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呪瞛 ――「人は秘密によっお結ばれるこずがある」

    1. 恵比寿、熱垯倜

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    それは、私がただ占いを仕事にする前の出来事。
    それでもプロの占い垫になっおからも、あの倏のこずはい぀たでも蚘憶に残っおいるのです。
    これは2016幎に執筆したものです。珟圚私は占い垫ずしお掻動はしおいたせん

    熱垯倜のたずわり぀くような湿床。
    ほろ苊いコヌヒヌの銙り。
    タロットカヌドの黒い絵柄。

    そしお、癜い肌に残っおいた赀い瞄の跡。
    人には、誰にも芋せおいない顔がある。
    すべおのパヌツがひず぀に繋がっおいく。

    圓時の私は、郜内の金融機関でシステム開発の仕事をしおいた。

    毎日、無機質な画面ず数字ずサヌバヌから攟たれる熱を济びお、
    終電近くたで働く生掻。
    今思えば、心のどこかが也ききっおいた。

    ちょうどそんな頃だった。
    むンタヌネットの片隅で偶然芋぀けたのが、西掋占星術の孊校だった。

    占いなど、それたでの人生でほずんど瞁がなかった。
    けれど、その䞖界だけが劙に気になった。
    決たりきったドラむな毎日の䞭で、
    そこだけ別の枩床を持っおいるように芋えたからだず、今は思う。

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    占いの孊校は恵比寿にあった。

    金曜の倜。
    仕事垰りの街は、どこか浮぀いた熱を垯びおいた。

    週末ぞ向かう賑やかな人たち。
    ガラス越しに芋えるレストランの灯り。
    アルコヌルの匂い。
    湿った倜颚。

    その頃の私は、
    昌の䞖界ず倜の䞖界のあいだを挂っおいた気がする。

    平日は近代的なオフィスの䞭でのシステム開発。
    そしお金曜の倜だけ、私は別の䞖界ぞ向かっおいた。

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    孊び始めるず西掋占星術は、思っおいたよりずっず耇雑だった。
    芚えるこずが沢山あった。

    星座占いのような軜いものではなく、
    もっず深く、人の奥底を芗き蟌むものだった。

    私は少しず぀、その䞖界に惹き蟌たれおいった。

    そしおその頃から、
    人には“衚偎”ずは別の顔があるのだず、
    知り始めおいた。

    裏衚ずいう単玔なものではなくお、別の顔だ。
    時に別の顔は耇数に及ぶこずもあるのだず。

    2. 颚雪の坊ちゃん

    その孊校で、私は束田君ずいう男子ず知り合った。

    幎霢は私よりだいぶ䞋だったず思う。

    どこか人懐っこく、
    誰ずでも自然に話せるタむプの人だった。

    ある日、授業が終わったあずのアフタヌのカフェで
    「今床、知り合いを連れおきおもいいですか」ず
    突然皆に話しかけた。

    この教宀の生埒同士で、週末の授業の埌、
    恵比寿のカフェで埩習䌚のようなものを行っおいた。

    倚い時は78人、少なくおも4人は参加しお
    パストラミサンドを食べながら、
    お互いのホロスコヌプを芋合っおいたのだ。

    なんおいったっお、金曜の倜なんだからず、
    私たちは寄り道の、蚀い蚳があった。

    そしお束田君のオファヌはこの堎所に自分の先茩を、
    呌んでもいいかずいうこずだった。

    私たちには特に断る理由もなかった。
    その知り合いずいうのが、䜐䌯さんだった。

    䜐䌯さんは、
    占いに興味があるず玹介された。
    䞀芋するずずおも穏やかそうな人だった。

    倧きな声を出すこずもなく、
    どちらかずいうず静かで、
    控えめな印象だった。

    けれど、どこか“育ち”の良さのようなものが滲んでいた。

    あずで知ったこずだが、
    圌の実家は胜登半島で代々続く老舗和菓子店だった。

    宮内庁にも菓子を玍めおいる家だず聞いた。

    店の代衚銘菓は、
    “颚雪”ずいう名前だそうだ。

    癜い雪のような皮の䞭に、
    黒く艶のある逡を包み蟌んだ菓子だった。

    もちろんその頃の私は、ただ知らなかった。
    そのお菓子が、
    これから私たちが知るこずになる
    ある“秘密”そのものを象城しおいたこずを。

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    以降䜐䌯さんは、
    授業のあず私たちずよく食事ぞ行くようになった。

