
🍮 Episode 3:雨の日のDJ
閉店後の「カフェソラス」
普段の賑わいが嘘のように静まり返った店内で、アキラはカウンターの奥に立ち、手を何かのオイルで拭っていた。
「ぷはぁー……やっと終わった」
そう息をつきながらも、その顔にはどこか満足そうな表情が浮かんでいる。
「アキラ、何やってんの? そんなに汚れて」
ケンタが洗い終えたグラスを棚にしまいながら、怪訝そうに尋ねた。
「ああ、ちょっとね」
アキラは工具箱を棚に戻しながら答える。
「実は最近、古い原付をレストアしててさ」
「え、原付?」
レジを打ち終えたタクヤが、意外そうな顔で振り返った。
「なんでまた急に?」
アキラの目が嬉しそうに輝く。
「これがまた、いいバイクなんだよ。
**『ホンダDJ-1』**って知ってるか?
もう30年以上前のやつなんだけど」
ケンタは首を横に振る。
「全然知らない」
「俺も名前だけ聞いたことあるかな」
タクヤが顎に手を当てて考えるように言う。
アキラは身を乗り出し、熱く語り始めた。
「この前、おじいちゃんの家に行ったときに見つけたんだ。もうおじいちゃんはいないんだけど、おばあちゃんに頼んで譲ってもらってね。
ボロボロだったけど、ネットで調べてコツコツ修理してたんだよ。
エンジンもなんとかかかるようになって、この前近所を初めて走ったんだけど、最高だった!」
「えー、バイクって危なくない?」
ケンタが眉をひそめる。
「それに、雨の日とか風が強い日は地獄」
「この間なんて、ゲリラ豪雨で全身びしょ濡れだったって言ってたじゃん」
タクヤも冷静に突っ込む。
アキラは少しむっとしたように言い返す。
「まあ、確かに雨の日は大変だけどさ。でもさ、風を感じながら走る爽快感って、車じゃ味わえないんだよ。
小回りも利くし、ちょっとした移動には便利なんだ」
「でも結局、車のほうが快適ですよね。エアコンも効くし、音楽も聴けるし、荷物も積めるし」
ケンタは自身の愛車の利点を並べ立てる。
「まあ、それはそれで正論だけどさ……でもやっぱり、古いバイクを自分の手で直して乗るっていう楽しさがあるんだよ」
アキラはバイクへの愛情を静かににじませた。
軽い言い合いのあと、三人はそれぞれ帰宅の準備をはじめる。
外に出ると、空からポツポツと雨が落ちてきた。気づけば、あっという間に土砂降りへと変わっていく。
アキラは雨に濡れながら、空を見上げてつぶやいた。
「……やっぱり、こういう日は俺も車のほうがいいな〜」
ケンタとタクヤは顔を見合わせ、思わず笑った。
雨の夜。三人は静かに、それぞれの帰路へと歩き出した。