
まきちゃんのみーた(ショートショート)
まきちゃんはぼくをぎゅーっとして泣いていた。そしてぼくの頭をしきりになでると落ち着いたのか、ぼくを枕元に置いて、しばらくすると寝息をたてて眠った。
まきちゃんは赤ちゃんが欲しかったけど、なかなかできなくて悩んでた。かわいがるものが欲しくてぼくを見つけた。
ぼくは「みーた」と名付けられ、まきちゃんが眠る時に必ず枕元にいた。
まきちゃんの部屋は余計なものがなくてスッキリしているから、ぼく以外にぬいぐるみはなかった。ぼくはまきちゃんの超お得意様だった。
ある日まきちゃんがぼくを枕元に置いて眠っていると、こーたくんがやってきて、ぼくの頭を撫でて静かに言った。
「みーたよ、まきちゃんの赤ちゃん役たのむなー。俺たちのところにはなかなか来る決心がつかないみたいでさー」と言って最後軽くデコピンして行った。
「いたっ!」ぼくは喋れないから心の中で猛抗議した。こーたくんは、にいっと笑って部屋を出て行った。
それからも二人の生活は長く続いたけど、まきちゃんとこーたくんは仲良く暮らしていた。
ある日はまきちゃんとこーたくんがぐでんぐでんに酔っ払って楽しそうに笑ってた。
まきちゃんは毎朝お弁当を作ってこーたくんに持たせて、こーたくんはお弁当が大好きだからいつもすごく喜んでいたな。
まきちゃんとこーたくんは、長い大作のドラマを二人で観たり、ゲームをしたり、楽しんでいた。
それでもまきちゃんは泣くことが多かったけど、こーたくんがその度によくなぐさめていた。
そうやって二人は長いこと暮らしていて、ぼくが来てから8年目の冬、まきちゃんが細くて白い糸で小さな靴下を編み始めたんだ。
まきちゃんはぼくに靴下を編んでいるんだ!そう思った。ぼくの足はポテっとまあるい足先にフェルトの爪がついている。その爪も経年劣化で全部取れて、まあるい足だけになっていたから!
ありがとうまきちゃん!
そう思っていたのに、出来上がった白い小さな靴は、棚の上に飾られてまきちゃんはそれを見つめてはニコニコし、お腹をさすりながら「はやくこれを履きに来てね」って言うんだ。
まきちゃんのお腹はだんだん大きくなって、しばらく留守にすると、ある日赤ちゃんと一緒に家に帰ってきた。
ぼくは棚の上に置かれて、ぼくのいた元の場所には赤ちゃんが寝るようになった。
ぼくは今度は棚の上から二人を眺める生活になった。まきちゃんはその小さな赤ちゃんのお世話に大変そうだったけど、ぼくを抱きしめて泣いたみたいな夜はなくなって、まきちゃんが幸せそうなのがわかってぼくは嬉しかった。
そうしてあかちゃんはこーたくんとまきちゃんに大切に育てられすくすく成長した。
するとある日、赤ちゃんのなっちゃんが棚の上のぼくを引きずり下ろした。足を持ったり手を持ったり、耳を掴んで引っ張った。
「こらー!やめろー!」ぼくの体はところどころわたが飛び出て、まきちゃんが慌てて縫い合わせてくれた。まきちゃんはなっちゃんの手の届かないところにぼくを避難させた。
なっちゃんが大きくなるとまたぼくで遊ぼうとしとまきちゃんが渡さないと激しく泣いた。まきちゃんは仕方なく「みーたは私の大切な友達だから貸してあげるけど大切にしてね」
そう言うとなっちゃんは嬉しそうに頷いて、ぼくをおんぶして毛糸でぼくと自分をしっかり巻きつけて出かけたり、おもちゃのベビーカーに乗せて出かけたりした。ぼくは今度はなっちゃんの超お得意様になった。
他のぬいぐるみがあっという間に増えたけど、ぼくへの愛着はまだまだ消えなかった。自分でハギレを縫い合わせて洋服を作ったり、まきちゃんがなっちゃんに作った、あの白い小さな靴をぼくに履かせた。
さらに大きくなるとなっちゃんの興味はついにぼくからもっとおおきな外の世界へ移っていった。ランドセルを背負ってなっちゃんが出かけていく。ぼくはまきちゃんの部屋に落ちついた。
まきちゃんはこの間行ったお出かけ先でぼくの半分くらいの大きさの妖怪猫のぬいぐるみを買ってきて、ぼくの膝に乗せた。名前はねこま。
しっぽがふたつに分かれた白い猫。ぼくはそいつと楽しく過ごしている。
まきちゃんは今日もニコニコしながらぼくの頭を撫でて仕事に出かける。
「みーた、だいすき」
「ねこまもね」
そう言った。
ぼくも心の中で言うよ。
「まきちゃん、ぼくもだいすきだよ」