    けれど圌は、
    どこか䞍思議な人でもあった。

    そもそもマニアックな占星術の仲間ず
    金曜の倜にカフェでホロスコヌプを芋合っおいるなんおね。
    䞍思議以倖の䜕者でもないず、私は思っおいた。

    でも時々、
    その静かな衚情の奥に、
    説明できない“圱”のようなものが芋えるこずがあった。

    それが䜕なのか、
    その時の私は分からなかった。
    単なるオタクだず思っおいたから。

    3. 月島ずいう嘘

    䜐䌯さんは、
    束田君の倧孊時代の先茩だった。

    䜐䌯さんは孊生時代はスキヌ郚に所属し、
    囜䜓にも出堎したこずがあるずいう。

    しかし正盎、長身で、ひょろりずした圌からは、
    あたりスポヌツの銙りはしなかった。

    圌に぀いおいえば、䞀番印象的だったのは、
    圌の“優しさ”だった。

    人の話を最埌たで聞く。匷く吊定しない。
    静かに笑う。そんな静かな人だった。

    その頃、䜐䌯さんには、
    結婚を考えおいる女性がいた。

    名前は、麻里さん。

    地方から䞊京しおきた女性で、
    短倧卒業埌は郜内で働いおいたらしい。

    写真も芋せおもらった。癜い肌。長い黒髪。
    掟手さのない服装。

    どこか、
    今どき珍しいほど枅楚な雰囲気の女性だった。

    「運呜の盞手っお、
    こういう人のこずを蚀うんですかね」

    䜐䌯さんは、
    少し照れたように笑った。

    その衚情から、
    圌が本圓に麻里さんを倧切に思っおいるこずが䌝わっおきた。

    けれど、
    そんな圌にも、
    ひず぀だけ匕っかかっおいるこずがあった。

    それは

    麻里さんは、
    月島のもんじゃ屋でアルバむトをしおいるずいう話だった。

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    最初、
    䜐䌯さんはそのこずは特に気にしおいなかったらしい。

    でも、
    䜕床か仕事垰りの圌女ず、
    カフェや食事の店で埅ち合わせをするうち、
    少しず぀違和感を芚えるようになったずいう。

    皆さんはご存じだろうか
    地䞋鉄の月島の駅を。

    月島駅に電車が止たり、ドアが開いただけでも、その匷烈な゜ヌスの匂いが錻を぀く。眠っおいおも気づくぐらいその匂いは匷かった。

    鉄板。
    油。
    煙。
    焊げたキャベツ。

    あの独特の油じみたにおい。
    長い髪を埌ろで束ねおいおも、
    服を着替えおいおも、髪や肌に残るものだ。
    特に髪には、店の空気ごず染み぀く。

    䜐䌯さんの違和感は、この匂いだった。
    バむト垰りの麻里さんからは、その匂いがたったくしないずいう。

    時おり「臭うから、あたり近づかないで」ず圌女は笑いながら、
    そう蚀っお圌から少し距離を取るこずが有った。

    でも実際には、
    鉄板焌き屋特有の油や゜ヌスの匂いを、
    䜐䌯さんは圌女から䞀床も感じたこずがなかった。

    むしろ圌女は、い぀䌚っおも、
    枅朔すぎるくらい匂いを感じない人だった。

    「考えすぎなんですかね」䜐䌯さんは、
    困ったように笑った。

    私は、「そういう䜓質なのかもしれたせんね」ず返しながらも、
    そんな䜓質ないわず、やはり違和感を感じおいた。

    䜐䌯さんに、「バむト終わりの麻里さんにさりげなく聞いおみたらよいのではきっず䜕か理由があるず思うよ」ず䞀応アドバむスをしおおいた。

    この時、私はただ、その違和感の正䜓を知らなかった。

    4. 䞭目黒、悪魔のカヌド

    その頃には、
    私は西掋占星術の授業の合間に、
    簡単なタロット占いをするようになっおいた。

    ただただ趣味の延長のようなものだったけれど、
    占星術の生埒同士で、
    軜く占い合うこずが流行っおいたのだ。

    前述の麻里さんのもんじゃバむトの件もあり、
    ある週末の昌さがり、䞭目黒のカフェで、
    私は䜐䌯さんを占うこずになった。

    店内には、
    䌑日の静かな空気が流れおいた。

    倧きな窓の向こうには、
    昌䞋がりの目黒川が芋えおいた。

    柔らかな午埌の陜射しが差し蟌む店内。

    そんな穏やかな景色の䞭で、束田君ず䜐䌯さんを前に、
    私はカヌドをシャッフルし、テヌブルに䞊べた。

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    その瞬間胞の奥が、ざわ぀いた。
    そこに出たのは、“悪魔”のカヌドだった。

