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☕ Café Solas — season7 第9話 残るもの、変わるもの

    午後のソラス。

    春のやわらかい光が、店内にゆっくりと広がっていた。

    ケンタはカウンターの中で、試作の皿を前に腕を組んでいる。

    「……いや、やっぱり違うな」

    皿の上には、小さなプリンと、桜色の餡。

    「だから言ったじゃん、“プリンと和菓子はどうなんだ”って」

    タクヤがラテを飲みながら笑う。

    「びっくりさせたいんだよ」

    ケンタは真顔だ。

    「“びっくりプリン”だからな」

    「方向性が雑なんだよ」

    「うるさい」

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    サチはそのやり取りを、少し離れた席で見ていた。

    自然と笑みがこぼれる。

    でも、そのあと――

    ほんの一瞬だけ、表情が曇る。



    「サチ?」

    アイが声をかける。

    「どうしたの?」

    「え?」

    サチはすぐに笑顔を作る。

    「ううん、なんでもない」

    アイは少しだけ首をかしげたが、それ以上は聞かなかった。



    夕方。

    店が少し落ち着いた頃。

    サチはカウンターに立ちながら、ぽつりとつぶやく。

    「……なんかさ」

    誰にともなく。

    「ここって、変わってきてるよね」

    ケンタが顔を上げる。

    「そりゃまあな」

    「人も増えたし、やってることも増えたし」

    タクヤも静かに続ける。

    「変わらない方が不自然だろ」



    サチは、小さくうなずく。

    「うん……そうなんだけど」

    言葉が、少し止まる。

    「なんか……怖くなるときがあるの」

    静かな空気。



    「ここが、違う場所になっちゃうんじゃないかって」

    その言葉に、ケンタは少しだけ考える顔をする。

    タクヤは視線を落とす。

    アキラは、コーヒーを淹れる手を止めない。



    「でもさ」

    ケンタが口を開く。

    「変わるのって、悪いことか?」

    サチが顔を上げる。

    「え?」

    「俺、ネットショップ始めて思ったんだけどさ」

    「同じことだけやってたら、たぶん続かない」

    少しだけ照れたように笑う。

    「まあ、まだ全然だけどな」



    タクヤが続く。

    「残るものと、変わるものは別だろ」

    「形は変わっても、残るものはある」

    サチはその言葉を、ゆっくりと受け止める。



    「……残るものって?」

    小さな問い。

    タクヤは少しだけ考える。

    でも、答えは言わない。

    「さあな」

    軽く笑って、ごまかした。



    そのやり取りを、アキラは静かに聞いていた。

    そして、一杯のコーヒーをサチの前に置く。

    「ほら」

    サチが見る。

    「……頼んでないよ?」

    「いいから」

    短い言葉。



    サチはカップを手に取る。

    あたたかい。

    その温度に、少しだけ肩の力が抜ける。

    「……これ」

    「いつものだろ」

    アキラが言う。

    サチは、ふっと笑った。

    その瞬間。

    何かが、少しだけ戻った気がした。



    夜。

    閉店後。

    タクヤはひとり、カウンターに座っていた。

    スマホの画面には、書きかけの文章。

    https://note.com/fine_donkey5326/n/n52ebc08fc6b7

    少しだけ、指を動かす。

    ——変わっていくことは、止められない。

    ——でも、残るものは、確かにある。

    そこで手を止める。

    「……まだ、早いか」

    小さくつぶやいて、保存する。



    店の奥で、サチが電気を消している。

    その背中を、タクヤは静かに見ていた

    「……大丈夫だよ」

    誰に言うでもなく。

    小さな声。

    カラン♫

    鍵を閉める音。



    春の夜。

    少しだけ冷たい風が、店の外を通り抜けていく。

    ☕️ To Be Continued — Season 7 Episode 10
    ——その光は、誰かの手へ。


     
     

    和人

     
     
    和人 52歳。 放送大学で学びながら、 小説『Café Solas』を執筆中。 就職氷河期世代として、 仕事・学び直し・健康・老後について考えています。 50代のリアルな日常と、 学び直しの記録を発信しています。 小説とエッセイを中心に更新中。

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