
【脚本】『泣き虫ヒーロー』
あらすじ
宮城県気仙沼市で働く配達員・ミチは、ある日妻ユウコから「逃げて!!」という叫びを聞いた直後、中学生時代へタイムリープする。
「物事には必ず理由がある」
親友サチオの言葉をきっかけに、ミチは自らのやり残したことに気付く。それは、東日本大震災で命を落とした初恋の人・シオンを救うこと。
未来の妻ユウコに支えられながら、ミチは運命を変えようと翻弄する。しかし未来を知っていても、人の心と運命を変えることは簡単ではない。
大切な人を救いたい。世界のすべては救えなくても、自分の手が届く人だけでもーー。
絶対に、生きて戻る。 泣きながら命をかける、一人の男のタイムリープヒューマンドラマ。
(風鈴の音。そよそよと風が吹いて、レースのカーテンが揺れる。畳の上で眠っているミチの顔に日差しがあたり、ミチが目を覚ます。)
ミチ『…うーん。涼しい~…』
ユウコ『寒いのね。まったく…はっきり言いなさいよ。ほら、タオルケット掛けな。』
ミチ『ありがとー。俺の奥さん、超優しい。大好きいぃー…ぐぅー…』
ユウコ『ったく!寝すぎ!配達あるんでしょ?さっさと行って来なさいよ。…ヒカリー!今日は、学校行くのー?』
ヒカリ『いかなーい…』
ユウコ『はいこの時間にパジャマなんだから、でしょうね。じゃ、お昼は焼きそばでいいね?』
ヒカリ『(にっこり笑って近付いて来る)ママ!今日の占いもうやった?ヒカリはどうだった?!』
ユウコ『まあまあ待ちたまえよ…(タロットをめくる)今日のヒカリは…元気がない一日。明日は…(タロットをめくる)お!何かいい発見があるみたい。明日は学校に行ったら?』
ヒカリ『そうする!』
ユウコ『朝ごはん、テーブルにオニギリあるから。』
ヒカリ『はーい(パタパタと走って行く)』
ミチ『(慌てて)おはよー!行って来ます!!』
ユウコ『コラコラ!君は妻の作った弁当も忘れるつもりかな?そこに愛はあるのかい?』
ミチ『ごめんごめん!ちゃんと愛を受け取って、お仕事行って参ります!』
ユウコ『はい、行ってらっしゃい。』
(キスをする)
ミチ『ねえ…今日早く帰ってくるからぁーーー!!』
ユウコ『しっかりお仕事してきて下さい!!』
ミチ『(遠ざかりながら)行ってきまーす!!』
ユウコ『ふう…。さてさて、私の愛する旦那様の、本日は…(タロットをめくる)…恋人のカード…ふふ、旦那様はいつまでも、奥様と恋愛モードですねー…で次は…』
(手が震えるユウコ)
ユウコ『…!!…死神のカード…物事の終わり…一度、無に戻した方が良い…別離…事故死…。』
ヒカリ『…ママ?』
ユウコ『ヒカリ!3分で支度しな!パパを追いかけるよ!!電話…も…これがきっかけになっても…くそっ、なんであたしのタロットは、いつも当たるんだよ!!』
(トラックで海辺を走るミチ)
ミチ『(鼻歌を歌っている)ふ~。今日も海キラキラ、空は青いし、配達はそんなに遠くないし。車は空いてるし、なんか、赤信号に一回も引っかからないって、今日はいい日なんじゃないの俺。』
(またもや赤信号が青に変わる)
ミチ『とは言え、しっかり信号も確認しますし、右左と巻き込み確認もしますよ私は。(ウインカーのカチカチの音)さて、もうすぐ着くな~。次何歌おうかな~。…ん?空が…なんか変だな…』
(キラキラと光る大きな何かが近づいてくる)
ミチ『なんだろ。(トラックを脇によせて停車する)なんだろ…今日雲、あんまり無いけど、あの雲だけ光ってる…え…すごい光ってるよね…(電話をかける)あ、ユウコ?うん、今車は停車してる。うん、それでさ、今日、俺の占いって、どうだった?(電話がザザッと雑音が入るが、ユウコの叫ぶ声が電話の向こうから聞こえる)え?何?聞こえないよ!』
ユウコ『逃げてー!!!!』
(隕石が海に衝突する。ミチはトラックごと爆風で吹き飛ばされる。叫ぶ暇もないほどの、音を吸収し、大きな爆発が起きる)
(暗転)
(風鈴の音。木々が揺れて顔に日差しが当たり、目を覚ますミチ)
ミチ『うーん…あれ?!』
ばあ『ば、何だべおっぎな声だして。びっくりしたごどー。んな、かでー床の上でよぐねれるね。(ぶつぶつ)』
ミチ『ばあちゃん…ばあちゃん!!』
(抱きつく)
ばあ『なんだべこどもみでぇに…』
ミチ『ばあちゃん、俺、夢見てるのかな。ばあちゃんは、俺が高校卒業してすぐの時に死んじゃったのに。こんな…リアルに…』
ばあ『ばがこの!(でこぴん)だーれ死んでるって?おーらピンピンしてっから…』
(歩いて去ろうとする)
ミチ『めっちゃ痛てえ…夢じゃない?…うわー!!!?』
ばあ『今度はなに?』
ミチ『俺…え…鏡…これ俺?』
ばあ『そりゃ、おめに決まってっぺ?(ぶつぶつ言いながら去る)』
ミチ『…中学生の時の俺だ…。俺、死んじゃったのかな…。(一回状況を整理しようとする)えっと、雲が、一部が光ってて…ユウコに電話をかけたんだ。で、もう一回みたら…一瞬だけ見えたけど、あれは隕石かな…爆風にトラックごと吹き飛ばされて…記憶がない…。…うん!じゃあこれは、走馬灯かなんかだな!夢なら、はい!…覚めろ!…(鏡みる)…はははは…これ…覚めないパターンってやつ?』
(ストリートファイターの音。サチオの部屋。バタバタと足音が近づいてくる)
