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䞊品に狂う —— 理由を求めお、理由から降りた話

    気づけば、二十人以䞊の占い垫に課金しおいた。
    理由は、あずからいくらでも付けられた。

    「運呜の人です」ず蚀われた恋は、結局、䜕も起きなかった。

    ——そんなはずじゃなかった。

    喉の奥の違和感は、季節のせいだず思っおいた。
    ただのアレルギヌ。
    そう思い蟌んで耳錻科に向かった。

    内芖鏡が喉に觊れた瞬間、医垫の動きが止たった。
    その“間”で分かった。
    これは普通じゃない。

    玹介状を握っお倖に出るず、空気がやけに柄んでいた。
    䞖界はい぀も通りで、狂っおいるのは私だけだった。

    倧孊病院の蚺察宀は癜くお静かだった。
    なのに、その日は空気が少し濃かった。

    二床目の蚺察。
    圌は癜衣の襟を敎え、淡々ずカルテをめくっおいた。
    感情を衚に出さない、研究者気質の医垫。

    ——のはずだった。

    治療蚈画の説明の途䞭、
    ふず、圌の口元がゆるんだ。

    ほんの䞀瞬。
    目尻に现い笑い皺が浮かんだ。

    その皺を芋た瞬間、胞の奥がざわりず揺れた。

    あ。知っおる、この目。

    その黒は、ただの黒じゃなかった。
    光を吞い蟌むような、深い井戞みたいな色。
    芗き蟌んだら戻れなくなるような、静かな重さがあった。

    蚘憶にはないのに、
    感芚だけが先に萜ちおきた。

    「蚺たすね」

    圌が怅子を匕き、私の前に立぀。
    距離が近い。
    呌吞が觊れそうなほど。

    癜衣の垃がわずかに擊れる音がした。
    その小さな音でさえ、胞の奥に萜ちおいく。

    「口を開けおください」

    芗き蟌むように顔が近づく。
    その瞬間、圌の手が、私の銖に觊れた。

    ——あ。

    その枩床で、時間が止たった。
    冷たくも熱くもない。
    ただ、
    “知っおいる枩床”だった。

    懐かしい。

    胞の奥で、
    静かな狂気がゆっくりず膚らんでいく。

    家に垰っおも、
    残っおいたのは圌の手の枩床だった。
    その静けさが、逆に私をざわ぀かせた。

    寝おも芚めおも、
    目尻の皺ず声のトヌンが、
    頭の奥で静かに再生された。

    恋じゃない。
    タむプでもない。
    幎霢も知らない。
    プラむベヌトも知らない。

    なのに、
    「この人を知っおいる」
    ずいう感芚だけが、
    胞の奥にゆっくり沈んでいった。

    理由はどこにもないのに、
    確信だけが先に萜ちおくる。

    朝、目を開けた瞬間に浮かんだのは、
    病気ではなく、
    圌の顔だった。

    ——これはもう、説明の぀かない執着だ。

    退院しお数日。
    䜓は自由なのに、心だけがざわ぀いおいた。

    私はスマホを手に取った。
    怜玢窓に指が吞い寄せられる。

    「医垫 既芖感」
    「医垫 患者 気になる」
    「抗がん剀 メンタル」

    どれも違った。

    そのずき、画面の䞋に“占い”の文字があった。

    普段なら開かない。
    でも、その日は違った。

    「  たあ、無料だし」

    初回3000円無料。
    その甘い眠に、私はあっさり萜ちた。

    最初の占い垫は、
    やたらず優しい声で「前䞖からのご瞁ですね」ず蚀った。
    その蚀い方が、劙に“既芖感のある優しさ”だった。

    二人目の占い垫は、
    「魂が疌いおいたす」ず蚀った。
    疌くのは喉なのに、ず思いながらも、
    その蚀葉の響きだけが胞に残った。

    䞉人目は、
    「サむレント期間です」ず断蚀した。

    翌日には別の占い垫。
    その翌日にはたた別の占い垫。

    気づけば二十人以䞊の占い垫に課金しおいた。

    Aは「守る」、Bは「詊す」、Cは「忘れる」。
    䞉者䞉様で、どれもそれっぜい。

    胡散臭いのに、どこか心地よかった。
    理由のない苊しみに、名前が぀いた気がしたからだ。

    でも、胞の奥はずっず冷えたたただった。

    ――それでも、やめられなかった。

    ある占い垫は、
    「あなたず圌は特別な関係です」ず蚀った。

    別の占い垫は、
    「魂の片割れのようなもの」ず蚀った。

    名前の぀いた関係性を抌し぀けられるたび、
    私は少しだけ安心しお、
    少しだけ苊しくなった。

    前䞖、忙しすぎない
    そう思いながら、
    次の占い垫を探しおいた。

    私は、占い垫の蚀葉にすがっおいたのではなく、

    “理由”にすがっおいた。

    理由のない苊しみより、
    理由のある苊しみのほうが、
    少しだけ、耐えやすかった。

    期埅しお、
    萜胆しお、
    たた期埅しお、
    たた萜胆しお。

    その反埩が、
    い぀の間にか日垞になっおいた。

    狂気の沙汰なのに、
    どこか䞊品で、
    どこか静かで、
    どこか笑える。

    私は、䞊品に狂っおいた。

    ある日、占い垫Zが蚀った。

    「圌はあなたを深く想っおいたす。
    ただ、今は気づいおいたせん」

      気づいおいないのに深く想っおいる

    その矛盟に、
    私は小さく息を吐いた。

    あ。
    もう倧䞈倫だ。

    胞の奥の薄い膜が、
    音もなく剥がれた。

    その瞬間、
    䞖界の茪郭がわずかに倉わった。
    色が薄くなるのではなく、
    “䜙蚈な色が萜ちた”ような感芚だった。

    波動も、前䞖も、サむレント期間も、
    党郚、
    私が“苊しみを説明するために借りおいた蚀葉”だった。

    スマホを眮くず、
    郚屋が静かになった。
    その静けさは、久しぶりに“枩床のない空気”だった。

    その空気の䞭で、
    私は気づいた。

    私は、もうこの物語の倖偎に立っおいた。
    そこには、熱も、ざわめきもなかった。

    静けさは、空っぜではなかった。
    むしろ、
    “自分の声だけが聞こえる堎所”に戻っおきたようだった。

    ノヌトを開くず、
    蚀葉が泉のように湧いおきた。

    狂気の蚘録。
    心の揺れ。
    黒い瞳。
    手の枩床。
    占い沌の深淵。
    そしお、
    自分で自分を救い䞊げた瞬間。

    ペンを眮いた。

    私は自分で降りた。

    静かで、確かで、それだけで十分だった。

    ——そう思えるずころたで、来おいた。




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    ricaco

     
     
    人生は、だいたい思い通りにならない。 それでも笑えるずころたで、し぀こく考えお曞いおいたす。 恋愛、病気、仕事、家族、ずきどきスピリチュアルの残骞。 55歳。人生埌半戊を、䞊品に狂いながら生きる゚ッセむ。 ▶ はじめたしおの方は「䞊品に狂う。案内所」ぞ

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