
☕ Café Solas ― Season 6 Episode 6 —お正月編 元旦:最初の鍵を開ける人
Café Solas ― Season 6 は、
「変わらない場所」を自分たちの手で開け続ける人たちの、静かな一年の始まりを描く。
☕ Café Solas —お正月編:元旦、最初の鍵を開ける人
まだ、街が完全に目を覚ましていない時間。
アキラは一人、
Café Solasの前に立っていた。
吐く息は白く、
鍵はいつもより冷たい。
「……よし」
小さく言って、
シャッターを上げる。
店内は、昨夜のままだ。
きれいに整えられたカウンター。
洗い終えた器。
消し忘れのない灯り。
年を越したはずなのに、
空間は、驚くほど変わっていない。
アキラはコートを脱ぎ、
いつもの位置に掛ける。
「元旦だからって、
特別なことはない」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
豆を挽く音が、
朝の静けさに溶ける。
今年最初の抽出。
香りが立ち上がり、
アキラはほんの一瞬だけ、目を閉じた。
「……ちゃんと、続いてる」
それだけで、十分だった。
開店の札を表に出す。
「本日も営業中」
元旦用でも、
年始特別仕様でもない。
ただ、いつもの文字。
最初の客は、しばらく来なかった。
それでいい。
アキラはカウンターを拭き、
棚を整え、
昨夜のメモを一枚、引き出しにしまう。
「今日、やること」
開ける
淹れる
待つ
それだけ。
ドアベルが鳴ったのは、
開店から少し経ってからだった。
「……あ」
思わず声が漏れる。
外には、見覚えのある影。
「明けましておめでとう」
タクヤだった。
少し眠そうで、でも、いつも通りだ。
「やってると思って」
「思われてるのが、問題な気もする」
「褒めてる」
ほどなくして、
ケンタからメッセージが入る。
『昼前に行く。寝坊した』
アキラは小さく笑った。
「想定内」
カウンターに、
二杯目のコーヒーが置かれる。
「今年も、変わらないね」
タクヤが言う。
アキラは少し考えてから答えた。
「……変わらない場所があると、
変わっていい気がする」
タクヤは何も言わず、
カップを持ち上げた。
外では、
正月の静かな音がしている。
でも、Café Solasの中は、
もう“いつもの一日”だった。
このあと、誰が来るかは分からない。
それでも――
最初の鍵を開けた人が、
今日の流れを作る。
アキラは、
次の一杯の準備を始めた。
つづく