サチオ『あ、ミチか。ちょうど退屈してたからよかった…』
(バターンと部屋の扉が開く音)
ミチ『サチオキューン!!!』
サチオ『相変わらず強烈に気持ちわりいな!!』
ミチ『サチオ、聞いてくれ。信じられないかもしれないんだけど…本当の事なんだ!!!』
サチオ『なんだ、改まって…大事な話か?』
ミチ『うん…俺な?……死んでるみたいなんだ…』
(少し間をあけて、ミチのおでこをぺちんと叩く)
ミチ『いって!!結構強め~!!』
サチオ『おうおう痛いかそれはよかった。痛いって事は、死んでるわけでも、寝ぼけてるわけでもなさそうじゃんか。』
ミチ『…違うんだよ!!いいか?!…俺がいたのは2026年の10月で、今は1997年の10月なわけ!!28年前なわけ!!』
サチオ『(ゲームから目を反らさず)悪い物でも食べたのかー?未来から来たなら、これから俺に起こる事当ててみろよ。』
ミチ『え?今日?…今日って何日?』
サチオ『今日は、10月5日、晴れ、時間は12時29分…もうこんな時間か…なあ、昼食ってくか?』
ミチ『タコ!!』
サチオ『…はい?』
ミチ『サチオの父さんが、でっかいタコ、大量に釣って戻って来て、近所のみんなにふる振舞ったんだよ。10月はトオとも読むし、5日はゴとも読むから、タコの日でいいだろっていうんだ。無理やりだろーって思ったんだけど、俺それから、10月5日はタコの日だったなーって、いつも思うようになってたんだ。』
サチオ『そ…そもそも、父さんがタコ釣ってきたってのが、今年って保証ねえじゃん。それにそんな詰まんねーダジャレ、俺の親父が言う訳無いだろー?』
(宴会の席、ざわざわとしている声。近所の人達が集まって宴会をしている)
サチオ父『10月5日だから、タコの日だねー!!いやー今日大量大量!!みんな、けーけー!!こんな大量なやつぁ、毎年あるもんでねえからね!今日は無礼講だー!!』
ミチ『サチオ…言ってるぜ?な?』
サチオ『恥ずかしくて顔から火がでそう。やめろよ親父ぃ~。』
(宴会の席から離れる)
サチオ『(咳払い)いいかミチ?今回たまたま親父のあの性格を知っていて、想像がたまたま当たったのかもしれない。お前が嘘を言っている可能性は、まだ、ゼロではないんだ。』
ミチ『サチオ!!…頼むよ。俺、帰らなきゃいけねーんだ。愛する人と、子供が待ってる。もし、帰ったとしても、俺が…死んでいるのかもしれないけど…』
サチオ『…わかった。信じるわ。』
ミチ『サチオ!!マジか!!』
サチオ『まあな!お前が、好きな奴の話してくれるのなんて、滅多にないからな。よっぽど、好きなんだろ?』
ミチ『ああ。大切だ…』
サチオ『そうか!それが聞けてよかった!…で?相手は誰なんだよ。やっぱり、山田さんか?』
ミチ『…え?』
サチオ『え…?』
ミチ『…え…えー?!!!山田さん?!俺が?無理無理無理無理!!釣り合う訳ないじゃん俺なんかが!!違う人、別人だよ!!』
サチオ『違うのかー!!お前、全然言わないけどさ、幼馴染としては、お前の事、ちょっとはわかっているからさ。山田さんかと思ってたぜ。お前が好きな人…』
ミチ『まあ…確かに…中学生の時は…山田さんの事が…好き…だったけどさ!』
サチオ『ほらな!!そうだと思った!!幼馴染の観察力舐めんなよ?!!ははははは!!』
ミチ『サチオ…信じてくれて、ありがとうな…』
サチオ『いや、いいよ!もし俺が逆の立場でも、お前に相談してたと思うし。お互い様よ!』
ミチ『へへっ…サチオ…俺…どうして、この時代に来ちゃったんだろ。』
サチオ『そうだなー…。物事には必ず理由がある。物理のはげまっちゃんが言ってたよな。』
ミチ『はげまっちゃん!!なつい!!』
サチオ『お前にとってはな!!俺には現役の先生なんだかんな。まあさ、そのはげまっちゃんの言葉を借りるなら…この時代に戻ったのは、やり残したことがある…って事なんじゃないか?』
ミチ『やり残した事…』
サチオ『そ!!なんにせよ、羨ましいよ。人生をやり直す機会なんて、普通は無いんだからさ!』
ミチ『…そうだな…』
ミチ(心の声)『やり残した事…それについて…心当たりがない…わけでもない。何を隠そう、山田シオン。彼女に対して、俺は、消したくても消せない黒歴史があった。山田シオンは俺の…初恋の人だった。』
(回想シーン)
ミチ(心の声)『山田シオン。彼女は中学・高校の同級生だった。もっとも、こんな小さな田舎町じゃ、他の学校に行くには遠い町に引っ越しするでもない限り、同じ学校に進学するのが普通な訳で。シオンは…いつも、まっすぐ前をみつめて、静かに笑っている…とても綺麗な子で…』
(回想シーン:中学1年の時代廊下で)
シオン『あ…ミチくん?』
ミチ『あ、おう!』
シオン『多分これ。ミチ君のでしょう?落したよ!』
ミチ『あ…ありがと…って、げっ!(これは…今月出たばかりのアダルト雑誌!!)いや、これは、サチオに借りたやつだから!だから!その…』
シオン『きれいな娘だね。ミチ君、そういう人、好きなんだ』
ミチ『え…あ…山田さん、この雑誌が何か、わかって…』
シオン『ううん!中は見てないけど、写真集かなんかでしょう?じゃあ、また明日ね!』
