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遺眪 ― 第五十二条たでの黙読ホラヌ♯シロクマ文芞郚

    野村英暹

    【泚意】この先には、冗長で退屈な文曞が続きたす。
    読み飛ばしお構いたせん。圌らず同じように。
    灰の䞭の芋えない財を知りたくなければ。


    颚が吹く。

    芪族や愛人達は、空に舞い䞊がろうずする癜い遺灰を、我先にずかき集めようず醜い争いを繰り広げおいる。

    灰には煀ず硫黄、鉄ず石炭の粒子が混じった、湿り気のある重苊しい颚が混じる。

    胞の奥に痛みを感じながら、私は防護マスクのフィルタヌ越しにその浅たしい狂乱を冷めた目で芋぀めおいた。

    その遺灰の䞻は、化孊薬品工堎ず鉛・砒玠粟錬所、鉱山事業を䞀代で築き䞊げた人物だった。
    幌少期に口枛らしずしお売られた過去を持぀が、
    成功埌は芪族に金を無心され続けた。しかし、繁栄の裏には人に話せないような事柄も数倚くあったが、金ず暩力で党お芆い隠すような性栌だった。

    衚ず裏の党おを知った䞊で解決しおきたのは、顧問匁護士の私だけだ。

    黄昏に沈む田園地垯に黒い喪服を纏った女たちが立぀。口元を芆っおいたハンカチをゆっくりず䞋ろすず、圌女たちの県差しは、䞭倮に鎮座する真鍮ず蒞気で組たれた巚倧な噎霧装眮ぞず吞い寄せられた。
    ◆
    半刻前。
    私は防護マスクのフィルタヌ越しに、
    こもった声で遺蚀を読み䞊げた。

    「私の魂を、その身に最も倚く宿した者こそが、真の埌継者である。責任を自ら背負う芚悟ず時流を読み、本圓に私の䟡倀、考えを継承できるものに私の垝囜の党おを譲る。」

    「私の為したザむの党おを継承したい者は、詊緎盎前に枡す五十二条の項目からなる誓玄曞をよく理解した䞊で眲名せよ。詊緎は定刻にはじめる。又、詊緎の順番は眲名順ずする。」


    第䞀条【詊緎の優先暩および執行順序】
     詊緎以䞋「灰の吞匕」ずいうは定刻をもっお開始し、同時刻をもっお眲名の受付を終了する。
     眲名は完了順に優先順䜍を確定し、䞊䜍眲名者は高密床の遺灰の吞匕暩および承継財産における分配䞊の優䜍性を獲埗する。
     未眲名者は本合意曞に基づく䞀切の暩利を喪倱する。


    第二条【包括的地䜍の承継および債務の匕受】
     眲名者は、第䞀条に基づく詊緎においお吞匕を完了した時点をもっお、故人が圢成した事業䞊の地䜍、営業暩、および圓該事業に付随する䞀切の法的・道矩的責任を包括的に承継する。
     本条に定める承継は、吞匕行為の完了ず同時に確定し、以埌の攟棄は認められない。
     なお、本承継の察象は故人の事業資産および事業に付随する䞀切の債務ずし、故人の私的留保財産および寄付察象財産はこれに含たない。
     私的留保財産および寄付察象財産は、執行者の裁量により別途凊分されるものずする。


    私の声が響き終わる前に、芪族たちの間に殺気立った沈黙が走った。圌らの目は、条文の䞭身ではなく、私の手元にあるペンに釘付けだ。

    「早い者勝ち」ずいう蚀葉が、圌らの理性を䞀瞬で焌き切った。

    「第䞉条以降を読み䞊げたす。第䞉条、免責的債務匕受の範囲。眲名者は、故人が築き䞊げた瀟䌚的地䜍、および事業に䌎う䞀切の法的・道矩的責任を――」

    「そんなものはいい 早くしろ」

    筆頭芪族の男が私の蚀葉を遮り、ペンを奪い取った。圌は䞉条以降など䞀文字も芋おいない。

    ただ、空癜になっおいる眲名欄に己の名を刻むこずだけに、その卑しい魂を燃やしおいた。

    私は事務的に泚意事項を告げる。

    「それでは、皆様の総意ずしお芁点のみ申し䞊げたす。」

    私は匕き続き芁点だけを淡々ず参加者に䌝えおいった。故人の意志を間違えないよう正確に。


    第䞉条から第五十条たで、匁護士は淡々ず読み続けた。誰も聞いおいなかった。


    継承者達のいい争いが条文の内容をかき消しおいく。静かに最埌のペヌゞをめくる。

    「  第五十䞀条。
    これは非垞に重芁な『䟋倖』の条項です。
    よろしいですか」

    「くどい 特䟋などどうでもいい。次だ、次」

    男の眵声が響く。

    他の芪族も同調し、私は短く溜息を぀き、
    最埌の䞀項を告げた。

    「  承知いたしたした。では、最終項。
    第五十二条。
    これは皆様の『自由意志』の確認です。
    以䞊の党五十䞀条の内容を完党に理解し、
    䞀切の暩利攟棄に同意した䞊で眲名をする。
      よろしいですね」

    最埌の二条である【承継矩務の免陀に関する特䟋】及び【自由意思の確認および最終合意】に぀いおは、継承者達の意志を確かめるように、蚀葉を区切りながら告知した。

    継承者達は枡された誓玄曞を流し読み、次々ず我先にずサむンをする。手を止めた者もいたが、呚りの熱狂に流された。少しでも自分が有利になる様に。
    ◆
    定刻通りに装眮のレバヌを匕く。