    黒い翌。
    裞の男女。
    銖に巻かれた鎖。

    タロットに詳しくない人でも、
    どこか䞍穏なものを感じる絵柄だ。

    でも、実際の悪魔のカヌドは、
    単玔な「䞍幞」を意味するわけではない。

    離れたくおも離れられないもの。
    執着。䟝存。快楜。
    そしお、目に芋えない匷い結び぀き。
    そんな意味を持぀カヌドだった。

    私は少し迷った。
    ただ占いを始めたばかりの私は、
    どこたで蚀葉にすればいいのか、
    分からなかった。

    だから、なるべく軜く䌝えた。
    「  すごく惹かれ合う盞手なんですね」

    䜐䌯さんは、
    少し照れたように笑った。

    「そうなんです。
    なんか、䞍思議なくらい䞀緒にいるのが自然で」

    私は頷きながらも、
    なぜか胞の奥のざわ぀きを芚えおいた。

    カヌドの䞭の鎖が、劙に目に残っおいた。

    その日の垰り道、私は山手線の窓から、
    流れおいく東京の灯りをがんやり眺めおいた。

    私たちは、自分でも説明できない䜕かによっお、
    結び぀いおしたうこずがある。
    そんなこずを、がんやりず考えおいた。

    5. 山手線の蛇

    それからしばらくしお、
    私は麻里さん本人ず䌚う機䌚があった。

    圌女は、䞍思議な人だった。
    誰に察しおも柔らかく接し、よく笑う。

    でも、どこか珟実感が薄い。
    たるで、この䞖界に完党には銎染んでいないような人だった。

    その倜、私は山手線のホヌムで、
    偶然、麻里さんず二人きりになったこずがあった。

    電車を埅぀あいだ、
    私たちは他愛のない話をしおいた。

    その時だった。

    ホヌムの向こう偎にある看板に、
    私はふず目を留めた。
    そこには、生々しい蛇のむラストが描かれおいた。

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    现長く、こちらを芋぀めるような目をした蛇だった。
    「蛇っお、なヌんか苊手なんですよね」
    私がそう蚀うず、麻里さんは少し笑った。

    「私は嫌いじゃないですよ」
    そう蚀った圌女の暪顔は、どこか劙に静かだった。

    その瞬間、私はなぜか、
    “悪魔”のカヌドを思い出しおいた。
    鎖。
    執着。
    離れられないもの。

    そしお、
    目に芋えない結び぀き。

    電車がホヌムぞ滑り蟌んできた。
    瞬間、匷い颚が吹き、麻里さんの長い黒髪が揺れた。

    その髪を芋た瞬間、私はふず、
    月島の話を思い出しおいた。

    ゜ヌスの匂いが、たったくしなかった髪。

    人は時々、
    理屈では説明できない違和感を芚えるこずがある。

    でもこの時も私は、ただの思い過ごしだず思っおいた。

    6. アザレア・アザミ

    それからしばらくしお、
    䜐䌯さんの様子が少しず぀倉わり始めた。

    以前より、
    疲れお芋えるこずが増えたのだ。

    圌は笑っおはいる。

    でも、
    どこか匵り぀めおいる。
    そんな空気感があった。

    ある日、圌は珍しく、私に長い話をした。

    堎所は、
    恵比寿の個人経営の小さな喫茶店だった。

    窓際の垭で、今日は束田君は遅れおくるず
    メヌルが入っおいた。

    圌は䜕床もコヌヒヌカップに手を䌞ばしながら、
    ぜ぀りぜ぀りず話し始めた。

    「麻里が、時々いなくなるんです」

    私は意味が分からず、黙っお続きを埅った。
    「連絡が取れなくなるこずがあるんです。
    でも数日するず、
    䜕事もなかったみたいに戻っおくる」

    圌は、困ったように笑った。

    「仕事が忙しかったっお蚀うんですけどね」
    そう蚀いながらも、圌自身、
    その説明を信じ切れおいないようだった。

    その時だった。
    圌が、B版のクラフト封筒をテヌブルの䞊に眮いた。

    「  これ、芋おもらえたすか」

    䞭には、数枚の写真ず、
    DVDゞャケットをコピヌしたような玙が入っおいた。

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    そこに曞かれおいたタむトルを、私は今でも芚えおいる。
    『アザレア・アザミ』
    シリヌズ物のようだったが、

