
【小説】いつか来る日まで
広いウッドデッキに、どっしりとした大きな木製の椅子に座った老人。 がっしりした肩幅に、年齢にそぐわない骨太な脚を伸ばして景色を眺めている。
夏が近い。庭には眩しい緑が輝き、じんわりと汗が滲んできた。
こんな時はキンキンに冷たい麦茶だよな、とぼんやりと考えていたところだった。
「おじいさん、お茶がはいりましたよ」と、室内から茶目っ気たっぷりな声がする。言葉のあとに、ふふっと含み笑いをする妻の様子に、老人は呆れたように微笑んだ。一瞬振り返ろうと思ったが、首の古傷が傷んで妻の顔は見えなかった。だが、充分にその意地悪そうな顔は手に取るように想像がつく。
老人も小さくにやりとして、言い返す。
「誰がおじいさんだ」
「子供や孫がいなくても、私たちは充分におじいさん、おばあさんでしょ?」
ウッドデッキに出てきた妻は、老人の前に位置する木製のミニテーブルに、コトリと音を立てて大きなサーモスのカップを置く。ベージュ色の老人のカップに対し、自分もお揃いの赤いサーモスのカップを手にして、妻はテーブルを挟んだこれもお揃いの椅子に腰掛けた。小柄な妻が座ると、椅子の本来の大きさが分かる。
「えーと、これ……」
カップを見つめて言い掛けて、老人は困ったように苦笑する。
「私たちには、いつだってこれがお似合いなんですよ」
妻の思った通りの意地悪そうな笑顔に、こいつ俺に似てきたな、と老人も微笑む。
ふたりの持つカップには、氷たっぷりのハイボールがなみなみと入っていた。
「これでも薄めに作ったんですよ? お互いに、もう歳ですから」
「だったらそれこそ本物のお茶の方が良くない?」
「次からあなたのだけ、そうします」
「いや、それはズルくない?」
慌てて早口で抗議する夫に妻はクスクスと笑い、夫も照れたように笑った。
すぐ近くでセミの声が響きだし、そよりと吹く風にふたりは同時に目を細めた。