ミチ『…なんて…純粋で…可憐なんだあぁぁぁ……』
(回想シーン終わり)
ミチ『ってのがきっかけでさ…俺はずっと一途に、シオンが好きだった訳よ。』
サチオ『おもしれー…中身が39歳のお前、自分の事よく喋るのな。』
ミチ『え?俺そんなに喋ってなかった?』
サチオ『ぜーんぜん。いっつも何か言いたげにしては、ハッキリ言わない感じ。お前の事わかってあげられるのは、こう思ってんじゃないかなーって想像して、感を働かせて話してくれる、占い師くらいなんじゃないかと思うよ。』
ミチ『…当たり。俺の奥さん、占い師なんだよ!!しかもよく当たるんで、オンラインで結構稼いでくれてて…俺の理想の奥さんいい当ててるサチオも、本当に、心だけの友よ!!』
サチオ『心だけにすな!!ったく。で?その時のミチは、何かやり残したことがあるって、思ってんだろ?』
ミチ『…そう…。俺…シオンに…告白…してなくってさ。』
サチオ『…おう?…おうおうおう!!なんだか面白くなってきたじゃねーか!!』
ミチ『面白がんなよ!!こちとら今更、伝えられない事情もあるんだよ!』
サチオ『そうは言っても、やり残した事があって、わざわざ未来から戻ってきたんだろ?!ほら、来たぞ!!いけよ!!』
ミチ『や…やめろよ、押すなよ!!行かねってば!!』
サチオ『ほら、後悔残さないようにするんだろ?!』
ミチ『わあ!!』
シオン『あ!!ミチ君。…あ、サチオくん!今ミチ君押したでしょう?!喧嘩はダメなんだよー?!』
サチオ『ミチ君が話忘れた事があったそうでーす!!』
ミチ『サチオ!!』
シオン『何?ミチ君』
ミチ『…いや…その…シオン…あのさ…』
シオン『何?』
ミチ『…(決意する)…俺、シオンの事が好きなんだ。』
シオン『!!!…ミチ君…でも私…。』
ミチ『わかってる!!わかってるから…。』
タカシ『シオン!!』
シオン『タカシ君…』
タカシ『何してるんだ?…ミチもサチオも、どうした?シオンに何か用?』
シオン『なんでもないよ?行こう?』
タカシ『シオンは、俺の彼女だからな。だから、他の男と話してるだけでも嫌なんだよ。』
シオン『わかってる。わかってるよ。行こう?…えっと…ミチ君…』
ミチ『大丈夫!!大丈夫だから。シオン、幸せにな!!あ、きっと、タカシとシオンは結婚すると思うからさ!!』
タカシ『なんだよミチ!…お前、超いいやつじゃん!!俺たちの事、応援してくれて、ありがとうな!!』
ミチ『応援というか…本当の事だからさ。』
タカシ『じゃあなー!!』
(シオンとタカシ去る)
サチオ『ごめーん…そういうことでしたかー…』
ミチ『な?言ったろ?俺が中学の時に初恋ウキウキ、モジモジしてる間に、中学・高校で二人は急接近。将来は結婚しましたってわけよ。』
サチオ『そうだったんだー…。じゃあそれを知ってたから、前のミチは、告白出来ずに、若さだけをウキウキモジモジ、モンモン…とさせていたって訳だねー…』
ミチ『言い方(笑)…まあ…なー。告白したから、変わる事でもなかった気もするけど、でも気持ちは、言葉にして伝えておかないと、伝えられなくなった時、後悔する…』
サチオ『あ!なあなあ!!ミチの体、少し光始めてる!!元の世界に戻れんじゃねーの?おお!すげー!!こんな事ってあるんだなー!!』
ミチ『…まだだ!!』
サチオ『え?』
ミチ『まだ駄目だ!!…サチオ…俺、後悔したんだ。好きって言えなくて、凄く凄く…後悔した。中学生の時に、好きだった子に好きって言えなくて。』
サチオ『…だから、それが言えたから、帰れるんだろ?』
ミチ『帰っちゃダメなんだ!!まだ…!!』
サチオ『…どういうことだ…。ミチ…ミチ?(察する)…今お前、慌ててるな?…大丈夫。ゆっくり呼吸しろ。…いいか…一つずつ話せ。…まだ光ってるから、きっと、まだ大丈夫だ。…全部信じてやる。だから…話せ。』
ミチ『…2011年3月11日、14時46分に…K県の海で、大地震が発生する。その地震で、1万人近くの人が、死ぬんだ・・・。』
サチオ『…津波だな?…ここはS地区だ。ここまで津波が来るのか?』
ミチ『(食い気味に)来る!!…数百tクラスの漁船が陸に打ち上げられて、倒壊し、流出した重油タンクから漏れ出た油に引火して!!…大火災になって、10日間ほど燃え続けるっ…!』
サチオ『なんだそれ…地獄絵図じゃねーか!!』
ミチ『そう!!…地獄だったよ…。サチオ…現実逃避、したいよな?嘘であってくれと…思うよな?嘘つきって、俺を罵倒して…!!怒りたいよな?!!』
サチオ『ミチ…』
ミチ『…だけど…来たんだ。…本当に来たんだよ…!!重油の臭いも、ハエが集った腐った魚の臭いも…!!…俺…覚えてるんだよっ…うっ…(吐きそうになる)』
サチオ『ミチ、大丈夫か?!』
ミチ『(肩で息をする)…サチオ…だから俺…夢だとしても…変えたいんだよ!!!…夢ならきっと…自己満足だ…。だけどそれでも…変えたいんだ!!』
サチオ『ミチ…』
ミチ『シオンのじいさん、U地区ってとこで、呉服屋やってて…そこは…完全に…海の目の前で…シオンは…』
サチオ『わかった…わかった…お前は、津波で死んでしまった初恋の人に、気持ちを伝えられなかった事を後悔して、この時代にきたんだな?そうだな?…でも…それだけじゃ…駄目なんだろ?』