    私は䞀瞬、それが䜕なのか理解できなかった。

    けれど、写真の䞭にいる麻里さんを芋た瞬間、
    背䞭が冷たくなった。

    癜い肌。现い手銖。赀い瞄。拘束された身䜓。
    そしお、カメラぞ向けられた、どこか感情のないたなざし。

    間違いなく、あの麻里さんだった。
    䞀瞬、店のが遠くなった。

    䌑日の客たちの話し声も、
    コヌヒヌの銙りも、
    急に珟実感を倱っおいった。

    「偶然、芋぀けたんです」
    䜐䌯さんは、䜎い声で蚀った。
    「知らない男のブログで」私は蚀葉を倱っおいた。

    写真の䞭の麻里さんは、
    私たちの前で笑っおいた圌女ずは、
    たるで別人のようだった。

    けれど同時に、
    どこか劙に玍埗しおしたう自分もいた。

    ゜ヌスの匂いがしなかった髪。
    悪魔のカヌド。
    蛇。

    あの時感じた違和感たちが、
    䞀本の線で繋がっおいく感芚があった。

    「でも  」
    䜐䌯さんは、長い沈黙のあず、小さく蚀った。

    「別れようず思っおも、できないんです」

    その蚀葉を聞いた瞬間、私はたた、
    悪魔のカヌドの鎖を思い出しおいた。

    7. 胜登、颚雪

    その頃、私たちは䞀床だけ、
    䜐䌯さんの実家を蚪ねたこずがある。

    胜登半島。
    東京から離れるに぀れ、
    景色の色が少しず぀倉わっおいったのを芚えおいる。

    灰色の海。䜎い雲。静かな町。

    あれほど隒がしかった東京が、
    遠い別䞖界のように感じられた土地。

    䜐䌯さんの実家は、
    叀くから続く地元では有名な和菓子屋だった。

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    店先には、控えめな朚の看板が掛かっおいた。

    『颚雪』

    あの名前だった。店の奥には、
    癜い和玙に包たれた菓子が、
    敎然ず䞊べられおいた。

    私はその時、初めお“颚雪”を口にした。
    癜い皮は、雪のように柔らかかった。

    そしお䞭には、黒く重たい逡が詰たっおいた。

    その瞬間、私はなぜか、
    麻里さんのこずを思い出しおいた。

    癜い肌。静かな笑顔。
    そしお、
    誰にも芋せおいなかった、
    もうひず぀の顔。

    人は時々、癜いものの䞭に、
    黒いものを抱えたたた生きおいる。

    もしかするず、誰にも知られないたた。
    もしかするず、自分自身にすら隠したたた。

    店の倖では、
    现かな雪が降り始めおいた。

    䜐䌯さんは、
    片えくがを浮かべながら颚雪を語った。

    「子䟛の頃から、
    この菓子だけは飜きなかったんです」

    私は頷きながら、もう䞀床、“颚雪”を口に運んだ。
    甘いのに、どこか少し苊かった。
    確かに、これは癖になりそうだず思った。

    8. 癜い花嫁

    それから半幎もしないうちに、
    䜐䌯さんず麻里さんは結婚した。

    私も匏にも呌ばれた。
    郜内の小さな結婚匏堎だった。

    癜い花。癜いテヌブルクロス。癜いりェディングドレス。

    䌚堎は、
    たるで“癜”で統䞀された䞖界のようだった。

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    私はその光景を芋ながら、
    胜登で食べた“颚雪”のこずを思い出しおいた。

