なぜ、バイク仲間とはすぐに話せるのか。【第13話】
バイクと心の科学 Season②
第13話
なぜ、バイク仲間とはすぐに話せるのか。
バイクに乗るようになってから、不思議に思うことがあります。
普通なら、初対面の人と話すときって、
少し構えるじゃないですか。
何を話そう。
どんな人なんだろう。
仕事は何をしているんだろう。
年齢はいくつくらいだろう。
そんなことを無意識に考える。
ところが、バイク乗り同士だと違う。
道の駅やサービスエリアでバイクを停める。
隣に知らないライダーが停まる。
そして、どちらからともなく、
「それ、何年式ですか?」
この一言で始まってしまう。
気がつけば、
「マフラー変えてるんですか?」
「今日はどこまで?」
「この先の道、走りました?」
なんて話している。
さっきまで名前すら知らなかった人と、
10分後には笑っている。

僕は何度もそんな経験をしてきました。
そして、そのたびに思います。
バイクって、人と人の間にある壁を、
少しだけ低くしてくれる乗り物なのかも
しれない。
肩書きを知らなくても、話せる。
バイクで知り合った人のことを思い返してみると、面白いことがあります。
最初から仕事を聞くことって、意外と
少ないんです。
会社員なのか。
経営者なのか。
職人なのか。
先生なのか。
普段どんな肩書きを持っているのか。
そんなことを知らなくても話せる。
最初に知っているのは、
「この人もバイクが好きなんだ。」
ただ、それだけです。
でも、それだけで十分なんですよね。
僕自身、普段の生活ではいろいろな役割があります。
仕事をしている自分。
責任を持つ自分。
誰かに何かを説明する自分。
判断しなければならない自分。
でも、バイクの横に立っているときは、
そんな肩書きを少し降ろせる気がします。
ただの、
「バイクが好きな一人の男」
になれる。

僕は、その感じが好きです。
心の科学①
「同じものが好き」は、人との
距離を縮める。
心理学には、
社会的アイデンティティという
考え方があります。
人は、
「自分はこの集団の一員だ」
と感じられるものを持つことで、
他者とのつながりを感じやすくなると
考えられています。
ライダー同士なら、
メーカーが違っても、
排気量が違っても、
乗っているスタイルが違っても、
根っこのところに、
「バイクが好き」
という共通点があります。
たった一つの共通点なのに、これが
大きい。
初対面なのに、
完全な「知らない人」ではなくなるんです。
僕にはそれが、
「同じ世界を知っている人」
という感覚に近い気がします。
言葉にしなくても分かることがある。
バイクに乗っていない人に、
「今日は300km走ってきた。」
と言えば、
「そんなに走って疲れないの?」
と言われることがあります。
確かに疲れます(笑)。
暑い。
寒い。
雨にも降られる。
風にも煽られる。
渋滞すれば腕も疲れる。
お尻も痛くなる。
それなのに、
また乗りたくなる。
この感覚を説明しようとすると、
意外と難しい。
でもバイク乗りには、
説明しなくても通じることがあります。
「今日、風強かったですね。」
「分かります。」
「雨にやられました。」
「それは大変だったね(笑)」
「でも楽しかった。」
「ですよね。」
この最後の、
「ですよね。」
が、僕は結構好きなんです。

心の科学②
同じ経験を持つと、「分かる」が
生まれる。
人は、自分と似た経験をした相手に対して、共感しやすくなることがあります。
バイク乗りには、
言葉だけでは説明しづらい共通体験が
あります。
初めて公道へ出たときの緊張。
大型バイクを押したときの重さ。
真夏の信号待ち。
突然の雨。
冬の指先の冷たさ。
初めて峠を越えたときの景色。
ツーリングから帰ってエンジンを切った
瞬間の静けさ。
経験した人なら、
「ああ、あれね。」
と分かる。
僕たちは、バイクについて話しているようで、実は、同じ感情について話しているのかもしれません。
バイクを見れば、その人が少し見える。
僕は、人のバイクを見るのも好きです。
ピカピカに磨いている人。
傷も旅の勲章みたいにそのまま乗っている人。
完全ノーマルの人。
カスタムを楽しんでいる人。
荷物をたくさん積んでいる人。
最低限の荷物だけで走っている人。
同じ車種でも、一台一台違う。
そこに、
その人らしさが少し出る。
だからでしょうか。
「そのバッグ、使いやすいですか?」
「このマフラー、どうです?」
そんな話から、
いつの間にかその人自身の話になっていく。
バイクが、自己紹介の代わりをしてくれているような気がします。

