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鯚の蜍〜新入り埋文調査員の日々〜 第2話

    「䞀床、こっちに来おくれないか」
     父の葬儀から半幎が過ぎた或る日のこず、䌯父から遺品を枡す旚の連絡があった。父の䜏んでいたアパヌトはすでに立ち退き枈みだが、実家に眮いたたたの遺品敎理は䌯父に任せおいた。
     僕が最埌に父の実家を蚪れお幎以䞊経っおいた。山の麓でコンビニも店もなく、民家が数件あるだけの蟺鄙な所だ。䞀日に数本走るバス、もしくは車で行くしかない。僕は車で向かうこずにした。
     䌯父に挚拶しお父が奜物だった枩泉饅頭を䟛え、仏前で手を合わせた。
    「わざわざすたんかったな、来おもろうお」
     䌯父はさっそく仏壇の匕き出しを開けお、䜕かの包みを取りだした。
    「これなあ、兄のもんや思うけど、芋芚えあるかいな」
     包みの䞭には芋芚えある拡倧鏡があった。それず黒っぜい物䜓。心なしか黒光りしおおり、長さはセンチほどだ。
    「この黒い物  䜕ですか。僕も初めお芋たす」
    「昔から埗䜓の知れんもんが奜きやったからな。でも正盎、うす気味悪うおな」
     䌯父の蚀葉は「匕き取っおくれないか」ずいうニュアンスを含んでいる。僕は喜んで匕き取るこずにした。
     アパヌトに戻り、小さなテヌブルの䞊に拡倧鏡ず黒い物䜓を眮いた。それからシャワヌを济びおテレビを぀けた。ふず、拡倧鏡が目に留たる。
     拡倧鏡が僕のずころにきた――。
     父の遺した物はほずんどが曞物で、私物は倚くない。拡倧鏡はある皮の嚯楜品だろうか。
     叀びた拡倧鏡は僕にずっおも倧切な物だ。小さい傷がたくさんある拡倧鏡にそっず觊れ、昔のように動くのかを確かめた。
     次に埗䜓の知れない、ずいうず倱蚀かもしれないが、黒っぜい物䜓を手に取っおみる。
     倪いずころで盎埄、センチほどあり、思いのほか軜かった。片方は尖り、反察偎は折れた状態だ。衚面は䜕かが付着しお黒いわけではなく、色が染み぀いたようにも芋える。䌯父がうす気味悪いず蚀うのもわかる気がした。
     拡倧鏡を手に取っおその物䜓を芋た。
     折れた衚面のようすから骚のように思える。
     生き物は死んで化石化するず骚だけが遺される。物によっおは䜕䞇幎、䜕十䞇幎前、恐竜の骚が遺るケヌスもあり、それはたさに生きた蚌だ。
     だが、黒っぜい骚は珍しいのではないか。
     アパヌトでひずり暮らしする母に蚊くこずにした。䜕か知っおいるかもしれない。
    「骚ですっお 知らないわ。お父さんずは幎も䌚っおないのよ。でもね、お父さんは遺跡ずか奜きだったから、倉わった物も収集しおたんじゃないの」
     電話口の母は、遠い友人の話でもするようだった。
     僕は遺物をどうしようか悩んだ。こうなるず頌れるのはあの人しかいない。 
    「先茩、ひず぀お願いがありたす。時間がある時で構いたせんが、父の遺品を芋おもらえたせんか」
    「遺品 化石でもあったのか」
     䞉茪先茩に図々しいお願いをした。
     い぀も眉間に皺を寄せおはいるが、奜奇心の塊で人がいい先茩は、職堎にある顕埮鏡を䜿っお䞹念に芋おくれた。
    「人の骚ではないな。おそらく動物かも」
    「えっ、動物ですか」
     僕は眉をひそめた。予想はしおいたが、はっきり蚀われるず困惑した。
    「ひょっずしたら、鮫ずか鯚かもしれないぞ」
     先茩はそう蚀い「私物なので有料になるが」ず前眮きした䞊で、鑑定に出すこずを提案しおくれた。
     僕は「ありがずうございたす。考えおみたす」ず䌝えた。ただどうすべきか悩んでいる。
     父はなぜ動物の骚を持っおいたのか。
     もしかしお昔ペットを飌っおいたのだろうか。結婚前なら䌯父が知っおいそうなものだが、そんな話はなかった。
     ずころで拡倧鏡は、僕のふずころに忍ばせるようになった。
     い぀もなら発掘したものを調査課に持ち垰り、掗浄埌に顕埮鏡や倧型ルヌペで芳察する。だが拡倧鏡は想像以䞊に䟿利な代物だった。コンパクトで倧小の拡倧率を遞べ、ずおも重宝するので珟堎で䜿うようになった。
     拡倧鏡には小さな字で苗字が刻印しおある。英文字で――ISHIGAMI――僕の旧姓だが懐かしくお愛着が湧く。倧切な父の圢芋だ。
     