ミチ『俺…俺…シオンを…死なせたくないんだ』
サチオ『わかった。それはお前が守ってやれるように、強く念じろ。その日より前に、お前が辿り着けるように。いいな?な?』
ミチ『わかった。』
サチオ『…知ったからには俺だって…津波から、みんなを救えるように…そうだ!市長にかけあって、防波堤を強化したり、防災訓練を徹底できるように言ってみようか…いや…俺が市長になればいい!!』
ミチ『サチオ…』
サチオ『お前は集中しろ!泣いてる場合じゃないんだぞ!お前がシオンを助けるんだ。』
ミチ『わかった』
サチオ『ミチ…いけ!!』
(まばゆい光に包まれる)
ミチ(心の声)『強く…強く念じろ…強く…』
(鳥の囀り。木に留まっていた鳥が飛び立ち、木の角度が変わり、ミチの顔に日差しが当たる。)
ミチ『強く…う…うあ!!はあ…はあ…』
ユウコ『ミチ?…どうしたの?』
ミチ『…ユウコ…ユウコ!!』
(抱きしめる)
ユウコ『何々?!ちょっと…怖い夢でも見たのー?まったくミチは~…』
ミチ『…ユウコ…会いたかった!…会いたかったんだ……ん?…あれ?』
ユウコ『…え…何?』
ミチ『…ユウコ…若くない?』
ユウコ『同い年でしょう?同じ、27歳。』
ミチ『27歳?!!』
(ベッドから落ちる)
ユウコ『ちょっと、大丈夫?!!』
ミチ『…そうか…そうか…やっぱり…夢じゃなかったんだな…』
ユウコ『ミチ…?』
ミチ『ユウコ。今年、2011年だと思う。今は、何月何日?』
ユウコ『…3月8日(火)だけど。…どうしたの?』
ミチ『…2011年3月8日…大丈夫。戻ってきた…まだ…やれることはある…』
ユウコ『どうしたの?ミチ…泣いてるの?』
(ユウコ、ミチを抱きしめる)
ミチ『ユウコ…俺…行かなきゃいけないんだ…。』
ユウコ『…うん…なんか…そうなんだね…。…危険じゃないの?』
ミチ『…ううん。…超~危険。』
ユウコ『あちゃーそんな感じなんだー…でも…いかなきゃいけないんでしょう?』
ミチ『…うん!!』
ユウコ『…わかった。』
ミチ『…ユウコ…』
ユウコ『じゃあ、私も一緒に行く!!』
ミチ『え?!』
ユウコ『ミチ一人じゃ、泣いて判断が出来ないこともあるかもしれないでしょう?私が一緒なら、ミチは大丈夫だと思う!!その代わり…』
ミチ『ユウコ』
ユウコ『絶対私を、ミチの、お嫁さんにしてね?』
ミチ『当たり前じゃーん…ってか…もうお嫁さんなんだよ本当は~』
ユウコ『また泣く~』
(電車の音)
ユウコ『つまり、2011年3月11日、14時46分に…M県沖を中心に地震がくる。その被災者の中に、初恋の人がいて、その人を救いたいのね。』
ミチ『俺のM県の親友のサチオもサチオで、今はK市の職員をしてるって聞いた。市長にはまだ、なれなかったって言ってたけど…なんとか、防波堤の高さを伸ばしたりする役職には、辿り着いてくれているらしい。』
ユウコ『サチオさんも、頑張っていらしたんだね…。感謝だね…。そうだミチ、私ね、占い始めたんだ!まだまだ勉強中なんだけど、タロット占いやってるの。』
ミチ『そうかー!ユウコはこの時はまだ初めてなかったんだね!』
ユウコ『え?将来私、タロット占いやってるの?当たるようになってた?』
ミチ『もちろん!!ユウコは完璧だよ!』
ユウコ『そうなんだ!!わー嬉しい。じゃあ、ちょっとやってみるね!!』
(タロットを捲る)
ユウコ『戦車の逆向きか…えーっとこれは…争い、討論、暴力。』
ミチ『うえー…一番痛そうなカードが出たね。』
ユウコ『いや、まだもう一枚あるから!…正位置の剛毅…勇気、インスピレーション。不可能を成し遂げる力…だって!』
ミチ『そうか…!!…うん!!俺、頑張って勇気出すよ!!…変えられなかった過去を変えるなんて、不可能に近い事だ…でも…こうなったのにはきっと、意味があるから。…まだやれる事はある…!!精一杯俺、抗ってみるよ!!』
ユウコ『うん!!』
ミチ『そうと決まれば!俺、今のうちにちょっと寝るわ!』
ユウコ『うん(笑う)…おやすみなさい。』
(電車の音)
ユウコ(心の声)『剛毅のカードの意味の中にある、自己犠牲…。ミチを死なせるわけにはいかないな…』
(電車の止まる音)
ミチ『ユウコ、ユウコ、着いたよ。』
ユウコ『あれ?私、寝てた?』
ミチ『良く寝てたよ。5時間も電車に揺られていたんだもん。疲れたでしょう?着いて来てくれて、ありがとうね。』
ユウコ『全然!』
サチオ『ミチー!!』
ミチ『サチオ!!!』
(二人で握手)
サチオ『39歳のミチで…間違いないんだな?』
ミチ『ああ。やっと戻ってきたよ。待たせたな…。すごいじゃないかサチオ。大活躍だな!!』
サチオ『まあな!!あと、結構強めに企んでるのは、3月11日に、町総出の避難訓練!!』
ミチ『すっげ、俺の時代で有名なアニメの展開みたいじゃん!!』
サチオ『そうそう!ミチからあの時聞いた未来の映画の話、丸々パクらせて貰ったんだよ!!時間は13時から初めて、グダグダしてる間に15時なんてすぐ来るからさ!』
ミチ『なんとかまるっと、全員救えればなあ!!』
サチオ『あれ…もしかしてそちらは…』
ユウコ『あ、ユウコです。ミチさんの…』