心の科学③
人は「共通の対象」があると
話しやすい。
初対面で真正面から向き合って、
「さあ、話しましょう。」
となると、少し緊張します。
でも二人の間にバイクがあると違います。
二人とも同じ方向を見ながら、
「これ、いいですね。」
と言える。
会話の中心が最初から「相手」ではなく
「バイク」だからです。
僕はこれも、ライダー同士が話しやすい
理由の一つだと思っています。
バイクが、
人と人の間に置かれた、最高の会話の
きっかけになってくれる。
年齢が違っても、なぜか話せる。
これも、バイクの面白いところです。
僕よりずっと若い人と話すこともあります。
逆に、僕よりずっと先輩のライダーと
話すこともある。
普通の生活なら、なかなか知り合わな
かったかもしれません。
でもバイクの前では、
年齢差が少し小さくなる。
「そのバイク、いいですね。」
そこから始まれば、
20代でも、
30代でも、
50代でも、
60代でも、
70代でも、
一人のライダーです。
もちろん人生経験は違います。
でも、
好きなものの前では、人は少し対等に
なれる。

僕はバイクに乗るようになって、それを
強く感じるようになりました。
「また走りましょう」が、
本当になった日。
バイクで知り合った人と別れるとき、
よく言う言葉があります。
「またどこかで。」
「今度、一緒に走りましょう。」
普通なら、その場だけの挨拶で終わることもあります。
僕も以前は、
そんなものだと思っていました。
ところがバイクの世界では、
本当に次があることがあります。
連絡先を交換して、
「今度ここ行きません?」
という話になって、
数週間後。
朝早く集合場所へ行く。
すると、
あのとき少し話しただけの人が、
もうバイクで待っている。
その瞬間、なんだか嬉しいんです。
一緒に走ると、言葉が減る。
ツーリングが始まれば、ずっと話しているわけではありません。
むしろ走っている間は、ほとんど話さない。
前を走る仲間のテールランプを見る。
ミラーで後ろを確認する。
信号で離れれば待つ。
休憩場所へ入る。
ヘルメットを脱いで、
「いやぁ、いい道だったね。」
それだけ。
でも、
一人で走ったときとは違うものが
残ります。
同じ道を走った。
同じ景色を見た。
同じ雨に降られた。
同じ店で飯を食べた。
同じ場所で笑った。
その日の出来事が、
「僕の思い出」から「僕たちの思い出」に
変わる。