    癜い皮の䞭に、
    黒い逡を抱えた菓子。

    私たちの倚くは、
    誰にも芋せおいないものを抱えたたた、
    生きおいたりする。

    それでも、誰かず結ばれおいく。

    もしかするず、
    人は“秘密”によっお結ばれるこずさえあるのかもしれない。

    そんなこずを考えおいた。

    披露宎の間䞭、
    麻里さんは、
    笑顔を絶やさなかった。

    あの日、
    写真の䞭で芋た圌女ずは、
    たるで別人のように穏やかな笑みだった。

    でも私は、そのどちらも、
    本圓の圌女なのだろうず思った。

    癜い圌女も。
    赀い瞄の圌女も。

    どちらかが嘘なのではなく、
    きっずその䞡方が、
    圌女ずいう人間だったのだず。

    䜐䌯さんは、そんな圌女を、
    すべお知った䞊で、今日この晎れの日に、
    圌女の隣に立っおいた。

    それが愛なのか、
    執着なのか、
    䟝存なのか。

    私には、ただ分からなかった。

    ただ、
    二人の間には、
    他人には入り蟌めない、
    䜕か匷い結び぀きがあるように芋えた。

    キャンドルの灯りが、
    癜いグラスに揺れおいた。

    その光景は、どこか綺麗で、
    どこか少しだけ、怖かった。

    9. 呪瞛 ――12ハりスの花嫁

    それから、䜕幎か経った。

    東京の街も、
    人も、
    少しず぀倉わっおいった。

    私も占術の孊校を卒業しお、
    䜕幎もたっおいた。

    そのころの同玚生の䜕人かずは
    たたに䌚っお食事をしおいたが、
    1人枛り、2人枛りずい぀しか
    誰ずも䌚わなくなっおいた。

    けれど時々、
    私はあの頃のこずを思い出す。

    恵比寿の熱垯倜。
    月島の゜ヌスの匂い。
    䞭目黒の悪魔のカヌド。
    山手線のホヌムの蛇。

    私はあの頃、
    人には“衚の顔”ず“裏の顔”があるのだず思っおいた。

    でも今は、少し違う。

    人はきっず、
    ひず぀の顔しか持っおいないのだ。

    ただ、その奥に、
    誰にも芋せおいない深い郚屋がある。

    秘密の郚屋ず蚀われる
    12ハりスみたいに。

    そこには、
    秘密や、
    欲望や、
    孀独や、
    自分でも觊れられない感情が、
    静かに沈んでいる。

    そしお人は時々、その“秘密”によっお、
    誰かず匷く結び぀いおしたう。

    愛よりも深く。
    理性よりも匷く。
    たるで、呪いみたいに。

    䜐䌯さんず麻里さんが、
    その埌どうなったのか、
    私は詳しく知らない。

    ただ、最埌に䌚った時、
    二人は静かに䞊んで歩いおいた。

    冬の倕暮れだった。

    麻里さんの癜いコヌトに、
    现かな雪が萜ちおいた。

    その暪顔は、
    どこか遠くを芋぀めるように穏やかだった。

    䜐䌯さんは、
    そんな圌女の少し埌ろを歩いおいた。

    その時だった。

    麻里さんのヒヌルが神楜坂の石畳に
    ひっかかっお、身䜓が揺れた。

    すっず麻里さんを支えようず、
    圌の腕が麻里さんに䌞びた。
    その時コヌトの袖口から、圌の手銖が少しだけ芋えた。

    そこには、
    现い赀い擊過傷のような跡が残っおいた。

    それはたるで――

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    私は䞀瞬、蚀葉を飲み蟌んだ。

    脳裏にはあの日、
    䞭目黒のカフェで珟れた、
    “悪魔”のカヌドが浮かんだ。

    銖に巻かれた鎖。
    離れたくおも、離れられないもの。

    そしお山手線のホヌムで芋た、
    蛇の看板を思い出しおいた。
    絡み぀くような、现長い蛇。

    もしかするず二人は、愛情だけではなく、
    “共通の秘密”によっおより深く
    結ばれおいったのかもしれない。

    その埌、
    䜐䌯さんず麻里さんには、
    䌚う機䌚に恵たれなかった。

    ただ、
    䜐䌯さんを玹介しおくれた束田君から、
    二人は胜登ぞ戻り、
    店を継いだらしい、
    ずいう話だけは聞いおいた。

    それが本圓だったのか、
    私は確かめおいない。

    でも時々、冬になるず、
    私はあの二人を思い出す。

    癜い雪。
    赀い擊過傷。

    そしお、
    絡み぀くような蛇の圱を。

     
     
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