ミチ『俺の、嫁さんなんだ』
ユウコ『そんな!!これからですよ?まだですよ?!』
サチオ『ほうほう…この方が。ミチ、よかったな!!』
ミチ『うん!!…じゃあ…行こう!!』
サチオ『おう!!』
ユウコ『はい!!』
サチオ『乗って。シオンの実家まで、まずは行ってみよう』
(車に乗り込む3人。車が出発する音)
《字幕》(大地震まで、あと2日)
(呉服屋の中にある客間。緊張した面持ちのミチと、社交的に笑うユウコ。ミチとシオンの、楽しそうな笑い声が聞こえてくる)
シオン『そうなんですねー!!婚前旅行でこの町に。ミチ君の生まれ育ったS地区も行ってみました?あちらはこのお店が美味しいんですよー!』
ユウコ『そうなんですねー!これから行くと思うので、とっても楽しみです。』
シオン『ミチ君、結婚おめでとう!今日は立ち寄ってくれてありがとう!中学時代の同級生と会えるなんて、本当に感激だよー。ユウコさんも、素敵な方ね!』
ミチ『(緊張しすぎてカクカク)あ、うん、近くを通ったから、この近くに住んでるって聞いたから、ちょっと、声かけてみたら、店頭にいたのが、シオンで、だから…』
ユウコ『ミ…ミチくーん?緊張しすぎだから、少し落ち着いてね?』
シオン『遠くから私宛にお客さんが来るなんて、うれしいな。あ、今、羊羹切ってあげるね!』
ミチ『待って!!』
シオン『え?』
ユウコ『ミチ…』
ミチ『シオン…信じてもらえないのは…わかってるんだけど。』
シオン『ミチ君?』
ミチ『今から2日後に、ここに…津波が来る。そして、ここにいれば…シオンと家族は、津波に飲み込まれる。』
シオン『え…何?何言ってるのミチ君…』
ユウコ『という、夢をみたそうですよ?!!ほら、そんな夢見たら、夢見が悪いじゃないですかー。だから、言いに来た、みたいな。ね、そうだよねミチ?!』
ミチ『シオン…俺は本当に…後悔したくないんだ。だから…』
ユウコ『避難訓練が、明日あるみたいですねー?参加されたりするんですかー?』
シオン『12時からですよね?その時間は仕入れがあるから、いつもは家にいるんですけど…』
ミチ『ダメだ!!』
ユウコ『ミチくーん…ストップストップ…落ち着いて…』
ミチ『シオン、俺と一緒に、逃げてくれ!!』
(扉がスパンと空く)
シオン『あ、タカシさん…』
(タカシがミチを殴る)
ユウコ『きゃー!!』
タカシ『人の嫁に向かって、しかも婚約者のいる前で、お前は何を言ってるんだ?!わざわざ関東から、懐かしいお客さんが来てくれてるってシオンから連絡貰って、ミチが来てるってわかって、俺はすげー嬉しかったのに!!…帰ってくれ。…お前が応援してくれて…俺は…すげー嬉しかったのに…。裏切られた気分だ!!』
ユウコ『ミチ、大丈夫、ミチ!!』
ミチ『本当なんだ…見たんだ俺…沢山の人が…津波に飲み込まれていくのを…見たんだよ…死なせたくないんだ。死なせたくないんだよ!…シオンも…タカシも…お腹に赤ちゃんがいるんだろ?』
タカシ『!!シオン、そうなのか?!』
シオン『どうして知って…タカシさん、今日病院に行って分かったの。4か月だそうよ』
タカシ『そうか…ミチはなぜそれを…ストーカーでもしているのか?!さては…その隣の女もグルだな!!白状しろ!!』
ユウコ『え…ちょ…キャ…』
(タカシの手を掴むミチ)
タカシ『なんだ。…離せ』
ミチ『離さない。俺の大事な人だ。何かするなら、許さない…』
(沈黙)
タカシ『一体何を考えているのかわからない。』
(振り払う)
ミチ『ただ、助けたいだけだ。俺の…俺の掌で、守れる範囲の人だけでも。守りたいだけなんだ。そんなの。…人間として、当たり前だ。』
(沈黙)
タカシ『…帰ってくれ。これ以上、シオンに変な事をするのも、話す事も許さない。』
ミチ『わかった…明日も来る。』
タカシ『なんだと?!』
シオン『タカシさんやめて!!』
ミチ『ユウコ、大丈夫?出直すよ。』
タカシ『もう来るな!!』
(ミチとユウコ、去る)
ミチ『ユウコ…ユウコ…大丈夫?ユウコ…ごめんね。怖かったね。ごめんね。』
ユウコ『ごめんね…ミチの…支えになりたかったのに…。』
ミチ『ごめん本当に…ユウコに怖い思いさせて…本当に…ごめん…。』
ユウコ『ミチ…泣かないで?』
ミチ『(泣く)』
ユウコ『…悔しかったよね…。分かって貰いたかったよね?』
ミチ『うん…うん…』
ユウコ『…大丈夫だよ。一人じゃないよ。明日も行こう?ね?』
(次の日。カモメの鳴く声。)
ミチ『お願いだシオン。明日の防災訓練だけでも行ってくれないか?頼む!!』
シオン『もう来ないで。警察呼びますよ?』
ユウコ『シオンさん、目に見える事だけが、本当とは限らないじゃないですか。大の大人が、何時間もかけて、シオンさん達を救いたくて来たんですよ?それに、防災訓練なら、他の人もいますし、シオンさんも、それなら何かと安心じゃないですか。』
シオン『…主人から、身重の体で外を出歩くなと。まだ安定期にも入ってないので。』
ユウコ『ニュースでも聞いていませんか?マグニチュード7を超える大地震が、およそ30年周期で繰り返し発生する…前回の地震は、1978年。数年以内に、99%の確率で、次が起きると予測されているとか。2日前も、震度5弱の地震があったばかりです。…本当に…心配は何も、ないですか?』