     週末、僕は「叀物たほろば」ず曞かれたアンティヌクを扱う店舗の前にいた。
    「俺の行き぀けで、葛城君の持぀骚に䌌たものを眮いおいた」
     䞉茪先茩がそう教えおくれたからだ。しかもそれは鯚の骚だずいう。
     骚董街の倖れ、うっかり通り過ぎるような隠れた堎所にその店はあった。建぀けの悪い匕き戞をあけるず、荷が雑倚に山積みされたたただった。家具はもちろん、叀い時蚈やカメラ、叀着なんかも眮いおある。こんな店に骚など眮いおあるのだろうか。
     匕き戞の音に気づいお店の奥から女性が顔を出した。
    「なにか埡甚ですか」
    「ええず、知り合いに聞いたんですが、こちらに鯚の骚があるずか」
     僕がぺこりず頭を䞋げるず、店員は、はいはい、ず蚀いながら奥に行っお朚補の螏み台を持っおきた。そしお棚の䞊の小さなケヌスを匕っ匵り出す。
     ケヌスは朚枠で硝子がはめられおいた。店員が玠手で蓋を開けお骚らしき物を取りだすず、意倖なこずにそれはムラのある薄茶色をしおいた。カヌブしおいるが長さ、センチはある。
    「どうぞ」ず蚀っお店員が骚を差し出した。僕が躊躇するず、目で受けずるように合図しおきた。
     色はずもかく、僕の持぀骚ずたしかに感じが䌌おいた。
    「これはね、化石なんですよ。昔は日本でもよく鯚を食べおいたでしょう」
     店員の声を耳にし぀぀、僕は拡倧鏡を取りだしお芗いおみた。
    「幎代はどれくらいですか」
    「鑑定には出しおないのよ。以前、どこかの山で鯚の骚が出たでしょう、そんなこずもあっお眮いおいるの」
     ぀たりは䟡倀が出たずきのために、店に眮くスタンスらしい。
     山から鯚の骚が出た話は聎いたこずがある。たしか䞇幎から䞇幎前の地局から出たはずだ。
     瞄文海進で海面が䞊がり、鯚が泳いできたのかず思ったが、瞄文海進は玄䞃千幎前の話だ。䞖界䞭で地球枩暖化ず叫ばれる昚今だが、遠い昔にも気枩が䞊昇し、倚くの土地が海に沈んだ時期があった。海面が数メヌトル高くなり、各地で海氎が陞地の奥深くたで浞入した。
     もちろん珟代の枩暖化は科孊的に解明されお、二酞化炭玠が原因ず解っおいる。人の力で防げるのなら防がなくおはいけない。
     珟代人は倉化に匱い。溢れる情報に惑わされお生きおいる。だが昔は䜕事も受け入れお自然に埓い生きおきた。
    「どうしたす 賌入されたすか」
     僕が骚を手にしお考え事を始めおしたい、怪蚝に思ったらしい。
    「あヌ、すみたせん。たた来たす」
     僕は骚を返しお店を出た。肝心な答えは芋぀からなかった。

    〈続く〉

    #創䜜倧賞2024


     
     
     
    コロナ犍が始たり小説を曞き始めたした。叀いものが奜き。玠朎な時代小説が奜き。しっずりずそれでも胞が熱くなる物語が奜き。2024幎月に登録したした。よろしくお願いしたす。

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