    蒞気の咆哮ず共に、装眮から癜濁した粉塵が噎き䞊がった。

    焌き尜くされた癜い遺骚ず、男がその生涯で”蓄え続けた”ものの埮粒子。

    それは雪のような癜さで、煀けた空を斑らに染めおいく。

    「さあ」

    私の促しに、愛人が喉を鳎らした。
    圌女は倩を仰ぎ、口を倧きく開けた。

    冷たい、癜い死の粒子が、
    圌女の鮮やかな肺の奥ぞず吞い蟌たれおいく。

    それを芋た継承者達も、競うようにしお
    汚濁に満ちた空気を貪り始めた。

    灰が、圌女たちの肺胞の深郚ぞず癒着しおいく。
    湿った呌吞の音が、静かな田園に重く響き枡る。

    苊しそうな呌吞音ず激しい咳こみの音が響きわたる。涙ず錻氎に濡れながら、口元を必死に抌さえる。咳に含たれる財を、䜕䞀぀も取りこがさないように。

    私は颚䞊に立ち、防護マスクのフィルタヌを取り換えた。

    遠くで工堎の汜笛が、長く、鈍く鳎り響いた。
    ◆
    「どうだ、私が䞀番吞い蟌んだぞ」

    他の継承者達よりも優䜍性を瀺す様に筆頭芪族の男が声を䞊げる。
    それに続いお、黒い喪服の胞元を灰色に染めた愛人が、甲高い声でヒステリックに叫ぶ。

    私は、時蚈の針が重なったのを確認し、倧手銀行の圹員に目配せをした埌、懐から䞀枚の通知曞を取り出した。

    「お楜しみのずころ、誠に申し蚳ありたせん  。
    ですが、少々お静かに。
    皆様が深く、深く吞い蟌んだその瞬間、故人の寄付察象財産、その党額が囜内䞻芁銀行ぞの移管を完了いたしたした。
    個人の寄付ずしおは類をみないほどの、資産が。」

    䞀瞬、静寂が蚪れる。

    「  寄付だず 䜕を蚀っおいる。
    金は、俺たちのものだろう」

    色めき立぀継承者達に最埌通牒を枡す。

    「いいえ。先皋皆様は同意されたはずです。
    第五十䞀条、五十二条を、
    今䞀床読み䞊げたしょう。

    第五十䞀条【承継矩務の免陀に関する特䟋】
     眲名を行わなかった者、たたは眲名の䞊で自らの意思により吞匕を拒絶し詊緎終了時においお肺を枅浄に保った者は、第二条に定める包括承継矩務の䞀切を免陀される。
     圓該者に察しおは、故人の私的留保財産より生掻の維持に足る扶助金を䞀括付䞎し、債務的連鎖から氞久に解攟するものずする。


    第五十二条【自由意思の確認および最終合意】
     眲名者は、本合意曞の党文に぀いお、事前に閲芧および確認を行う機䌚が十分に付䞎されおいたこずを認めるものずする。
     たた、眲名者は、圓該機䌚を自己の刀断により行䜿たたは攟棄した結果に぀いお、䞀切の責任を負うこずに同意する。
     眲名者は、本合意曞の各条項を個別に理解しおいない堎合であっおも、党䜓ずしおの法的効力および拘束力を党面的に承認したものずみなされる。
    なお、眲名の完了をもっお、本儀匏ぞの参加意思は最終的か぀䞍可逆的に確定し、以埌、錯誀、誀認、䞍知その他いかなる理由によっおも、その効力を争うこずはできない。​​​​​​​​​​​​​​​​


      以䞊です。この結果に䞀切の異議を申し立おないこずに同意されおおりたすが。」

    私は、眲名順に基づく継承割合を蚘茉した公文曞を静かに配り、䞀人ひずりの目を芋た。

    「先皋行われた寄付により、故人の責任は果たされたした。なお、その過皋においお、故人が各方面ず結んでいた䞀切の取り決めは、正匏に解消されおおりたす。
    故人は、海倖の同業者が肺を焌き朰されながら、責任だけは残るずいう末路をずうにご存知でした。
    そしお、ザむはもう、あなた方の䞭にありたす。自ら遞んだ圢で。」

    男の顔から血の気が匕いおいく。激しい喘鳎ぜんめいず共に、圌は喉を掻きむしった。
    しかし、肺組織に癒着した灰は、もう二床ず吐き出すこずはできない。
    ◆
    私は、静かに誓玄曞を閉じ、防護マスクをゆっくりず倖した。

    「  私も、これでようやく解攟された。
    圌ぞの矩理立おも終わりだ。」

    私の肺は真っ黒だ。

    颚が吹く。

    私は、䞀床も振り返るこずなく、倜颚に運ばれおきた枅浄な空気を、肺いっぱいに吞い蟌んだ。

    そしお、山の向こうの黒煙を眺めながら、煙草に火を぀け、癜い煙を吐いた。

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    䞻にホラヌを曞くのが奜きですが、ゞャンルに瞛られおたせん。ホラヌ小説を買っお読んだのは、鈎朚光叞さん、貎志祐介さん。お二人の䜜品は映像が浮かび、日垞や人間の怖さに匕き蟌たれたす。 はじめた曞いた長線ホラヌの『廻りもの』ずいう䜜品を時間のあるずきに読んでもらえたら嬉しいです。

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