ミチ『赤ちゃんを守るためにも!!…防災訓練に来てくれ。俺の言う事が、信じられなくてもいいんだ!!』
シオン『ユウコさん!!…中学時代、ミチ君、私に告白してきたんですよ。』
ユウコ『え…』
シオン『目の前で浮気されて…貴方平気なんですか?どうかしていますよ本当に。夢で見たのか何なのか知りませんが…婚約者を傷付けてまで、ミチ君は何をしているんですか?』
ユウコ『私は、傷ついていません。』
ミチ『ユウコ…』
ユウコ『ミチは、私の事が、どうしようもなく好きで、頼りにしていて、私の、大切な人です。その気持ちに、嘘偽りもないと、信じています…愛している人です。だから…この人がしようとしている事に、邪な心があれば、私、わかります。貴方も…そうじゃないですか?』
ミチ『ユウコ…』
ユウコ『ここの所、海がやけに静かですよね。…おかしいと思いませんか?…これだけ海が近ければ、常に津波の心配は付きまとう筈。タカシさんだって、本当は、心のどこかで、津波の恐怖は、いつも感じているんじゃないでしょうか?…ましてや、そんな夢を見たなんて言われて…私達の言う事を、全部を信じて欲しい訳ではないんです。避難訓練に参加して欲しいと…まあ…多少強めに、お誘いしているだけです。悪意はないんですよ。』
シオン『話はわかりました…。』
ユウコ『はい。では、よろしくお願いします。』
(インターフォン切られる)
ミチ『ユウコ!!すごいね!!さすがユウコ!!』
ユウコ『昨日さんざんタロットで占って、シオンさんの心情予想してかかったからね。上手く行きそうでよかったわ。』
ミチ『ユウコ凄ーい!!ありがとう!!』
ユウコ『でも念のため、明日は早めに迎えに来ようね!!』
ミチ『そうだね…』
ユウコ『今日は、美味しいものでも食べる?ここんとこ、まともに食事も喉を通らなかったんだし。やっぱりお魚系…(ミチがユウコの手をとる)ミチ?』
ミチ『…ユウコ…大好き!』
ユウコ『うん。私も。大好きだよ!』
(夕日が二人の顔を照らす)
ミチ『きれいな夕日だね』
ユウコ『そうだね…本当に明日、この美しい町が、【瓦礫】の山になってしまうなんて、信じられな…』
ミチ『(食い気味に)【瓦礫】じゃないよユウコ。…【瓦礫】は…瓦片とか小石、価値のないものを意味する…。でも…それらは、破壊されて、奪われた…大事な家で、家財で…人生の…記憶なんだ。…【被災物】って、呼んであげて欲しいだ。』
ユウコ『…うん。分かった。被災した人を【被災者】と呼ぶように、被災した物は【被災物】だね…そうだね。どんな形になってもそこには…魂の記憶が宿っているんだものね…』
ミチ『…うん…』
(街の音)
ユウコ『…明日…だね』
ミチ『うん…明日…だね…』
《字幕》大地震迄、あと一日
《字幕》大地震 当日
サチオ『はーいみなさん、順番に並んで、地域ごとに点呼をとってください。貴重品は持っていますか?はーい。みなさん、こんなに高い高台まで上がってきてくれて、ありがとうねー。そんなみなさんに、素晴らしいものをご用意していますから…高級缶詰と、高級非常食!!キャビア、フォアグラ、ダイソンの掃除機に薄型テレビ!!、今からビンゴ大会だー!!』
(歓声があがる)
サチオ『さてと、こっちは始まったぞミチ。あとは…お前次第だ。』
《字幕》13時20分
ユウコ『ミチ、忘れ物はない?レンタカー屋さんには、今日の18時には返す約束をしてるけど、いいんだよね?』
ミチ『そうだね。…きっともう、返すことなんて出来なくなっちゃうだろうから。』
ユウコ『そうね。レンタカー屋さんも車も、震源地の海からこんなに離れていても、しばらくまともに機能しなくなっちゃうんだったもんね。』
ミチ『ユウコ。あのね。…大好き。』
ユウコ『うん…私も…あれ?何か…眠い。』
ミチ『さっき渡したコーヒーに、睡眠薬を入れたんだ。…ユウコはここにいて。俺、もう1つレンタカー借りてるんだ。だから…大丈夫。』
ユウコ『ミチ!!(眠気に襲われる)』
ミチ『ここも、危ないかもしれないんだから。レンタカーの中で目を覚ましたらさ、車走らせて逃げるんだよ?』
ユウコ『ミチ…嫌だ…ミチ…行かないで…』
ミチ『死ぬつもりはないんだ。だけど。念のため。…大好きなユウコが、傷つくのが怖いんだ。だから…ユウコ。眠って待ってて。起きたら、きっと俺、隣にいるから。』
(ユウコ眠る。ミチ、車を乗り換える)
ミチ『よし…行こう…』
(場所は変わってシオンとタカシ)
シオン『さあ、行きましょうか。』
タカシ『シオン…あいつの言う事なんか聞くのか?』
シオン『そういう事じゃないでしょう?津波が本当に来たら、怖い思いするのは貴方よ?完全なる金槌なんだから。』
タカシ『言わないでよシオン~。…本当に来るのかなー…。』
シオン『わからないわ。でも…ふふふ。』
タカシ『何?』
シオン『ミチ君ね…中学の頃、私と貴方が付き合っているの知ってて、告白してきたのよ。』
タカシ『な…なんだと?!』
シオン『ふふふ…すごい根性あるなーって思って。…ずっと覚えてた人ではあるから。さ、行きましょう?』
従業員『旦那様、奥様、発注先でトラブルが…』
