
けだま異世界冒険譚 第17話
【あらすじ】
皇国の調査隊先遣隊隊長、ヴァルト・フォン・アイゼンベルク。
彼に課せられた使命は、禁足地で発生しているマナ異常の原因を調査することであった。
調査の途中、禁足地の遺跡で一人の男「けだま」と出会う。
未知の知識、未知の道具、そして遺跡に残された数々の痕跡。調査を進める中で、ヴァルト隊は世界の常識を覆す衝撃の事実へと辿り着く。
異世界から来たと思われる男。
その仮説を証明するため、そして彼が元の世界へ帰る手掛かりを探すため、一行は皇国へと向かうのであった。
第17話 仮説を証明するために
けだま殿が異世界から召喚された。
その話自体は、本人の口から幾度となく聞いていた。
だが。
完全に信じ切れていたわけではない。
我々の知らぬ文明。
あるいは。
遥か遠方の国家。
そのような可能性も、決して捨て切れなかった。
未知の道具。
未知の知識。
その全てを異世界と結び付けるには、あまりにも判断材料が少なすぎたの
だ。
しかし。
今回の調査で得られた事実は、その考えを覆した。
遺跡。
巨大な魔蓄石。
失われた転移術式。
安全装置。
禁足地で観測されたマナの異常。
そして。
禁足地へ突然現れた、一人の男。
……。
全てが一本の線で繋がってしまった。
証明には至らぬ。
だが。
もはや。
異世界から召喚された。
そう考える以外に、この現象を説明する術は見当たらなかった。
「隊長。」
「今回の調査結果も含め。」
「どのように対応いたしますか?」
エルザが静かに尋ねた。
ヴァルトは少し考え、口を開く。
「今判明している事実だけでも。」
「陛下は頭を抱えることになるだろう。」
「それほどの内容だ。」
「ですが。」
エルザが続ける。
「まだ。」
「これは仮説です。」
「証明には至っていません。」
「ああ。」
ヴァルトは静かに頷く。
「我々だけでは。」
「そこまで辿り着くことはできまい。」
「皇国へ戻る。」
「全てを報告し。」
「必要であれば。」
「学者達も交えて調査を進める。」
「それが最善だ。」
「ほんとに。」
「けだまさん。」
「異世界から来たんスか?」
「いや。」
「だからそう言ってるじゃない。」
「……多分。」
「そうとしか言えないけども。」
ルーカスは苦笑した。
「正直。」
「半分は疑ってたッス。」
「だろうね。」
「俺でも疑う。」
「でも。」
「今は。」
「信じるしかないッス。」
「……。」
「そう言われると。」
「なんか。」
「逆に怖いんだけど。」
「たださ……。」
「ん?」
「これ。」
「異世界転移が本当に本当なら。」
「帰る方法って。」
「あるんだろうか……。」
静寂。
エルザはゆっくりと首を横に振る。
「分かりません。」
「ですが。」
「転移してきたのであれば。」
「理論上は。」
「戻る方法も存在する可能性があります。」
ルーカスも腕を組む。
「逆に。」
「片道だけって方が不自然ッスね。」
ヴァルトが静かに頷く。
「転移装置。」
「そう呼ぶのであれば。」
「本来は。」
「往来を目的とした設備であろう。」
「……。」
けだまは苦笑した。
「だよねぇ。」
「でも。」
「今度は。」
「帰り方を探す旅になるのかぁ……。」
「少なくとも。」
「この書物には。」
「まだ多くの情報が残されていると考えられる。」
「解読が進めば。」
「新たな事実が判明する可能性は高い。」
「あるいは。」
「他に残された書物。」
「記録。」
「史料。」
「そうしたものから。」
「新たな発見があるかもしれぬ。」
「まずは。」
「そこが一番の糸口となるだろう。」
「人手。」
「機材。」
「知識。」
「どれを取っても。」
「現状では不足しています。」
「魔導学院でも。」
「転移陣について。」
「改めて検証する必要があります。」
「失われた術式である以上。」
「一人や二人で結論を出せるものではありません。」
「やはり。」
「一度。」
「皇国へ戻る必要があるな。」
ヴァルトは三人を見回した。
「さて。」
「そうなるとだ。」
「やはり。」
「けだま殿にも。」
「皇国へ同行していただく。」
「改めてお願いする。」
「え。」
「それって。」
「確約ってことでいいんですか!?」
「もう。」
「キャンプ生活しなくていいってことですよね?」
「人のいるところで。」
「生活できるってことですよね!?」
「お風呂!!」
「ベッド!!」
「人が作った飯!!」
「文明って素晴らしい!!!!」
ルーカスは吹き出した。
「そっちッスか。」
「いや。」
「一番大事だからね?」
「十日だよ?」
「十日。」
「文明から隔離されてたんだよ?」
「それは……。」
「確かにそうですね。」
エルザも苦笑する。
