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☕ Café Solas — season7 第4話 「ミユキのメモと、夕方の風」

    「……なあ、これ、やりすぎか?」

    春の柔らかな日差しが差し込むカウンター。

    ケンタが真剣な顔で、
    タブレットの画面をアキラとミユキに突き出した。

    画面には、ビビッドな色使いのグラフィックデザインが躍っている。

    「……何、これ。また新しいフィギュア?」

    ミユキが眉をひそめて覗き込む。

    「違うよ、クッション。抱き枕サイズも検討中」

    「クッション?」

    「そう。
    ショップのロゴを全面にプリントしてさ、
    こう、部屋に置くと存在感がエグい感じの。
    これ、サンプルなんだけど」

    ケンタが足元から取り出したのは、
    試作で作ったというクッション。

    そこには、
    第1話で話題になった
    あのシュールな
    「プリン・フィギュア」が、
    超高精細なフルカラーでプリントされていた。

    「……目が合うんだけど。このプリンと」

    アキラが淹れたてのコーヒーを置きながら、
    ボソッと呟く。

    「だろ? 癒やしだよ、癒やし。
    この質感がプリントでどこまで再現できるか、
    今テスト中なんだわ。
    ミユキ、どう思う? 会社に置く?」

    「……置かない。絶対に」

    ミユキは即答し、手元のノートに視線を落とした。

    「ケンタ、
    ショップの方向性がどんどん『珍品屋』になってる気がするんだけど」

    「センスがいいって言えよ!
    これから『春の安眠キャンペーン』で打ち出すんだからな」

    「安眠……できるかな、これ……」

    アキラが遠い目でクッションを見つめる中、
    ケンタは満足げにそれを抱えて厨房へと消えていった。

    嵐のようなやり取りが去り、
    店内には再び、少しだけ冷たい春の夕風が入り込んできた。


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    春の夕方。

    Café Solas の窓から、少しだけ冷たい風が入り込んでいた。
    昼の喧騒が落ち着き、店内にはゆるやかな時間が流れている。

    ミユキはカウンター席でノートを広げ、
    何かを書いたり消したりしていた。

    アキラがコーヒーを置く。

    「仕事?」

    ミユキは首を振る。

    「ううん。ちょっと考えごと」

    アキラはそれ以上聞かず、静かに戻っていく。

    そのとき、ケンタが厨房から顔を出した。

    「ミユキ、また何か企んでんの?」

    「企んでないよ」

    「いや、絶対企んでる顔だって」

    ミユキはため息をつき、ノートを閉じた。

    「……民泊のこと」

    ケンタが目を丸くする。

    「お前も乗り気なの?」

    「乗り気っていうか……
    タクヤとアイ、ちゃんと考えてるのかなって」

    ケンタは笑う。

    「まあ、あいつらは勢いで生きてるからな」

    ミユキも少し笑った。

    「でもさ。
    誰かが“途中で休める場所”って、いいよね」

    アキラがその言葉に反応して、少しだけ振り返る。

    夕方の光が、店内をゆっくり染めていく。

    タクヤが入ってきた。

    「お疲れ」

    ミユキはノートを指で叩く。

    「ねえタクヤ。
    民泊のこと、ちゃんと考えてる?」

    タクヤは少し驚いた顔をした。

    「……考えてるよ。
    でも、まだ形になってない」

    ミユキはうなずく。

    「じゃあさ。
    私、ちょっと手伝おうか?」

    タクヤが目を細める。

    「お前が?」

    「私、文章書けるし。
    説明文とか、ページ構成とか。
    そういうの、得意だから」

    ケンタが横から口を挟む。

    「お前、ケンタのショップも直してやれよ」

    「それは後で」

    ケンタが肩を落とす。

    アキラが静かに言った。

    「……いいんじゃないか。
    ソラスの“外側”にも、少しずつ灯りが広がるのは」

    ミユキはその言葉に、少しだけ目を伏せた。

    「うん。
    なんかね、最近思うんだ」

    「ここに来る人って、
    みんな“途中”なんだよね」

    タクヤが笑う。

    「アイも同じこと言ってたな」

    ミユキは驚いたように顔を上げる。

    「え、ほんと?」

    「うん。
    旅は人生の途中だって」

    ミユキは少しだけ嬉しそうに笑った。

    「……じゃあ、私も途中でいいや」

    アキラがカウンター越しに言う。

    「途中だから、ここに来るんだろ」

    ミユキはコーヒーを持ち上げた。

    「そうだね」

    夕方の風が、ソラスの看板を揺らした。

    ミユキのノートには、
    新しいページが開かれている。

    そこにはまだ何も書かれていない。

    でも、
    その空白は“始まりの余白”のように見えた。

    春の夕暮れ。
    ソラスの灯りは、今日も誰かの途中を照らしている。

     
     

    和人

     
     
    和人 52歳。 放送大学で学びながら、 小説『Café Solas』を執筆中。 就職氷河期世代として、 仕事・学び直し・健康・老後について考えています。 50代のリアルな日常と、 学び直しの記録を発信しています。 小説とエッセイを中心に更新中。

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