タカシ『なんだって?!』
《字幕》14時15分
(ミチ、車でシオンの呉服屋に到着。チャイムを鳴らす)
ミチ『シオン、タカシ…いないよな?』
シオン『はい…』
ミチ『シオン?!…どうして?!なんで、避難訓練に行ってないんだ?!』
シオン『取引先トラブルで。ごめんなさい。今日は行けそうにないわ。』
ミチ『シオン、それどころじゃないんだ!!仕事なんて…命あってのものなんだから…!!タカシは?!』
シオン『タカシさんはさっき、S市の取引先に向かったわ。』
ミチ『…そうか…じゃあ、今は…シオン一人なんだな…』
シオン『ええまあ…』
(ミチ、呉服屋の扉を蹴り倒す)
シオン『きゃー!!貴方…こんな事してただで済むと思っているの?!』
ミチ『関係なくなる!!!…ここに、何も残らない。全部、無くなる!!…っ。(トラウマが押し寄せる。息を吸って落ち着く)…貴重品だけ持って、車に乗れ!!もう時間はない!!』
《字幕》14時35分
ユウコ『…!!ミチ!!…うっ…酷い…置いてくなんて…まだ間に合う!!行こう!!(ハンドルを握る左手の薬指に、指輪が光る)…何これ…ミチ…うう(泣きながら)指輪なら、寝ている時に嵌めないでよ!!(サイドブレーキを下ろす)ずるい!!ずるいよ!!嫌い!!(エンジンをふかして走り出す車)嫌い!!ミチなんか大っ嫌い!!』
(赤信号も止まらない)
ユウコ『ミチなんか…ミチ…死なないで…。お願い…死なないで。ミチー!!!』
(泣きながら車を走らすユウコ)
《字幕》14時45分
ミチ『シオン、まだか?!』
シオン『本当にどうかしてる。タカシさんが帰ってきたら、ただじゃおかないから!』
ミチ『恨んでもいい!!乗って!!』
(扉を閉めて、エンジンをかける)
《字幕》14時46分
(地響き)
シオン『何…何この音?!』
(車のアクセル全開にする)
ミチ『少しでも遠くへいくぞ!!掴まれ!!』
(物凄い音で、地震が来る)
シオン『きゃー!!!』
ミチ『うわー!!!』
(場所変わってサチオ)
サチオ『みなさん落ち着いてください!!ここは安全です。幸いにも、みなさん避難訓練に来て頂いていますので、このまま、ここでの避難を継続しましょう!揺れていますので、この広場の真ん中から動かないで。建物には近づかないように!!』
(サチオ、大きく息を吸って吐く)
サチオ『町の住人、全員、各避難所に集まったか?』
職員『サチオさんの宣伝効果で、高級食材や家電のビンゴ大会につられて沢山参加しています。でもやっぱり何人かは…』
サチオ『ダメだ!!!…なんのために、中学時代から俺は努力してきたんだ…全員助ける!!お前たちもだ!!いいか?!!津波に備えて、精鋭部隊だけ、俺についてこい!!そして全員!!お前らも…死ぬな!!!』
(ごごごごという地鳴りが続く。地面が割れ、傾いた車から、ミチがよろよろと出てくる。)
ミチ『シオン…シオン…大丈夫か…』
シオン『ミチ君…ごめんね…私…信じきれなくて…本当に…』
ミチ『いいんだ。当然だから。…こうなるかもしれないから、色々持ってきたんだ。』
(車の後ろから、バイクを出す)
シオン『大型バイク?!』
ミチ『シオン。乗って。少しでも早く、海から離れないと。』
シオン『ミチ!!ふらふらじゃない!』
ミチ『ちょっと頭を打ったみたいで、脳震盪を起こしてて。…大丈夫。』
シオン『運転なんか出来るわけないでしょう?…ミチが後ろに乗って!!』
ミチ『シオン…バイクなんか運転できるの?』
シオン『ミチは私を、純粋で、可憐な何かだと思ってるの?…舐めないでよね!』
ミチ『わかった…いいか?今この状況で、道路は大渋滞だ。このバイクで、車の脇を通り抜けて、出来るだけ遠くに逃げるんだ。』
シオン『任せなさい。ミチ君の体、私にこのマフラーで固定するよ。しっかり掴まってて!!』
(シオンとミチ、バイクで出発する)
《字幕》15時00分
サチオ『いいか、津波は地震発生から、恐らく30分後には到着する!!これで全員だな!!』
隊員『まだです!!山田の呉服屋さんの、シオン嬢ちゃんがまだです!!』
サチオ『…!!シオン…くそ…ミチ、何やってんだ…』
隊員『サチオさん、シオンさんを迎えに行きますか?』
サチオ『…いや…もう…時間だ。行くぞ』
隊員『サチオさん…でも!!』
サチオ『大丈夫だ!!シオンを…助ける人は…もう来ているから、大丈夫。信じよう!!一番近い避難所に全員運ぶぞ!!時間はギリギリだ!!行けー!!全員助ける!!絶対!!全員だ!!』
《字幕》15時10分
(よろよろとエンジンを止めるシオン)
シオン『はあ・・・はあ…』
ミチ『…う…シオン、大丈夫か?!』
シオン『ミチ君、気が付いた?もう大丈夫?…バイクはちょっと…パンクしたみたいで…』
ミチ『もう大丈夫だ!気絶してたのか俺…今どれくらい…(腕時計を見て)15時12分…』
シオン『どうしたの?一応、避難所の…山のふもとまで来たけど』
ミチ『…津波到達まで…あと4分…少しでも上へいくぞ!!!』
《字幕》15時13分
《字幕》15時14分
《字幕》15時15分
《字幕》15時16分
(どどーん、と大きな音。津波到達。)
シオン『ミチ君!!海が白くなって・・・・さっきいた私の家が今…飲み込まれてる!!』