「……あ。」
けだまが思い出したように手を挙げた。
「ちなみに。」
「あの……。」
「何だ?」
ヴァルトが首を傾げる。
「タバコって。」
「ありますかね。」
一瞬。
三人が顔を見合わせた。
「……あるな。」
ヴァルトが静かに答える。
「やったぁぁぁぁ!!」
「文明復活だぁぁぁ!!」
「そこまで喜ぶんスか!?」
「いや!」
「たった十日とも言えるけどさ!?」
「毎日。」
「安全な場所で。」
「ピチピチちゃぷちゃぷ生活してたのよ!?」
「それが。」
「気が付いたら。」
「あそこよ!?」
「もう。」
「どうしようかと思ったからね!?」
「タバコも早々に尽きるし!」
「喋る相手もいないのよ!?」
「……。」
「今思えば。」
「よく生きてたな。」
「私!!」
「確かに。」
「普通なら。」
「死にかねないッスね。」
「そもそも。」
「禁足地には普通近寄りませんしね。」
「いや!!」
「だから!」
「私。」
「好きであそこにいたんじゃないんだってば!!」
「……。」
「そうでした。」
「失礼しました。」
エルザは申し訳なさそうに頭を下げた。
「いや。」
「ほんとに。」
「もう一時は。」
「どうなるかと思ったんだから……。」
けだまは苦笑しながら目元をこする。
「あ。」
「涙出てきた……。」
「随分と。」
「苦労したのだな。」
ヴァルトは静かに頷いた。
「しかし。」
「よくぞ生き延びてくれた。」
「けだま殿がいたからこそ。」
「今回の成果があった。」
「それは紛れもない事実だ。」
「……。」
「以前も話した通り。」
「保証人も含め私が責任を持とう。」
「皇国での暮らしは。」
「私が責任を持って支える。」
「ありがとうございます。」
「本当に。」
「皆さんに会えて良かったです。」
三人は静かに頷いた。
「あ。」
「ちなみに。」
「何だ?」
ヴァルトが首を傾げる。
「お風呂って。」
「浴槽あります?」
「もしくは。」
「銭湯みたいな。」
「大きいお風呂とか……。」
「浴場ならある。」
「おぉぉぉ……。」
「あと。」
「もう一つ。」
「何だ?」
「私。」
「めっちゃいびきでかいんで。」
「できれば。」
「防音しっかりした部屋がいいです。」
「昔。」
「ネカフェ追い出されたことあるんで……。」
「……。」
「ねかふぇ?」
三人が同時に首を傾げた。
「……。」
「また。」
「けだまさんの世界の言葉ッスね。」
「よく分からないが。」
「静かに暮らせる場所については。」
「安心してもらって構わん。」
「いやぁ。」
「助かります。」
「……あ。」
「まだ。」
「何か心配事でも?」
「お金。」
「持ってないんですよ。」
「……。」
「仕事とかって。」
「紹介してもらえます?」
一瞬。
三人は顔を見合わせた。
「……。」
「そこなんスね。」
ルーカスが思わず吹き出す。
「いや!」
「大事だからね!?」
「衣食住って!」
「働かざる者食うべからずって言うじゃん!」
「確かに。」
ヴァルトは苦笑する。
「その心配は無用だ。」
「今回の件だけでも。」
「十分すぎるほど皇国への貢献となっている。」
「生活については。」
「こちらで手配しよう。」
「え。」
「いいの?」
「もちろんだ。」
「けだま殿は。」
「我々にとって重要な参考人でもある。」
「同時に。」
「恩人でもある。」
「色々と。」
「学べることも多そうであるしな。」
「そちらも期待している。」
「いやぁ。」
「分かる範囲なら。」
「何でも説明しますよ。」
「元々。」
「人に教えるのは割と得意ですから。」
「……。」
「まぁ。」
「できれば。」
「働かずに。」
「ゴロゴロしながら生きていたいんですけどね!!」
「……。」
「さっき。」
「仕事ありますかって。」
「聞いてた人のセリフとは思えないッス。」
「いや!」
「そこ矛盾しないからね!?」
「仕事はするよ!?」
「でも!」
「楽したいじゃん!!」
「できるだけ少ない労力で。」
「生活できるようにするのが。」
「人生の目標だから!!」
「暫くは忙しい日々が続くだろう。」
「だが。」
「まずは皇国での生活にも慣れてもらう必要がある。」
「その辺りも含め。」
「こちらで手配しよう。」
「異国の暮らしかぁ。」
「文化も違うんだろうけど。」
「郷に入っては郷に従え、って言うし。」
「いろいろと。」
「教えてくださいませ。」
「ああ。」
「歓迎しよう。」
「皇国は、けだま殿を歓迎する。」
こうして異世界から召喚されたであろう男「けだま」は、
元居た世界へ帰る方法を探すため、
そしてこの世界での生活基盤を求めに、
皇国へと向かうのであった。
第17話 仮説を証明するために 完
けだま異世界冒険譚 第一章 終幕