これは、一人で走る時間とはまた違う
バイクの魅力だと思います。
心の科学④
人との絆は「一緒に経験する」
ことで深くなる。
人とのつながりは、
言葉の量だけで決まるものではないと
思います。
何かを一緒に経験する。
同じ目標へ向かう。
同じ出来事を共有する。
そうした共同体験が、人との親近感や
信頼を育てることがあります。
バイクツーリングは、まさにそれです。
集合して、
走って、
休んで、
また走って、
そして無事に帰る。
ただそれだけなのに、
一日が終わる頃には、
朝より少しだけ距離が近くなっている。
僕は何度もそれを感じてきました。
仲間がいるから、帰ることを
考えるようになった。
若い頃なら、
「もっと速く。」
「もっと遠くへ。」
そんなことを考えていたかもしれません。
でも今は少し違います。
仲間と走ると、
自分だけ無事ならいいわけではない。
後ろが来ているか確認する。
疲れていないか気にする。
給油は大丈夫か。
ペースは速すぎないか。
誰かが遅れれば待つ。
そして最後は、
全員が無事に家へ帰る。
それが一番大切だと思うように
なりました。
バイク仲間が増えたことで、
僕は「走ること」だけではなく、
「一緒に帰ってくること」
まで考えるようになった気がします。
でも、大人になってからの友達は
少し不思議だ。
歳を重ねるほど、新しい友達を作る機会は減っていきます。
仕事関係。
昔からの友人。
家族。
人間関係がある程度決まってくる。
だから僕自身、
この歳になってから新しい仲間ができるなんて、以前はあまり考えていませんでした。
でもバイクに乗っていると、
まだ人と出会う。
名前も知らなかった人と話す。
一緒に走る。
笑う。
また会う。
僕は、これが結構嬉しいんです。
心の科学⑤
大人にも「居場所」は必要なの
かもしれない。
人には、自分が誰かとつながっていると感じる所属感が大切だと考えられています。
それは大きな集団でなくてもいい。
毎日会わなくてもいい。
四六時中連絡を取り合わなくてもいい。
「また走ろう。」
そう言える人がいる。
僕には、それくらいの距離感が
ちょうどいい。
何かあれば話す。
走りたくなれば声をかける。
しばらく会っていなくても、
次に会えば、
「久しぶり。」
で続きから始められる。
大人の友達って、それくらいでいいのかもしれません。
バイクがなかったら、出会わなかった
人たち。
考えてみれば、不思議です。
住んでいる場所も違う。
仕事も違う。
年齢も違う。
生きてきた人生も違う。
普通なら、
一生会わなかったかもしれない。
それなのに、
たまたま同じ日に、
同じ場所へ、
バイクでやってきた。
そして、
「いいバイクですね。」
たった一言から関係が始まる。
人生の出会いって、
案外そんなものなのかもしれません。
STORY RIDER
僕がバイクから教えてもらった
こと。
バイクは、一人で乗る乗り物です。
シートに座るのは自分。
アクセルを開けるのも自分。
曲がるのも、
止まるのも、
判断するのも自分です。
だから僕はずっと、
バイクは「一人になるための乗り物」だと
思っていました。
でも、乗り続けて分かってきました。
それだけじゃなかった。
一人で走れるからこそ、
誰かと走る時間のありがたさも分かる。
そしてバイクは、
本来なら出会わなかった人たちを、
僕の人生へ連れてきてくれました。
今では、
どんな景色を見たかと同じくらい、
「誰と走ったか」
も、僕のバイク人生の大切な記憶になっています。
歳を重ねると、
失うものや終わっていくものに目が向く
ことがあります。
でも、そうじゃない。
この歳になっても、
まだ新しい出会いがある。
まだ新しい仲間ができる。
まだ一緒に笑える人が増える。
そう考えると、
歳を重ねることも、そんなに悪くないな。
と思えるんです。
【あなたへの問い】
あなたには、
「これがなかったら、
絶対に出会わなかっただろうな」
と思う人がいますか?
もしその人がバイクを通して出会った
仲間なら、
次に会ったとき、
「また走ろう。」
それだけ伝えてみてもいいのかも
しれません。
大人になると、
友達を作るのは難しいと思っていた。
でも僕はバイクに、
「好きなものが一つあれば、人は何歳からでもつながれる。」

ということを教えてもらった気がします。
次回|第14話
「今日は乗らない」という判断も、
ライダーの成長なのか。
雨が降りそう。
身体が疲れている。
なんとなく集中できない。
それでも以前の僕なら、
「せっかくの休みだから。」
と乗っていたかもしれません。
でも今は、
乗らないことも、バイクに長く乗り続けるための選択なのではないか
と思うようになりました。
次回は僕自身の経験から、メタ認知・
リスク認知・自己調整という心の働きを
考えてみます。
🏍️ STORY RIDER|編集部おすすめの一品
第13話のおすすめ
バイク用インカム
バイク仲間とは、不思議なくらい早く
仲良くなる。
道の駅で出会って、
バイクの話をして、
「今度、一緒に走りましょう。」
そして本当に一緒に走るようになる。
今回の第13話を書きながら思ったのは、
バイクは一人で乗る乗り物だけど、仲間とつながることで楽しみ方がもう一つ増える
ということでした。
そこで今回選びたいのが、
バイク用インカムです。
仲間と走る時間を、もっと楽しく。
ツーリング中、
「次のコンビニで休もう。」
「この先、景色いいよ。」
「ガソリン大丈夫?」
そんな何気ない会話ができるだけで、仲間と走る時間はずいぶん変わります。
もちろん、ずっと話している必要は
ありません。
それぞれがバイクを楽しみながら、
必要なときだけ声が聞こえる。
僕には、そのくらいの距離感が
ちょうどいい。
そしてツーリングが終わったあと、
「あそこ、良かったね。」
「あの道、最高だったね。」
と話せる。
一人なら「僕の記憶」。
仲間と走れば「僕たちの記憶」。
インカムは、そんな時間を少しだけ豊かにしてくれる道具だと思います。
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STORY RIDER編集部より
バイクがなければ、
きっと出会わなかった人たちがいる。
一緒に走り、
同じ景色を見て、
同じことで笑う。
そして帰り際に、
「じゃあ、また走ろう。」
そう言える仲間がいる。
僕にとってインカムは、単なる通信機器ではありません。
バイクがつないでくれた仲間との時間を、もう少し楽しくしてくれる道具。
だから、第13話にはこの一品を選びます。