ミチ『少し上がったからな。ここは少し高くなってる。到達するまで、まだ時間があるから…大丈夫だ!!もっと上へ、行こう!!』
シオン『家が…家が…』
ミチ『シオン!!』
シオン『そんな…』
ミチ『しっかりしろ!!…いいか?…少しでも、上へ、上だ!!走れ!!』
シオン『ミチ君!!いいから行って!!私はもう、足が震えて…走れない…』
ミチ『赤ん坊がいるんだろうが!!母親なら走れ!!その子を守るために!!走れー!!』
(二人で走る)
(ゴゴゴゴと、地鳴りと供に、津波が迫ってくる)
ミチ『はあ、はあ、はあ!!』
シオン『はあ、はあ、はあ!!』
(水音)
ミチ『くっ、はあ、はあ、前だけ見ろ!!いいか、深さ25㎝の津波も時速40㎞だ。絶対に…追いつかれるんじゃないぞ!!諦めるな!!振り向くな!!くっ』
(ミチ転ぶ)
シオン『ミチ君!!』
ミチ『行け!!前だけ見ろ!!』
シオン『もう無理、これ以上無理!!』
ミチ『シオン!!』
(キキーっと目の前で車が止まり、扉が開く)
ミチ『ユウコ!!』
ユウコ『お待たせ!!乗って!!』
(二人乗り込む。他の人々は避難していて誰もいない山道の道路を登りあがる。水が追いかけてくる)
ミチ『ユウコ、ごめん…俺…』
ユウコ『謝らないで!!アクセル全開だから!!舌噛むんじゃないわよ?!』
《字幕》避難所まで200m
ユウコ『うっ、もう、あがんない!!』
(山道で舗装されていない道に、タイヤが嵌り、キュルキュルと音を立てる)
ミチ『大丈夫、もう避難所は見えてる、走れば間にあう!!走れ!!』
(走る三人・迫る水。足がもつれてユウコが転ぶ。その手をミチが掴む。)
シオン『ミチ君!!ユウコさん!!』
(水が迫って来る、少し水が触れただけで、足が引っ張られるユウコとミチ)
ミチ『うああああああ!!!』
(ミチの腕が掴まれる)
ミチ『うあ…サチオ!!』
サチオ『俺がどれだけこの日にかけて、腕立て毎日1000回やってきたと思ってるんだー!!うおおおおお!!!』
(引っ張りあげる。ユウコは足首まで水に浸かっていてミチは宙に浮いている)
ユウコ『ミチー!!ミチー!!』
ミチ『痛ってー!!!けど、ぜってー離さない!!』
(ユウコとミチを一人で持ち上げようとしているサチオの隣から、二人の隊員の手が伸びてきて、ミチの腕を掴む)
サチオ『お前ら!!』
隊員1『サチオ隊長!!絶対、全員助けるを、守りましょう!!!』
隊員2『サチオ先輩に続いて、俺も筋トレかかさなかったんで!!』
サチオ『よし!!上げるぞ!!』
3人『うおおおおおお!!!』
(ミチとユウコをひっぱりあげる。その後ろギリギリまで水、しかし、みんながいる場所までは水が来ない。ギリギリで、津波から救われる)
ユウコ『ミチ!!』
ミチ『ユウコ!!…シオン』
シオン『ミチ君…ごめんね…ごめんね…ありがとう…』
(トランシーバーの音)
サチオ『みんな聞いてくれ。このM県K市の人口7万5千○○人のうち、けが人、105人、内、重傷者、40人、行方不明者、0!!死亡者数…0だーーーーー!!!!!』
(歓声があがる。ミチの体が光り始める。)
シオン『!!ミチ君!!体が光って…?!』
ミチ『ああシオン…タカシは大丈夫。S市までは、津波が来なかったから。タカシは無事だよ?』
ユウコ『ミチ…もう…行くんだね。…びっくりするんだろうなー!!何も知らない状態の今の時代のミチが、ふと気が付いたら、体中痛いわけでしょう?!(笑う)』
ミチ『ユウコ…俺…ユウコを騙して…ごめんね。』
ユウコ『ううん。いいの。ねえ。』
(指輪をはずしてミチに握らせる)
ユウコ『ちゃんと言って?起きてる状態で。』
ミチ『…うん。ユウコ。俺と、結婚してください。』
ユウコ『はい。よろしくお願いします。』
(指輪を左手薬指につける。体からの光が強くなる)
ユウコ『大好きよ。』
ミチ『ユウコ。うん…大好きだよ…』
(光に包まれる。キラキラという音楽。雲の切れ間から、光が顔にあたり、ミチが目を覚ます)
ミチ『…ユウコ…』
ユウコ『やっと戻ってきたか…ずいぶん遠くまで行ってたんだね。』
ミチ『…うん…(泣く)』
(傷だらけのミチ。大破したトラックの隣で、ユウコに抱かれながら目を覚ます)
ミチ『ごめん。トラック、壊しちゃったんだな。俺』
ヒカリ『パパ…』
ミチ『ヒカリ!!…もう会えないかと思ったよ…ヒカリ…嬉しい。無事で良かった…』
ユウコ『隕石の衝突だって。海に落ちて、トラックごと飛ばされたんだよミチ。あたしたちは丁度トンネル入ってる時の衝撃波だったみたいで、無事だったんだ。他はみんな、こんな感じ。とにかく…ミチが…無事で良かった。』
ミチ『…俺…津波から…みんな救いたかったんだけど…でも……他の町の人までは…救えなくて…俺…』
ユウコ『!!…そうか…このタイミングで、行ってたんだね。…あの時に。…ミチ…』
(ユウコ、ミチを抱きしめる)
ユウコ『守ってくれて、ありがとう。』
ヒカリ『パパ、痛い?』
ミチ『ユウコ…ヒカリ…』
ヒカリ『パパ、また泣いてるー』
ユウコ『いいのよ。パパの泣き虫は、昔からだから。…愛してるよミチ!!』
ミチ『ああ。みんな…愛してるよ…』