忘れられない英単語「ふらじぇいるっ」
忘れられない英単語はありますか?
私はある。
fragileだ。
若かりし頃、【あいのり】という恋愛リアリティショー番組が流行っていた。
その主題歌はEvery Little Thingの「fragile」。
もちろん単語の意味は知っていた。
恋愛ソングだし、なんとなく
「もろい」
「かよわい」
そんなイメージで覚えていた。
だが、この単語には忘れられない思い出がある。
ある日、私は仕事でハワイ支店から来る社員を、とあるホテルから会社まで案内する任務を任された。
英語は喋れない。
でも数時間くらいなら何とかなるだろう。
なにより海外の人と話してみたかった。
実際、何とかなった。
事前に作ったカンペと身振り手振りと相手の優しさに助けてもらいながら。
ホテルのロビーで合流し、一緒にチェックアウトの手続きをする。
荷物が多いので宅配便で送るということで、配送カウンターへ案内した。
店員さんの説明を聞いて、私はそれっぽい英語で彼に伝える。
今思えばほぼ日本語だった気もするが、その時は少し調子に乗っていた。
仕事で海外の人を案内している。
なんだかキャリアウーマンみたいだ。
実際は人手不足の結果、白羽の矢が立っただけなのだが。
そして手続きの最後。
店員さんが聞いた。
「割れ物はありますか?」
私は固まった。
割れ物。
英語で何て言うんだろう。
ガラス?
コップ?
えーと。
なんとか彼に聞いてみた。
「グラスとか、ある?」
彼は不思議そうな顔をした。
うまく伝わっていない。
すると見かねた店員さんが一言。
「fragile」
私の耳には
「ふらじぇいるっ」
と聞こえた。
ものすごくカッコいい発音だった。
彼は即答した。
「No」
その瞬間、頭の中で何かがつながった。
そうか!
fragile!
あれか!
Every Little Thingの!
あのfragileか!
脆い。
壊れやすい。
こういう時に使うのか!
恋愛だけじゃないのか!!
そして次の瞬間、猛烈に恥ずかしくなった。
店員さんは英語ペラペラ。
私は見た目だけ英語ペラペラ。
中身は単語のみ、なんちゃってキャリアウーマン。
さっきまでのイキリっぷりを全部見透かされていたような気がして、私は早々にその場を立ち去った。
あれから二十年以上が経った。
fragileという単語は、その後ほとんど使っていない。
それでも忘れられない。
今でも勤め先の本屋で配送準備をしている時、
荷物に割れ物が混ざっていると、
誰も見ていないことを確認してから小さくつぶやく。
「ふらじぇいるっ」
これが私のルーティーンなのだ。
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