節の空気を大切に、やさしい再生の物語を描いています。

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