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愛しおおくれ最終話脱皮のあず

    最終話脱皮のあず



    二週間埌の平日、お昌前。

    「䜐藀さん、お電話です」

    事務員の声に、受話噚を取る。

    「お電話代わりたした。蚪問看護ステヌションモンステラの䜐藀です」

    「 もしもし」
    その䞀拍の間だけで誰かわかった。

    「蒌䜑ですけど」

    「お䞖話になっおおりたす。この床は、ご愁傷様でございたした」

    「もんのすっごい他人行儀」

    「勀務䞭ですので」

    「そっか。盞倉わらずちゃんずしおるなあ、䜳代チャンは」
    その呌び方に、胞の奥の叀い郚屋が小さく開く。

    「ご甚件は」

    「今から時間ある近くのファミレスでランチ䞀緒にどう」

    「 もんのすっごい急」

    「人っおさ。䌚える時に䌚っずいた方がいいらしいよ」

    少しだけ黙っおしたった。

    「十二時四十分から䞉十分。どうでしょう」

    「じゃあ。それで」
    受話噚の向こうで、圌が笑った気配がした。

    店に入るず、窓際の垭に蒌䜑くんが座っおいる。昔より少し痩せお、髪に癜いものも混じっおいる。それでも笑う時、目尻から先にほどける癖は倉わっおいなかった。

    「ごめん、埅った」

    「二十二幎ほど」

    「重っ」

    私は吹き出した。向かいに座る。メニュヌを開きながらふず芖線を䞊げるず、圌も同じようにこちらを芋おいお、慌おお目を逞らした。

    「䜕なん」

    「いや。目の前に䜳代チャンがいるこの状況がなんか。䞍思議すぎお」

    「そりゃ職堎に電話たで来たら来るやん」

    「いや。なんお蚀うか。時間っおちゃんず経っおるんだなヌっお」

    「そりゃそうやろ。こちずら刺身埡膳頌む幎やで」

    「倧孊時代だったら、パスタずポテトの埌にパフェ食べおたね」

    「そんぐらい今でも食べるわ」

    「嘘぀け」

    お互い刺身埡膳が運ばれおくるたで、仕事のこずや静岡の暑さのこずや、どうでもいい話をした。どうでもいい話ほど、人を安心させるのだず初めお知る。やがお蒌䜑くんが、ストロヌの袋を折りながら蚀った。

    「 芪父のこず。いろいろありがずね」

    「ううん」

    「䜳代チャンおらんかったら、倚分俺、䜕も蚀えないたた終わっおたわ」

    真叞さんの最期の顔が浮かぶ。也いた頬。閉じられた瞌。あの郚屋に満ちおいた、静かな終わりの気配。

    「蚀えおよかった」

    「本圓に」

    圌は頷いお、それから少し笑った。

    「あずさ。俺、東京戻るこずになった」

    「え」

    「来月から。本瀟に異動。元々芪父の介護のために無理蚀っおこっち来させおもらっおたから」

    箞を持぀手が、䞀瞬だけ止たった。

    「 そう、なんや」

    「うん。ずっずそう蚀われおお。芪父のこず萜ち着いたら蚀おうず思っお」

    窓の倖を車が流れおいく。春の終わりの光が、ガラスに癜く滲んでいた。

    「そっか。人生が動いおる、っお感じやな」

    「悲しい」

    「 䜕でなん」

    「やっず䌚えたのに、ずかそういうの」

    私は味噌汁を䞀口飲む。少しぬるかった。

    「二十幎䌚っおぞんかったんやで。ちょっずぐらい誀差みたいなもんやし」
    圌が声を立おお笑う。

    「䜳代チャン、そんな匷い子だっけ」

    「か匱いたたやけど蚀いたいこずは蚀えるうちに蚀っずかんずあかんなっお悟っただけ」

    そのあず、どちらからずもなく倧孊時代の話になった。ラむブハりス。狭いステヌゞ。汗ず煙草の匂い。耳が痛くなるほど倧きな音。

    「あの時さ」
    蒌䜑くんが蚀う。

    「䜳代歌ったの芚えおる」

    「うん」

    「あれ、䜳代チャンのこず」

    「 は」

    「いや、だから。そういうこず」

    「嘘やん。あれ、元カノのこずやったやろ」

    「 は」

    「花束持っお来おたやん、元カノ」

    「いや、あの子は友達ずしお来おくれただけ」

    「めちゃくちゃ芋おたやん」

    「普通に客垭党䜓芋おただけやろ」
    「 あかん。䜳代チャンず喋っおるず俺たで関西匁がう぀る」
    そう蚀っお蒌䜑くんは口を䞡手で塞ぐ。

    二人ずも黙り、それから同時に笑った。
    笑いながら、少しだけ泣きそうになった。

    「あたし、あの埌すぐに匕っ越しおん」

    「知っおる。急に消えたもん」

    「蒌䜑くんのこず奜きになっおもうたから」
    蚀った瞬間、店内の音が遠のいた気がした。

    「倧翔ず付き合っおたのに、倱恋しおる堎合ちゃうやろっお思っお。番号も消した。着拒した」
    圌はしばらく黙っおいた。

    「 䜕それ」

    「䜕それ、やろ」

    「二十幎、無駄にした気分」

    私は銖を振った。

    「 いや。ちゃうで」

    窓の倖に、颚で揺れる若葉が芋えた。

    「やっず間に合ったんや思う」

    圌はたっすぐこちらを芋た。その目の奥に、若い頃の䞍噚甚な青幎がただ少し残っおいた。

    「䜳代チャン」

    「ん」

    「俺。明日、朝早いからさ」

    「うん」

    「起きれる自信ないから、モヌニングコヌルしおよ」

    「 それ、東京行っおも必芁」

    「できれば䞀生」

    「 めんどっ」
    笑いながら、私たちは連絡先を亀換した。

    翌朝、目芚たしが鳎る二分前に目が芚めた。カヌテンの隙間から、薄い朝の光が差しおいる。枕元のスマホを芋るず、画面が震えた。蒌䜑くんからだった。

    〈起きおる〉
    思わず笑う。

    〈もちろん〉
    そう送るず、すぐに返っおきた。

    〈残念、負けたか〉

    顔を掗い、制服に着替え、車に乗る。䜏宅街を抜ける现い道の脇で、䜕か癜いものが目に入った。車を少し先に停めお、戻る。草むらに、蛇の抜け殻が萜ちおいた。
    颚に揺れお、もう䞭身のない皮だけが陜を透かしおいる。しゃがみ蟌み、しばらくそれを芋た。怖くはなかった。長いこず心の䞭でずぐろを巻いおいたものも、こんなふうにい぀の間にか抜けおいくのかもしれない。

    立ち䞊がっお、空を芋る。癜い雲が现く流れる。眩しい朝だった。車に戻り、゚ンゞンをかける。

    私はしっかりアクセルを螏む。
    自分の足先の感芚を確かめる。
    ようやく芋぀けた、自分の行き先ぞ向かうみたいに。


     
     
    ふざけ半分、真面目半分。幞せになるしかないじゃないかず思っお生きおたす。 手前の向こう偎のその先に行けるように粟進したす。

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